こちらはそちらを攻めない。だから、そちらもこちらを攻めない。
OK?では、これにて条約締結と相成りました。
それでは皆々様、次の戦争にてお会いしましょう。
不可侵条約
「おれのターンだァ! ドロー!」
引いたのはデソード。使い勝手の良い召喚時効果を持つ、「
「リカバー、メイン!」
亡者の腕がおれのデッキを剥ぎとる。内訳はライデス、「
「条件は墓地に「
フィールドに骸の山と血の河が現れる。「
「配置時効果ァ!手札のパワー500以下の「
死体の山の中から、ボロボロの剣を握る屍が立ち上がる。今回も頼むぜェ、デソード。
「デソードの召喚時効果ァ!このモンスターのパワー以下の相手モンスター1体を破壊する!対象はシグオム!」
散々手札を見透かしてくれた悪魔をここで除去する。今まで見えていたものが見えなくなる事は強い
「ないぞ」
「そんじゃァ死になァ!」
「悪魔族が破壊された事で「
……なるほどなァ。「
さて、本命だ。
「続けるぜェ!手札からスペル、「仕切り直し」を発動ォッ!!」
「あぁ、来い」
────「仕切り直し」。ゲーム中に1度だけ使えるスペル。お互い手札を全てデッキに戻してシャッフルし、4枚ドローする効果を持つ。
昔、このカードを寄越した家庭教師から聞いた話。
プレイヤーが自分のデッキからドローを行う時、プレイヤーの気持ち、デッキやカードへの想いによってドローされるカードが決まるという。
しかし、相手の効果でデッキからドローする時は別。いつもなら引けるカードが、そのタイミングでだけ妙に引けない。そんな現象があると。
あのヤローがするのはクソ退屈な話ばかりだったが、この話だけは良ォ〜く覚えてる。
「ふゥ……」
デッキに手を置き、一息つく。
今ならわかる。確証は無いが、理解できる。そのタイミングで望んだカードが引きにくいのは、相手と自分の間で何らかの綱引きが起こっているからだ。
考える。
何故悪末は「悪魔族」を使い始めたのか。
どのカードにも見向きされないのか? 噂程度だが、そういう奴も居ると聞いた事はある。
それか、テーマからそれほど求められていない「
にしては腑に落ちねェ。
そんな雑魚に反応するほど、おれの勘は鈍かったか?
…………いや、今は良い。
込める。手に力を。カードに願いを。
自らの望むカードを。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリッ
ガリガリガリガリガリガリガリッ
バキンッ
「「ドロー」」
ッ、これは…………!
……なるほどな、お前が悪魔族を使う理由が分かった気がするぜェ。
「藤」
「なンだよ」
「悪いな」
申し訳なさげに揺れる赤い眼が、おれを、おれの手札を見ていた。
……それほどかよ、おれとお前の差は。
「……いいや、これならこれでよォ。やれる事もあるぜェ」
切り替えろ。同格相手じゃねェ、久しく戦っていない格上相手として。
テーマ格差に泣き、相性の悪さに泣き、居場所のないガキ共を束ねて居場所を作ってやってから数年。久しく立っていない
「ハハッ」
悪くねェ〜。
「「屍山血河」の効果を使う!このフィールドカードを破壊し、墓地から「
「通す」
死体の山が崩れる。血の河が涸れる。代わりに、山を構成していた死体のひとつが動き出し、フィールドに歩みを進めてくる。
「ヒルコックの召喚時効果ッ!コイツの攻撃権を放棄し、相手の手札を2枚指定!」
「ダメだ。
チィッ、妨害スペル。引けていたか。
「ならば次だァ!手札の「
足掻け。
「「
諦めるな。
「ッ、まだだァ!墓地のブラスカルデの効果を使う!デッキから3枚破棄!」
「ない」
「効果を処理する!」
破棄されたカードは……よし、「死鳥獣 ネクロガルダー」がある。
抗え。
「続けて墓地のネクロガルダーの効果を使う!このカードをデッキの下へ戻し、手札の「死獣」モンスターを1体追加召喚!」
「ない」
「ならば来い、死兆の風!手札から「死鳥獣 ネクロガルダー」を召喚!」
フィールドに黒い竜巻が起こる。海水を巻き上げながら風はやがて一点へ集まって球状となり、その中から黒翼の鳥人が現れた。
「アタックシーン開始、ネクロガルダーで攻撃!攻撃時効果①により、相手モンスター1体を指定して攻撃ィ!レアヴィータへ
「レアヴィータの常時発動効果③。このモンスターよりパワーの低い相手モンスターの効果を受けない」
「チィッ!ならばキルマリスだ!」
「ない。キルマリスで
ネクロガルダーは
本命のレアヴィータは殺れなかった。次のターン、何とか凌がねェと……
ネクロガルダーが一瞬でキルマリスの頭を捥ぎ取ったのを見届ける。
「「
「……ターンエンドだァ」
苦々しく、そう宣言した。
「ターンスタート。ドローシーン、リカバーシーン、メイン。……なぁ、藤」
不意に、悪末が声をかけてくる。
「なンだ」
「楽しかったよ、本当に」
もう勝ったつもりか、と言う前に。
「召喚条件、墓地に悪魔スペルが3枚以上。クリア」
「嵐を呼び、慈雨を招け。神より堕ちし大悪魔、「
フィールドに発生した黒雲と大竜巻に、声が出ない。……ネクロガルダーの召喚時とは比較にならねェ暴風を切り裂いて、棍棒と槍を持った悪魔が姿を現した。
召喚演出からして間違いなくエースだなァ。
「召喚時効果、墓地の悪魔スペルを全て手札に戻す!」
「
エースが
「メイン終了、アタックシーンへ移行する。ヴァールで攻撃!攻撃時効果により、手札の「
……なるほどなァ。連続攻撃タイプのエースか。
「……ヒルコックで
拳銃で対空射撃を行うヒルコックだが、雷撃を纏った槍の投擲に倒れる。
「再び、ヴァールで攻撃!攻撃時効果により、手札の「
「迎え撃てェ、ネクロガルダー!」
黒い旋風を巻き起こしながらネクロガルダーが飛翔しようとした瞬間、棍棒で殴り倒される。無慈悲、だなァ。
「三度目の攻撃!手札の「
「デソード、行け!」
「「
直接手を下すまでもないとでも言うように、雷撃をデソードへ浴びせる大悪魔。
そォか。ライフが続く限りループすると。
「四度目の攻撃!行け、ヴァール!」
手札を見る。ないな。
フィールドを見る。ないな。
墓地を見る。ない。
「……ふゥー。来いよ、ライフで受けるぜェ」
良くも悪くも、真っ直ぐ過ぎんだなァ。ライフ、ほぼすっからかんじゃねェかよ。
だからこそ。何かに絶望して悪魔族デッキを握り、聖城を飛び出したってワケか。
「……ったくよォ。早く来い」
大悪魔の起こした嵐が、おれを呑み込んでいく。
おれは、楽しめた。万策を尽くし、死力を尽くして戦って……尚且つ届かなかった。
だが、お前はどうだ悪末。本当に楽しめたかァ?おれは、暫く楽しめてなかったからなァ……。
自分だけ、相手だけが楽しくても意味ねェ。自分だけ楽しみてェんなら、壁とやってろってなァ。
対戦したプレイヤーが互いに讃え合い、意見を、硬い握手を交わす。それがおれの望むバトモン。おれの望むトレーディングカードゲームだ。
おれはお前に与えてもらった。
おれは、お前に与えてやれただろうか。
試合終了のブザーが鳴る中、消えていく黒嵐をぼんやりと眺めながらそう思った。
藤 阿吽……
悪末 戒……本当に楽しかった。ご満悦。圧倒的な運命力で「仕切り直し」の綱引きに圧勝し、計らずとも「
※ライフ計算をミスっていたので、一部修正しました。