【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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23話 音華、散る

柊が俺たちの前に歩み寄り、低い声で告げた。

「君たちが潜伏できるように、入口でかく乱させておく。こちらから出せる兵は十人ほどだ。ただ……我々としても兵力を削るわけにはいかない。大規模な陽動はできない、すまない」

 

その言葉には、事情と重みがにじんでいた。

俺たちのために、彼らも命を懸けることになるのだ。

 

「大丈夫です。私たちだけじゃ、潜伏どころか門の前で足止めされますから」

「むしろ、潜伏のルートまで教えてくれて助かります」

 

「本当に感謝します」

龍華は深く頭を下げた。

その声には礼だけでなく、この作戦を必ず成功させるという誓いが込められていた。

 

入り口では、柊の兵たち十人が、怒号とともに突撃していた。

剣と槍が火花を散らし、矢が唸りを上げて飛び交う。

ただの陽動とは悟られぬよう、彼らは命を削るような勢いで攻め立てている。

その一撃一撃が、俺たちの潜入のための布石だ。

 

「……本気で攻めてくれているな」

「だからこそ、このルートを無駄にはできない」

龍華は真剣な眼差しで前方を見据える。

 

彼女の言葉に、胸の奥が熱くなる。

 

「……なんとか、敵の根城への侵入は成功したな」

龍華が息を殺して囁く。

 

通路は薄暗く、石壁には湿った苔が貼り付き、空気は淀んでいる。

確かに警備は手薄だ。だが、それがかえって不気味だった。

 

「敵が薄い。奥まで行こう」

俺は足音を殺しながら前進する。

 

「アスモディウスのところまで順調に行けたらいいですけど」

光華の声がわずかに揺れる。

 

「それは難しいだろうね」

龍華は冷静に答えた。

「だが、少しでも前へ進めればいい」

 

通路の先、奥深くから低く響く唸り声が、俺たちを待ち構えているように聞こえた。

 

~~

 

何とか進み続け、闇に沈む通路を抜けていたその時——

突如、鋭いブザー音がぶぅぅん、と耳をつんざいた。

全員の足が止まる。これは……罠だ。

 

「ここで足止めをくらうか」

龍華が低くつぶやく。

 

「……龍華、ここは私が犠牲になる」

その横で、音華が一歩前へ出た。

 

「お前、生き残りたいんじゃないのか?」

龍華の声には、かすかな動揺が混じっていた。

スラムで生き抜く中で、生への執着を剥き出しにしてきた彼女が、そんな言葉を口にするとは——。

 

音華は振り返らず、静かに言う。

「みんなのおかげで、誰かのために戦う喜びを知った」

「そもそも……龍華が居なかったら、私はとうに死んでいた」

「ここで私がおとりにならなきゃ、前には進めない」

「だから——行って」

 

「……すまない」

龍華は短く答えた。それ以上、言葉が出なかった。

感情が喉を締めつけ、彼女の想いだけが胸に残る。

 

光華が何か言いかけたが、唇を噛み、強引に飲み込んだ。

その瞳の奥で、正義感と苦悩がせめぎ合っていた。

 

俺たちは、音華を置き去りにし、振り返らずに奥へと走った。

背後で鳴り響く罠の作動音と、敵の怒号が遠ざかっていく。

 

 

~~

 

音華の正面から、黒い靄をまとった巨影が迫る。

黒悪魔——その爪が空気を裂き、鋭い殺気が肌を刺す。

 

「……勝負だ」

音華は腰のホルダーからカードを引き抜き、躊躇なく盤面へ叩きつけた。

 

《悪魔の演奏者 ヴェートヴェン》

5コスト/1/1

【効果】:ライフを5支払うことで、手札にある“楽器”と名の付く装備カードを装備可能。

 

鮮血のような光が音華の身体からほとばしり、ライフが削られていく。

その代償と引き換えに、無数の楽器カードが次々とヴェートヴェンへ装備されていった。

 

――ギィィン!

――バァァン!

装備された楽器が次々と不気味な旋律を奏で、黒悪魔の動きをわずかに鈍らせる。

音華は冷静に盤面をコントロールし、敵の行動を完全に読み切っていた。

 

そして——

彼女の胸元で揺れる《楽器の楽園》というペンダントが、まばゆい黄金光を放ち始める。

 

「……これで、20枚目だ」

音華の唇がわずかに上がる。

 

ペンダントから広がった光がフィールド全体を包み込み、黒悪魔の影を一瞬で霧散させた。

 

「《楽器カード》を20枚以上装備……私の特殊勝利だ」

 

光が収まったとき、そこに立っていたのは、息を切らしながらも誇り高く背筋を伸ばした音華の姿だった。

 

特殊勝利を連発し、黒悪魔たちを次々と斬り伏せていく。

光と音の奔流が戦場を支配し、気づけば屍となった悪魔は二十体を超えていた。

 

「……半年前の私じゃ、絶対にありえない数字」

肩で息をしながらも、音華は静かに自分の内面を確かめる。

「これで十分、足止めになったはず」

「二十体倒せば、柊たちが持ち込んだ情報も無駄にならない」

荒ぶる鼓動を必死に鎮め、戦意を保つ。

 

――そのときだった。

空気が、急激に重くなる。

背筋を撫でる冷たい悪寒とともに、足音が響いた。

 

「……なるほど」

 

低く響く声が暗闇を割った。

振り向くと、黒衣を纏い、巨大な双角を生やした悪魔が悠然と立っている。

アスモディウス――悪魔軍を束ねる王。

 

「……どうして、アンタがここに」

音華の声はわずかに震え、唇が硬く結ばれる。

 

「兵士が戦っているのに、王が守りに回るのは愚かだ」

「王こそ前に立ち、敵を屠るべきだろう?」

その眼は、氷よりも冷たく、炎よりも熱い。

 

「入口の人間どもは明らかな陽動……だが、お前は違う」

口元がゆるりと歪む。

「我らの兵を削ったその働き、敬意を払おう。ゆえに——」

アスモディウスは指を鳴らし、黒い魔炎がその周囲に渦を巻いた。

「私自らが、お前を倒す」

 

~~

戦場を支配するのは、張り詰めた沈黙とカードを叩きつける音。

音華は渾身のコンボを繰り出し、アスモディウスの猛攻を寸前でいなしていく。

互角――そう見えた。

だが、その奥に、あえて力を抑えているような不気味さを感じ取っていた。

 

「……なかなかやるな」

アスモディウスが口元を歪める。

「同胞をここまで葬った人間は久しい」

「だが——貴様に地獄を見せてやろう」

 

黒炎が弾け、漆黒のカードが舞い降りる。

 

《ダーク・ゼロ・デーモン》

10コスト 1/1

効果:自分の山札を10枚捨て、その数だけ黒悪魔の攻撃力分、相手のモンスターにダメージを与える。

 

「……マジか!?」

音華の顔が引きつる。

 

アスモディウスはためらいなく山札を10枚めくり捨て去る。

直後、地を割るような衝撃波が走り、黒悪魔たちの攻撃力が一点に集中したかのような凄絶な一撃が音華の場を襲った。

 

「……ここで……終わりか……」

ライフがゼロへと落ち、視界が暗転する。

 

次の瞬間、音華の身体は淡い光に包まれ、カードの形へと凝縮されていった。

 

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