【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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12話 焦り

俺は、館のラウンジでぼんやりと座っていた。

温かいお茶が湯気を立て、静かな午後の光がカーテン越しに差し込んでいる。

ようやく、あの喧騒から少し解放されたような気がした。

 

「お疲れ様です~」

声をかけてきたのは光華だった。

彼女は控えめに微笑みながら、俺の向かいに腰を下ろす。

 

「お疲れ様です」

そう返すと、彼女は少しだけ言葉を探すようにしてから口を開いた。

 

「最近、どうですか?」

 

「……前の生活よりは、マシになりましたね」

俺は窓の外を見ながら、少しだけ笑ってみせる。

「毎日、カードバトルばかりですけど」

 

「ふふ、たしかに」

 

「でも……ここに来る前は、生きるだけで精一杯でした。

水を求めて戦ったり、盗賊から逃げたり……どこに罠があるかもわからない世界で。

今はカードに命を賭けてるけど、それでも“遊び”の形をしてるぶん、まだましです」

 

少し皮肉っぽく言ったつもりだったが、光華はすっと真顔になった。

彼女の視線が、俺の肩越しのずっと先を見つめる。

 

「……やっぱり、私は恵まれていたんですね」

 

その表情は、どこか申し訳なさそうで、そして少し寂しげだった。

 

「ここに来る前は、ただ生きてるだけで命が削られてたようなもんでしたから」

この世界に転生してきた俺にとって、彼女たちが背負ってきた“こっちの現実”は、あまりにも重かった。

それを思えば、今の暮らしはまだ“戦えるだけマシ”なのだ。

 

「そう考えると、私は恵まれていたんですね……」

 

光華は少し遠くを見て、そう呟いた。

 

「生まれは選べませんからね」

俺は静かに言った。

 

「それでも、今を必死に生きてる。それだけで十分だと思いますよ。

小さなことを一つずつ積み重ねていく……それだけでも、世界は変わるかもしれないですから」

 

「……狼華さんの考え、好きかもです」

光華の目が、少し潤んでいた気がする。

 

「大きな夢ばかり見てたら、足元が見えなくなっちゃうから……小さなことを、大切にしていきたいですね」

 

「そうですね。……その積み重ねが、きっと自分たちを強くしてくれます」

 

光華ほどではないが、俺にも焦りはあった。

龍華のダンジョン攻略を間近で見て、圧倒的な力の差をまざまざと感じた。

自分がその場にいたとして、果たして同じように立ち回れたかと考えると──正直、答えに詰まる。

 

やっぱり、俺にはまだ足りないものが多すぎる。

力も、経験も、覚悟も。

 

焦りがないわけじゃない。

この世界に来てから、強さがすべてである現実は何度も思い知らされた。

自分より強いやつは山ほどいるし、命を落とすリスクだって常に隣にある。

それでも——。

 

(焦っても、空回りするだけだ)

そう思えるようになったのは、たぶん、この場所に仲間がいるからだ。

 

光華のように、自分のペースで進もうとする人がいて、

龍華のように圧倒的な強さで引っ張ってくれる人がいる。

その中で、俺にできることはなんだろう。

 

焦りはある。だが、それだけで走っても、きっと道を見失う。

だからこそ——

 

ゆっくりでもいい。確実に、強くなろう。

 

一枚ずつ、デッキに加わっていくカードたち。

それは、俺自身の歩みの証でもある。

いつか本当に大切なものを守れるその日まで、俺は俺なりに、戦い続けていく。

 

~~

 

本日も任務だった。

向かったのは、俺がかつて住んでいた場所とよく似た、何もない辺境の集落。

舗装されていない道、枯れかけた井戸、ボロボロの布をまとった子供たち。

どこを見ても、貧しさと飢えがこびりついていた。

 

そんな場所で、モンスターが現れた。

牙をむき、子供たちに襲いかかろうとしていた。

 

「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚」

「効果発動。味方の獣に+1/+1――全体強化」

瞬間、俺の場に並ぶ《紅蓮獣》たちが、一斉に咆哮を上げる。

まるで獲物を前にした獣の群れのように、力が漲っていく。

 

そして、敵のライフを削り切った。

 

 

だが、それは明らかに雑魚だった。圧倒的な格差のある相手。俺が簡単に倒す。

 

──それでも、子供たちの顔には、恐怖と不安が刻まれていた。

 

倒したモンスターのドロップ品は、食べ物に変換された。

俺はその「パン」を手に取り、ひとつずつ子供たちに渡していった。

 

「ありがとう!」

 

その声が、まるで鐘のように響いた。

感謝の言葉なんて、当たり前じゃない。

俺も、かつては彼らと同じだった。飢えと恐怖しかなかった。

誰かの優しさにすがりつくしかない日々だった。

 

今、俺は戦えている。少しずつ、実績も積んでいる。

焦る必要なんて、本当はどこにもない。

 

この世界は残酷だ。

きっと、いつか本当に危険な状況に巻き込まれる時が来る。

その時にこそ焦ればいい。

今は、目の前にある小さなことを、こつこつと積み上げていこう。

 

それが、俺にできる「強くなる」ということなんだと思う。

 

焦りは、まだ心の奥底に燻っていた。

「もっと強くなりたい」「誰かを守れる存在でありたい」──そんな思いが、時折胸を締めつける。

 

でも、それでも俺は前へ進もうと思った。

 

焦るだけじゃ、何も変わらない。

昨日より少しでも前へ。一歩でも遠くへ。

積み重ねることでしか、届かない場所がある。

 

だから俺はカードを構える。

この世界で生きるために。

焦りも、不安も、全部ひっくるめて飲み込んで──俺は、また一歩を踏み出す。

 

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