【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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25話

黒悪魔は、カード束をゆっくりと扇状に広げた。

空気が一気に冷え、足元から黒い靄が這い上がってくる。

 

「――始めようか。人間」

その声は、耳ではなく心臓に直接響くような不快さを伴っていた。

 

俺もデッキを構え、深く息を吸い込む。

この一戦は、龍華を、そしてあの檻の中の少女を救うための戦いだ。

負けは許されない。

 

黒悪魔は序盤から黒悪魔族を次々と呼び出し、盤面を黒い気配で覆っていった。

それはまるで瘴気の森が一瞬で生え広がるような圧迫感だったが――俺はそれより速く動いた。

 

デッキから紅蓮色のカードを引き抜き、迷いなくフィールドに叩きつける。

瞬間、炎をまとった獣たちが咆哮しながら次々と現れる。

 

「なんて展開力だ」

黒悪魔が低く呻く。

 

「ただ、こちらのモンスターはお前のモンスターの効果を受けない」

 

「知っている。だから、展開カードしか入れていません」

俺は即座に返す。

 

手札から紅蓮獣《グレンガー》を召喚。

その効果で、1/1の小さな獣を4体一気に展開する。

瞬く間にフィールドは紅蓮色の群れで埋め尽くされていった。

 

その時――首元のペンダントが赤く脈動し始める。

《獣の叫び》。

「獣を5体召喚するたびに、デッキ内のすべての獣カードを+1/+1する」

 

効果が発動し、フィールドの全ての獣が一斉に力を得た。

毛並みが逆立ち、爪が鋭さを増し、眼光は紅蓮の焔を宿す。

 

黒悪魔の前線はその圧力に押し潰されるように崩れていく。

 

防御も反撃も追いつかず、最後の1体が咆哮とともに消滅した瞬間――黒悪魔自身がカード化され、静寂が訪れた。

 

~~

 

「敵は弱くて助かりましたが……どうしますか?」

光華の問いかけに、俺は龍華の方を見る。

 

そこにいたのは、戦場で最も頼りになるはずの仲間――しかし、妹の姿を目にしてから完全に動きを止めてしまった龍華だった。

その表情は虚ろで、戦う者の気配は微塵も感じられない。

 

胸の奥で、嫌な結論が浮かぶ。

「……たぶん、撤退が一番いいと思います」

俺は静かに言った。

 

「とりあえず、妹さんを連れてここから離れましょう。悪魔化は進んでいないようですし、リスクはありますが……龍華さんの目的ですから」

 

「……それは、だめだろ」

だが、その言葉に龍華が反応する。

声を振り絞るように、かすれた声で――

 

 

俺は視線を逸らさず、あえて踏み込んだ。

 

「こんなメンタルで戦えるほど、この場所は甘くありません」

「龍華さんは、立て直す時間が必要です」

 

「カードは強い。でも、今のあなたでは……足手まといです」

 

沈黙が落ちる。

冷たい言葉だとわかっている。

だが、それでも進むためには、誰かが言わなければならなかった。

 

「……確かに、今の私はそうかもしれない」

「だが、ここまで来るのに、仲間たちは命を懸けて犠牲を払ってきたんだ」

「その犠牲を無視して、自分のためだけに動くなんて……できるわけないだろう」

龍華は俯いたまま、低く、しかしはっきりとした声で口を開いた。

 

「……仲間たちなら、きっと認めてくれます」

「それだけのことを、龍華さんはリーダーとして成し遂げています」

「だから――ここで無理に背負い込む必要はありません」

光華は堂々と語っている。

 

「それよりも……あなたが犬死するほうが、よほど問題です」

光華の声は、鋭くも揺るぎなかった。

「ここまであなたに期待してきた人たちにとって、それこそが一番の裏切りです」

 

光華はそのまま俺に視線を向け、言葉以上の意思を送ってくる。

――犠牲を払ってでも前へ進むことが重要だ。

だが、自分が犠牲になれば、その道は途絶えてしまう。

 

「光華さん……私が進みます。そして、おとりになります」

俺はそう告げた。

「龍華さんと、妹さんを連れて逃げてください。龍華さんの心を守れるのは、あなたが適任です」

 

「でも――」

 

「……私も、それでいい」

龍華が口を開く。

苦しげな表情のままだが、その瞳には決意が宿っていた。

すぐに動かなければならないことを、誰よりも理解しているからだ。

 

「龍華さんがそう言うのであれば……大丈夫です」

光華も、ようやくその決断を受け入れた。

 

2人は、迷いを振り切るように背を向け、この場を去っていった。

その背中が闇に消えるのを見届け、俺は前を向く。

――もう、まっすぐ行くしかない。

脇道も逃げ道も、最初から存在しないかのようだった。

ただ、目の前の敵を倒し、道を切り開く。それだけが俺に残された役割だ。

 

~~

 

逃走の最中、龍華の胸の奥はざわついていた。

――この姿になった妹を、本当に昔のように愛せるのだろうか。

そんな問いが、喉元まで込み上げてくる。

 

その時、不意に小さな声が漏れた。

 

「……おねえちゃん……ありがとう」

 

振り絞るような、途切れ途切れの言葉。

悪魔化の影響で、舌がうまく回らないのだろう。

それでも、必死に想いを届けようとしているのが伝わってきた。

 

龍華は、その瞬間だけすべての迷いがほどけていくのを感じた。

――あぁ、この一言だけで、私は報われた。

 

龍華は、妹の一言を胸の奥で何度も反芻した。

涙がこみ上げるのを、必死にこらえる。

 

――今までの努力は、無駄じゃなかった。

 

仲間の犠牲も、自分の戦いも、この瞬間へとつながっていた。

たとえ妹の姿が変わってしまっても、心はまだ届くのだと知れた。

 

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