【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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3話 初任務

俺たちは、荒れた工業地帯の一角で、次々と湧いてくるカードモンスターを撃破していった。

 

獣たちの咆哮。

エフェクトのように輝くカードの断片。

それは経験値でも、スコアでもない――俺たちにとっての“命綱”だ。

 

「ふふ、君たちは本当に真面目だな」

 

戦闘を終え、龍華が苦笑いを浮かべる。

モンスターをすぐにカード化させた後、サンドイッチと水に変換していた。

 

「普通は、こうやって“食料”に変換するのが最優先なんだよ」

「なのに、君たちはまず、カードに再構築してるじゃないか」

 

確かに――俺たちは倒したモンスターの中から、使えそうなスキルやパーツを優先的に抽出していた。

 

「……私は、初めてモンスターと戦ったので」

俺は、そう答えた。

 

本当は違う。

転生してすぐ、俺は命のやり取りに巻き込まれた。

“自己防衛”のためにカードを使っただけで、誰かを倒す意志なんてなかった。

けれど――この世界では、それが“常識”だった。

 

手札事故ひとつで、命を落とす。

だからこそ、俺は自分から勝負を挑んだことは一度もない。

 

「なるほどな。君たちは、そういう経験がまだ浅いってわけか」

「確かに安定して勝てるようになることも大切だ」

 

龍華は理解を示したように頷いた。

 

「でもまあ、食料確保も生き延びる上で大事だよ。こうやって変換すれば、衛生面も保証されるしさ」

 

そう言って、彼女は変換した食料を分けてくれた。

パンの香ばしい匂いと、冷たい水の透明感。

どちらも、この世界では贅沢品だ。

 

「……ありがとうございます」

光華が素直に受け取る。

 

「まあ、こういうのはある程度強くなってから、余裕をもって考えればいいさ」

「とりあえず今日は――これも渡しておこう」

 

そう言って、彼女は懐から小さな宝石を取り出した。

 

それは、微かに光を放つ青い結晶。

中に封じられている魔力がわずかに震えているのが分かる。

 

「これは……?」

 

「《命結石(ライフリンク)》っていうアイテムさ」

「これを身につけていれば、1度だけ――敗北しても、カード化されない」

 

「……! 本当にいいんですか!?」

 

思わず、声が出た。

 

「大丈夫。3つ持ってるから、君たちに1個ずつ渡すよ」

 

龍華の顔は、真剣だった。

ふざけるでも、気まぐれでもない。

“生き残る価値がある”と、本気で思っている目だった。

 

「ありがとう……ございます」

 

俺も、光華も、同時に頭を下げた。

 

「サンドイッチ、遠慮なく食べてくれ」

 

龍華はそう言って、自分のぶんを手に取り、大きくかぶりついた。

くしゃ、とパンがつぶれる音がやけに美味そうに響く。

 

「……遠慮なく、いただきます」

 

そう返しつつ、俺は手元のサンドイッチをじっと見つめていた。

 

日本にいたころなら、なんの感慨もなく食べていた“普通の食事”。

だけど――転生してきて、この世界で生きて一年。

ずっと芋か水。良くて干し肉。

まともな食事なんて、ほとんど口にしてこなかった。

 

今すぐかぶりつきたい衝動を、必死にこらえていた。

 

――だが、光華は違った。

 

彼女は「うん、おいしいですね」と微笑みながら、上品に口へ運んでいた。

その所作にはどこか品があって、どこか日常があった。

 

……俺とは、やはり育ちが違う。

 

俺はついに我慢しきれず、パンにかじりついた。

 

しっとりとした食感。

カリッと焼かれたハムの香ばしさ。

マヨネーズのコクが口の中に広がっていく。

 

それだけで――涙が出そうになった。

 

ただのサンドイッチ。

それが、こんなにも“尊い”と感じるなんて、昔の俺じゃ考えられなかった。

 

「やっぱり、君たちは育ちが違うな」

「光華は、日常的にこういうのを食べてた感じだな?」

 

龍華がそう言うと、光華は小さくうなずいた。

 

「……はい。親がモンスターを倒してきて、こういう食事を食べていました。」

 

「そうか……まあ、ギャップがあるのは当然だな」

「でも、それを責めたりしないこと。お互い、認め合ってくれ」

 

龍華の声には、わずかに優しさがにじんでいた。

 

「うちの花園の騎士団も、いろんな境遇のやつがいるからさ。だからこそ、信頼だけは大事にしてる」

 

~~

 

「では、組織に戻ろうかね」

 

龍華が立ち上がると、俺と光華も静かに後に続いた。

夕暮れに差し掛かる空の下、廃墟の影が長く伸びる。

 

「……とはいえ、全員との顔合わせは無理だな」

「依頼で外に出てる子たちも多くてね。タイミングが合えば、いずれ紹介しよう」

 

「分かりました」

 

俺はうなずきつつも、ほんの少しだけ胸が高鳴っていた。

原作でも、何度も登場していた――“花園の騎士団”の拠点。

 

そして、辿り着いた場所は――

 

荒廃した屋敷だった。

 

外壁のヒビや、欠けた石畳こそ目立つが……それでも、ほかの崩れかけた街並みに比べれば、遥かに“整って”いた。

誰かの手が入っている。そんな印象を受ける屋敷だった。

 

「カードの精霊が暴れ出す前は、ここも富豪の邸宅だったらしい」

「いまは、私たちが最低限整備して使ってる。まあ……騎士団の拠点、ってやつだね」

 

龍華の口調はさらりとしていたが――

 

俺にとっては、違った。

 

懐かしい壁紙。

原作で見た大広間の柱。

ぼろぼろになった絨毯すら、あのアニメのワンシーンそのままだ。

 

(……本当に、来てしまったんだ)

 

物語の舞台――“聖地”に、自分の足で立っている。

それが信じられなくて、少しだけ息が詰まった。

 

まるで、モブだったはずの俺が、物語の中心に踏み込んでしまったような錯覚。

 

薄暗い事務室に、古い照明の光が淡く差し込んでいた。

木製のデスクの上に、何枚ものカードが整然と並べられている。

その前に立つ女性――氷花(ひょうか)は、まるで宝石を眺めるようにそのカードたちに視線を落としていた。

 

「……帰ってきたよ」

 

扉が軋む音とともに、龍華の声が響いた。

 

氷花はゆっくりと顔を上げる。

涼やかな瞳に、わずかに笑みが浮かぶ。

 

「おかえりなさい、龍華。何か変化はあった?」

 

「とくには。けれど――」

 

龍華は壁に背を預けながら、口元をゆるめた。

 

「強そうなプレイヤーを、2人も見つけてきたよ」

 

「ふふ……あなたの目に適うなら、相当ね」

 

氷花は再び視線をカードに戻しながら、柔らかく答える。

 

「実力は申し分ない。君もきっと、感心すると思う」

 

「それは楽しみだわ」

 

会話は静かに続く。互いの信頼が前提にある、落ち着いたやりとり。

 

「次は――私がここに残る。代わりに、君が2人を連れて」

 

龍華の表情が、ふと引き締まる。

 

「“例の森”に来てくれ」

 

氷花の手が、カードの上でぴたりと止まる。

 

「……あら。あそこを任せるのね?」

 

微笑に含まれるのは、驚きと――ほんの少しの緊張。

 

「それだけ2人の実力を、あなたが認めているってことかしら」

 

龍華は静かに頷いた。

 

「そういうことだよ」

 

しばしの沈黙のあと、氷花は一枚のカードを摘み、光にかざした。

 

「じゃあ、その2人の“実力”、じっくり見せてもらうわね」

 

~~

 

深い霧に包まれた森の入口。

周囲には枯れ枝が転がり、腐敗した草の匂いが鼻をつく。

モンスターの気配が濃く満ちているのがわかる。ここは、確かに“そういう場所”だ。

 

氷花が、静かに口を開いた。

 

「……ここの森はね。ゴブリンが大量発生しているの」

 

その言葉に、俺――紅狼と、隣に立つ光華が思わず姿勢を正す。

 

「どんなデッキか知っているかしら?」

 

「……わかりません」

 

答えたのは俺だった。光華も無言でうなずく。

 

氷花は、少しだけ目を細めた。

冷静で、どこか楽しげでもある声で、説明が始まる。

 

「少し説明するわ。基本的には、1/1のゴブリンを次々と召喚していくアグロデッキ。

横に展開してから、全体強化――それがパターン。

一番最悪なのは、3/3のゴブリンが10体並ぶことね」

 

「……なるほど。何となくわかりました。たぶん、勝てます」

 

俺がそう言うと、横にいた光華も、わずかに口角を上げて頷いた。

 

――そのとき、ふたりの間に、奇妙な一体感が生まれた気がした。

 

氷花は小さく笑みを浮かべる。

 

「ふふ……心強いわね」

 

彼女は一歩前に出て、手元のデッキケースを軽く掲げた。

 

「でも――最初の勝負は、私のを見てね」

 

その言葉に、俺と光華は息を呑む。

氷花の周囲に、ひんやりとした気配が広がっていく。

 

そして、森の奥から聞こえてきた――

ヒッ、ヒャッヒャッヒャと、喉を鳴らすような笑い声。

 

「来たみたい。ゴブリンたち……」

 

氷花がカードを引き抜いた。

 

「見せてあげる。花園の騎士団の“処理の仕方”をね」

 

~~

 

氷花の使うテーマは――《氷精姫(アイス・フェアリー)》。

 

それは、火力でも連打でもない。

彼女のデッキは、まるで雪原の静寂のように“すべてを止める”ことに特化していた。

 

《氷精姫》たちの力はシンプルだ。

相手のモンスターを“フリーズ”状態にする。

それはただのデバフではない。フリーズされたモンスターは、攻撃もブロックもできなくなる。

カードゲームにおける“行動の拒絶”――まさに、フィールドに存在しているだけの“置物”へと変貌させるのだ。

 

しかも、ただ止めるだけでは終わらない。

“氷結破砕”といった追加効果で、一方的に破壊することすら可能になる。

 

敵の戦術を封じ、テンポを奪い、じわじわと支配する――

氷花の戦い方は、速さや爆発力とは真逆に位置する、“コントロール”の極致だった。

 

その凍てつく戦場の中で、彼女は言葉少なに淡々と勝ちを拾っていく。

まるで、そこに感情など存在しないかのように。

 

――冷たい。だが、確実に強い。

《氷精姫》は、まさに彼女のためにあるテーマだった。

 

 

場には、ゴブリンが4体。

 

それぞれ2/2。

だが、その全てが――既にフリーズ状態にある。

氷精姫たちの静かな舞踏によって、既に戦場は凍りついていた。

 

動けない。

ブロックできない。

ただ、氷の彫像のようにそこにあるだけ。

 

そして――

 

「コストチャージ……8」

 

静かに差し出された一枚が、戦場の空気を一変させた。

 

《氷翼龍グレイスノヴァ》。

氷花の切り札。

その姿は、銀白に輝く翼を広げ、氷結の王者としてフィールドに降り立つ。

 

「召喚時、すべての敵モンスターをフリーズ」

 

本来なら、恐ろしい効果だ。

だが今、この戦場においては“確認”に過ぎない。

既に彼らは止まっている。

……そう、“処理”の時が来たというだけだ。

 

「氷結破砕」

 

その一言で、フィールドのゴブリンたちは一斉に砕け散った。

霧散する氷の粒子とともに、破壊時効果が炸裂する。

 

――2ダメージ×4体。

 

静かに、だが確実に、ライフが削り取られる。

 

「8点のダメージをくらってください」

 

告げられたその一言に、抵抗できる者はいなかった。

 

勝敗は既に決していたのだ。

氷花の冷徹な戦術のもと――戦場は、完全な沈黙に包まれていた。

 

「これが敵の動きです。倒せるのなら、ガンガン倒してください」

 

氷花は、淡々とそう告げた。

まるで、森に巣食う害虫の駆除を頼むかのように。

感情はない。けれど、それは冷たさではなく、信頼の裏返しだった。

 

彼女の後ろには、砕け散ったゴブリンの残骸。

まだ地に散らばる氷の破片が、彼女の無双ぶりを物語っている。

 

俺と光華は、視線を交わす。

 

「行こう」

 

「ええ」

 

返事は短く、それで十分だった。

 

俺――紅狼のビーストたちが、唸りを上げて駆け出す。

横展開。中コスト帯の力押し。

それが俺のやり方だ。

 

そして光華は、光のブロッカーで前線を固め、聖なる防壁を築いていく。

 

一点突破と完全防御――

まったく正反対の戦術が、今この森で並び立つ。

 

狩りが始まる。

 

~~

 

俺は、ただモンスターを狩り続けていた。

 

敵の場には、2/2のゴブリンが4体。

最初は威圧的な数に見えたかもしれないが――もう関係ない。

 

「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚」

 

6コスト、5/5。

だが、本当の脅威はその先にあった。

 

「効果発動。味方の獣に+1/+1――全体強化」

 

瞬間、俺の場に並ぶ《紅蓮獣》たちが、一斉に咆哮を上げる。

まるで獲物を前にした獣の群れのように、力が漲っていく。

 

4体すべてがスタッツを上昇させ、2/2のゴブリンでは受けきれない戦力になった。

 

逃げられない。

ブロックもできない。

手を伸ばす前に、すでに牙が突き立てられている。

 

こちらの展開力に、相手のテンポは完全に追いつけなかった。

一手、また一手と差をつけ――そのまま、盤面ごとひっくり返す。

 

息もつかせず、殲滅。

 

――そう、これはもう“狩り”だ。

 

俺たち《紅蓮獣》の群れが、容赦なく戦場を食い尽くしていく。

 

 

 

~~

 

モンスターを――狩り尽くした。

 

地に転がる氷と炎の残骸。

ゴブリンたちは一匹残らず討伐され、森はようやく静寂を取り戻す。

 

残るのは、冷たい風と、俺たちの息づかいだけだった。

 

「なるほどね」

 

氷花が、静かに口を開く。

 

「君たち、強いわね。ここのモンスターを狩りつくすのは手間だったけど……助かったわ」

 

彼女の口調はいつも通り淡々としているが、その声色の奥に、確かな信頼の響きがあった。

 

「それじゃ――あなたたちの家に、戻りましょうかね」

 

そう告げた彼女の背に、俺たちは静かに歩を重ねる。

焼けた大地と、凍りついた森をあとにして。

わずかな戦利品と、確かな経験を手に――次の戦いへ向かっていく。

 

カードのシーンはこれくらいでいい?

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