【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺は、仲間たちのもとへ戻った。
「狼華さん、アスモディウスを倒したんですか!?」
光華が目を見開き、息を呑む。
俺は黙って、手にしていたアスモディウスのカードを差し出した。
その黒い光を放つ一枚に、彼女の驚きはさらに深まる。
「実際は……たまたまですよ。相手の油断もあったし、アグロが刺さったのも運が良かっただけです」
「ラッキーが重なった勝利ですね」
「運も実力のうちだ」
龍華がぽつりと呟く。
その視線は、静かに眠る妹へ向けられていた。
妹は、何とか救い出すことができた。その件で言葉がうまく出されない。
その事実に胸の奥から安堵が広がる。
それは確かに喜びだった。命を繋げたという、何にも代えがたい達成感。
だが同時に、言葉にならない重さが心にのしかかっていた。
──この先、どうするのか。
妹はもう、以前のような純粋な人間ではない。
悪魔の因子を宿す「異種族」となった彼女を、どのように受け入れ、守っていくのか。
「一難去って一難ですね」
俺がぽつりと漏らす。
「それは違うだろう。アスモディウスを倒したのだ。喜ばしいことだ」
龍華は一度は否定するが、すぐに目を伏せて続けた。
「……しかしながら、その言葉を受け入れざるを得ないな」
「妹が生きていたことには、すがっていた。だが正直、おそらくはもう死んでいると思っていた」
「もし生きていたとしても……何事もない、元の姿のままだと信じていた」
龍華の声はかすかに震えている。
「人間というものは、わがままだな。必死に求めていたのに、手に入れた瞬間、その形に不満を抱く」
「それは違いますよ」
光華が首を振る。
「妹さんが攫われたこと自体が、すでに異常なことなんです。そんな思いになる必要はないと思います」
「今は、もやもやしている暇はない。あやかを、この先どうしていくかを考えないと」
龍華の声は硬い。
「……おそらく、天界に裁かれるだろうな」
「私たちはアスモディウスを倒したんですよ」
「妹さんは人間です」
「分かっている!!」
龍華の声が鋭く響き、場の空気が一瞬で張り詰めた。
「……すまない。気持ちが爆発してしまった」
龍華は視線を落とす。
「私こそ、申し訳ないです」
光華も頭を下げ、少しだけその場の空気が和らいだ。
柊が駆け寄ってきた。
「君たち、アスモディウスを倒してしまうなんてね!」
声には驚きと喜びが入り混じっている。
「奇跡というものも起こるものだな!」
しかし、その視線がふと龍華の腕の中にいる少女に向いた瞬間──柊は言葉を失った。
悪魔化の痕が残るその姿を見て、喜びの色は一瞬で消え去る。
口を開こうとしながらも、声が出ない。
柊の顔が固まっていくのを、俺は見逃さなかった。
その沈黙と視線に、やはり…と思う。
人間は、異形となった者を拒む。
差別するものだ、と。
俺や光華は龍華との付き合いが長い。
だからこそ、龍華の妹がどんな姿になっても、受け入れる心構えができていた。
だが、柊はそうではない。
初めて目にするその現実に、抵抗を隠せないのも当然だった。
「この人は、君の妹なのか?」
柊が静かに問いかける。
「そうだ」
龍華の声は震えていた。
「……攫われていたことを知っていながら、こんな反応をしてしまった。本当にすまない」
柊は深く息を吐く。
「これが俺という人間の弱さなんだ」
龍華はしばし目を閉じ、言葉を選ぶように答えた。
「私自身、衝撃を受けた。だから……しょうがないと思う」
沈黙が流れる。
「お前たち二人が、どうか幸せに生きられることを願っている。ただ、俺一人の判断では何も決められない。天界には報告だけはする」
「逃げるのも、隠れるのも、お前たちの自由だ。俺は止めない。……お前たちが他人に害を与えない限りはな」
柊は目の前の姉妹を見据え、決意を込めた声で告げる。
「君たちに卑怯者と呼ばれても仕方がない」
柊は苦く笑う。
「そんなことありません。天界人としての立場を守るためには、報告するのは当然です」
俺はきっぱりと言った。
「それに、あなたたちの誘導がなければアスモディウスは討てませんでした」
柊はわずかに目を細める。
俺は続けた。
「……ただ、天界に報告する際、俺を同行させてもらえませんか? 龍華さんにとって少しでも良い選択肢が残るよう、交渉したいんです」
しばらく沈黙が落ちる。
「いいだろう。それくらいはさせてくれ。君がアスモディウスを倒してくれたことに、俺も恩を感じている」
柊はやがて頷いた。
「龍華、すみません。私の勝手で交渉を申し出てしまって」
俺が頭を下げると、龍華は首を横に振った。
「いいんじゃないか。君がアスモディウスを倒したんだ」
その声は疲れていながらも、どこか信頼を込めていた。
「むしろ……奇跡がもう一度起こるかもしれないだろ」
横から光華が歩み寄り、俺の肩を軽く叩く。
「龍華さんと妹さんのことは、私に任せてください」
その目は真っ直ぐで、迷いがなかった。
俺は短く「頼みます」と返し、視線を前に向けた。
こうして、天界への交渉が始まった。
妹の運命を左右する、避けられない対話の場へ——。
奇跡をもう一度起こすために、俺は歩みを止めなかった。