【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
ダンジョンの入り口が見えてきた。
岩に埋もれるようにして口を開けたダンジョンは、まるで獣が口を開けて待ち構えているようだった。
しかし、龍華の足が、ぴたりと止まる。
「……先に行ってくれ」
俺たちは思わず振り返る。
「我々を、追ってきているみたいだ」
その声は冷静だったが、どこか張り詰めたものを感じた。
「分かりました……」
本当は言いたかった。
「一緒に戦います」――と。
でも、言えなかった。
その言葉に、何の意味もないことを痛いほど分かっていたから。
龍華の実力は別格だ。
あの黒悪魔族の気配に気づけたのも、彼女だけだった。
俺たちじゃ、足手まといになる。
光華も黙ってうつむいていた。彼女もまた、同じことを悟っていたのだろう。
「……信じてます」
その言葉だけを残し、俺たちはダンジョンの中へと足を踏み入れた。
背後で、龍華の気配が静かに消えていく。
闇に包まれた森の外れに、そいつは現れた。
黒い肌に、まるで寄生されたかのように頭部に食い込んだ水晶――禍々しい光を放ち、脈動している。
その男は、狂気を湛えた目で、目の前の存在を値踏みするように見ていた。
「なるほど……お前が、一番強いやつか」
「そうだ」
龍華は一歩、地を踏みしめる。
口元には、かすかな笑み。余裕とも、挑発とも取れる。
「ただの女じゃなさそうだな……」
「さすが、“団長様”ってところか」
水晶が脈打つたびに、男の周囲の気配が歪む。空気が震え、異界の瘴気が滲み出す。
だが、龍華は微動だにしなかった。
「御託はいい」
「……勝負しよう」
声は低く、静かに、だが確かに大地を揺らすような重みがあった。
次の瞬間、森の静寂が、破られた。
~~
お互いに静かにカードをシャッフルし、手札を引く。
一瞬の静寂。空気が張り詰める。
「では、勝負を始めようか」
黒悪魔の男は、ゆっくりと頭の水晶に手をかざした。
淡い紫光が脈打ち、水晶の奥に何かが映し出される。
「……ふむふむ」
彼はにやりと口角を上げる。
「なるほど。あなたは“ドラゴン”のデッキか……」
「……なに?」
龍華の目がわずかに見開かれる。
「驚いたか? 俺の水晶はな!!」
「“手札を覗く”ことができるんだよ」
「……なるほどな」
龍華は低く呟く。
だが、焦りは見せない。
むしろ――面白くなってきた、というように笑っていた。
「でも、それだけじゃ勝てない。デッキの中身が見えた程度で、勝てると思わないことね」
「なるほど……やっぱり、さすが団長様だ」
「でも、その自信、崩れる瞬間が楽しみだ」
「人間を馬鹿にする余裕を叩き潰すのが楽しみだよ」
龍華は笑っており、言い返している。
その反応に黒悪魔は舌打ちをうつ。
黒悪魔は、不気味に笑いながら次々とカードを展開していった。
「出でよ──《黒悪魔兵》《黒悪魔斥候》《黒悪魔魔導犬》……!」
盤面に並ぶ黒悪魔族たち。しかし、どれも小粒な下級モンスターばかり。
能力を持たず、ただの壁にもならない。
(……なるほど)
龍華は冷静に分析していた。
(こいつの“水晶”は、ハッタリだ。こちらの手札を読む力は本物かもしれないが、デッキの内容は貧弱。効果耐性もなく、展開も鈍い。つまり──こいつは“情報”で優位に立とうとしただけの雑魚)
「人間のくせに……ドラゴンを次々と展開していくな」
「この程度で、私を倒せるとでも?」
龍華は、静かにカードを場に出す。
「来い──《召竜王グリヴァルド》!」
フィールドに召喚された巨大な紅蓮の龍が咆哮を上げる。
「グリヴァルドの効果発動。デッキトップを1枚確認──それがドラゴンなら、即座に場に召喚!」
ドンッ!!
「《轟連王 ガルヴァロス》!!(コスト6/4/4)
召喚時効果──すべての我がドラゴンに+2/+2を付与!」
ドラゴンたちの全身に紅蓮の光が宿り、攻撃力が爆発的に高まる。
「私のペンダントの効果を、今発動する」
胸元で揺れていた《龍の嘆きのペンダント》が強く光りだす。
「条件は──場にドラゴンが5体。達成済みだ」
「この瞬間、相手フィールド上のモンスター1体に“5ダメージ”を与える!」
ペンダントから迸った蒼白の光が、《黒悪魔斥候》を貫き、木端微塵に吹き飛ばす。
──展開、強化、そして破壊。
3つの戦術が完璧に揃った瞬間だった。
黒悪男は、唇を噛んでいた。だが、もはや抵抗の術はない。
「くっ……こんな……はずでは……」
「情報だけで勝てると思うな」
「それが“カードバトル”だ」
一気に総攻撃を仕掛ける龍華。
フィールドのドラゴンたちが咆哮しながら、一斉に黒悪魔を襲う!
そして、勝負は決した。
黒悪魔が断末魔の叫びをあげて崩れ落ちる。
身体が黒い霧のように崩れ──
次の瞬間、一枚のカードへと変わった。
ぴたりと地面に落ちるそのカードを、龍華は静かに拾い上げる。
「……人間を、舐めるなよ」
低く冷たい声とともに、彼女はカードを懐にしまい込んだ。
空気が静まり返る。
ペンダントの光が収まり、周囲には倒された黒悪魔族の残骸が残るのみ。
ただのカードゲームではない。これは、命を賭けた“現実”だ。
龍華はゆっくりと背を向けた。