【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
黒悪魔を討つため──半年もの間、俺たちはダンジョンを潜り続けた。
カードを集め、アイテムを集め、時には命を削りながらも、ただ前へと進んできた。
だが、決定的に足りないものがある。──数だ。
たった4人で、あの黒悪魔族の根城を攻め切れるほど甘い相手ではない。
「……私たちは、確かに強くなった」
龍華が視線を落とし、低くつぶやく。
「けど、この戦力じゃ……黒悪魔を落とすのに時間がかかりそうだな」
「そこそこ腕の立つ仲間が、もう少し欲しいね」
彼女の言葉に、重く同意するように空気が沈む。
「持久戦になったら、どこかでミスが出る」
音華が冷静に言葉を差し込む。
「潜入で闇討ち……なんて手も考えたけど、あいつら相手じゃ、奇襲も通じないだろう」
「……半年間で、この程度しか強くなれていませんし」
光華は膝の上で手を組み、視線を落としたままつぶやいた。
「圧倒的に強くなる──それも一つの手だ」
龍華が低く答える。
「だが、それには……あまりにも時間がかかりすぎる」
沈黙が、場を支配する。
遠くで、黒悪魔族の砦から響く低い咆哮だけが耳に残る。
「すぐに、私たちと同じ実力の兵士を10人……そんなの、作れるはずがない」
音華が口を開く。
「それこそ──花園の騎士団みたいに、芽吹く前に潰されるのがオチだ」
重い言葉の一つ一つが、現実という壁の厚さを突きつけてくる。
「……そうだ。天界と取引しましょう」
俺は口を開いた。
「カードも、そこそこ集まっています」
「これだけの量じゃ、奴らは本気では動かない」
龍華は首を横に振る。
「それでも──しないよりはマシだろう」
「……まぁな。何かのきっかけになるかもしれない」
「とりあえず、一度天界に戻ってみる」
龍華は決意を口にし、視線を砦の向こうに向けた。
~~
天界に着いた龍華は、本部ではなく、いくつもの小組織が集まる拠点へと足を運んだ。
黒悪魔族の討伐を目標とする小規模の戦闘集団──人数は少ないが、目的が同じというだけで、心強さを感じる。
龍華は、その団長・柊の前に立つ。
これまでの経緯を簡潔に、しかし熱を込めて語った。
「なるほどね……君たちの動機は理解できる」
柊の低い声には、警戒と興味が入り混じっている。
「ただな──実力があるかどうかは、話を聞いただけじゃ分からない」
「俺たちもアイテムを集め、カードを強化し、何度も黒悪魔の城を叩いた」
柊の表情には悔しさが浮かんでいる。
「だが、それでも攻略は叶わなかった」
「何度も攻め込み、何度も失敗したんだ」
「だから──実力を示してもらおう」
柊はゆっくりと立ち上がり、鋭い視線を龍華に向ける。
「実力を見るとは……どうするつもりだ?」
龍華は眉をひそめて問いかけた。
柊は口の端をわずかに吊り上げる。
「簡単だ。俺と一緒にダンジョンへ潜ってもらう」
「ただし──俺は手を出さない。見るのはお前たちの戦いぶりだ」
その言葉に場の空気がわずかに張りつめる。
試されるのは、ただの勝敗ではない。立ち回り、判断力、そして仲間との連携までもだ。
「……分かった。そうしよう」
龍華は短く息を吐き、頷いた。
~~
「天界との取引は、うまくいかなかったんですか?」
音華が問いかける。
「天界に行ったとき、黒悪魔と戦っている小さい組織の存在を思い出したんだ」
「そこに話をつけてきた。──条件付きだけどな」
龍華は少し間を置いてから、口を開いた。
「条件?」
光華が首を傾げる。
「私たちの実力を見て、十分なら手助けしてくれるって話だ」
「心強いですけど……実力って、どうやって測るんですか?」
光華の問いに、低い声が割って入った。
「それは──このダンジョンを攻略してもらうことだ」
声の主、柊はゆっくりと指を伸ばし、眼前の巨大な岩山を指し示す。
「電翼龍の巣だ。ここを突破できるだけの力が、俺たちと肩を並べる最低条件だ」
そこには、稲光のような形をした裂け目が走り、雷鳴とともに重々しい咆哮が響いていた。
「なるほど……確かに、ここを突破できるなら、協力してもらえるのか」
龍華は険しい表情で裂け目を見上げる。
柊が裂け目の向こうを見据えたまま、口を開いた。
「電翼龍──攻撃力は凶悪だが、防御は薄い。そして何より、貫通攻撃が恐ろしく強い」
俺たちは息を呑む。貫通ダメージ……つまり、前線をいくら固めても、後列や本体まで容赦なく削り取られるということだ。
「奴らは盤面のコントロールとライフの削りを同時にこなせる。しかもその速度は、黒悪魔の中級クラスと肩を並べるほどだ」
雷鳴が裂け目を照らし、一瞬だけ内部の巨大な影が浮かび上がる。翼の先に閃光を帯びた龍──その姿は、まるで嵐そのものだった。
「なるほどね。中級クラスを攻略しないと信頼できないってことか」
龍華の口元に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「試験としては……ちょうどいいわけだな」
稲光が天を裂き、彼女の瞳に一瞬だけ銀の光が走る。
「いいだろう。全力で証明してやる」
その声には、挑戦を前にした戦士の高揚と、獲物を前にした獣の静かな自信が滲んでいた。