【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
花園の騎士団は──滅びた。
燃え落ちた屋敷の残像が脳裏に焼きつく中、龍華は肩を落としていた。
けれど、彼女の眼差しにはまだ、消えていない光が宿っていた。
「……実は、こうなることも予想していて。別の拠点も準備していたんだ」
声こそ落ち着いていたが、その裏にある悔しさは隠しきれていなかった。
それでも彼女は、立ち止まらなかった。
「すごいですね……」
光華はぽつりと呟いた。
心底驚いていた。目の前に広がる建物――それは少し古びた館だった。
かつての花園の騎士団本部に比べれば、ずいぶんと小さい。
だが、それでも確かな“拠点”の体を成している。
「このあたりは、定期的にモンスターを掃討してる。しばらくは安全だろう」
龍華の声に、ほんの少しだけ安堵が滲んだ。
かつての華やかな屋敷とは違う。
ここには豪奢な庭園もなければ、騎士たちの声もない。
それでも、ここが「始まりの場所」になる。
再起の第一歩となるのは、間違いなかった。
「ここからまた……始めるんですね」
光華は、遠くを見るような目で呟いた。
そして、その隣で俺も静かにうなずいた。
時間が少し経ち、俺は龍華と二人きりで話す機会を得た。
「天界には……報告したんですか?」
組織が壊滅したことを、彼らにどう伝えるのか。ずっと気になっていた。
龍華は一拍置いてから、静かに答えた。
「まだだが……少しずつ話そうと思っているよ」
「……やっぱり、天界って強いんですよね。私たちより」
「当然だ」
「取引とか……できないんですか? カードとか、アイテムとか。そういう形で、力を貸してもらえたり……」
俺は口を結びかけて、少し迷いながらも口を開いた。
龍華は目を細めた。驚いているのか、それとも呆れているのか、感情は読み取りづらい。
「……君も、氷花さんのことが悔しいんだね」
「はい。まだ何もできなかった。だから……力が欲しいんです」
「……気持ちはわかる。だけど、天界が力を渡すのは“対価”がいる。基本的には釣り合わない取引になる」
龍華は少し考えてから、ぽつりと続けた。
「でも……そうだな。取引するという発想自体はなかった。こっちが弱いとわかってるから、つい、頭から諦めてたよ」
「……?」
「不利な条件になるだろうが、彼らの持っている“アイテム”──私が欲しかったものがある」
「じゃあ……」
「それを、差し出すつもりだ。交換としてね」
龍華の瞳は揺れていなかった。強さを求める決意がそこにあった。
それは俺が望んだ“力”そのものでもあった。
「強くなります。絶対に」
小さく、龍華が笑った気がした。
~~
龍華は天界の存在・天界人であることを伝えた。
「地上と天界に分かれていたなんてね……」
音華はぽつりと呟いた。その声には驚きと、どこか納得したような感情が混じっていた。
「信じられないけど、龍華から……そんなオーラが出てるのは、確かに感じてた」
光華も静かに頷く。
「……信じがたいですが、本当なんでしょうね。あの力を見てしまうと」
俺も心の奥で同じ感情を抱いていた。
ただ──俺は転生者だ。
この世界の“外側”を知っている者として、そういう異世界的な話にも多少の耐性があった。
信じがたいが、納得できる。そういう距離感だった。
龍華は、皆の真剣なまなざしを受け止め、深く頷いた。
「──では、ここからが本題だ」
彼女の声には迷いがなかった。
「襲ってきたモンスターを最速で狩る。それとも、このまま少数でこじんまりとモンスターを狩り続けるか。今の我々には、二つの選択肢がある」
一瞬の沈黙の後、光華が口を開いた。
「……私は、あいつらを倒したいです。あの日、あの光景を見て……本当に悔しかった」
拳を強く握りしめ、目に宿るのは迷いのない闘志だった。
「たぶん、また狩りを続ければ、あの悪魔たちは再び現れます」
「だから、いずれ向き合う必要があるんです」
俺と音華も、無言で頷いた。
心の底では皆、同じ気持ちだった。
「……たしかにな。再び襲われるリスクはあるが、それでも前に進む覚悟があるなら、止めない」
龍華が静かに息を吸い込み、続けた。
「了解だ。その方向で話を進めよう」
そして──
「まず、私を最速で強くする手段はある。…それが、天界人との取引だ」
場の空気が少し張り詰める。
天界人との接触、それはあまりにも遠い存在との交渉を意味していた。
「私は、君たちのおかげで取引のテーブルに立てるだけの実績を積めた。……でも、それでも実績をうまく報告できていない。立場は、あちらの方がまだ上なんだ」
そう語る龍華の顔に、わずかに悔しさがにじんでいた。
彼女が自分の弱さを口にすることは珍しかった。
「……大丈夫です」
光華が優しく笑って言う。
「むしろ、私たちのカードも、依頼の中で確実に強くなってきています」
「不利なトレードでも、龍華が強くなるなら構わないよ」
音華も真剣に語る。
「ダンジョンも、これからどんどん攻略していくべきだと思う」
「ありがとう。……本当に、頼もしくなったな」
龍華はふっと目を細め、感謝の意をこめて微笑んだ。
龍華は、一瞬だけ目を伏せた。
まるで、重い覚悟を飲み込むように。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「……ありがとう。ふたりとも」
その声には、わずかに震えがあった。
けれど、それは弱さではない。
確かに、仲間の想いを受け止めた者の覚悟の重さだった。
「私が欲しいのは──“ドラゴンを5体召喚した時、相手のモンスター1体にダメージを与える”というアイテム」
龍華の言葉が再び静かに、しかし力強く響く。
「黒悪魔族はカードの効果を受けない。だが、アイテムの効果は通る。これなら対策になるはずだ」
天界との不利なトレード──
だが、必要なのは勝つための道具。
命を懸けてでも、倒さなければならない相手がいる。
「このトレードには、私の持っているすべてのアイテムを使うつもりだ。ほとんどが、氷花と私で集めたもの。だから、私にその権限がある」
少し言い淀んで、言葉を続けた。
「だが……カードに関しては違う。君たちが集めたものもある。反対があれば、そのカードは決して使わない」
言葉を聞いた音華が、すぐさま口を開いた。
「大丈夫。私のカードを使ってください」
彼女の瞳は、まっすぐだった。
誰かのために戦い、託し、つなぐ。
その意志が、言葉に宿っていた。
あのカードは、新しいメンバーのために。
未来の希望のために。
だからこそ──迷いなく渡す。
光華も、そっと続けた。
「音華さんがそう言うなら……私のカードも、使ってください」
言葉は静かだが、その決意は熱い。
信じている。だから託す。
今は、龍華にすべてを預けるべき時。
そして、俺も頷いた。
迷いはなかった。
「……わかった。みんなの想い、無駄にはしない。必ず、勝ちに繋げてみせる」
龍華の声に、迷いはなかった。
次の戦いの火蓋は、静かに──だが確実に切って落とされた。