【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
天界の荘厳な神殿に、交渉の空気が張り詰めていた。
龍華は一歩も引かず、まっすぐに天界人の目を見ていた。
金と白を基調とした高貴な装束を纏う天界の交渉官は、椅子に座ったまま、カードの束とアイテムの数々を流れるように見ていく。
「──なるほど。ダークバタフライの扇が4つ、ライジングサラマンダーの鱗が5つ、そしてマーマンの呪具……確かに上位種から得たアイテムだな」
「はい。私たちが地上で狩った成果です」
「そこに、さらに500枚のカードか……」
天界人が指を滑らせ、1枚1枚のカードを高速で確認していく。
バニラカードが多くを占めているが、中には希少な能力カードも混ざっている。
「まぁまぁの内容だ。取引には応じよう」
──その言葉に、龍華の目がわずかに細められる。
だが、次の言葉を待っていたかのようにすぐに切り返す。
「ありがとうございます。さらにもう一つ、お願いがあります」
「ほう? まだ何か?」
「地上に出没している上位モンスターたちの情報が欲しい。ダンジョンに潜り、殲滅するつもりです」
交渉官は一瞬、口元に笑みを浮かべた。
「ふふ……なるほど。確かに、地上のモンスターが減れば、我々の監視コストも下がる」
「天界にとっても悪くない取引かと」
「よかろう。その代わり、お前たちの“成果”を定期的に報告すること」
「もちろん」
天界人は、背後の浮遊端末に指示を送り、神殿の奥からひとつのペンダントを持たせた小型天使を呼び寄せた。
「──これが《龍の嘆きのペンダント》。契約された者がドラゴンを5体場に出すたび、敵1体に無条件でダメージを与える。効果対象に“黒悪魔族”の耐性すらも貫通する。お前が望んだ通りの品だ」
小さな天使が、両手で慎重にそれを差し出す。
龍華は無言でそれを受け取り、深く一礼する。
「感謝します。これで……仲間を、世界を守る力を手に入れました」
「……期待しているぞ、龍華。下界にしては、お前は“面白い”存在だ」
淡く光る転移魔法陣が、龍華を包む。
そして彼女は──
再び、戦いの地へと戻っていった。
~~
龍華は一歩前に出て、《龍の嘆きのペンダント》を首から掲げるように見せた。
その装飾は荘厳で、中央の宝玉には小さく燃えるようなドラゴンの姿が揺らめいていた。
「──とりあえず、私の望んだアイテムは手に入れた」
「でも……ぼったくられたが、しょうがない。
地上のことを馬鹿にしているし、それでもアイテムをゲットできたことはいいことだ」
「すごい……! これが天界のアイテム……!」
俺は思わず声を上げた。
あの圧倒的な《黒悪魔族》に抗える手段を、ようやく得られたことに胸が熱くなる。
音華と光華も、その輝きをまじまじと見つめていた。
不安と敗北の影が、ほんの少し、心から拭われていくような感覚。
「これで強い龍華さんが……さらに強くなりましたね!」
「ようやく、反撃の準備が整ってきたということですね」
「……うん。安心した」
3人の顔に、久々にほんのりとした笑みが浮かぶ。
だが、龍華はすぐに表情を引き締め、手元の資料を広げた。
そこには、ダンジョンやモンスターの巣、そして──《黒悪魔族》の根城までもが記されていた。
「これが、今の地上における敵勢力の拠点情報だ。天界との取引で得た」
「……本当に、こんなに……」
光華が目を見開く。
「でもな、今の私たちがいきなり《黒悪魔族》の巣に突っ込んだところで、返り討ちにされるだけだ。戦力差は明確」
龍華は冷静に告げる。
彼女の瞳には、敗北の教訓が深く刻まれていた。
「だからまずは……アイテムを集める。君たちのデッキに合ったものを優先して、戦術に幅を持たせる」
「……確かに、あいつらはカードの効果を受け付けませんからね」
「だからこそ、アイテムやフィールドの効果が勝負を分ける」
光華が真剣に頷いた。
「黒悪魔族にはこちらの行動を気取られたくない。だから、今は遠く離れたダンジョンを回る」
「具体的には?」
「まずは──獣系のダンジョンだ」
「狼華、お前に合ったアイテムを回収していく」
俺は小さく頷いた。
かつての敗北を噛み締めた今こそ、己を鍛え、力を蓄える時だ。
「了解。行こう。……もう、誰も奪わせないために」
それぞれの目が、前を向いていた。
~~
光華とふたりきりになった静かな時間。
その時、彼女はぽつりと呟いた。
「……少し、隠していたことがありました」
その声はわずかに震えていた。
「実は、私の家を襲ったモンスター……黒悪魔族だったんです」
「復讐心はないって言いましたけど……正直、少しあります」
彼女は目を伏せて、唇を噛む。
「私って、本当に醜い人間ですね。
いろんな感情が交錯して、どうしていいか分からなくなることがあります。
冷静なふりをしていても……ときどき、自分が嫌になるんです」
俺は静かに首を振った。
「そんなことはありませんよ。私情を挟まないようにすることは大切かもしれません。
でも、感情を持ってるのは、人として当然のことです」
「……ありがとうございます」
少しだけ、光華の表情が和らいだように見えた。
「でも、やっぱりいろんなことが重なると……心の奥から、どうしようもなく何かが湧いてきてしまって」
「なら――その気持ちごと、モンスターにぶつけましょう」
「俺たちで倒すんです。奴らを」
光華は力強く頷いた。
その目には、迷いのない光が戻っていた。