【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
勝負が始まった。
キング・ダークバタフライのターン。
黒く禍々しい羽音とともに、一枚のカードが宙に放たれる。
場に出されたのは──《ダークバタフライ》。
その瞬間、何も書かれていないはずの空のスロットに、小さな繭のようなトークンが自動的に出現した。
「これは……?」
俺は思わず声を漏らす。
「これは《さなぎトークン》。上位種のみに許された特殊能力だよ」
龍華が静かに言った。
──いわゆる、リーダースキルのようなものか。
最初から特別なルールを持ち、フィールドに出るだけで盤面を変えてしまう能力。
そんな理不尽な力を、“上位種”は当然のように振るう。
「自分だけ能力を持っていて……さすが上位種ですね」
俺は悔しさと畏怖が入り混じった声でそう呟いた。
しかしながら、龍華は一切動じていなかった。
静かにデッキに手を伸ばし、冷たい視線でカードを引く。
「来い、《召竜王グリヴァルド》──!」
その一声で、空気が震えた。
重々しい雷鳴のような咆哮がダンジョン内を貫き、召喚陣から光があふれ出す。
黒銀に煌めく巨大な竜――《グリヴァルド》が翼を広げて現れると、辺りの風が一変した。
風は竜を中心に吸い込まれ、そして爆ぜる。
「効果発動。竜の王に従う者たちよ、集え!」
グリヴァルドの咆哮に応えるように、山札がめくられていく。
鋭く、素早く、ためらいのない動き。カードを握る龍華の手は、まるで儀式のように美しかった。
「《五爪の召龍・ガイレン》、降臨!」
空が割れ、光が降り注ぐ。
鋼鉄の翼を持つ老獪な竜が、空間を裂いてその姿を現す。
「さらに、《暴吼竜ヴァルスヴァイン》──」
野獣のような唸り声と共に、黒き竜が地を踏み鳴らす。
その姿は、見る者の戦意を根こそぎ奪っていく。
「《崩天竜グランデリクス》、来い!」
天井を突き破りそうな威容。
現れたその瞬間、周囲の気配が一変する。まるで重力が変わったかのように、空間そのものが竜の咆哮に従って歪んだ。
「そして、《轟連王ガルヴァロス》!」
その呼び声と共に、最後の竜が飛来する。
雷鳴と共に降り立ち、既に召喚された全てのドラゴンの力を増幅する咆哮を上げた。
――怒涛の召喚劇。
1ターンでこれほどの盤面を構築できる者が、どれほどいるだろうか。
目の前の《キング・ダークバタフライ》が放った“さなぎトークン”たち。
それらは、か細く、儚く、ただその場に佇むだけの存在に過ぎなかった。
「力には、力で応じる!」
龍華がそう言い放つと、竜たちが一斉に動き出す。
空を舞い、地を砕き、炎を吐き、稲妻を裂く。
わずか数秒。だがそのすべてが、地響きと閃光に包まれた。
さなぎトークンたちは何もできないまま、ただ蹂躙された。
もがく間も与えられず、焼き尽くされ、打ち砕かれた。
――完全な制圧。
これが、龍華のバトルスタイル。
敵に一切の猶予を与えず、理不尽とも言えるまでの力の奔流で叩き伏せる。
カードゲームであるはずのバトルが、もはや“戦争”のように見えた。
その支配力、展開速度、そしてプレイヤーとしての威圧感――
まさに、“王者の戦い方”だった。
~~
戦いが終わった後、キング・ダークバタフライの残骸の中から、一枚のカードと、煌めく奇妙な扇が転がり出た。
「これは……何ですか?」
俺は思わず手を伸ばし、その扇を手に取る。触れた瞬間、微かに風が走ったような感触があった。
龍華が扇をちらりと見て、口角をわずかに上げる。
「それは上位種が落とす特別なドロップ。カードとは別に、こういった“装備アイテム”があるのさ」
「装備……?」
「そう。この扇は《蝶王の扇》といってね。持っているだけで、ダークバタフライ系のカードに“さなぎトークン生成”の能力を与える」
「いわば、上位種の能力を“借りる”ことができるわけだ」
俺はゴクリと息をのんだ。
「そんな強力なアイテムが……」
「だからダンジョン探索は重要なんだよ。カードだけじゃなく、こういうレアアイテムの回収も目的になる」
「普通の討伐じゃ、絶対に手に入らないからね」
龍華は淡々と語るが、その眼差しは真剣だった。
「ただし、こういうダンジョンを安定して回れるのは――氷花と私くらいさ」
「だからこそ、あんたたちにも早く戦力として一人立ちしてもらいたいのさ」
扇を見つめながら、俺は無言で頷いた。
龍華が淡々と語るのを聞きながら、俺は扇を握る手に力を込めた。
――結局、今回も何もできなかった。
龍華が圧倒的な力でキング・ダークバタフライを倒し、貴重なドロップまで手に入れた。
俺はただ、その背中を見ていただけだ。
(……自分の無力さが、嫌になる)
どれだけ戦っても、まだ“追いつけない”。
俺は足元を見つめた。
だが、同時に胸の奥から、ゆっくりと熱がこみ上げてくる。
悔しい。情けない。でも、だからこそ――。
「俺も……もっと強くなります」
思わず口に出ていた。龍華がちらりと振り返り、わずかに微笑む。
「その意志があるうちは、大丈夫だよ」
その言葉に、わずかに救われた気がした。
それでも、この無力さを埋めるには、まだまだ努力が必要だ――。