【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺たちは、遠く離れた獣系ダンジョンへの遠征に向かっていた。
知らない土地に足を踏み入れるのは、それだけで神経がすり減る。
「まずは、情報屋の元に行こう」
龍華が静かに言った。
「獣のダンジョンには、私も行ったことがない。だから、事前に情報を集める必要がある」
彼女の表情は落ち着いていたが、その目は真剣そのものだった。
無理もない。相性の悪い相手だった場合、最悪のケースも考えられる。
準備不足で踏み込めば、それこそ命取りになりかねない。
慎重すぎるくらいが、ちょうどいい。
「了解。情報屋のところへ向かいましょう」
俺たちは頷き合い、足を速めた。
俺たちは、情報屋と呼ばれる男の元へたどり着いた。
テントが一つ、草むらの中に立っている。まるで風に飛ばされそうなほど頼りない。
彼はどこかに定住しているわけではないようだった。
「龍華。お前が仲間を連れてきたのは、初めてだな」
テントの中から姿を現した情報屋は、軽い口調でそう言った。
「組織が……黒悪魔族に潰された」
龍華の声は静かだったが、その奥に強い怒りが滲んでいた。
「黒悪魔に、か……それは大変だったな。で、これからどうする?」
「決まってる。黒悪魔族を倒す」
「ほう、なるほど。それなら最初の情報としては悪くない」
そう言って、情報屋は丸めた地図を広げた。
「これが、俺の移動日程だ。次に会いたければ、これを参考にしろ」
「次も“お前たち”に情報を渡す価値があると判断できればな」
そこから彼の顔つきが変わり、話は本題に入った。
「カード20枚を受け取った。ほとんどがバニラカード……だから、渡せる情報は限られる」
「獣のダンジョン。あれはどんなデッキなんだ?」
龍華が尋ねると、情報屋は即答した。
「獣族を大量展開する自然属性のデッキだ。群れで一気に押し込む戦術だな」
「だから、“全体除去”を持っていけ。それだけだ」
彼はさらに、そこそこ効果のある2枚のカードを龍華に見せられると、わずかに態度を軟化させた。
「そこまで出すなら、ボスの情報だけ教えてやる」
「頼む」
「ボスは《紅蓮獣レオン・ファング》を中心にした構成だ。
味方全体のステータスを+1する支援系のカード……ただの殴り合いじゃ勝てないぞ。
除去と展開力、どちらも必要な相手だ。これ以上は俺も分からん」
「なら、問題ないな」
俺は笑って、懐から自分のカードを一枚取り出す。
「《紅蓮獣レオン・ファング》。俺も同じカードを使ってるんだ」
「ほう……たまげたなぁ」
「そういう巡り合わせも、あるもんだな」
情報屋は楽しそうに笑った。
~~
「自分と同じタイプのデッキか……」
俺はポツリとつぶやいた。
「なら、そのダンジョンで手に入るアイテムも、デッキの強化に直結するはずだな」
「きっと、能力とも噛み合ったアイテムがドロップするだろう」
龍華が横から補足する。
「獣ダンジョンの攻略は、我々のパーティーを一気に底上げする近道になる」
彼女の視線はすでに、戦場の先を見据えていた。
「……ただし、無理は禁物だ」
「嫌なプレイや苦手な展開があれば、ちゃんと共有してくれ」
「そうすれば、立ち回りでフォローできる。攻略の難易度も下げられる」
俺はメンバーに目を向けて、言葉を続けた。
「それと、道中で全体除去カードも拾っておきたいな。事故を減らすためにも」
~~
闇に包まれた空洞の中、下っ端の黒悪魔族の一体が、ぼんやりと頭に埋め込まれた水晶を眺めていた。
その水晶は微かに輝き、遠くの気配を感知している。
「……生き残りがいるのか」
歪んだ口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「こいつらを狩れば、いいものを持っているかもな……」
「出世できる……あのアスモディウス様に認めてもらえる……!」
ドクン、と水晶が赤く脈動する。
興奮を抑えきれないのか、彼は自らのデッキを取り出すと、指でなぞるようにカードを選び始めた。
「フフ……行こうか。狩りの時間だ」
「お前たちが拾い集めたその"アイテム"、ありがたく献上してやるよ……!」
黒悪魔族の影は、闇の中へと音もなく消えていった。
狩りの標的は、今まさに獣のダンジョンを目指す彼女たちだった。
~~
黒悪魔族の根城の隅。
闇に覆われた部屋の中、少女は膝を抱えてうずくまっていた。
瞳には、濁った赤と、かすかな金が揺れている。
──まだ、完全には染まっていない。
だが、身体の節々に走る痛みがそれを許さない。
背中には未完成の黒い羽根。手の甲には魔の刻印。
少女は、もがきながらその変異に耐えていた。
ふと、水晶に目を向けていた黒悪魔の下っ端を見つめる。
耳に入ったのは、聞きたくもない言葉だった。
「生き残りがいるのか」
「こいつらを狩れば、いいものを持っているかもな」
「出世できる……アスモディウス様に認めてもらえる……!」
少女は、息を呑む。
危険信号をおくっている。
声にならない声。けれど、その願いだけは確かに、世界のどこかに響いていた。
彼女がまだ「完全に堕ちていない」ということだけが、ほんのわずかな希望として――。
~~~
龍華はふいに足を止めた。
森の静寂が、わずかにざわめいたような気がした。
「……嫌な予感がする」
その一言に、俺たちは思わず立ち止まる。
「黒悪魔族が……近づいている」
龍華の声は低く、確信に満ちていた。
「え……敵が大群で来るってこと……?」
音華が身構える。彼女の手はすでにデッキに伸びていた。
「……いいや、一人だけだ」
龍華は静かに首を横に振る。
「でも、そいつの相手は――私しかできない」
空気が凍る。
龍華の気配が、いつもとは違う。冷たく、研ぎ澄まされた刃のようだ。
龍華は大切な誰からのメッセージだと感じてしまっており、胸が少しざわついた。