【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
私たちはついに、柊の協力を取り付けることができた。
黒悪魔族への攻撃する未来へと開き始める。
「君たちは、すぐに攻めたいのか?」
柊が低い声で尋ねる。
「そうだ」
迷いなく答える。時間をかければかけるほど、敵は備えを固める。
「……わかった。少しだけ人員を分けよう」
柊は腕を組み、こちらをじっと見据える。
「俺たちの中でも、特に希望が強く、志の高い者たちを渡す」
その言葉は重かった。
「それにしても、地上人なのにすごいな」
柊が感心したように言う。
「天界人は差別が多いからね」
彼は続ける。
「確かにそう思うだろう」
龍華がゆっくりと口を開く。
「ここにいる奴らは、必死に上り詰めたからこそ強い」
「……いや、ちがうな。機会さえあれば、地上人でもここまで強くなれる」
「私たち天界人と本質的な差なんて、その程度なんだ」
「そうかもな」
柊は静かに頷き、目を細める。
「差別は……やっぱり、あるのかもしれないな」
「私たちは、天界人とか言われても、あまりピンとこないですね」
光華が肩をすくめて笑う。
「龍華さんが軽く話されたくらいで」
「本当に存在してるのかどうか、実感はまだないです」
「ただ……龍華さんの言葉だから、信じますけど」
そう付け加えると、光華の表情は少しだけ柔らかくなった。
「柊さん、どうして黒悪魔を狙うんです?」
「ほかにも、もっと効率よく稼げる相手はいるはずですよ」
俺が問いかけると、柊は少しだけ視線を落とした。
「……たしかにな。だが、俺にとっては効率じゃない」
「理由は、復讐だ」
短く吐き出された言葉に、場の空気がわずかに張りつめる。
「三年前、黒悪魔が天界を襲撃した」
「天界人を誘拐する事件だったが、その混乱の中で――俺の妹が殺された」
「三年前だと!?」
龍華が思わず声を荒らげる。
彼女の頭の中には、力がなくて救えなかった情けない自分を思い出してしまった。
「コリン地区での事件か……」
「そうだ。君も……まさか、あの時の被害者なのか」
柊が驚いたように顔を上げる。
「そうだ。まさか、ここで因縁が交わるとはな」
「まさか……私が戦う理由の核心が、こんなにも近くに潜んでいたとはな」
龍華は静かにうなずいた。
「……ちなみに、何があったんだ?」
柊が静かに問いかける。
「私の妹の安否が、不明になった。死体すら見つからなかった。……だから、生きていると信じたいが、難しいだろうな」
「……君たちには、もっと早く話すべきだったな。すまない」
龍華は息をつき、俺たち3人へ視線を向けた。
「別にいいですよ」
「こういう話は……無理に人に言うもんじゃないですし」
俺は首を横に振る。
~~
時間が経ち、俺は光華と二人きりで腰を下ろしていた。
「花園の騎士団を壊滅させられて……龍華さんの本来の仇って、けっこう複雑ですね」
「そうですね。氷花さんをはじめとした花園の騎士団にも、きっと報いることができればいいんですが」
「黒悪魔と戦えるのは嬉しいですけど……良くも悪くも、勝負どころですね」
「下手をすれば、命を落とすこともありますから」
光華は少し遠くを見るようにして言った。
「……不安ですね」俺は正直に答える。
「でも、私たちはこれまでにたくさんのモンスターを狩って、地上を守ってきました」
光華は微笑み、続けた。
「それだけの仕事をしてきたんです。きっと、いいことがありますよ」
「そうですね……きっと、幸運がやってきます」
俺も、その笑顔につられて口元を緩めた。
「そういえば、光華さんの家もモンスターに壊滅させられたんですよね」
ふと思い出して、俺は口にした。
「そのモンスターを追わないんですか?」
光華は首を横に振る。
「……私としては、人々の生活さえ少しでも良くなれば、それでいいと思ってるんです」
「仇を討つより、守ることの方が大事ですから」
「それに、今の活動でも十分にやれてますし……何より、龍華さんへの恩返しがしたいんです」
彼女は柔らかく笑みを浮かべ、続けた。
「光華さんは、本当に真面目ですね」
俺がそう言うと、彼女は小さく肩をすくめた。
「そうでもないですよ。ただ……こうしてゆっくり話す時間があるだけで、私は幸せです」
「……確かに、そうかもしれませんね」
ディストピアの世界に転生してから、こんなふうに穏やかな会話を交わせることはほとんどなかった。
そのせいか、光華とのやり取りは胸の奥をじんわりと温めてくれる。
──このささやかな日常を守るためにも、俺は黒悪魔との戦いを生き残らなければならない。
光華との会話を終え、俺たちは立ち上がった。
穏やかな時間は終わりだ。これからは血と刃が支配する世界に戻る。
「さて……行きますか」
俺は腰のカードケースを確かめる。
デッキは全てスリーブに収め、サイドにはメタカードを仕込んだ。
万一のため、切り札の位置も確認する。手が届く場所に置くのは、生き残るための最低条件だ。
「龍華さんはもう出発準備できてますよ」
光華が視線を送る先で、龍華は長剣の切っ先を微かに光らせながら、静かに鞘に収めた。
その背後には柊と彼の精鋭たちが並んでいる。鎧の金具が小さく鳴るたび、空気が張り詰めていく。
「黒悪魔との戦い……ここからは一歩も引けない」
柊が短く告げた言葉が、全員の胸に重く響く。
俺は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
そして、仲間たちに視線を巡らせる。
「行こう。生きて、帰るために」
冷たい風が頬をかすめる。
その先には、黒悪魔の待つ戦場がある。