【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件   作:銀層

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8話 成長

俺が一歩、前に出た。

その目は揺るぎない意志を湛えている。

汗ばむ手のひらを握りしめ、デッキを構えるその姿に、迷いはなかった。

 

「音華さん、私が行きます」

 

静かに、だが強く響く言葉だった。

あの巨大なリザードマンを前にしても、怯える気配はない。

 

「勝ってみせますから」

 

振り返らず、背中で語るように彼女は言った。

 

一瞬の沈黙――

音華は肩をすくめ、小さく笑った。

 

「……分かったよ」

「じゃあ、私は少し遠めから見ておくよ」

 

声ににじむのは、少しの不安と、それ以上の信頼。

“無茶をするなよ”という想いは言葉にせず、ただ視線だけで伝える。

 

戦いは静かに、だが確実に、狂気の段階へと突入していた。

序盤は既視感のある展開――卵を孵化させ、リザードマンを展開するだけの構図。

だが、7ターン目。その瞬間、戦場の空気が変わった。

 

「ここからが俺の力だ」

 

モンスターは笑う。いや、それは嘲笑だ。

《卵トークン》――ただの0/1の無力な存在。

しかしそれが、たった1枚破壊されるだけで、地獄の門が開かれる。

 

《卵の大増殖》

効果:卵トークン1体を破壊することで、《卵トークン》を10体まで召喚する――

 

光華の目の前に、卵が次々と這い出す。脈動し、うごめき、孵化の刻を待っていた。

そして、次のターン。

孵った10体の《リザードマン・ブレイカー》が、すべて3/3へと変貌した。

 

重く、濃く、沈むような絶望。

この盤面を、果たして誰が返せる?

 

だが――光華は、動じなかった。

その指が、静かにカードを置く。

 

「偉そうにしていた割には……これくらいしかできないんですね」

 

《紅蓮獣バーサク・タイガー》

6コスト/3/3

効果:召喚時、相手モンスターすべてに1ダメージ。破壊した数だけ、相手ライフに追加ダメージ。

 

――虎が咆哮した。

 

10体のリザードマンたちが、一斉に吹き飛ぶ。

その瞬間、破壊数は10、つまりライフに10点の直接ダメージが突き刺さる。

 

「10体、卵トークンを破壊。そして……10点食らってください」

 

火柱が立ち昇るような一撃。

卵の軍勢を一瞬で焼き払い、リザードマンのライフは0に叩き落された。

 

勝負は終わった。

静かに、確実に、そして美しく――勝利だった。

 

戦いは終わった。

膨れ上がったトークンの群れは、一瞬の咆哮とともに燃え尽き、ただの灰と化していた。

 

俺は静かにカードを片づけながら、地面に転がる光の粒に目を留める。

その中でも、ひときわ眩く輝くアイテムがあった。

 

《命結石(ライフリンク)》

それは、一度だけ“敗北”を帳消しにする、奇跡の結晶。

戦闘で負けても、カードを失わずに済む――命を繋ぐ最後の保険だ。

 

「……いいね。カードとドロップ品、どっちも上々だ」

 

俺は手に取り、光の石をポケットに収める。

貴重な品だ。滅多に手に入らない。今後の戦いで、確実に生死を分ける。

 

音華も、俺の様子を見て小さく頷いた。

 

「それ、かなり貴重なやつですね」

 

「うん。正直、これひとつで命が救われる場面もあるからね。こういうのは、ありがたく持ち帰るに限る」

 

あたりを見回す。

死骸と、干上がった卵の殻。空気にただよう、焼け焦げたにおい。

 

「とりあえず、ここから先は危険すぎるな。人語を話すモンスターが出てきたってことは、これより上の存在も……いる」

 

「……確かに。言葉を理解するということは、戦略もあるってことですしね」

 

「今は、引き際ってやつだね」

 

戦利品を確保し、情報を携えて帰還する。

 

湖の岸辺、夕日が水面に赤く揺れる頃だった。

俺たちは、再びあの少女と出会った。

 

ボロボロになった制服の袖を握りしめながら、少女は小さく頭を下げていた。

 

「……湖の安全は、完全に保証できるわけじゃないけど……」

 

音華が、静かに前に出る。そして懐から1枚、また1枚とカードを取り出していく。

合わせて11枚。すべてリザードマンのドロップ品だった。

 

「リザードマン10体と、人語を話すやつを倒した。これが、その証拠」

 

彼女の声はぶっきらぼうながらも、どこか誇りがにじんでいた。

 

少女の目が大きく見開かれる。

 

「本当に……これだけ倒したんですか……?」

 

信じられないといった様子だったが、それでも納得したように小さく頷いた。

そして、胸元から1つのデッキケースを取り出す。

 

「……わかりました。これで、私は救われました」

 

40枚。少女が命と時間を削って築き上げた、大切なカードたち。

それを、彼女は震える手で差し出した。

 

音華は受け取り、無言でデッキを確認する。俺は彼女の横で、少女に笑顔を向けた。

 

「また、ここに来るよ。次は、もっと平和な顔を見せられるといいな」

 

少女は小さく笑った。その笑顔には、わずかながら希望が宿っていた。

 

こうして――

湖を占領していたリザードマンの脅威は、ひとまず去った。

水は、再び静かに流れ始めていた。

 

~~

 

館へと戻ると、静寂を破るように、龍華の驚きの声が響いた。

 

「……人語を話すモンスターを倒しただと!?」

 

その目は真剣そのもので、口元に緊張すら浮かんでいた。

俺たちは、確かな証拠を差し出した。

 

《命結石(ライフリンク)》

一度の敗北でもカード化を防ぐ、極めて貴重なドロップ品。

これを所持しているだけで、相手がどれほど危険な存在だったかが分かる。

 

龍華はそれを手に取り、静かに息を吐いた。

 

「……確かに。これを落とすのは、ただの雑魚ではない」

 

しばし沈黙。

やがて、彼はふっと微笑を浮かべた。

 

「君たちは、ずいぶん成長したな」

 

その言葉には、率直な賞賛と、わずかな戸惑いが混じっていた。

 

「嬉しいよ。今日はしっかり休んでくれ。体を壊しては意味がないからね」

 

そう言って、背を向ける。

だがその内心では、別の思惑がめぐっていた。

 

(……ここまで力をつけたか。依頼の難易度も、少し上げてもよさそうだな)

(だが、せっかく育った人材を無闇に失うのも、惜しい)

(とりあえずは今まで通りの任務を与えて、その先は彼女たち自身に判断させるか)

(……これで、天界からの評価も多少は上がるはずだ)

 

扉が閉まり、館の空気は再び静けさを取り戻す。

だが、確かに風向きは変わりつつあった。

 

少女たちの成長と共に、運命の歯車もまた、静かに回り始めていた――。

 

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