【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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24話

龍華たちは、重く静かな空気の中を奥地へ進んでいた。

湿った石壁に足音が吸い込まれ、ただ呼吸の音だけが響く。

 

「……私たちは進むしかない」

龍華の声は短く、けれど鋼のように固かった。

「目の前に道がある限り、立ち止まるわけにはいかない」

 

俺も頷く。

「それにしても……敵の気配が完全に消えましたね」

口に出した瞬間、胸の奥で鈍い痛みが走る。

「……音華さんが、全部引き受けてくれたんでしょう」

 

言葉は淡々としていたが、その裏には危険な静けさがあった。

敵がいないということは、彼女が今、最も危険な場所で戦っているという証明でもあるのだから。

 

龍華がふと足を止めた。

額に手を当て、わずかに体を傾ける。

 

「……っ、頭が……ガンガンする」

苦しげな吐息が漏れる。

 

その目は焦点が合わず、遠くを見ているようで、何かを追いかけているようでもあった。

 

「……誰かに……声をかけられている……そんな気がする」

その声は、まるで自分に言い聞かせるような、あるいは誰かに応じているような調子だった。

 

俺はすぐに龍華の肩を支えたが、背筋を撫でる冷たい感覚が消えなかった。

 

「……助けてほしい、だと?」

龍華はわずかに目を細めた。

 

彼女の視線は目の前ではなく、どこか遠く――耳ではなく脳の奥で響く声を追っている。

 

「この声……」

低くつぶやく。

 

それは、獣のダンジョンに入る前にも聞こえた声だった。

黒悪魔の奇襲を事前に知らせてきたあのときと同じ。

そのおかげで返り討ちにし、奇襲は失敗した。

 

だが、それ以前から――もっと昔から――この声を知っていたような気がする。

輪郭のはっきりしない、記憶の底に沈む感覚。

懐かしいようで、胸を締めつけるようで……なぜか「助けるべきだ」と本能が訴えていた。

 

「……私の脳内に、直接声を送ってきている」

「その声の主を……助けたいと思っている」

 

「一緒に助けてくれないか?」

龍華は真剣な表情でこちらを見た。

 

「……わかりました」

俺は短く答えた。

 

「罠かもしれない。それでも助けに行って大丈夫なんですか?」

 

龍華は一瞬だけ視線を外し、そしてまっすぐ俺を見る。

「この感覚は間違っていない。信じてほしい」

 

「……龍華さんの勘なら、信じます」

 

「ありがとう」

その声は、決意と安堵が混ざっていた。

 

 

 

薄暗い通路を、声に導かれるまま進む。

湿った空気と、遠くから響く金属音が不気味に混ざる。

 

龍華は歩を止め、眉をひそめる。

「……こっちだ」

まるで見えない糸に引かれるように、迷いなく進む。

 

俺も光華も言葉を失い、ただ後を追う。

一歩進むたびに、足音がやけに大きく響き、胸の奥の鼓動まで聞こえる気がした。

 

「この先……近い」

龍華の声は低く、だが確信に満ちている。

 

だが同時に――その“声”は俺たちには聞こえない。

どこまで信じていいのか、分からないまま、ただ龍華の背中を見つめていた。

 

 

~~

 

気がつくと、俺たちは一室の前に立っていた。

扉を押し開けると、薬品の匂いと金属の冷たい臭気が鼻を刺す。

そこは実験室――無数の器具と管が並び、部屋の中央には檻が置かれていた。

 

中には、人間だったはずの者たちが、うつろな目でうずくまっている。

皮膚はまだ人の形を保ちながらも、ところどころ黒く変色し、硬質な角のような突起が生えていた。

 

「……これって、悪魔ですか?」

俺が問うと、龍華は首を横に振る。

 

「違う。これは……人間を悪魔化させようとしている途中だ」

視線が檻の奥の一人に向けられる。

「おそらく、“不完全”な人間がここに閉じ込められているんだろう」

 

「ほぉ……侵入者か」

低く湿った声が、実験室の奥から響いた。

 

白衣を纏った黒悪魔が、足音をゆっくりと響かせて近づいてくる。

その手には、黒く脈動する器具が握られていた。

 

「個体14から異常なデータが出ていると思えば……どうやら貴様らの仕業か」

「人間と悪魔、そして魔道具の融合実験――ようやく面白い結果が見られそうだ」

 

その言葉に促されるように、俺たちは“個体番号14”と書かれた檻に目を向けた。

そこには、俺たちと同じ年頃の少女が座り込んでいる。

ほかの檻の者たちと違い、身体はまだ人間のまま――悪魔化の兆候はほとんど見られない。

 

だが、その姿を見た瞬間、龍華の表情が硬直し、次いで崩れ落ちた。

 

「あ……あやか……」

掠れた声が、唇から漏れる。

 

「まさか……妹さん、ですか?」

俺は思わず問いかけていた。

 

「親族が現れるとはな。人間というものは親族を殺されるとストレスがたまるらしいな」

「こいつは脱走をしまくっているし、すぐに悪魔化させた方がいい」

黒悪魔は唇を吊り上げ、愉快そうに笑う。

 

龍華は、檻の中の少女から目を離せずにいた。

唇が小さく震え、何か言葉を探そうとしても、声にならない。

その視線は確かに届いているはずなのに、現実を受け入れることができない――そんな顔だった。

 

このままでは、戦える状態じゃない。

俺は一歩、黒悪魔と龍華の間に踏み出した。

 

「……しょうがない。ここは私がやります」

「光華さん、龍華を頼みます。絶対に彼女を守ってください」

 

「了解しました」

光華は短く答え、龍華の前に立ちはだかった。

その横顔は、決意の炎を帯びている。

 

「ふふ……護る者と護られる者、か。いいじゃないか……一層、壊し甲斐がある」

黒悪魔はそれを見て、嘲るように肩を揺らす。

 

 

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