【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

27 / 28
第27話

俺は、仲間たちのもとへ戻った。

「狼華さん、アスモディウスを倒したんですか!?」

光華が目を見開き、息を呑む。

 

俺は黙って、手にしていたアスモディウスのカードを差し出した。

その黒い光を放つ一枚に、彼女の驚きはさらに深まる。

 

「実際は……たまたまですよ。相手の油断もあったし、アグロが刺さったのも運が良かっただけです」

「ラッキーが重なった勝利ですね」

 

「運も実力のうちだ」

龍華がぽつりと呟く。

その視線は、静かに眠る妹へ向けられていた。

 

妹は、何とか救い出すことができた。その件で言葉がうまく出されない。

その事実に胸の奥から安堵が広がる。

それは確かに喜びだった。命を繋げたという、何にも代えがたい達成感。

 

だが同時に、言葉にならない重さが心にのしかかっていた。

──この先、どうするのか。

妹はもう、以前のような純粋な人間ではない。

悪魔の因子を宿す「異種族」となった彼女を、どのように受け入れ、守っていくのか。

 

「一難去って一難ですね」

俺がぽつりと漏らす。

 

「それは違うだろう。アスモディウスを倒したのだ。喜ばしいことだ」

龍華は一度は否定するが、すぐに目を伏せて続けた。

「……しかしながら、その言葉を受け入れざるを得ないな」

 

「妹が生きていたことには、すがっていた。だが正直、おそらくはもう死んでいると思っていた」

「もし生きていたとしても……何事もない、元の姿のままだと信じていた」

龍華の声はかすかに震えている。

「人間というものは、わがままだな。必死に求めていたのに、手に入れた瞬間、その形に不満を抱く」

 

「それは違いますよ」

光華が首を振る。

 

「妹さんが攫われたこと自体が、すでに異常なことなんです。そんな思いになる必要はないと思います」

 

「今は、もやもやしている暇はない。あやかを、この先どうしていくかを考えないと」

龍華の声は硬い。

 

「……おそらく、天界に裁かれるだろうな」

 

「私たちはアスモディウスを倒したんですよ」

「妹さんは人間です」

 

「分かっている!!」

龍華の声が鋭く響き、場の空気が一瞬で張り詰めた。

 

「……すまない。気持ちが爆発してしまった」

龍華は視線を落とす。

 

「私こそ、申し訳ないです」

光華も頭を下げ、少しだけその場の空気が和らいだ。

 

柊が駆け寄ってきた。

「君たち、アスモディウスを倒してしまうなんてね!」

声には驚きと喜びが入り混じっている。

「奇跡というものも起こるものだな!」

 

しかし、その視線がふと龍華の腕の中にいる少女に向いた瞬間──柊は言葉を失った。

悪魔化の痕が残るその姿を見て、喜びの色は一瞬で消え去る。

口を開こうとしながらも、声が出ない。

 

柊の顔が固まっていくのを、俺は見逃さなかった。

その沈黙と視線に、やはり…と思う。

人間は、異形となった者を拒む。

差別するものだ、と。

 

俺や光華は龍華との付き合いが長い。

だからこそ、龍華の妹がどんな姿になっても、受け入れる心構えができていた。

だが、柊はそうではない。

初めて目にするその現実に、抵抗を隠せないのも当然だった。

 

「この人は、君の妹なのか?」

柊が静かに問いかける。

 

「そうだ」

龍華の声は震えていた。

 

「……攫われていたことを知っていながら、こんな反応をしてしまった。本当にすまない」

柊は深く息を吐く。

「これが俺という人間の弱さなんだ」

 

龍華はしばし目を閉じ、言葉を選ぶように答えた。

「私自身、衝撃を受けた。だから……しょうがないと思う」

 

沈黙が流れる。

 

「お前たち二人が、どうか幸せに生きられることを願っている。ただ、俺一人の判断では何も決められない。天界には報告だけはする」

「逃げるのも、隠れるのも、お前たちの自由だ。俺は止めない。……お前たちが他人に害を与えない限りはな」

柊は目の前の姉妹を見据え、決意を込めた声で告げる。

 

 

「君たちに卑怯者と呼ばれても仕方がない」

柊は苦く笑う。

 

「そんなことありません。天界人としての立場を守るためには、報告するのは当然です」

俺はきっぱりと言った。

「それに、あなたたちの誘導がなければアスモディウスは討てませんでした」

 

柊はわずかに目を細める。

俺は続けた。

「……ただ、天界に報告する際、俺を同行させてもらえませんか? 龍華さんにとって少しでも良い選択肢が残るよう、交渉したいんです」

 

しばらく沈黙が落ちる。

 

「いいだろう。それくらいはさせてくれ。君がアスモディウスを倒してくれたことに、俺も恩を感じている」

柊はやがて頷いた。

 

「龍華、すみません。私の勝手で交渉を申し出てしまって」

俺が頭を下げると、龍華は首を横に振った。

 

「いいんじゃないか。君がアスモディウスを倒したんだ」

その声は疲れていながらも、どこか信頼を込めていた。

「むしろ……奇跡がもう一度起こるかもしれないだろ」

 

横から光華が歩み寄り、俺の肩を軽く叩く。

「龍華さんと妹さんのことは、私に任せてください」

その目は真っ直ぐで、迷いがなかった。

 

俺は短く「頼みます」と返し、視線を前に向けた。

 

こうして、天界への交渉が始まった。

妹の運命を左右する、避けられない対話の場へ——。

奇跡をもう一度起こすために、俺は歩みを止めなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。