【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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7話 湖の敵

音華と並んで、湖へと向かっていた。

夏の陽射しに照らされた湖畔の道を、俺たちは無言のまま歩いていた。

この先に待つのは、水を独占するモンスターたち。

人々の生活を脅かす存在を前に、俺たちは静かに気配を研ぎ澄ませていた。音華と並んで歩く道中、周囲にはかつて人が使っていた水汲み場の跡や、壊れた水車の名残が点在していた。

 

今ではそのどれもが、枯れかけたまま、ただ寂しげに風にさらされている。

 

「ここのモンスターに水を占領されているって……この辺の集落は、大変だ」

音華がぼそりとつぶやいた。

 

「そうですね」

俺は短く返す。

 

「モンスターの情報は……なし、か」

湖の表面を眺めながら、音華は少し眉をひそめた。

 

「私が犠牲になりますので、音華さんが情報を集めてください」

俺は静かに言った。

「たぶん、私よりも強いから……一番正しい選択だと思います」

「それに……火山の時、身代わりになってもらいましたので」

 

その言葉に、音華は一瞬だけ目を細める。

 

「了解」

それだけを言って、彼女は背を向けた。

 

何の装飾もない、短くて強い一言。

だが、その中には確かに“信頼”と“覚悟”が滲んでいた。

 

「あんた、どうして助けようと思っているの?」

音華がふと問いかけた。湖の光が彼女の横顔を静かに照らしている。

 

「私と同じ境遇で、集落からの成り上がりでしょう」

「生きたいって気持ちは過剰にあると思います」

「ただ、気分の悪い世界に生きたくないってことでしょうかね」

 

「そうか。なるほどね。それはわかるかも」

 

自分たちがどれだけ足掻いても、世界はすぐには変わらない。

それでも、目の前の誰かを救うことはできる。

そのひとつひとつが、いつか世界の形を変えるかもしれない。

――そう信じていなければ、とっくに折れていた。

 

~~

 

湖のほとりに着いたとき、重たい空気が張り詰めた。

 

水面の向こう――

複数のリザードマンが、ひとりの人間を弄ぶように蹴り倒していた。

甲高い笑い声が風に乗って届き、耳を刺す。

 

「あいつらが、水を占領しているのか……」

音華が低くつぶやいた。

 

「どうする?相手のデッキの特徴もわからない。だけど――倒しておくか?」

 

その言葉に、俺は一歩前へ出た。

 

「私が倒します」

 

迷いはなかった。火山で彼女に守られた命。今度は自分が、誰かを救う番だった。

 

音華は一瞬だけこちらを見つめ、頷いた。

 

「……わかった。無理はしないで。援護できるなら、すぐに行く」

 

湖の風が揺れ、戦いの幕が静かに上がる。

 

「助けに来ました!!」

彼女の声が湖畔に響いた。

傷ついた人間に視線を送りながら、音華は一歩踏み出す。

 

「そこのモンスター、すぐに倒しますね!!」

 

カードが宙を舞い、バトルが開始された。

 

相手の初動は、静かな布石。

《卵トークン》――0/1の無力な存在。

だが、1ターンの猶予を経て、殻を破るその姿は変貌を遂げる。

 

ターンが進むごとに、盤面は静かに、だが確実に侵食されていく。

《リザードマン・ブレイカー》×4。いずれも3/3へと進化したトークンたちが並ぶ。

 

対するこちらの盤面には、炎を纏う《紅蓮獣》たちが並ぶ。

その瞳には恐れはなく、ただ戦いの合図を待っている。

 

「《紅蓮獣レオン・ファング》、召喚!」

 

6コスト、5/5。

一見して大型ではあるが、それだけでは戦況を変えられない。

 

だが――その真価は召喚直後に現れた。

 

「効果発動! 味方の獣に+1/+1!」

 

瞬間、紅蓮の群れが咆哮を上げる。

それは祝福の咆哮か、あるいは捕食の雄叫びか。

4体の《紅蓮獣》たちが、一斉にステータスを強化され、戦場を支配し返す。

 

炎が空気を裂く。

力が傾く。

戦況が塗り替えられる――たった一手で。

 

リザードマンを倒し終えると、音華たちは長居を避けてすぐにその場を離れた。

湖畔の空気は重く、周囲にはまだ怯えの気配が残っている。

 

「大丈夫ですか?」

 

音華が静かに問いかける。少女の声に、軽く震えた返事が返ってきた。

 

「……はい」

 

服は泥で汚れ、腕にはかすり傷がいくつもある。

それでも、少女は立ち上がろうとしていた。

 

「事情とか、話すことはできますか?」

 

音華の問いに、少女はうなずいて語り始めた。

 

「リザードマンに……水源を占領されるようになって、周りの集落は、もう……みんな去ってしまって。私は一人だけ残って……襲撃してみたんですけど、ボロボロにされてしまって」

 

かすれた声が、かえってその重さを強調していた。

音華は無言で手を伸ばし、少女のデッキを受け取る。

 

「ちょっと、見せて」

 

数枚をぱらぱらとめくる。

そして、ふっとため息をついた。

 

「……ふぅ~ん。バニラばっかのデッキか」

 

厳しい口調だったが、どこかに同情のにじんだ視線。

 

「……バカみたいに、特攻してるんだね。こんな構成じゃ……勝てるわけない。奇跡的な事故でも起きない限り」

 

少女はうつむいた。悔しさか、恥ずかしさか、感情の色は混ざっている。

 

少女は声を震わせて、問いかけた。

 

「どうして……馬鹿にするんですか?」

 

その言葉には、悔しさ、怒り、そして哀しみがにじんでいた。

音華は眉ひとつ動かさず、静かに答えた。

 

「そうだね。無謀だから――だよ」

 

バッサリとした口調。だが、それは突き放すのではなく、正面から受け止めるような真剣さがあった。

 

「こんなところで、貴重なデッキを消耗するなんてもったいない。自分の命を削ってまでぶつける相手じゃないよ、こんな連中は」

 

少女は何かを言いかけたが、音華が続ける。

 

「だからこそ、私たちに託してほしい。そのカードも、その思いも。そうすれば――少しは、ましな世界に変えてやる」

 

「そんなこと……できません。カードを集めるのに、どれだけ時間がかかったか……」

 

少女の声が震えた。執念とも呼べる想いがそこにはあった。

音華はふぅ、と息を吐く。

 

「……わかった。じゃあ、そこのリザードマンを5体倒してあげる。それで、交渉成立にしよう」

 

「え?」

 

「私はまた来る。あんたがここにいるなら、そのたびに敵を減らしてやる。それでいい?」

 

少女は目を見開いた。信じられないというより、戸惑いに近い。

 

「私より強い人が、ここには来るから。安心して」

 

少しだけ、音華が笑ったように見えた。

その笑みが、少女の頑なな心を、わずかに緩ませた。

 

「……わかりました」

 

少女はようやく、うなずいた。

それは誰かを頼ることを、ほんの少しだけ許した瞬間だった。

 

~~

 

リザードマンの根城――

水辺にうごめくその影へ、私たちは迷いなく向かっていく。

 

「いくよ」

 

音華がデッキを握りしめる。その姿には、かつての荒んだ表情ではなく、使命感すら宿っていた。

私は頷き、カードをセットする。

 

カードが盤面に叩き込まれるたび、火花のような光が走る。

《紅蓮獣》の牙が、

音華の旋律が、

次々に敵の装甲を貫いていく。

 

――一体、また一体。

 

「本当に……簡単ですね」

私は思わず口にしていた。

 

「まあ、雑魚だし」

音華が肩をすくめるが、手は休めない。

 

戦闘というより、掃討戦だった。

リザードマンたちは、戦う意志も連携も感じられず、バラバラに襲いかかっては、ただ焼かれ、粉砕されていく。

 

気が付けば、あたりは静まり返っていた。

湖に響いていたうめき声も、今はもう聞こえない。

 

「10体……超えてるね」

私は息を整えながらつぶやく。

 

「もう一声いく?」

「やめときましょう。やりすぎも毒です」

 

帰路につこうとしたその時――

空気が変わった。湖畔に漂う静けさの中、重く、ぬるりとした気配が忍び寄る。

 

バシャッ、と水を踏みしめる音。

茂みを押し分けて現れたのは、ひときわ異様な存在だった。

 

鱗は深紅に染まり、筋肉は鎧のように膨れ上がっている。

人間のような眼光を放つ、その異形のリザードマンは、明らかに“ただのモンスター”ではなかった。

 

「ほぉ~……最近水場が静かだったと思えば、少し荒らしにきた人間がいるとはな」

 

喉の奥で笑いながら、そいつは言葉を放つ。

低く、濁った声。それは間違いなく“人語”だった。

 

「俺が倒してやる。カードでな」

 

「しゃ、喋った……!?」

 

「人語を話すモンスター……!?」

光華の顔が強張る。音華も、眉をひそめてわずかに後ずさる。

 

「明らかにレベルが違う」

俺は小さくつぶやき、手にしたデッキを握り直す。

冷や汗が背中を伝う――

これは、今までの相手とは“別格”だ。

 

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