【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
「次の依頼だ」
龍華が静かに地図を広げ、指先で火山地帯を示した。
「火山地帯にて、サラマンダーの大量発生が確認された。高熱により周辺の森林が枯れ始めている」
「環境への被害が深刻になる前に、速やかな対応が必要だ。
光華・紅狼・音華――お前たち三人に任せる」
「私と氷花は別の案件で動く。今回は同行できない。すまないが、頼んだぞ」
龍華の言葉に、俺は深く頷いた。
「了解しました」
そして、龍華はゆっくりとはなす。
「音華についてだが――彼女は君と境遇が似ている」
その言葉に、俺は思わず目を上げる。
あの鋭い視線の少女が、自分と似ている? そう思った矢先に、続けられた。
「ただ、彼女の生き方は、使命感よりも“生存”に重きを置いている。
誰かのためじゃない。自分が死なないために戦っている」
龍華の視線は、遠いものを見るようだった。
まるで、かつての自分すらそこに重ねているかのように。
「今回、光華と組ませる。だが――衝突するかもしれない」
そこで、龍華ははっきりと俺に目を向けた。
「光華は秩序のために戦っている。音華は、生き残るために牙を研いでいる。
……この二人の理想と現実は、どうしてもすれ違う」
彼女の言葉の意味が、ゆっくりと胸に落ちていく。
「そのときは、君に間に入ってほしい。
両方の気持ち……君なら分かってやれるだろう?」
頼られているのか、それとも試されているのか――
その問いに、俺はただ一言だけ返した。
「……やってみます」
~~
三人が火山地帯の手前、森の入口に集結していた。
今回が初対面となる音華は、ショートヘアに痩せ型の少女。
その瞳に浮かぶのは、不安でも敵意でもなく――ひたすら生きることへの固執だった。
「……よろしく」
低く短く、それだけ。まるで他人との距離を測るような口調だ。
俺たちも軽く会釈を返す。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
光華が、いつものように明るく挨拶を交わす。
だがすぐに、今回の敵――サラマンダーデッキの話題へと移る。
「サラマンダーはバーン系ですね。召喚時に1点与えてくるモンスターが多いです。呪文も炎ダメージ主体なので、テンポ勝負になります」
「私は光属性で回復が得意なので、バーンにはある程度対応できます」
光華が穏やかに語る一方、音華は不愛想に呟いた。
「……森にまで出てきてる下級サラマンダーでいい。そいつらだけ狩る」
「でも、それだけじゃ森が燃え尽きますよ。奥にいる中型や群れの本体を潰さないと――」
光華のまっすぐな言葉に、音華は食い気味に返した。
「それだけでいいって、龍華さんは言ってたよ」
その声は、かすかに震えていた。
「私は……生き残りたいんだ」
その一言に、俺は思わず息をのんだ。
やせ細った身体、迷いない目。
彼女も俺と同じだ――この荒れた世界で、生き延びることが第一の目的になっている。
「……わかった。それで行こう」
俺が二人の間に割って入った。
「音華さんは、森のサラマンダーを十体倒したら、先に戻ってていい。
俺と光華で奥の火山地帯、ちょっと強そうなヤツを見てくる」
「……それでいい」
音華は少しだけ目を伏せ、頷いた。
~~
俺たちは、森の周辺に出没していた下級のサラマンダーたちを、ひとつずつ狩っていた。
ライフは10点。油断すれば一瞬で焼かれる。
だが、それでも盤面は明確に俺たちの優勢だった。
相手の場にはサラマンダーがたった1体。
それに対し、俺の場には4体の《紅蓮獣》が並び、すでに吠える準備を整えていた。
「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚!」
6コスト・5/5。
そして、その真価は召喚時効果――
味方の獣に+1/+1の全体強化。
その瞬間、俺の場に並んだ《紅蓮獣》たちが一斉に咆哮を上げた。
まるで獲物を見つけた狩猟の群れのように、真紅の力が溢れ出す。
火山地帯に響く獣たちの咆哮。
その威圧感に、敵のサラマンダーは怯えたように身を縮め――次の瞬間には、盤面から消し飛んでいた。
圧倒的な展開力、そして強化からの一斉攻撃。
数の力で押し潰す。
それが《紅蓮獣》――獣のデッキが持つ、本当の牙だった。
「盤面さえ奪えば、何とかなりますね」
静かに、けれど確信を持って光華が言った。
《聖焔衛》を操る彼女らしく、リソースと秩序を何より重視する戦い方だ。
たとえバーンでライフが削られようと、場を支配していれば逆転の芽は必ず残る。
「ライフを減らされても、盤面の管理を大切にしていきましょう」
その声には、焦りも、怯えもなかった。
目の前では、火の粉を纏ったサラマンダーたちが吠えている。
1体、また1体と現れるも――それを上回る速度で、俺たちの《紅蓮獣》が狩り取っていく。
レオン・ファングの咆哮はなおも響き、
強化された獣たちが焼けた大地を蹴りながら、次々と火の精を葬っていく。
そして、森の中に蠢いていたサラマンダーたちは、ついにすべて沈黙した。
燃え残った木々の隙間に、敵の気配はもう感じられない。
炎の熱も、徐々に引いていく――
「……終わりましたね」
光華が静かに言った。
「はい。こちらも確実に十体以上、狩れています」
俺も、獣の息遣いが落ち着いたのを確認しながら答える。
音華は一歩前に出ると、ふっと息をついた。
その顔に表情の変化は乏しいが、どこか安堵の色が見えた。
「音華さん、お疲れ様です。報告をお願いしますね」
森の火は完全に鎮まり、俺は振り返って声をかけた。
音華は足を止めると、少しだけ眉をひそめて俺を見た。
「……帰らなくていいの?」
彼女の声には、わずかに疑念と――どこか、寂しげな色が混じっていた。
生き延びることに執念を持つ彼女らしい問いだった。
「たしかに、生きた方がいいとは思いますよ」
「でも……この世界が、ほんの少しでもマシになってくれたらって、思うんです」
俺は正直にそう答えた。どこまで届くかはわからないけど、嘘じゃない。
「……自分のために生きればいいじゃん」
音華は目を伏せてつぶやいた。
「それは、間違ってないです。正解ですよ」
俺は穏やかに肯定した。
「僕も自分のために動いてます。緑が減るのがいやですからね」
「燃えた木を見るたびに、心がざわつくんです」
彼女は少しだけ目を見開いた。
「……そういうことじゃなくて……」
「死ぬことが怖くないの……?」
声が小さくなった。その一言には、言葉以上の重さがあった。
俺はしばし黙って、空を仰いだ。夕焼けの色が、どこか冷たく感じられた。
「怖いですよ。常にびくびくしながら生きてきました」
「モンスターに襲われるたびに、明日が来ないかもって思ってました」
「この仕事をしてる時点で、死と毎日向き合ってるようなものです」
「それに……下級のサラマンダーでも、運が悪ければ死んじゃいますし」
ここで言葉を切って、ゆっくりと彼女を見た。
そして、静かに言葉を続けた。
「ただですね――」
「それが自己満足だとしても、いいんです。自分が納得できるから」
「本当に……いらいらするな」
音華は唇を噛みながら、火山の方角を睨みつけるように見つめた。
「わかった。火山のサラマンダーも倒そう」
ぽつりと、でも確かな決意を込めて言った。
「……なんで、こんなことしようと思ったんだろう」
「きれいごとだけだったら、あのとき、すぐに帰れたのに」
その横顔には怒りと困惑、そして――微かな迷いが入り混じっていた。
きっと彼女の中でも、何かが変わり始めている。
誰かの言葉で、誰かの行動で、閉じていた心の扉が、少しだけ開いたのかもしれない。
だが、それを認めたくないという意地も、確かにそこにはある。
音華はいら立ちを隠さず、地面の小石を踏みつけながら吐き捨てる。
「その理想論だけじゃ、動かないんですね」
光華は静かに立ち止まり、音華の背中に語りかけた。
「……そうかもしれません」
「狼華さんの意見には、相手の気持ちが入ってた。だから通じたんですね」
「これこそ、生まれの違いというものですかね」
その言葉には、拗ねたような棘と、どこか自嘲めいた響きがあった。
光華はゆっくりと歩み寄り、隣に並んだ。
「理想だけじゃ人は動かない。でも、理想なしじゃ世界は変わらない」
光華は少しだけうつむいて、続けた。
「狼華さんの言葉には……相手の気持ちが入ってたんだと思います。だから、通じたんですね」
「……」
「それって、やっぱり生まれの違いなんですかね。私は、きれいごとばっかりで」
その言葉には、自嘲と寂しさが混じっていた。
俺は一瞬立ち止まり、彼女を見た。
「気持ちが通じるかどうかに、生まれは関係ないと思います。けど――“誰が言うか”で、言葉の重みは確かに変わりますが」
「……」
「今はまだ“きれいごと”ですよね?」
「たぶん、そう思う人もいます。でも、きれいごとを信じ続けるって、簡単なことじゃない。それを続けていることは強さになるとおもいます」
光華は目を見開き、そして少しだけ笑った。
「……ありがとう。私、もう少しだけ、自分の言葉を信じてみます」
~~
火山のふもとにたどり着いた。
岩肌が赤く染まり、熱風が頬を焼く。
そんな灼熱の大地に、ひときわ大きな影が現れる。
通常の個体とは違う、筋骨隆々としたサラマンダー――その姿に、空気が一気に緊張する。
音華が一歩前に出て、デッキを手にした。
「……私のデッキを見せてあげる」
火花が舞い、勝負が始まる。
先に動いたのは敵。
3ターン目――盤面に現れたのは、《ビックサラマンダー》。
3コスト 1/1。だが見かけによらず、召喚時に相手に5ダメージを叩き出す凶悪なバーン能力。
「3ターン目から5ダメージですか……やはり、今までの下級と違いますね」
光華が呟く。冗談では済まされない火力だった。
そして、音華のターン。
彼女の手が、迷いなくカードを置く。
「コストチャージ。3コスト消費――《カエルの演奏者 ピッケル》を召喚」
《カエルの演奏者 ピッケル》
3コスト 0/1
【効果】召喚時、自身に“楽器”と名の付く装備カードを手札から装備可能。
カードの上に、もう一枚重なる。
「装備、《回復の笛 ノエル》」
《回復の笛 ノエル》
5コスト 装備カード
【効果】装備時、ライフを5回復。装備モンスターに+1/+1。
モンスターが破壊された場合、手札に戻り、さらにライフを1回復。
音華の盤面に、装備で強化されたピッケルが佇む。
音もなく、しかし確かな“対抗の意志”を響かせていた。
俺はその動きを見て、思わず声を漏らす。
「……なるほど。ただのサポートカードじゃない。回復ループを軸にした、生き残るための構成です」
音華は口を開かない。
けれど、彼女のプレイングが雄弁に語っていた。
それこそが始まり。
《ノエル》は手札に戻り、ライフを1点回復。
すぐに次の演奏者――《弦狐ミュゼル》へと装備される。
今度は、攻撃用の楽器《火炎の弦 ベルフォル》を装備。
ミュゼルが軽やかに舞い、敵に反撃を加える。
破壊されれば、また《ノエル》で回復。
退場と引き換えに、命のリズムを刻み続ける音華のデッキは、犠牲と再生、テンポと回復の交響曲。
サラマンダーたちの単発火力では、止められない。
次々と湧き上がる演奏者たちに装備される《ノエル》は、火山の熱に負けぬ旋律を奏でる。
やがて盤面は逆転され、音華のモンスターが主旋律となって戦場を制す。
最期のサラマンダーが焼け落ちる頃には、音華のライフはほぼ満点まで戻っていた。
誰もがその無駄のないプレイに目を見張った。
そして、勝利を奪い取る。
戦いの後、焦げた火山岩の上にしゃがみこむ音華の手には、1枚のカードがあった。
「このカードは――まぁまぁかな」
軽く指先で弾くように持ち上げたのは、《霧獣ミズク》。
3コスト、2/1。破壊されると手札に戻る、しぶといスピリット系のカードだ。
「楽器系のカードじゃないんですね」
俺が思わず口にすると、音華は肩をすくめながら答える。
「これは龍華に報告する時に使うんだよ。カードの枚数=倒したモンスターの数になるから」
その説明は理解できた。が、それでも少し疑問が残る。
「でも、それなら楽器系のカードにすればよくないですか? デッキにも組めますし」
音華は小さく息をついた。そして、カードを胸元にしまいながら静かに呟いた。
「……龍華もカードを集めてるんだよ。次のメンバーを作るために」
花園の騎士団はカードを集めており、強いデッキを作っている。
そのデッキを渡して、新しいメンバーを作りたいのだろう。
「私みたいな底辺でもさ……少しは救われる人間がいたらいいと思ってる」
その声音には、いつもの皮肉や不機嫌さはなかった。
むしろ、どこか痛みを知っている者にしか持てない優しさがにじんでいた。
「だから……すこしでもデッキを回せるようにしたいんだよ。自分のためだけじゃなくて、次の誰かのためにね」
デッキをもらい、力を得ることで生き残った。
その成功体験をいろんな人に渡したいのだろう。
「私みたいに――生き残れる人間を、増やしたいんだ」
その言葉に、俺は言葉を失った。
ただの生存意識。自分の命を守ることだけに集中しているように見えていた彼女。
だがその奥には、過剰なまでの恐れと、そして自分のような人間がもう一人でも救われてほしいという、小さな祈りがあった。
意外な一面だった。
あまりに人間らしくて――思わず、俺は黙り込んでしまった。