【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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14話 花園の騎士団滅亡

地下深くの広間──

重たい空気と魔力のうねりが満ちるその空間には、ひときわ強大な存在が鎮座していた。

 

黒き王座に座すは、《黒悪魔王アスモディウス》。

その眼差しは常に飢えと退屈を抱えている。そんな彼のもとに、一体のリザードマンが跪いていた。

 

「……ほう、モンスターのお前が、わざわざ頭を垂れに来るとは珍しいな」

 

アスモディウスの声は低く響き、圧倒的な威圧感を放つ。

 

リザードマンは膝をついたまま、唇をかすかに震わせて口を開いた。

 

「我々より格上の“花園の騎士団”を、滅ぼしていただきたいのです」

 

「花園の騎士団……?」

 

その名に、アスモディウスの眉がわずかに動いた。

 

「人間の組織でございます。サラマンダー・湖を支配している我々の同胞……さらには、ダークバタフライまでも狩りました」

 

「ほう……人間が、ダークバタフライを狩るだと?」

 

椅子を軋ませながら身を乗り出すアスモディウスの目が、興味に煌めいた。

 

「我らが手を組まなければ……いずれすべてのモンスターが、人間どもに狩られる日が来るやもしれません」

 

「ふむ。人間ごときが、そこまで手を伸ばしてくるとは面白い」

 

アスモディウスは喉を鳴らして笑った。だがその笑みの奥に、確かな殺意が宿っていた。

 

「悪くない話だ。だが……褒美は?」

 

言葉と同時に、リザードマンの背後に控えていた部下たちが、分厚い箱を何重にも開けていく。

 

中にはきらびやかな《カード》が1000枚。

さらに、魔力を帯びた《財宝》の山が、部屋に光を放った。

 

「これが、我らの持てるすべて。報酬としてご用意しました」

 

アスモディウスは数枚のカードを指でつまみ、まじまじと観察する。

 

「……面白い。ならば、“遊び”に行ってやろうじゃないか」

 

闇の魔力が彼の背後で渦を巻き、周囲の悪魔たちがざわめく。

 

「場所は?」

 

「既に把握しております。この地図に……」

 

リザードマンが差し出した巻物に目を通し、アスモディウスは愉悦に口角を歪める。

 

「花園の騎士団……か。ダークバタフライを狩った人間共。ふむ……どれほどのものか確かめてやろう」

アスモディウスはにやにやしている。

 

リザードマンが下がったのを確認すると、アスモディウスは指を鳴らした。

 

すぐに、漆黒の扉が複数開き、黒悪魔族たちが闇から現れる。

その場は一瞬で、瘴気に満ちた異界の会議場へと変貌した。

 

「……ふむ」

 

アスモディウスは、リザードマンから受け取ったカードを手に取り、飽きたように口へと放り込む。

パリッ、と乾いた音が広がる。

 

「──人間のカードは、味が薄い」

 

忌々しげに舌を鳴らした彼に、部下の悪魔たちが静かに頷いた。

 

「……だが、利用価値はある」

 

アスモディウスは椅子のひじ掛けに肘をつき、冷ややかな瞳を周囲へ向ける。

 

「3年前、我が直々に天界へ侵攻した際……優秀な人間たちを数体、連れ帰っただろう?」

 

「現在も中層で兵士として稼働しております」

 

「人間は、食うより“育てる”方が良い資源になる。知能も、適応力も高い。

種としての弱さはあるが……」

 

再びカードをかじる。だが今度は、口の中にわずかな苦味が残った。

 

「……ただ、今回は問題がある。ダークバタフライを狩るような人間共だ。

勇敢に挑んでくるかもな」

 

「……つまり、“カード化させる”ですか?」

 

「そうだ」

 

アスモディウスは立ち上がる。その身を包む漆黒のマントが広がり、空間が震える。

 

「ダークバタフライを倒したということは──命を捨てる覚悟がある。

逆に言えば、こちらも本気で殺しに行かねば意味はないということですな」

 

「その通り。遊びは終わりだ。

人間共に恐怖と絶望を刻みつけ、屈服させろ」

 

静まり返った空間の中に、不気味な笑いがいくつも重なった。

 

アスモディウスはゆっくりと手を掲げる。

 

「──“黒の行軍”を始める。標的は、花園の騎士団。

全軍、出撃の準備を」

 

その瞬間、空間の温度が一気に下がる。

悪魔たちの進軍は、すでに始まりかけていた。

 

~~

 

嫌なことは、いつだって突然だ。

館の外が騒がしい。警戒のベルが鳴り響き、慌ただしく走っている。

花園の騎士団を囲むように、黒い影が迫っていた。

「……囲まれてる?」

ただの奇襲ではない。

 

どうやら俺たちがモンスターを狩りすぎたことで、向こうからの“ヘイト”が限界に達してしまったようだ。

強者が狩られると、その分、次の脅威が生まれる。

それを理解していても、ここまでの報復が来るとは思っていなかった。

 

「まるで、狩る側から狩られる側になったみたいだな……」

平穏だった拠点が、戦場になろうとしている。

 

「ここまで攻め込まれて……ほかのメンバーも、もう何人もカード化されている」

氷花は静かに、しかし重たく言葉を紡いだ。

 

「あの悪魔たちの戦い方は、もう知ったでしょう。容赦なんてものはない」

少しの沈黙の後、氷花は小さく笑った。

 

「ここは、誰かが犠牲にならないと、この組織ごと潰される」

「今まで集めたアイテムと資源をまとめて。君は、それを持って別の場所へ逃げて」

氷花の言葉は、あまりにも自然で、あまりにも静かだった。

 

「君は……命を落とすつもりなのか?」

「そりゃあ、誰かが盾にならないと、他の誰かも守れないでしょう?」

苦笑しながらも、目だけは鋭く前を見据えていた。

覚悟が、もうできている目だった。

 

「妹さん、まだ見つかっていないんでしょう?」

言葉に詰まった俺に、氷花は優しく言った。

「だったら、君が見つけてあげて」

「私はここで、時間を稼ぐ。君は未来を拾って」

龍華は必死に屋敷の中を駆け回り、残った仲間たちに声をかけていた。

いつも冷静で沈着な彼女の声が、今はどこか震えている。

かつて20人はいたはずの騎士団。

今、その姿を確認できたのは、わずか3人――それだけだった。

崩れ落ちた壁、割れた窓、床に散らばるカード。

戦闘の激しさと敗北の爪痕が、そこかしこに残されていた。

 

「くそっ……!」

龍華が拳を握りしめる。

これほどまでに、戦力が削られるとは思っていなかった。

誇り高き騎士団も、数の暴力と奇襲には耐えきれなかった。

──人間とは、こんなにも脆いものなのか。

その事実が、何よりも悔しかった。

けれども、まだ終わっていない。

生き残った者がいる限り、希望は消えていない。

 

~~

氷花は、すでに何体かの悪魔を討ち倒していた。

氷の魔力が冷気となって宙に揺らぎ、足元には凍てついた魔族の残骸が散らばっている。

 

「少しはやれる人間がいましたか」

闇の奥から、にやついた声が響いた。

黒い霧のように揺れる影の中から、巨大な悪魔が姿を現す。

 

「お前を狩れば、こちらの鬱憤も晴れるというものです」

その顔には、確かな余裕と嘲りが浮かんでいた。

別の悪魔が倒れながら、遠くに向かって声を絞り出す。

 

「アスモディウス様……すみません……狩られて……しまって……」

「これくらいの犠牲は想定内だ」

黒き玉座に座す男が静かに言い放つ。

 

「それに、これでモンスターどもに恩を売れる。悪くない取引だ」

敵の主君の言葉に続くように、悪魔は吠えた。

 

「小娘よ。私と戦えることを喜ぶがいい!」

氷花は、氷の魔力を纏ったカードを静かにフィールドへと出した。

 

「……来て。《氷精姫》たち」

氷の妖精たちが空に舞い、辺りの空気を瞬く間に凍てつかせていく。

凍結(フリーズ)――行動不能に追い込む、氷花の得意とする戦法。

しかし、その瞬間――

 

「無駄だよ」

悪魔の体が禍々しい黒煙を噴き上げた。

その黒炎が、フリーズ効果を弾き飛ばしていく。

 

「黒悪魔族は、すべての効果を受けない」

「能力を無効化しているのに、まだ抗うか?ふふ、いいだろう。終わりにしてやる」

悪魔が一枚のカードを地に叩きつけた。

 

「《黒の暴食の悪魔 ブラックベルゼブブ》――召喚」

その瞬間、世界が塗りつぶされるような重圧が降りかかる。

地面が震え、空が裂ける。

 

《ブラックベルゼブブ》

8コスト/4/4

能力:相手の効果を受けない。召喚時、相手モンスターを3体破壊し、そのステータスおよび能力を吸収する。

「あなたのモンスター3体……これで破壊させてもらいます。そして……」

巨大な漆黒の悪魔が、氷精姫たちを一瞬で貪り喰らう。

氷が砕け、魔力が吸い取られていく。

 

「この力、我がものとする――!」

悪魔の体が変質し、氷の力をそのまま取り込んだように、禍々しい冷気を放ち始める。

 

「これが、格の違いです」

――次の瞬間、氷花の体が淡い光に包まれ、カードへと変わっていった。

 

それは、呆気ないほどの終わりだった。

彼女の静かな抵抗と、それをあざ笑うような圧倒的な暴力。

仲間を守るために戦った氷花は、そのまま敗北し――カードと化した。

 

~~

「アイテムもすべて集めた。……生き残ったのは、君たち三人だけだ」

龍華の声は冷静だったが、その奥には怒りと無念が滲んでいた。

 

「ここは――逃げるぞ」

「こうしないと、生き残れない」

「……わかりました」

光華は唇を噛みしめてうつむいた。

目の前で焼け落ちていく騎士団の屋敷。それは彼女にとって、家そのものだった。

家族のように過ごした仲間たちが倒れ、思い出の場所が蹂躙される。

その現実が、心を深く抉っていた。

焼け焦げた天井を見上げたまま、彼女はかすれた声で言った。

 

「……わかってるんですよ。頭では。今は逃げて、生き延びて、いつか逆転するしかないって……」

それでも、悔しさが滲んで消えなかった。

かつて誇り高く掲げられていた団旗が、今は灰にまみれて地に落ちている。

 

「頭でわかっていても、悔しいですね……」

その横で、俺と音華は無言で頷いた。

逃げることに必死だった。とにかく生き残らなければと、そればかりを考えていた。

けれど――悔しさは、俺たちの中にも確かにあった。

生き延びて、取り戻す。

この手で、必ず。

 

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