【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺は《紅蓮獣レオン・ファング》を叩きつけるように召喚した。
6コスト、5/5──その咆哮と共に、仲間の獣たちが一斉に力を得る。+1/+1の強化が波のように広がり、フィールド全体が紅蓮の炎に包まれた。
黒悪魔たちは、迫りくる猛獣の群れに押し潰されるように次々とカード化していく。
俺の手は止まらない。攻撃、強化、そしてまた攻撃。
――半年前の俺なら、こんな戦い方は到底できなかった。
今はただ、獣たちの咆哮に背を押されながら、前へ前へと突き進むだけだ。
気がつけば、黒悪魔の山は崩れ落ち、カードの山が足元を覆っていた。
数える間もなく──おそらく三十体は倒している。
最深部へ進もうとしたその瞬間、背筋を刺すような冷たい視線が突き抜けた。
振り返れば、漆黒の気配と共に、王冠を模した角を持つ巨影が立っている。
「人間のくせに、ここまでやれるとはな」
その声は静かだが、底なしの圧がある。
「入口の人間どもの陽動にまんまとやられたよ。しかも随分と逃げられた。……参ったな」
薄く笑みを浮かべたその男──アスモディウスが歩み寄ってくる。
「アスモディウス……!」
「ここまで攻め込まれたのは初めてだ。しかも相手がモンスターではなく、人間とはな」
口調は穏やかだが、瞳の奥には明らかな殺意が宿っている。
「少し疲れた。だから──勝負だ。さっさと終わらせよう」
「仲間の仇は……必ず取る!」
俺はカードを構え、視線を逸らさず宣言した。
こうして、王と人間のカードバトルが幕を開けた。
~~
実は、アスモディウスの戦い方については、以前に柊さんから断片的な情報を得ていた。
それをもとに、俺はデッキを少し改造してきた。
方向性は──アグロ。
幸い、紅蓮獣という種族は低コスト展開に特化しやすく、その形に持ち込むのは難しくない。
「デッキを……少し早めに寄せているようだな」
アスモディウスの視線が、俺の場の獣たちを冷ややかに走る。
「どうやら、私について少しは研究してきたらしい」
その声音は低く、わずかに眉間が寄っていた。
俺の場には、すでに低コストの紅蓮獣が横一列に並んでいる。
その背後で、俺の胸元のペンダントが赤く脈動する。
名称:《獣の叫び》──「獣を5体召喚するたびに、デッキ内のすべての獣カードを+1/+1する」
その効果で、元は1/1や2/2だった小さな獣たちは、簡単に薙ぎ払える存在ではなくなっていた。
小さな牙が鋭さを増し、赤い瞳が戦意に燃える。
これが俺の選んだ、最速の一手だ。
「ライフも残り5点……盤面も不利だな」
アスモディウスは、わずかに笑みを浮かべながらカードを置く。
「だが──黒悪魔族の王となった私が、その程度のアグロに備えていないと思うな」
置かれたカードは、漆黒の炎をまとった異形の王。
《貪食の王 エンペラーデスイーターデーモン》
1/1──召喚時、相手モンスター全てに5ダメージ。破壊したモンスターの数だけ、相手のライフと手札を削る。
次の瞬間、俺の場に並んでいた紅蓮獣たちは一斉に黒い牙に喰われ、消し飛んだ。
ライフも一気に削られ、手札すら抜き取られる。
さっきまでの圧倒的有利な盤面は、一瞬で更地にされていた。
「どうやら、俺の勝ちのようだな」
アスモディウスの声には、勝者の余裕が滲んでいた。
……だが、俺はまだ諦めていない。
カードゲーマーにとって、最後のドローにすべてを託すのは本能だ。
逆転するには──あのカードしかない。
「ドロー!」
指先に力を込めて引き抜くと……見えた。
「来た!」
《黒紅蓮獣 ダークブラックデーモンパンサー》
5/5──自分の墓地の獣が10体以上なら召喚可能。召喚時、相手のライフを10点削る。
「……闇族の紅蓮獣、だと?」
アスモディウスの目が見開かれる。
「そうだ。あんたたちを倒しまくったおかげで、手に入れた切り札です」
俺はカードを場に叩きつける。
「これで──私の勝ちだ!」
アスモディウスは、黒い光を放ちながら崩れ落ち、その姿は一枚のカードへと変わった。
手に収まったそれは、重く、冷たく──だが確かな“勝利”の証だった。
足元で、淡い黒光を放つカードが静かに横たわっていた。
──アスモディウス。
かつての黒悪魔族の王、その存在は今やこの一枚に封じられている。
これを持ち帰れば、確かに俺が勝利した証になる。
ただ、それを拾う手は自然とゆっくりになった。
勝ったはずなのに、全身にはまだ戦いの余韻が残っている。
握りしめた瞬間、この勝利が現実になる──そんな感覚が、なぜか少しだけ怖かった。
深く息を吐き、指先でそっとカードをつまみ上げる。
ひやりとした冷たさが、掌に伝わった。
その感覚で勝利を自覚した。
……これは、奇跡的な勝利だ。
同じ勝負を百回繰り返せば、九十九回はアスモディウスの勝ちだろう。
だが俺は、そのたった一度の可能性を引き当てた。
おそらく、奴の慢心もあったのだろう。
それでも──勝ちは勝ちだ。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
これまでの戦いの全てが、この瞬間に報われたような満足感が、ゆっくりと俺を満たしていった。