【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
天界は、地上の荒廃とはまるで別世界だった。
磨き抜かれた白亜の壁が四方を囲み、その上空には透明な結界が輝いている。
風一つ乱れず、整えられた石畳の道には花々が季節を無視して咲き誇っていた。
移動には、許可を受けた者だけが使える転移ゲートが必要で、
その内側に暮らす者たちは、モンスターの脅威とは無縁。
街並みには精緻な建築が並び、
空中を舞う乗り物や、魔力で動く機械が行き交う。
人々は洗練された衣服をまとい、穏やかな表情を浮かべて歩く——
その眼差しには、地上の民を遠い下界の存在として見下す色が隠しきれない。
天界の役人の前に立った瞬間、肌を刺すような冷たい視線が突き刺さった。
金と白の礼服を纏った男が、柊に眉をひそめて問いかける。
「……柊。なぜ地上人をここに連れてきた?」
「覚悟はできているのだろうな」
その言葉と同時に、俺へと送られる視線は、明らかに蔑みを含んでいた。
地上の泥にまみれた存在が、神聖な場所に足を踏み入れること自体が不快なのだろう。
「この狼華が、アスモディウスを討ち果たした」
柊は一歩前に出て、はっきりと告げた。
「……本当か?」
ざわめく空気。役人の瞳が大きく見開かれる。
俺は静かに懐からカードを取り出し、机の上に置いた。
そこには、確かにアスモディウスの姿が封じられている。
「……なるほど。では、上層へ報告させてもらおう」
役人はカードを凝視し、やがて息を吐いた。
短い返答だったが、その声色には信じがたいという色と、わずかな興味が入り混じっていた。
天界の上層――白大理石で造られた広間に、黄金の柱が等間隔に並び、天井は高く、雲のような装飾が漂っている。
その中央に置かれた長い楕円形の卓を囲むのは、豪奢な衣を纏った天界の高官たち。
一人ひとりが淡く光を帯び、視線だけで人を圧倒する気配を放っている。
俺は無意識に拳を握りしめていた。
ここにいる全員が、俺の存在を値踏みしているのが分かる。
地上人がこの席にいるという事実だけで空気が重くなる。
柊は緊張を押し殺した声で、これまでの経緯を語った。
アスモディウス討伐の顛末、龍華の妹が捕らわれ、悪魔化の改造を受けてしまったこと。
そして、その妹が今も生きていること。
「……報告は、それで終わりか?」
話が終わると、一人の初老の高官が重々しく口を開いた。
「はい」
柊は一礼し、簡潔に答える。
沈黙。
広間全体に、目に見えない圧力が充満する。
誰もが、次の言葉を待っていた。
「――結論から話す」
中央に座る天界議長が冷ややかに言い放った。
「悪魔化された人間を捕獲せよ」
空気が一瞬で凍りつく。
「少し待ってください。現在、我々に危害を加えていません」
俺は椅子から半ば立ち上がるようにして、即座に言い返した。
「君は、その“危害を加えない”という保証をどうやって証明するのかね?」
議長は眉一つ動かさず返す。
胸の奥に苛立ちが募る。だが、感情でぶつかっても意味はない。
「……確かに、今すぐに証明はできません」
「しかし、私がアスモディウスを討ったのは事実です」
俺は懐からカードを取り出し、テーブルの中央に静かに置いた。
「このアスモディウスのカードを差し出します。それで、何もせず見逃していただけませんか?」
「ふむ……取引か」
議長が椅子に深く座り直すと、他の高官たちも囁き合い始めた。
「このカードがあれば、我らの戦力は確かに増す。だが――それだけでは足りぬ。リスクが釣り合わない」
――やはり、地上人というだけで足元を見てくる。
だが、交渉の余地があるだけまだましだ。
「では、このカードを……30枚追加で」
「足りないな」
冷たいやり取りが続く。
その時、柊が前のめりになって割って入った。
「このアイテム4つと、カード200枚。これならどうだ?」
議長はしばし沈黙し、他の高官たちと視線を交わした。
やがて、口角をわずかに上げる。
「……いいだろう。成立だ」
俺は思わず柊を振り返る。
「えっ、本当にいいんですか?」
「君がアスモディウスを倒したことは事実だ。その感謝を、形にしただけだ」
柊は笑った。
~~
地上に降り、真っ先に龍華のもとへ向かった。
「龍華さん、妹さんが襲われないようにしました」
俺は契約書を広げ、文字を指差して見せる。
龍華はそれを一目見て、深く息を吐いた。
「……本当に助かる」
その声には、長い緊張から解き放たれた人間だけが持つ温度があった。
あやかは、ぽかんと俺を見つめている。
言葉は発せられない。だが、その瞳に浮かぶ光が感謝の代わりだった。
「すまない。あやかはまだ言葉をうまく話せないんだ」
「いいです。生きてくれている。それが一番です」
龍華の第一の願いは、確かに叶った。
だが、天界での交渉を通して、俺は痛感している――
地上人は、未だ見下されている。
それでも、アスモディウスを討ったという事実は、
彼らの価値観に小さなひびを入れたはずだ。
このひびを、必ず広げてみせる。
俺は、地上人の名誉を取り戻すため――再び戦う。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ネタ切れということもあり、これ以上話を広げることは難しいためここで終わりにします。
完成させることが自分の中では正解だと考えています。
終わり方も個人的に納得しています。