【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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2話 主人公との出会い

原作では、ここで光華が花園の騎士団に入団する。

そのはずだった。

 

だが今、団長・龍華の視線が向いているのは、光華ではない。

……モブであるはずの、この私だ。

 

時間軸が狂っている。

役割が、書き換わっている。

 

まさか、この流れで“参加する側”になるなんて。

原作を擦り切れるほど観ていた私が、一番信じられなかった。

 

「え〜と……生まれはよくないですけど」

 

ぎこちなく、そう答える私に対し、

龍華は微笑みを浮かべて肩をすくめた。

 

「カードが強く、女性だったら歓迎さ。

少数精鋭の組織だからね。私たちはこの世界の秩序を――ほんの少しだけ、ましにするのが仕事さ」

 

「……わかりました。では、入ります」

 

そう答えながらも、まだどこか夢を見ている気分だった。

 

その時だった。

 

「そういえば、君。名前は?」

 

「……ありません。両親は、モンスターにカード化されました。

言葉を覚える前だったので、名前は……知りません」

 

龍華は少しだけ目を伏せ、そして静かに頷いた。

 

「そっか……ちょうどいい。うちの騎士団では、名前を捨ててもらう。

私の用意したコードネームを名乗ってもらうのが、決まりなんだ」

 

「君のデッキは、赤い獣たち。

その攻めの美しさは、まるで燃える花のようだった。

……君のコードネームは、“紅狼(グレン)”だ」

 

「そして、私は――“龍華”。

団長であり、君の上官になる人間だ。よろしくな」

 

そのとき、ようやく実感が追いついた。

 

私はもう、モブじゃない。

この物語の中心に、確かに足を踏み入れてしまった。

 

「あっ、そうだ」

 

ふと、龍華が思い出したように声を上げる。

その横顔には、いつもの余裕があったが、ほんの少しだけ眉根が寄っていた。

 

「うーん……どうしようか」

 

彼女は顎に手を当て、しばし思案するような沈黙。

 

「本当はね。さっきの男との勝負で、もう一人の候補を試すつもりだったんだ」

「その結果で、どちらを入団させるか決めようと思ってた」

 

軽く笑いながらも、その口ぶりにはわずかな苦味が混じっていた。

 

「でも、紅狼が倒してくれたおかげで――試す機会がなくなっちゃったな」

「ま、指名手配者を見逃すわけにはいかないから、仕方ないけどさ」

 

冗談めいた口調の裏に、読み筋を一つ崩された焦りがにじむ。

 

「……とはいえ、判断材料が消えたのは誤算だった」

 

龍華の目が、遠くを見るように細められる。

その視線の先には、もう一人の影がいる。

 

「彼女も“カードモンスターと戦ってきた”って言ってたし……」

 

小さく息を吐き、コートの裾を翻す。

 

「紅狼。今回の任務、君も同行してもらうよ」

 

静かに、だけどはっきりと。

そう告げた彼女の声に、場の空気がわずかに張り詰めた。

 

 

~~

 

ここは、かつて工業都市と呼ばれたエリアの末路。

錆びた鉄骨。割れた硝子。

空は濁った煙に覆われ、地面にはカードの欠片と黒く焦げた肉片が散らばっていた。

今では、人間もカードモンスターも等しく“喰らい合うだけの領域”になっている。

 

その廃墟に、私は立っていた。

隣には、もうひとり――少女がいる。

 

長い黒髪に、深い紫の瞳。

身なりは質素で、だが瞳には炎のような光を宿していた。

 

光華。

そう呼ばれるはずの彼女は、今はまだその名すら持っていない。

 

龍華の視線が、少女へ向けられる。

 

「そこらへんの雑魚を、少し倒してくれないか?」

 

彼女は、まるで何気ないことのように言った。

だがその目は、試すように鋭い。

 

「紅狼。君なら、この程度は簡単に処理できるだろう?」

 

唐突に名を呼ばれて、私は思わず龍華を見る。

だけど彼女の視線は、明らかに“私”ではなく、“彼女”に注がれていた。

 

――光華。

 

かつて由緒ある家系に生まれ、モンスター狩りで生計を立てていたという家の生まれ。

だが、1話のプロローグにてその家は襲撃され、家族も屋敷もすべて失った。

 

“カードによって富を得た家が、カードモンスターによって復讐された”

 

その皮肉に、彼女は何を思ったのか。

 

今の彼女はただ、静かに立っている。

その手には、ボロボロになったカードデッキが握られていた。

 

「君の実力を、見たいんだ」

 

龍華は、まっすぐに言う。

それは指導者としての言葉であり、同時にこの世界の“ふるい”でもあった。

 

ここでは、力がすべてだ。

生き残るためには、カードを掲げて証明するしかない。

 

風が吹いた。

焦げた鉄の匂いとともに、遠くからモンスターの唸り声が聞こえる。

 

試されるのは――彼女だけじゃない。

きっと、私もだ。

 

物語は、ふたたび動き出す。

紅狼と光華。

ふたりの少女が、崩壊の街で対峙する最初の“場”が、静かに開かれた。

 

 

 

~~

 

光華の勝負が、静かに幕を開けた。

 

彼女の場に広がるのは――圧倒的な“防衛陣”。

 

《聖焔衛》

それは、光属性ブロック特化の防衛デッキ。

特性「聖闘」によって、ブロック時に攻撃力が+2されるという、守りながら力を蓄える異色の戦術。

 

この世界は外伝的作品であり、主人公としては守りが硬いデッキが採用されている。

本編のホビー様アニメでは、ライバルが採用されている。

 

光華の場には、ブロッカーたちがずらりと並んでいた。

その中でもひときわ目を引くのは――

 

《聖焔衛カリファー》 5/5 【聖闘】 「疲労状態でもブロック可能」

さらに装備カード《光の衣》により、光属性のカリファーはブロック時に体力を失わない。

 

つまりこのカリファー、一切の消耗なく、何度でも攻撃を止める絶対防壁となる。

 

だが、それだけではない。

 

光華は魔法カード《光彩迷宮》を展開していた。

それにより、敵プレイヤーは光属性が場に存在する限り、攻撃を強制される。

 

攻めざるを得ない。

だが、攻めれば攻めるほど――カリファーの攻撃力が上がる。

 

ブロック。

ブロック。

またブロック。

 

相手が投げる小型モンスターも、中型アタッカーも、すべては“防がれる”だけで終わった。

しかも《聖闘》のバフで、次第にカリファーは“攻撃要員”へと変貌していく。

 

まるで反撃の炎を宿した要塞。

 

相手のリソースは、みるみる減っていった。

戦場には、乾いた風と、静かに輝くカリファーの姿だけが残る。

 

最終盤。

敵はついにモンスターの展開すらできなくなり、無防備な状態に。

 

光華のターン。

光の砦は、歩み出す。

 

「《聖焔衛カリファー》――アタック」

 

轟音のような衝撃が走った。

10を超える攻撃力が、相手プレイヤーのライフを一気に叩き潰す。

 

決着は、一瞬だった。

 

守り抜いたその先に、勝利はあった。

 

静かな瞳の奥に、かすかな決意の炎が灯っていた。

光華はまだ無名の少女。

だがその姿は、まさしく――光の名を冠する者だった。

 

~~

 

戦いの終わり。

砕けたカードの欠片が、乾いた風に流されていく。

 

「君も……強いなあ」

 

龍華が感心したように声を漏らした。

戦闘中は決して崩れなかった笑みが、今は素直に綻んでいる。

 

「私でも、負けそうな可能性があるな」

 

素直な賞賛。

だが、そこには“仲間として迎えたい”という思いがにじんでいた。

 

「君も、騎士団に入ってくれないか?」

 

龍華は一歩近づき、言葉を続ける。

 

「……復讐したいモンスターとも、会いやすくなるはずだ」

 

一瞬、光華の瞳が揺れた。

だが、彼女ははっきりと首を横に振る。

 

「ありがとうございます。でも――復讐のためじゃない」

 

彼女は静かに、そしてまっすぐに言った。

 

「私は……秩序を保ちたいだけです」

 

その言葉に、空気が少しだけ澄んだように思えた。

龍華は、ほんのわずかに目を細めて頷く。

 

「立派だ。……ただ、強いのは分かった」

 

言葉を選ぶように、次の問いを投げかける。

 

「君は、“悪人”を裁けるか?」

 

その一言で、彼女の表情がほんの一瞬だけ陰る。

 

……光華は、すでに“やって”いた。

第一話。

人を喰らおうとしたカードゲーマーを、自らの手で“裁いた”。

 

悪を断つ。それが正義なのか。

その問いは、彼女自身の胸を締めつけていた。

 

そんな光華の沈黙を、私は見ていられなかった。

思わず、一歩前へ出た。

 

「私が――狩ります」

 

思いがけないほど、はっきりとした声だった。

 

「人の命を奪うカードゲーマーは、私が奪います」

 

自分でも、なぜこんなに強く言えたのか分からない。

だが、光華にその重荷を背負わせたくなかった。

 

龍華は、静かに頷いた。

 

「……分かった。君にその依頼をふろう」

 

「はい、分かりました」

 

任務でもなく、命令でもなく、誓いのように答える。

 

「――君に、名前を与えよう」

 

再び龍華が光華に向き直る。

 

「光属性を使っているから……光華だ」

 

光華は目を見開いた。

自ら名乗ることさえなかったこの世界で、はじめて“与えられた名前”。

 

その名が、彼女の胸に深く、静かに灯った。

 

~~

 

瓦礫と闇に包まれた、工業区の片隅で。

彼女は、ぽつりとつぶやいた。

 

「紅狼さん……ありがとう」

 

光華の声は、どこか遠くを見つめるようだった。

 

「紅狼さんは、きっと……私と違って、きれいな世界に生まれてきたんでしょう」

 

「だから……無垢であってほしいの」

 

その言葉に、思わず言葉を詰まらせた。

だって――それはまるで逆だったから。

 

転生してきた直後のこの世界は、泥にまみれ、飢えと暴力に支配されていた。

今日生きることすら、約束されない日々。

どれだけ手を伸ばしても、誰もいない。

 

そんな世界で、俺は、ただ生き延びるだけの存在だった。

 

「……確かに、そうかもですね」

「甘いのかもしれません」

 

そう答えた声は、自分でも驚くほど静かだった。

 

――でも、本当は違う。

“甘い”のは、記憶の中の“俺”だ。

ぬるま湯の日本にいた頃の、“向こう側”の俺の方が、よほど。

 

そんな彼女を、自分のように追い込みたくなかった。

 

「この世界に生まれてきた時点で、甘くなんてないですよ」

「だから……自分を責めないでください」

「私が騎士団に入ったのも――ただの自己満足です。自分のためです。エゴですよ」

 

言いながら、自嘲のような笑みが漏れた。

けれど、それを聞いた光華は――ゆっくりと微笑んだ。

 

原作では見たことのない、穏やかであたたかな笑みだった。

 

「ありがとうございます、紅狼さん」

 

「どことなく……信頼できます」

「自分のためと言い切っているのが、なんだか、素晴らしいと思いました」

 

その言葉に、思わず心が震える。

 

原作で、彼女はこんなふうに誰かを信頼して笑ったことがあっただろうか。

この世界の改変が、たしかに“何か”を変えていた。

 

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

交わした言葉は、契約じゃない。

ただ、“希望”に似た何かだった。

 

壊れた世界の片隅で――

ひとつ、確かな絆が結ばれた。

 

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