その刃、天へ届く。
二天一龍 ムサシードドラゴン
空から龍が降りてくる。空を泳ぐように、身体を畝らせて龍がやってくる。翼を持たない、いかにも東洋の龍といった見た目だ。紅白の着流しを羽織っている。身体中に刻まれた傷跡は歴戦の証。かの龍こそ大剣豪、無双の剣術者。
「続いて手札より「
空から降ってきた愛刀を掴み取るムサシードドラゴン。多分もう1回使ってくるな。めちゃめちゃ手札あるし。
「更にもう1枚「
やっぱりな。空からもう一振りの刀が落ちてくる。大地にそのまま突き刺さったそれを、ムサシードが掴む。
「ムサシードドラゴンの常時発動効果①。このモンスターは
大小の刀を握り、ムサシードが吼える。壮観だな。ムサシードのパワーは1900。「無銘鉄重」が+700、「了改」が+800……合計で3400だ。まさに圧倒的。だが、これで終わりじゃない。
「ムサシードドラゴンの常時発動効果②。このモンスターが
「これではまだ、貴様の付け入る隙がある。念には念を入れて、手札よりスペルカード「五輪の書」を発動」
「……っ、ふぅー」
よーし、来たなバカカード。それを使わない事、それだけが俺の勝ち筋を潰す一手だったのになぁ。まあ、絶対使うと思ってたよ……。保守ジジイは常套手段に拘って、不必要なほど念入りに足場を固める……固めてくれるってな。よかったよかった。
「効果により、フィールドの「ドラゴン族」「武仕」を持つモンスターのパワーを「二天一龍 ムサシードドラゴン」と同じにする」
ムサシードが再び吼えるとそれに呼応するかのように、リザード達からオーラが溢れる。これにより、ジジイのフィールドにいる7体のモンスター全てが4400のパワーを持つ。まさしくパワーカード、ゴリ押しの極みだ。
だが、「五輪の書」には強烈なデメリット効果がある。それこそが付け入る隙。
「この効果発動後、儂のモンスター全ては攻撃権を失う。が、手札事故でまともに動けん貴様に我が「
確かに、俺以外なら無理だろうけどね。生憎、悪魔族に
逆に相手の
「アタックスキップ、ターンエンド。存分に悩み、小細工を弄すがいい。その次のターンにて、全て斬り捨ててくれよう」
「逆に斬り捨ててやるよジジイ」
「なに?」
「ターンスタート。ドローシーン、リカバーシーン、メイン。召喚条件は自分フィールドにモンスターがいない上で、相手のフィールドにモンスターが3体以上。クリア」
「其は姦淫の化身、耽溺の悪魔。思うがままに、赴くままに性を貪るがいい。天から裁きが降り注ぐまで。「
黒いモヤが集まって人の形を成す。
モヤから現れたのは、うさ耳カチューシャとバニースーツを着用し、その豊満な肉体を惜しげも無く晒している女の悪魔だった。背に生えた大きな翼を広げながらリザード達に投げキッスまでしている。
「……「
「召喚時効果を発動する。元々のパワーが1700以下の相手モンスター3体に悪魔族を付与し、さらにゲーム終了までコントロールを得る。対象は足軽大将、戦国竜騎、剣豪リザードだ」
「は」
アルスモディオスがジジイのフィールドにふーっと吐息を吹きかける。すると、息を荒くした対象モンスター達がアルスモディオスの傍に駆け寄って跪く。下手人の女悪魔は跪き、服従したリザード達の頭を撫でながら微笑んだ。
「き、貴様……っ!」
「続いて、手札から「
「させんっ!
釣れた。
「
①このターンの間、相手は手札から効果を発動できない。
②このターンの間、自分の受けるダメージは相手プレイヤーが肩代わりする。
③相手のモンスター1体の効果を無効にする。この効果は永続する。
俺は①を選択する。このターンの間、手札から効果を発動できなくなる為、「徹底好戦」は無効になる」
「おのれ……!」
「もうないな?じゃあ効果処理。「
悪魔がジジイの提示した「徹底好戦」を墓地へ放り投げて消えていく。その直後、手札から新たな悪魔が現れた。
黒馬に跨る騎士のような見た目の悪魔。異国の悪魔達を統括し従える、地獄の大侯爵だ。
「キルマリス、召喚時効果発動。デッキを上から3枚破棄し、相手フィールドで最もパワーの高いモンスターと、同じパワーになる」
「……儂のモンスターは全て同じパワー数だが、対象はどうするのだ」
「ドラゴンゾンビトークンで」
「ぬぅ……!」
ムサシードを対象にするわけねーだろ、よく調べてんだよアンタとアンタのデッキは。
ムサシードは相手の効果対象となる時、
さーて、破棄した3枚の内容は……ヴァール、浄化の光……あ、「
「さて、これでキルマリスはドラゴンゾンビトークンと同じパワー……すなわち4400となる。さらに、悪魔族モンスターの効果で破棄された「
「け、剣豪リザード……!」
フィールドから、歯や眼球といった冒涜的な装飾がされた大門がせり出す。弾けるように開いた門の内側から、夥しい数の手が剣豪リザードを捕らえて内側へ引きずり込んだ。直後、肉塊がジジイへ発射される。これでジジイのライフは600ぽっちだ。
「ぐぬぁっ!?」
「メイン終了。アタックシーン。行け、アルスモディオス!攻撃時効果、パワー1700以下の相手モンスターのコントロールを得る!対象はヤモリザード!」
翼を広げてアルスモディオスが宙へ舞い、吐息をヤモリザードへ吹きかけた。吐息の直撃を受けたヤモリザードは、息を荒くしながら俺のフィールドへ移動し、色欲の悪魔へ傅く。女悪魔は頭を垂れる竜人の頭を一撫でし、ジジイのフィールドへ突撃した。
この効果は、召喚時効果と違って悪魔族は付与できないが……まぁ些細なことだ。
「売女悪魔がぁッ!!斬り捨てろ、ムサシードドラゴン!」
その売女に良い様にされてるのが、アンタのモンスター達なんだけどな。
アルスモディオスのパワーは1700。ムサシードとのパワー差は実に2700。当然抵抗も出来ず、アルスモディオスは斬り捨てられる……その瞬間。
「なっ、リザードラグーンッ!?」
振るわれる双刃とアルスモディオスの間に割って入った戦国竜騎。ワイバーン諸共、槍を構えた竜人が両断される。命を賭して悪魔を守ったのだ。
「アルスモディオスの効果。戦闘で破壊される時、コントロールを奪っているモンスターを1体墓地へ送る事でフィールドに残る」
「外道めがァァアッ!!」
そんな声張ったら血管切れちまうよ、抑えて抑えて?
俺は抑えられないけどね。笑いを
「イヒヒィッ!!行けリザード共!かつての主に刃を向けろ!!!!」
先ず駆け出したのは足軽大将。立ち塞がったドラゴンゾンビトークンと相討ち。
続いて攻撃したのはヤモリザード。鉄砲を放ち、迎撃にやってきたドラゴンゾンビトークンの頭を吹っ飛ばすも、それでも止まらないトークンに道連れにされた。攻撃時に1枚ドローはありがたいね。……ん、使える使える。……破壊時は意味ないし発揮しないでおこう。
さて!
「キルマリスで攻撃!効果により、同じパワーの相手モンスターと戦闘した時、元々のパワー分のダメージを相手に与える!キルマリスの元々のパワーは700…………つまり、これで
「バカなっ!!」
ムサシードは主を守る為に飛翔し、向かって来る騎兵へ斬り掛かる。それが主へトドメを刺す行為だとも知らずに。
グレートソードを振るって二刀の攻撃を凌ぐキルマリス。唐突に兜の奥に隠された瞳が紅く光り、眼からビームが放たれる。向かう先は当然ジジイ。ムサシードは咄嗟のことに反応できない。
目の前で、主の敗北を見届けな。
「ぬォおおおおおおおああああああッ!!!」
「……勝負あり!勝者、悪末 戒!」
ジジイの絶叫が響き、ゲームが終わる。俺の勝ちで。
「アンタの敗因はひとつだけ。セオリー通りに動き過ぎで、定石に囚われ過ぎ。保守ジジイらしいと言えばそうだけどさ。どう動くか分かってるんなら、格上相手だろうが楽に対処出来るよ」
初期手札にアルスモディオスとキルマリスの2枚があった時点で、この勝ち方は決めてた。ほんと、「五輪の書」さえ使わなければなぁ。あのターンで攻撃してればサクッと俺の負けで終わってたのに。グレイモールもフェルネクスも居なかったしな。
引きの良さを考慮すれば相手の手札も大体読める。セオリー通り、定石大好き、ガチガチのマニュアル人間なら当然過去の試合と同じ動きで盤面を整える。
そこまで分かれば、あとは俺の手札の問題。それすら解決するなら、この結果は必定と言ってもいい。……途中の「
項垂れていたジジイが、ゆっくりと俺へ顔を向ける。
「…………よかろう。お主の言い分を聞こう。と言っても、予想はつくがの。退学届の取り下げじゃろう?」
「いいや?」
「は」
「は?」
審判やってた黒宮先生とジジイが声を揃える。
「俺は受け入れるよ退学届。くれよ、名前書くからさ」
「待て……待て待て待たんか!!」
「へ?」
血相変えて俺へ詰め寄るジジイ。黒宮先生も同じく、だ。なんだよもう。
「貴様は……何のために!何のために
「貴方は勝ったのよ?なのに何故受け入れるの!?」
「何のために、何故?決まってる」
「屈辱を味わわせるため」
「な、に?」
「プレイヤーにとって
…………なら、プレイヤーへの最大の屈辱とは何か?
完膚なきまでに自分を叩きのめした勝者にこの構造を無視され、敗者たる自分が提示していた要求を呑んで貰うこと……特に、保守派のアンタには効くんじゃないかってね」
「なんという……」
「俺は許した覚えはないぞ。両親への言葉を」
俺の事をどうこう言われるのは良かった。我慢できる。
両親への中傷だけは我慢ならなかった。だから、バトモン部に入らなかった。
「待って悪末君、それについては理由が」
「何のだよ、理由がありゃその人間の両親を中傷していいので?そりゃ良いや、教育者の鑑とでも呼びましょうかね」
何はともあれ、俺はこの学園に対して全く未練がない。そちらから出ていってくれ、と言われるならそうしてやるさ。高校中退、最終学歴中卒になるのがちょっとアレだけど。
「…………いや、良い。元より敗者の儂に選択権はない……」
懐から退学届を取り出すジジイ。よーし、それで良いんだ。
さーて、これからの人生どうしようかな〜と。退学届に名前を書きながら考えるのであった。
生殖とは、種の存続に欠かせないもの。
繁殖とは、生物の繁栄に欠かせないもの。
それらの域を超えた時、性欲は罪となる。
悪魔の囁きが聞こえるようになり、次第に自制が出来なくなって、堕落の一途を辿る。
そうして、ひとつの街が火と硫黄に沈んだ。
悪魔は嗤いながらそれを見ていた。