【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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26話

俺は《紅蓮獣レオン・ファング》を叩きつけるように召喚した。

6コスト、5/5──その咆哮と共に、仲間の獣たちが一斉に力を得る。+1/+1の強化が波のように広がり、フィールド全体が紅蓮の炎に包まれた。

 

黒悪魔たちは、迫りくる猛獣の群れに押し潰されるように次々とカード化していく。

俺の手は止まらない。攻撃、強化、そしてまた攻撃。

 

――半年前の俺なら、こんな戦い方は到底できなかった。

今はただ、獣たちの咆哮に背を押されながら、前へ前へと突き進むだけだ。

 

気がつけば、黒悪魔の山は崩れ落ち、カードの山が足元を覆っていた。

数える間もなく──おそらく三十体は倒している。

 

最深部へ進もうとしたその瞬間、背筋を刺すような冷たい視線が突き抜けた。

振り返れば、漆黒の気配と共に、王冠を模した角を持つ巨影が立っている。

 

「人間のくせに、ここまでやれるとはな」

その声は静かだが、底なしの圧がある。

 

「入口の人間どもの陽動にまんまとやられたよ。しかも随分と逃げられた。……参ったな」

薄く笑みを浮かべたその男──アスモディウスが歩み寄ってくる。

 

「アスモディウス……!」

 

「ここまで攻め込まれたのは初めてだ。しかも相手がモンスターではなく、人間とはな」

口調は穏やかだが、瞳の奥には明らかな殺意が宿っている。

 

「少し疲れた。だから──勝負だ。さっさと終わらせよう」

 

「仲間の仇は……必ず取る!」

俺はカードを構え、視線を逸らさず宣言した。

 

こうして、王と人間のカードバトルが幕を開けた。

 

~~

 

実は、アスモディウスの戦い方については、以前に柊さんから断片的な情報を得ていた。

それをもとに、俺はデッキを少し改造してきた。

方向性は──アグロ。

幸い、紅蓮獣という種族は低コスト展開に特化しやすく、その形に持ち込むのは難しくない。

 

「デッキを……少し早めに寄せているようだな」

アスモディウスの視線が、俺の場の獣たちを冷ややかに走る。

「どうやら、私について少しは研究してきたらしい」

その声音は低く、わずかに眉間が寄っていた。

 

俺の場には、すでに低コストの紅蓮獣が横一列に並んでいる。

その背後で、俺の胸元のペンダントが赤く脈動する。

 

名称:《獣の叫び》──「獣を5体召喚するたびに、デッキ内のすべての獣カードを+1/+1する」

 

その効果で、元は1/1や2/2だった小さな獣たちは、簡単に薙ぎ払える存在ではなくなっていた。

小さな牙が鋭さを増し、赤い瞳が戦意に燃える。

これが俺の選んだ、最速の一手だ。

 

「ライフも残り5点……盤面も不利だな」

アスモディウスは、わずかに笑みを浮かべながらカードを置く。

「だが──黒悪魔族の王となった私が、その程度のアグロに備えていないと思うな」

 

置かれたカードは、漆黒の炎をまとった異形の王。

 

《貪食の王 エンペラーデスイーターデーモン》

1/1──召喚時、相手モンスター全てに5ダメージ。破壊したモンスターの数だけ、相手のライフと手札を削る。

 

次の瞬間、俺の場に並んでいた紅蓮獣たちは一斉に黒い牙に喰われ、消し飛んだ。

ライフも一気に削られ、手札すら抜き取られる。

さっきまでの圧倒的有利な盤面は、一瞬で更地にされていた。

 

「どうやら、俺の勝ちのようだな」

アスモディウスの声には、勝者の余裕が滲んでいた。

 

……だが、俺はまだ諦めていない。

カードゲーマーにとって、最後のドローにすべてを託すのは本能だ。

逆転するには──あのカードしかない。

 

「ドロー!」

指先に力を込めて引き抜くと……見えた。

 

「来た!」

 

《黒紅蓮獣 ダークブラックデーモンパンサー》

5/5──自分の墓地の獣が10体以上なら召喚可能。召喚時、相手のライフを10点削る。

 

「……闇族の紅蓮獣、だと?」

アスモディウスの目が見開かれる。

 

「そうだ。あんたたちを倒しまくったおかげで、手に入れた切り札です」

俺はカードを場に叩きつける。

「これで──私の勝ちだ!」

 

アスモディウスは、黒い光を放ちながら崩れ落ち、その姿は一枚のカードへと変わった。

手に収まったそれは、重く、冷たく──だが確かな“勝利”の証だった。

 

足元で、淡い黒光を放つカードが静かに横たわっていた。

──アスモディウス。

かつての黒悪魔族の王、その存在は今やこの一枚に封じられている。

 

これを持ち帰れば、確かに俺が勝利した証になる。

ただ、それを拾う手は自然とゆっくりになった。

 

勝ったはずなのに、全身にはまだ戦いの余韻が残っている。

握りしめた瞬間、この勝利が現実になる──そんな感覚が、なぜか少しだけ怖かった。

 

深く息を吐き、指先でそっとカードをつまみ上げる。

ひやりとした冷たさが、掌に伝わった。

 

その感覚で勝利を自覚した。

 

……これは、奇跡的な勝利だ。

同じ勝負を百回繰り返せば、九十九回はアスモディウスの勝ちだろう。

だが俺は、そのたった一度の可能性を引き当てた。

 

おそらく、奴の慢心もあったのだろう。

それでも──勝ちは勝ちだ。

 

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

これまでの戦いの全てが、この瞬間に報われたような満足感が、ゆっくりと俺を満たしていった。

 

 

 

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