【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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5話 音華

「次の依頼だ」

 

龍華が静かに地図を広げ、指先で火山地帯を示した。

 

「火山地帯にて、サラマンダーの大量発生が確認された。高熱により周辺の森林が枯れ始めている」

 

「環境への被害が深刻になる前に、速やかな対応が必要だ。

光華・紅狼・音華――お前たち三人に任せる」

 

「私と氷花は別の案件で動く。今回は同行できない。すまないが、頼んだぞ」

 

龍華の言葉に、俺は深く頷いた。

 

「了解しました」

 

そして、龍華はゆっくりとはなす。

 

「音華についてだが――彼女は君と境遇が似ている」

 

その言葉に、俺は思わず目を上げる。

あの鋭い視線の少女が、自分と似ている? そう思った矢先に、続けられた。

 

「ただ、彼女の生き方は、使命感よりも“生存”に重きを置いている。

 誰かのためじゃない。自分が死なないために戦っている」

 

龍華の視線は、遠いものを見るようだった。

まるで、かつての自分すらそこに重ねているかのように。

 

「今回、光華と組ませる。だが――衝突するかもしれない」

 

そこで、龍華ははっきりと俺に目を向けた。

 

「光華は秩序のために戦っている。音華は、生き残るために牙を研いでいる。

 ……この二人の理想と現実は、どうしてもすれ違う」

 

彼女の言葉の意味が、ゆっくりと胸に落ちていく。

 

「そのときは、君に間に入ってほしい。

 両方の気持ち……君なら分かってやれるだろう?」

 

頼られているのか、それとも試されているのか――

その問いに、俺はただ一言だけ返した。

 

「……やってみます」

 

~~

 

三人が火山地帯の手前、森の入口に集結していた。

今回が初対面となる音華は、ショートヘアに痩せ型の少女。

その瞳に浮かぶのは、不安でも敵意でもなく――ひたすら生きることへの固執だった。

 

「……よろしく」

低く短く、それだけ。まるで他人との距離を測るような口調だ。

俺たちも軽く会釈を返す。

 

「よろしくお願いします」

「よろしくね」

光華が、いつものように明るく挨拶を交わす。

 

だがすぐに、今回の敵――サラマンダーデッキの話題へと移る。

「サラマンダーはバーン系ですね。召喚時に1点与えてくるモンスターが多いです。呪文も炎ダメージ主体なので、テンポ勝負になります」

「私は光属性で回復が得意なので、バーンにはある程度対応できます」

光華が穏やかに語る一方、音華は不愛想に呟いた。

 

「……森にまで出てきてる下級サラマンダーでいい。そいつらだけ狩る」

「でも、それだけじゃ森が燃え尽きますよ。奥にいる中型や群れの本体を潰さないと――」

光華のまっすぐな言葉に、音華は食い気味に返した。

 

「それだけでいいって、龍華さんは言ってたよ」

その声は、かすかに震えていた。

「私は……生き残りたいんだ」

その一言に、俺は思わず息をのんだ。

やせ細った身体、迷いない目。

彼女も俺と同じだ――この荒れた世界で、生き延びることが第一の目的になっている。

 

「……わかった。それで行こう」

俺が二人の間に割って入った。

 

「音華さんは、森のサラマンダーを十体倒したら、先に戻ってていい。

俺と光華で奥の火山地帯、ちょっと強そうなヤツを見てくる」

「……それでいい」

音華は少しだけ目を伏せ、頷いた。

 

~~

 

俺たちは、森の周辺に出没していた下級のサラマンダーたちを、ひとつずつ狩っていた。

 

ライフは10点。油断すれば一瞬で焼かれる。

だが、それでも盤面は明確に俺たちの優勢だった。

 

相手の場にはサラマンダーがたった1体。

それに対し、俺の場には4体の《紅蓮獣》が並び、すでに吠える準備を整えていた。

 

「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚!」

 

6コスト・5/5。

そして、その真価は召喚時効果――

味方の獣に+1/+1の全体強化。

 

その瞬間、俺の場に並んだ《紅蓮獣》たちが一斉に咆哮を上げた。

まるで獲物を見つけた狩猟の群れのように、真紅の力が溢れ出す。

 

火山地帯に響く獣たちの咆哮。

その威圧感に、敵のサラマンダーは怯えたように身を縮め――次の瞬間には、盤面から消し飛んでいた。

 

圧倒的な展開力、そして強化からの一斉攻撃。

数の力で押し潰す。

それが《紅蓮獣》――獣のデッキが持つ、本当の牙だった。

 

 

「盤面さえ奪えば、何とかなりますね」

静かに、けれど確信を持って光華が言った。

 

《聖焔衛》を操る彼女らしく、リソースと秩序を何より重視する戦い方だ。

たとえバーンでライフが削られようと、場を支配していれば逆転の芽は必ず残る。

 

「ライフを減らされても、盤面の管理を大切にしていきましょう」

その声には、焦りも、怯えもなかった。

 

目の前では、火の粉を纏ったサラマンダーたちが吠えている。

1体、また1体と現れるも――それを上回る速度で、俺たちの《紅蓮獣》が狩り取っていく。

 

レオン・ファングの咆哮はなおも響き、

強化された獣たちが焼けた大地を蹴りながら、次々と火の精を葬っていく。

 

そして、森の中に蠢いていたサラマンダーたちは、ついにすべて沈黙した。

燃え残った木々の隙間に、敵の気配はもう感じられない。

炎の熱も、徐々に引いていく――

 

「……終わりましたね」

光華が静かに言った。

 

「はい。こちらも確実に十体以上、狩れています」

俺も、獣の息遣いが落ち着いたのを確認しながら答える。

 

音華は一歩前に出ると、ふっと息をついた。

その顔に表情の変化は乏しいが、どこか安堵の色が見えた。

 

「音華さん、お疲れ様です。報告をお願いしますね」

森の火は完全に鎮まり、俺は振り返って声をかけた。

 

音華は足を止めると、少しだけ眉をひそめて俺を見た。

「……帰らなくていいの?」

彼女の声には、わずかに疑念と――どこか、寂しげな色が混じっていた。

 

生き延びることに執念を持つ彼女らしい問いだった。

 

「たしかに、生きた方がいいとは思いますよ」

「でも……この世界が、ほんの少しでもマシになってくれたらって、思うんです」

俺は正直にそう答えた。どこまで届くかはわからないけど、嘘じゃない。

 

「……自分のために生きればいいじゃん」

音華は目を伏せてつぶやいた。

 

「それは、間違ってないです。正解ですよ」

俺は穏やかに肯定した。

「僕も自分のために動いてます。緑が減るのがいやですからね」

「燃えた木を見るたびに、心がざわつくんです」

 

彼女は少しだけ目を見開いた。

 

「……そういうことじゃなくて……」

「死ぬことが怖くないの……?」

 

声が小さくなった。その一言には、言葉以上の重さがあった。

 

俺はしばし黙って、空を仰いだ。夕焼けの色が、どこか冷たく感じられた。

 

「怖いですよ。常にびくびくしながら生きてきました」

「モンスターに襲われるたびに、明日が来ないかもって思ってました」

「この仕事をしてる時点で、死と毎日向き合ってるようなものです」

「それに……下級のサラマンダーでも、運が悪ければ死んじゃいますし」

 

ここで言葉を切って、ゆっくりと彼女を見た。

そして、静かに言葉を続けた。

 

「ただですね――」

「それが自己満足だとしても、いいんです。自分が納得できるから」

 

「本当に……いらいらするな」

音華は唇を噛みながら、火山の方角を睨みつけるように見つめた。

 

「わかった。火山のサラマンダーも倒そう」

ぽつりと、でも確かな決意を込めて言った。

 

「……なんで、こんなことしようと思ったんだろう」

「きれいごとだけだったら、あのとき、すぐに帰れたのに」

 

その横顔には怒りと困惑、そして――微かな迷いが入り混じっていた。

きっと彼女の中でも、何かが変わり始めている。

誰かの言葉で、誰かの行動で、閉じていた心の扉が、少しだけ開いたのかもしれない。

 

だが、それを認めたくないという意地も、確かにそこにはある。

 

音華はいら立ちを隠さず、地面の小石を踏みつけながら吐き捨てる。

 

「その理想論だけじゃ、動かないんですね」

 

光華は静かに立ち止まり、音華の背中に語りかけた。

 

「……そうかもしれません」

 

「狼華さんの意見には、相手の気持ちが入ってた。だから通じたんですね」

「これこそ、生まれの違いというものですかね」

 

その言葉には、拗ねたような棘と、どこか自嘲めいた響きがあった。

 

光華はゆっくりと歩み寄り、隣に並んだ。

 

「理想だけじゃ人は動かない。でも、理想なしじゃ世界は変わらない」

 

光華は少しだけうつむいて、続けた。

 

「狼華さんの言葉には……相手の気持ちが入ってたんだと思います。だから、通じたんですね」

 

「……」

 

「それって、やっぱり生まれの違いなんですかね。私は、きれいごとばっかりで」

 

その言葉には、自嘲と寂しさが混じっていた。

 

俺は一瞬立ち止まり、彼女を見た。

 

「気持ちが通じるかどうかに、生まれは関係ないと思います。けど――“誰が言うか”で、言葉の重みは確かに変わりますが」

 

「……」

 

「今はまだ“きれいごと”ですよね?」

 

「たぶん、そう思う人もいます。でも、きれいごとを信じ続けるって、簡単なことじゃない。それを続けていることは強さになるとおもいます」

 

光華は目を見開き、そして少しだけ笑った。

 

「……ありがとう。私、もう少しだけ、自分の言葉を信じてみます」

 

~~

 

火山のふもとにたどり着いた。

 

岩肌が赤く染まり、熱風が頬を焼く。

そんな灼熱の大地に、ひときわ大きな影が現れる。

通常の個体とは違う、筋骨隆々としたサラマンダー――その姿に、空気が一気に緊張する。

 

音華が一歩前に出て、デッキを手にした。

 

「……私のデッキを見せてあげる」

 

火花が舞い、勝負が始まる。

 

先に動いたのは敵。

3ターン目――盤面に現れたのは、《ビックサラマンダー》。

3コスト 1/1。だが見かけによらず、召喚時に相手に5ダメージを叩き出す凶悪なバーン能力。

 

「3ターン目から5ダメージですか……やはり、今までの下級と違いますね」

 

光華が呟く。冗談では済まされない火力だった。

 

そして、音華のターン。

 

彼女の手が、迷いなくカードを置く。

 

「コストチャージ。3コスト消費――《カエルの演奏者 ピッケル》を召喚」

 

《カエルの演奏者 ピッケル》

3コスト 0/1

【効果】召喚時、自身に“楽器”と名の付く装備カードを手札から装備可能。

 

カードの上に、もう一枚重なる。

 

「装備、《回復の笛 ノエル》」

 

《回復の笛 ノエル》

5コスト 装備カード

【効果】装備時、ライフを5回復。装備モンスターに+1/+1。

モンスターが破壊された場合、手札に戻り、さらにライフを1回復。

 

音華の盤面に、装備で強化されたピッケルが佇む。

音もなく、しかし確かな“対抗の意志”を響かせていた。

 

俺はその動きを見て、思わず声を漏らす。

 

「……なるほど。ただのサポートカードじゃない。回復ループを軸にした、生き残るための構成です」

 

音華は口を開かない。

けれど、彼女のプレイングが雄弁に語っていた。

 

それこそが始まり。

 

《ノエル》は手札に戻り、ライフを1点回復。

すぐに次の演奏者――《弦狐ミュゼル》へと装備される。

 

今度は、攻撃用の楽器《火炎の弦 ベルフォル》を装備。

ミュゼルが軽やかに舞い、敵に反撃を加える。

 

破壊されれば、また《ノエル》で回復。

退場と引き換えに、命のリズムを刻み続ける音華のデッキは、犠牲と再生、テンポと回復の交響曲。

 

サラマンダーたちの単発火力では、止められない。

次々と湧き上がる演奏者たちに装備される《ノエル》は、火山の熱に負けぬ旋律を奏でる。

 

やがて盤面は逆転され、音華のモンスターが主旋律となって戦場を制す。

最期のサラマンダーが焼け落ちる頃には、音華のライフはほぼ満点まで戻っていた。

 

誰もがその無駄のないプレイに目を見張った。

 

そして、勝利を奪い取る。

 

戦いの後、焦げた火山岩の上にしゃがみこむ音華の手には、1枚のカードがあった。

 

「このカードは――まぁまぁかな」

 

軽く指先で弾くように持ち上げたのは、《霧獣ミズク》。

3コスト、2/1。破壊されると手札に戻る、しぶといスピリット系のカードだ。

 

「楽器系のカードじゃないんですね」

 

俺が思わず口にすると、音華は肩をすくめながら答える。

 

「これは龍華に報告する時に使うんだよ。カードの枚数=倒したモンスターの数になるから」

 

その説明は理解できた。が、それでも少し疑問が残る。

 

「でも、それなら楽器系のカードにすればよくないですか? デッキにも組めますし」

 

音華は小さく息をついた。そして、カードを胸元にしまいながら静かに呟いた。

 

「……龍華もカードを集めてるんだよ。次のメンバーを作るために」

 

花園の騎士団はカードを集めており、強いデッキを作っている。

そのデッキを渡して、新しいメンバーを作りたいのだろう。

 

「私みたいな底辺でもさ……少しは救われる人間がいたらいいと思ってる」

 

その声音には、いつもの皮肉や不機嫌さはなかった。

むしろ、どこか痛みを知っている者にしか持てない優しさがにじんでいた。

 

「だから……すこしでもデッキを回せるようにしたいんだよ。自分のためだけじゃなくて、次の誰かのためにね」

 

デッキをもらい、力を得ることで生き残った。

その成功体験をいろんな人に渡したいのだろう。

 

「私みたいに――生き残れる人間を、増やしたいんだ」

 

その言葉に、俺は言葉を失った。

 

ただの生存意識。自分の命を守ることだけに集中しているように見えていた彼女。

だがその奥には、過剰なまでの恐れと、そして自分のような人間がもう一人でも救われてほしいという、小さな祈りがあった。

 

意外な一面だった。

 

あまりに人間らしくて――思わず、俺は黙り込んでしまった。

 

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