【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺たちは、薄暗いダンジョンの中を慎重に進んでいた。
天井から吊るされた古びたランタンが、ゆらゆらと赤黒い光を投げかけている。
「とりあえず、この辺のモンスターを狩っていきましょう」
音華が剣を肩に担ぎながら言う。
「龍華さんがすぐに追ってこれるように、道を確保しておかないと」
「そうだね。この辺のモンスターは弱そうだし」
軽く笑いながらも、音華の目は油断していない。
「そうしましょう」
光華も短く頷き、カードを構える。
獣たちが襲い掛かってきた。
展開力の高いビースト系──それがこの階層の特徴だ。
だが道中で全体除去カードをしっかり拾ってきた俺たちにとっては、想定内の相手。
「……やっぱり、予想通りか。歯ごたえは薄いね」
音華が肩をすくめる。
「だからって油断は禁物だね」
そう言う彼女の声は、自分自身への戒めのようでもあった。
「ここの敵は自然文明オンリーですね。入口付近は、まだ力押しできるレベルです」
光華が手元のデッキを確認しながら分析する。
「じゃあ──入口で籠城だ。迎え撃つ形でいこう」
私たちはひたすら獣を狩り続けていた。
何度も、何度も。
気づけば三十分は経っている。
「……龍華、おそいね」
音華がぽつりと漏らす。
「大丈夫だ。きっと来る」
俺は短く返す。
「私たちにできるのは、ここで耐えることだけです」
光華は淡々と告げるが、その瞳の奥には緊張の色があった。
──その時。
ダンジョンの奥から、一際大きな狼が姿を現した。
金色の瞳が俺たちを値踏みするように細められる。
「人間のくせに……ここまで我らを削り切るとはな」
低く唸るような声。
「黒悪魔が入口前に現れたときは警戒したが……」
狼は牙を見せ、にやりと笑う。
「どうやら貴様らのリーダーが倒したらしいな」
そして、次の一言で空気が凍りつく。
「今、そのリーダーは足止め中だ」
「俺では勝てん相手だ。だから──人質になってもらうぞ」
「人語を話し……しかも戦術まで立てている」
「間違いない。あいつが、このダンジョンのボスだ」
音華はわずかに眉をひそめ、しかし冷静な声で言った。
「私が出ます。私の勝負を見てください」
「それで対策をしてください」
声に迷いはなかった。
音華と光華が一瞬だけ目を合わせ、そして同時に頷いた。
その表情には不安もあったが、それ以上に──俺の覚悟を受け取ったという確かな色があった。
~~
ビースト種族のミッドレンジデッキのミラーマッチが開始された。
俺が一体を召喚すれば、奴は牙を剥いて即座に狩り取る。
奴が二体を並べれば、俺は躊躇なくその群れを蹴散らす。
展開と破壊──ただそれだけのはずなのに、
一手ごとに心臓を握られるような緊張が走る。
「……完全にミラーマッチだな」
狼は微笑んでいる。
同じビーストデッキ同士、力押しも奇襲もほとんど通らない。
だからこそ──一瞬の隙を突いて先に盤面を制圧した方が勝つ。
獣たちの咆哮とカードを叩きつける音が、まるで剣戟のように重なり合う。
狼が牙を剥き、カードを叩きつけた。
《獣王 アカディミア》10コスト、10/10
召喚時、自分フィールドに1/1の獣を三十体、瞬く間に呼び出す化け物カード。
盤面は瞬時に牙と爪で埋め尽くされ、まるで獣の軍勢が雪崩れ込むかのようだ。
「これを返すことは難しいぞ」
狼は勝利を確信して笑う。
だが──俺も迷わずカードを切る。
《紅蓮獣バーサク・タイガー》
6コスト、3/3。召喚時、敵陣すべてに1ダメージ。そして、破壊した数だけ相手ライフに直接ダメージを叩き込む。
虎が咆哮した瞬間──
轟炎が爆ぜ、三十の獣たちが一斉に吹き飛ぶ。
破壊数は三十。つまり、追加ダメージは三十点。
その炎は群れを焼き尽くすだけでは終わらず、まるで獣王の心臓を直接握り潰すかのように、相手のライフを一撃で削り切った。
こうして──俺の勝利は決まった。
獣王は断末魔を上げる間もなく霧散し、カードの破片のような光となって消え去る。
その場に、ひとつのアイテムが残った。
ペンダントだ。
名称:《獣の叫び》──効果は「獣を5体召喚するたびに、デッキ内のすべての獣カードを+1/+1する」。
ビーストデッキ使いなら喉から手が出るほど欲しい一品だ。
「……やった」
小さく呟く俺。
その時、背後から声がした。
「どうやら、私がやってくる前に勝負がついたようだな」
遅れて龍華が姿を現す。
「ダンジョンのボスを倒してしまうとは──やるな」
軽く笑うその表情は、俺を評価する色を隠しきれていなかった。
「ふぅ……なんとかなったな」
音華が肩で息をつき、額の汗をぬぐう。戦闘の熱気がまだ肌に残っていた。
「次も──こうしてアイテムを集めていくんですね」
光華は手に入れたばかりのペンダントを光にかざし、目を細める。
俺たちの目標は、黒悪魔族をたおすこと。
ただ、俺たちは弱すぎる。だから強くなる。
強くなるために、各地のダンジョンを巡り、レアアイテムを可能な限り集めること。
強敵との戦闘も、罠も、そして予想外のイベントも──すべてはその過程に過ぎない。
こうして──俺たちのアイテム収集の旅が、静かに幕を開けた。