【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺たちは、荒れた工業地帯の一角で、次々と湧いてくるカードモンスターを撃破していった。
獣たちの咆哮。
エフェクトのように輝くカードの断片。
それは経験値でも、スコアでもない――俺たちにとっての“命綱”だ。
「ふふ、君たちは本当に真面目だな」
戦闘を終え、龍華が苦笑いを浮かべる。
モンスターをすぐにカード化させた後、サンドイッチと水に変換していた。
「普通は、こうやって“食料”に変換するのが最優先なんだよ」
「なのに、君たちはまず、カードに再構築してるじゃないか」
確かに――俺たちは倒したモンスターの中から、使えそうなスキルやパーツを優先的に抽出していた。
「……私は、初めてモンスターと戦ったので」
俺は、そう答えた。
本当は違う。
転生してすぐ、俺は命のやり取りに巻き込まれた。
“自己防衛”のためにカードを使っただけで、誰かを倒す意志なんてなかった。
けれど――この世界では、それが“常識”だった。
手札事故ひとつで、命を落とす。
だからこそ、俺は自分から勝負を挑んだことは一度もない。
「なるほどな。君たちは、そういう経験がまだ浅いってわけか」
「確かに安定して勝てるようになることも大切だ」
龍華は理解を示したように頷いた。
「でもまあ、食料確保も生き延びる上で大事だよ。こうやって変換すれば、衛生面も保証されるしさ」
そう言って、彼女は変換した食料を分けてくれた。
パンの香ばしい匂いと、冷たい水の透明感。
どちらも、この世界では贅沢品だ。
「……ありがとうございます」
光華が素直に受け取る。
「まあ、こういうのはある程度強くなってから、余裕をもって考えればいいさ」
「とりあえず今日は――これも渡しておこう」
そう言って、彼女は懐から小さな宝石を取り出した。
それは、微かに光を放つ青い結晶。
中に封じられている魔力がわずかに震えているのが分かる。
「これは……?」
「《命結石(ライフリンク)》っていうアイテムさ」
「これを身につけていれば、1度だけ――敗北しても、カード化されない」
「……! 本当にいいんですか!?」
思わず、声が出た。
「大丈夫。3つ持ってるから、君たちに1個ずつ渡すよ」
龍華の顔は、真剣だった。
ふざけるでも、気まぐれでもない。
“生き残る価値がある”と、本気で思っている目だった。
「ありがとう……ございます」
俺も、光華も、同時に頭を下げた。
「サンドイッチ、遠慮なく食べてくれ」
龍華はそう言って、自分のぶんを手に取り、大きくかぶりついた。
くしゃ、とパンがつぶれる音がやけに美味そうに響く。
「……遠慮なく、いただきます」
そう返しつつ、俺は手元のサンドイッチをじっと見つめていた。
日本にいたころなら、なんの感慨もなく食べていた“普通の食事”。
だけど――転生してきて、この世界で生きて一年。
ずっと芋か水。良くて干し肉。
まともな食事なんて、ほとんど口にしてこなかった。
今すぐかぶりつきたい衝動を、必死にこらえていた。
――だが、光華は違った。
彼女は「うん、おいしいですね」と微笑みながら、上品に口へ運んでいた。
その所作にはどこか品があって、どこか日常があった。
……俺とは、やはり育ちが違う。
俺はついに我慢しきれず、パンにかじりついた。
しっとりとした食感。
カリッと焼かれたハムの香ばしさ。
マヨネーズのコクが口の中に広がっていく。
それだけで――涙が出そうになった。
ただのサンドイッチ。
それが、こんなにも“尊い”と感じるなんて、昔の俺じゃ考えられなかった。
「やっぱり、君たちは育ちが違うな」
「光華は、日常的にこういうのを食べてた感じだな?」
龍華がそう言うと、光華は小さくうなずいた。
「……はい。親がモンスターを倒してきて、こういう食事を食べていました。」
「そうか……まあ、ギャップがあるのは当然だな」
「でも、それを責めたりしないこと。お互い、認め合ってくれ」
龍華の声には、わずかに優しさがにじんでいた。
「うちの花園の騎士団も、いろんな境遇のやつがいるからさ。だからこそ、信頼だけは大事にしてる」
~~
「では、組織に戻ろうかね」
龍華が立ち上がると、俺と光華も静かに後に続いた。
夕暮れに差し掛かる空の下、廃墟の影が長く伸びる。
「……とはいえ、全員との顔合わせは無理だな」
「依頼で外に出てる子たちも多くてね。タイミングが合えば、いずれ紹介しよう」
「分かりました」
俺はうなずきつつも、ほんの少しだけ胸が高鳴っていた。
原作でも、何度も登場していた――“花園の騎士団”の拠点。
そして、辿り着いた場所は――
荒廃した屋敷だった。
外壁のヒビや、欠けた石畳こそ目立つが……それでも、ほかの崩れかけた街並みに比べれば、遥かに“整って”いた。
誰かの手が入っている。そんな印象を受ける屋敷だった。
「カードの精霊が暴れ出す前は、ここも富豪の邸宅だったらしい」
「いまは、私たちが最低限整備して使ってる。まあ……騎士団の拠点、ってやつだね」
龍華の口調はさらりとしていたが――
俺にとっては、違った。
懐かしい壁紙。
原作で見た大広間の柱。
ぼろぼろになった絨毯すら、あのアニメのワンシーンそのままだ。
(……本当に、来てしまったんだ)
物語の舞台――“聖地”に、自分の足で立っている。
それが信じられなくて、少しだけ息が詰まった。
まるで、モブだったはずの俺が、物語の中心に踏み込んでしまったような錯覚。
薄暗い事務室に、古い照明の光が淡く差し込んでいた。
木製のデスクの上に、何枚ものカードが整然と並べられている。
その前に立つ女性――氷花(ひょうか)は、まるで宝石を眺めるようにそのカードたちに視線を落としていた。
「……帰ってきたよ」
扉が軋む音とともに、龍華の声が響いた。
氷花はゆっくりと顔を上げる。
涼やかな瞳に、わずかに笑みが浮かぶ。
「おかえりなさい、龍華。何か変化はあった?」
「とくには。けれど――」
龍華は壁に背を預けながら、口元をゆるめた。
「強そうなプレイヤーを、2人も見つけてきたよ」
「ふふ……あなたの目に適うなら、相当ね」
氷花は再び視線をカードに戻しながら、柔らかく答える。
「実力は申し分ない。君もきっと、感心すると思う」
「それは楽しみだわ」
会話は静かに続く。互いの信頼が前提にある、落ち着いたやりとり。
「次は――私がここに残る。代わりに、君が2人を連れて」
龍華の表情が、ふと引き締まる。
「“例の森”に来てくれ」
氷花の手が、カードの上でぴたりと止まる。
「……あら。あそこを任せるのね?」
微笑に含まれるのは、驚きと――ほんの少しの緊張。
「それだけ2人の実力を、あなたが認めているってことかしら」
龍華は静かに頷いた。
「そういうことだよ」
しばしの沈黙のあと、氷花は一枚のカードを摘み、光にかざした。
「じゃあ、その2人の“実力”、じっくり見せてもらうわね」
~~
深い霧に包まれた森の入口。
周囲には枯れ枝が転がり、腐敗した草の匂いが鼻をつく。
モンスターの気配が濃く満ちているのがわかる。ここは、確かに“そういう場所”だ。
氷花が、静かに口を開いた。
「……ここの森はね。ゴブリンが大量発生しているの」
その言葉に、俺――紅狼と、隣に立つ光華が思わず姿勢を正す。
「どんなデッキか知っているかしら?」
「……わかりません」
答えたのは俺だった。光華も無言でうなずく。
氷花は、少しだけ目を細めた。
冷静で、どこか楽しげでもある声で、説明が始まる。
「少し説明するわ。基本的には、1/1のゴブリンを次々と召喚していくアグロデッキ。
横に展開してから、全体強化――それがパターン。
一番最悪なのは、3/3のゴブリンが10体並ぶことね」
「……なるほど。何となくわかりました。たぶん、勝てます」
俺がそう言うと、横にいた光華も、わずかに口角を上げて頷いた。
――そのとき、ふたりの間に、奇妙な一体感が生まれた気がした。
氷花は小さく笑みを浮かべる。
「ふふ……心強いわね」
彼女は一歩前に出て、手元のデッキケースを軽く掲げた。
「でも――最初の勝負は、私のを見てね」
その言葉に、俺と光華は息を呑む。
氷花の周囲に、ひんやりとした気配が広がっていく。
そして、森の奥から聞こえてきた――
ヒッ、ヒャッヒャッヒャと、喉を鳴らすような笑い声。
「来たみたい。ゴブリンたち……」
氷花がカードを引き抜いた。
「見せてあげる。花園の騎士団の“処理の仕方”をね」
~~
氷花の使うテーマは――《氷精姫(アイス・フェアリー)》。
それは、火力でも連打でもない。
彼女のデッキは、まるで雪原の静寂のように“すべてを止める”ことに特化していた。
《氷精姫》たちの力はシンプルだ。
相手のモンスターを“フリーズ”状態にする。
それはただのデバフではない。フリーズされたモンスターは、攻撃もブロックもできなくなる。
カードゲームにおける“行動の拒絶”――まさに、フィールドに存在しているだけの“置物”へと変貌させるのだ。
しかも、ただ止めるだけでは終わらない。
“氷結破砕”といった追加効果で、一方的に破壊することすら可能になる。
敵の戦術を封じ、テンポを奪い、じわじわと支配する――
氷花の戦い方は、速さや爆発力とは真逆に位置する、“コントロール”の極致だった。
その凍てつく戦場の中で、彼女は言葉少なに淡々と勝ちを拾っていく。
まるで、そこに感情など存在しないかのように。
――冷たい。だが、確実に強い。
《氷精姫》は、まさに彼女のためにあるテーマだった。
場には、ゴブリンが4体。
それぞれ2/2。
だが、その全てが――既にフリーズ状態にある。
氷精姫たちの静かな舞踏によって、既に戦場は凍りついていた。
動けない。
ブロックできない。
ただ、氷の彫像のようにそこにあるだけ。
そして――
「コストチャージ……8」
静かに差し出された一枚が、戦場の空気を一変させた。
《氷翼龍グレイスノヴァ》。
氷花の切り札。
その姿は、銀白に輝く翼を広げ、氷結の王者としてフィールドに降り立つ。
「召喚時、すべての敵モンスターをフリーズ」
本来なら、恐ろしい効果だ。
だが今、この戦場においては“確認”に過ぎない。
既に彼らは止まっている。
……そう、“処理”の時が来たというだけだ。
「氷結破砕」
その一言で、フィールドのゴブリンたちは一斉に砕け散った。
霧散する氷の粒子とともに、破壊時効果が炸裂する。
――2ダメージ×4体。
静かに、だが確実に、ライフが削り取られる。
「8点のダメージをくらってください」
告げられたその一言に、抵抗できる者はいなかった。
勝敗は既に決していたのだ。
氷花の冷徹な戦術のもと――戦場は、完全な沈黙に包まれていた。
「これが敵の動きです。倒せるのなら、ガンガン倒してください」
氷花は、淡々とそう告げた。
まるで、森に巣食う害虫の駆除を頼むかのように。
感情はない。けれど、それは冷たさではなく、信頼の裏返しだった。
彼女の後ろには、砕け散ったゴブリンの残骸。
まだ地に散らばる氷の破片が、彼女の無双ぶりを物語っている。
俺と光華は、視線を交わす。
「行こう」
「ええ」
返事は短く、それで十分だった。
俺――紅狼のビーストたちが、唸りを上げて駆け出す。
横展開。中コスト帯の力押し。
それが俺のやり方だ。
そして光華は、光のブロッカーで前線を固め、聖なる防壁を築いていく。
一点突破と完全防御――
まったく正反対の戦術が、今この森で並び立つ。
狩りが始まる。
~~
俺は、ただモンスターを狩り続けていた。
敵の場には、2/2のゴブリンが4体。
最初は威圧的な数に見えたかもしれないが――もう関係ない。
「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚」
6コスト、5/5。
だが、本当の脅威はその先にあった。
「効果発動。味方の獣に+1/+1――全体強化」
瞬間、俺の場に並ぶ《紅蓮獣》たちが、一斉に咆哮を上げる。
まるで獲物を前にした獣の群れのように、力が漲っていく。
4体すべてがスタッツを上昇させ、2/2のゴブリンでは受けきれない戦力になった。
逃げられない。
ブロックもできない。
手を伸ばす前に、すでに牙が突き立てられている。
こちらの展開力に、相手のテンポは完全に追いつけなかった。
一手、また一手と差をつけ――そのまま、盤面ごとひっくり返す。
息もつかせず、殲滅。
――そう、これはもう“狩り”だ。
俺たち《紅蓮獣》の群れが、容赦なく戦場を食い尽くしていく。
~~
モンスターを――狩り尽くした。
地に転がる氷と炎の残骸。
ゴブリンたちは一匹残らず討伐され、森はようやく静寂を取り戻す。
残るのは、冷たい風と、俺たちの息づかいだけだった。
「なるほどね」
氷花が、静かに口を開く。
「君たち、強いわね。ここのモンスターを狩りつくすのは手間だったけど……助かったわ」
彼女の口調はいつも通り淡々としているが、その声色の奥に、確かな信頼の響きがあった。
「それじゃ――あなたたちの家に、戻りましょうかね」
そう告げた彼女の背に、俺たちは静かに歩を重ねる。
焼けた大地と、凍りついた森をあとにして。
わずかな戦利品と、確かな経験を手に――次の戦いへ向かっていく。
カードのシーンはこれくらいでいい?
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長い
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短い
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ちょうどいい