【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

28 / 28
最終話

天界は、地上の荒廃とはまるで別世界だった。

磨き抜かれた白亜の壁が四方を囲み、その上空には透明な結界が輝いている。

風一つ乱れず、整えられた石畳の道には花々が季節を無視して咲き誇っていた。

移動には、許可を受けた者だけが使える転移ゲートが必要で、

その内側に暮らす者たちは、モンスターの脅威とは無縁。

 

街並みには精緻な建築が並び、

空中を舞う乗り物や、魔力で動く機械が行き交う。

人々は洗練された衣服をまとい、穏やかな表情を浮かべて歩く——

その眼差しには、地上の民を遠い下界の存在として見下す色が隠しきれない。

 

天界の役人の前に立った瞬間、肌を刺すような冷たい視線が突き刺さった。

金と白の礼服を纏った男が、柊に眉をひそめて問いかける。

 

「……柊。なぜ地上人をここに連れてきた?」

「覚悟はできているのだろうな」

 

その言葉と同時に、俺へと送られる視線は、明らかに蔑みを含んでいた。

地上の泥にまみれた存在が、神聖な場所に足を踏み入れること自体が不快なのだろう。

 

 

「この狼華が、アスモディウスを討ち果たした」

柊は一歩前に出て、はっきりと告げた。

 

「……本当か?」

ざわめく空気。役人の瞳が大きく見開かれる。

 

 

俺は静かに懐からカードを取り出し、机の上に置いた。

そこには、確かにアスモディウスの姿が封じられている。

 

「……なるほど。では、上層へ報告させてもらおう」

役人はカードを凝視し、やがて息を吐いた。

 

短い返答だったが、その声色には信じがたいという色と、わずかな興味が入り混じっていた。

天界の上層――白大理石で造られた広間に、黄金の柱が等間隔に並び、天井は高く、雲のような装飾が漂っている。

その中央に置かれた長い楕円形の卓を囲むのは、豪奢な衣を纏った天界の高官たち。

一人ひとりが淡く光を帯び、視線だけで人を圧倒する気配を放っている。

 

俺は無意識に拳を握りしめていた。

ここにいる全員が、俺の存在を値踏みしているのが分かる。

地上人がこの席にいるという事実だけで空気が重くなる。

 

柊は緊張を押し殺した声で、これまでの経緯を語った。

アスモディウス討伐の顛末、龍華の妹が捕らわれ、悪魔化の改造を受けてしまったこと。

そして、その妹が今も生きていること。

 

「……報告は、それで終わりか?」

 

話が終わると、一人の初老の高官が重々しく口を開いた。

 

「はい」

柊は一礼し、簡潔に答える。

 

沈黙。

広間全体に、目に見えない圧力が充満する。

誰もが、次の言葉を待っていた。

 

「――結論から話す」

中央に座る天界議長が冷ややかに言い放った。

「悪魔化された人間を捕獲せよ」

 

空気が一瞬で凍りつく。

 

「少し待ってください。現在、我々に危害を加えていません」

俺は椅子から半ば立ち上がるようにして、即座に言い返した。

 

「君は、その“危害を加えない”という保証をどうやって証明するのかね?」

 

議長は眉一つ動かさず返す。

 

胸の奥に苛立ちが募る。だが、感情でぶつかっても意味はない。

 

「……確かに、今すぐに証明はできません」

「しかし、私がアスモディウスを討ったのは事実です」

俺は懐からカードを取り出し、テーブルの中央に静かに置いた。

「このアスモディウスのカードを差し出します。それで、何もせず見逃していただけませんか?」

 

「ふむ……取引か」

議長が椅子に深く座り直すと、他の高官たちも囁き合い始めた。

「このカードがあれば、我らの戦力は確かに増す。だが――それだけでは足りぬ。リスクが釣り合わない」

 

――やはり、地上人というだけで足元を見てくる。

だが、交渉の余地があるだけまだましだ。

 

「では、このカードを……30枚追加で」

「足りないな」

 

冷たいやり取りが続く。

その時、柊が前のめりになって割って入った。

「このアイテム4つと、カード200枚。これならどうだ?」

 

議長はしばし沈黙し、他の高官たちと視線を交わした。

やがて、口角をわずかに上げる。

「……いいだろう。成立だ」

 

俺は思わず柊を振り返る。

「えっ、本当にいいんですか?」

「君がアスモディウスを倒したことは事実だ。その感謝を、形にしただけだ」

柊は笑った。

 

~~

 

地上に降り、真っ先に龍華のもとへ向かった。

「龍華さん、妹さんが襲われないようにしました」

俺は契約書を広げ、文字を指差して見せる。

 

龍華はそれを一目見て、深く息を吐いた。

「……本当に助かる」

その声には、長い緊張から解き放たれた人間だけが持つ温度があった。

 

あやかは、ぽかんと俺を見つめている。

言葉は発せられない。だが、その瞳に浮かぶ光が感謝の代わりだった。

 

「すまない。あやかはまだ言葉をうまく話せないんだ」

「いいです。生きてくれている。それが一番です」

 

龍華の第一の願いは、確かに叶った。

だが、天界での交渉を通して、俺は痛感している――

地上人は、未だ見下されている。

 

それでも、アスモディウスを討ったという事実は、

彼らの価値観に小さなひびを入れたはずだ。

 

このひびを、必ず広げてみせる。

俺は、地上人の名誉を取り戻すため――再び戦う。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
ネタ切れということもあり、これ以上話を広げることは難しいためここで終わりにします。
完成させることが自分の中では正解だと考えています。
終わり方も個人的に納得しています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。