【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺は、館のラウンジでぼんやりと座っていた。
温かいお茶が湯気を立て、静かな午後の光がカーテン越しに差し込んでいる。
ようやく、あの喧騒から少し解放されたような気がした。
「お疲れ様です~」
声をかけてきたのは光華だった。
彼女は控えめに微笑みながら、俺の向かいに腰を下ろす。
「お疲れ様です」
そう返すと、彼女は少しだけ言葉を探すようにしてから口を開いた。
「最近、どうですか?」
「……前の生活よりは、マシになりましたね」
俺は窓の外を見ながら、少しだけ笑ってみせる。
「毎日、カードバトルばかりですけど」
「ふふ、たしかに」
「でも……ここに来る前は、生きるだけで精一杯でした。
水を求めて戦ったり、盗賊から逃げたり……どこに罠があるかもわからない世界で。
今はカードに命を賭けてるけど、それでも“遊び”の形をしてるぶん、まだましです」
少し皮肉っぽく言ったつもりだったが、光華はすっと真顔になった。
彼女の視線が、俺の肩越しのずっと先を見つめる。
「……やっぱり、私は恵まれていたんですね」
その表情は、どこか申し訳なさそうで、そして少し寂しげだった。
「ここに来る前は、ただ生きてるだけで命が削られてたようなもんでしたから」
この世界に転生してきた俺にとって、彼女たちが背負ってきた“こっちの現実”は、あまりにも重かった。
それを思えば、今の暮らしはまだ“戦えるだけマシ”なのだ。
「そう考えると、私は恵まれていたんですね……」
光華は少し遠くを見て、そう呟いた。
「生まれは選べませんからね」
俺は静かに言った。
「それでも、今を必死に生きてる。それだけで十分だと思いますよ。
小さなことを一つずつ積み重ねていく……それだけでも、世界は変わるかもしれないですから」
「……狼華さんの考え、好きかもです」
光華の目が、少し潤んでいた気がする。
「大きな夢ばかり見てたら、足元が見えなくなっちゃうから……小さなことを、大切にしていきたいですね」
「そうですね。……その積み重ねが、きっと自分たちを強くしてくれます」
光華ほどではないが、俺にも焦りはあった。
龍華のダンジョン攻略を間近で見て、圧倒的な力の差をまざまざと感じた。
自分がその場にいたとして、果たして同じように立ち回れたかと考えると──正直、答えに詰まる。
やっぱり、俺にはまだ足りないものが多すぎる。
力も、経験も、覚悟も。
焦りがないわけじゃない。
この世界に来てから、強さがすべてである現実は何度も思い知らされた。
自分より強いやつは山ほどいるし、命を落とすリスクだって常に隣にある。
それでも——。
(焦っても、空回りするだけだ)
そう思えるようになったのは、たぶん、この場所に仲間がいるからだ。
光華のように、自分のペースで進もうとする人がいて、
龍華のように圧倒的な強さで引っ張ってくれる人がいる。
その中で、俺にできることはなんだろう。
焦りはある。だが、それだけで走っても、きっと道を見失う。
だからこそ——
ゆっくりでもいい。確実に、強くなろう。
一枚ずつ、デッキに加わっていくカードたち。
それは、俺自身の歩みの証でもある。
いつか本当に大切なものを守れるその日まで、俺は俺なりに、戦い続けていく。
~~
本日も任務だった。
向かったのは、俺がかつて住んでいた場所とよく似た、何もない辺境の集落。
舗装されていない道、枯れかけた井戸、ボロボロの布をまとった子供たち。
どこを見ても、貧しさと飢えがこびりついていた。
そんな場所で、モンスターが現れた。
牙をむき、子供たちに襲いかかろうとしていた。
「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚」
「効果発動。味方の獣に+1/+1――全体強化」
瞬間、俺の場に並ぶ《紅蓮獣》たちが、一斉に咆哮を上げる。
まるで獲物を前にした獣の群れのように、力が漲っていく。
そして、敵のライフを削り切った。
だが、それは明らかに雑魚だった。圧倒的な格差のある相手。俺が簡単に倒す。
──それでも、子供たちの顔には、恐怖と不安が刻まれていた。
倒したモンスターのドロップ品は、食べ物に変換された。
俺はその「パン」を手に取り、ひとつずつ子供たちに渡していった。
「ありがとう!」
その声が、まるで鐘のように響いた。
感謝の言葉なんて、当たり前じゃない。
俺も、かつては彼らと同じだった。飢えと恐怖しかなかった。
誰かの優しさにすがりつくしかない日々だった。
今、俺は戦えている。少しずつ、実績も積んでいる。
焦る必要なんて、本当はどこにもない。
この世界は残酷だ。
きっと、いつか本当に危険な状況に巻き込まれる時が来る。
その時にこそ焦ればいい。
今は、目の前にある小さなことを、こつこつと積み上げていこう。
それが、俺にできる「強くなる」ということなんだと思う。
焦りは、まだ心の奥底に燻っていた。
「もっと強くなりたい」「誰かを守れる存在でありたい」──そんな思いが、時折胸を締めつける。
でも、それでも俺は前へ進もうと思った。
焦るだけじゃ、何も変わらない。
昨日より少しでも前へ。一歩でも遠くへ。
積み重ねることでしか、届かない場所がある。
だから俺はカードを構える。
この世界で生きるために。
焦りも、不安も、全部ひっくるめて飲み込んで──俺は、また一歩を踏み出す。