悪魔族は贔屓しない。   作:倭猛らない

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……最終手段だ!!行くぞお前ら!!

超獣反故砲


蹂躙には飽きていてな

 

 何処かの寂れた遺跡の内部。

 

 数名の人間が一人の少女を囲んでいた。少女は幾何学的な配置がされたカードの陣列の中で座り込み、瞼を閉じて身動ぎひとつしない。

 

 周囲のカードがゆっくりと脈動を始め、それと同時に少女が眼を開く。

 

 

「……また、ゲームが始まったわ」

 

「ほう、何番かな?」

 

「……37」

 

「あのチンピラ共か。あまり期待はしていないが、状況はどうかな?」

 

「眼を通して見てみる」

 

 

 トレンチコートを羽織った男の問いかけを無機質に返し、少女は再び眼を閉じる。何かを探るように、そっと覗き見るように。

 

 

「あの……これは一体?」

 

「集めているのだよ。運命力を」

 

「集められるもの、なんですか?」

 

「うむ。巫女が産み出した(イリーガル)カードの運命線を通じて、巫女が徴収する事でな。とは言っても、徴収できる量はそこまででもない。本当なら闇の領域内全ての運命力を総取りしたいがな、そこまでの無法は(イリーガル)カード自体が許さぬ。運命線を通して巫女が罰せられかねん」

 

 

 瓶底メガネをかけた女性研究者が、隣に立つ老人へ問う。老人は体格が良く、でっぷりと太っている。しかし顔色は青白く、まるで生気を感じられない。萎んだ気球を想起させるアンバランスさだ。蚊が飛ぶようなか細い声で、研究者に答える。

 

 

「禁書通りの手法で造られた(イリーガル)カード。問題なく動作はしておるし、世界ランカーも数人降しておる。平等の押し付けほど鬱陶しく、恐ろしいものはないということだ」

 

「はぁ……。何故、私は此処に?」

 

「簡単じゃ。ワシの後釜として研究に務めて貰う為よ。悪魔の遺物たる禁書を開き、(イリーガル)カードを世に再誕させたワシの命は、もう半年と持たんじゃろうからな」

 

 

 パラパラと古びた本を捲り、流し読みしながらそう言う老人。

 この世に禁書と呼ばれるものはそれなりに存在するが、読むのに代償が必要なものはほんの一握り。いま老人が手にしているのはそのうちのひとつ、嘗て悪魔が契約に従って書き記したもの。カードを産み出す方法が記された、唯一の魔導書(グリモワール)

 

 コートの男が顎を撫でながら納得したように、ふむ。と声を漏らす。

 

 

「成程、対価は命でしたか」

 

「というよりは、運命力そのものと言えるのう。ここに来る前、医療チームに身体を診てもらったのじゃがな。つい先日まで初期のソレだったがんは既に末期へ進行し、更に全身への転移が認められたわい」

 

「マジか、てかそれもう呪いの類だろ」

 

「まぁの。そもそも、この魔導書自体が悪意の煮凝りのようなものじゃ。カードを造るのに代償が要るのは当然の事じゃが、ソレが書かれた書物を読むのに、代償など本来必要ないハズ。だのに、こんなタチの悪い呪い(モノ)が仕込まれている。まさに悪魔の所業よな」

 

 

 仮面を被った青年が労わるように、老人の肩を揉む。青年は筋骨隆々としており、肥満体である老人と比べても遥かに太く大きい。身長は2mにも届くだろう。特徴的な八重歯を覗かせて笑った。

 

 

「ま、後は任せとけよ。必ず悲願は成し遂げてやっから」

 

「その点は心配しておらんよ。禁書、巫女、祭壇、(イリーガル)カードが揃った時点で、達成されたようなもの。あとは時間の問題よの」

 

「あのぅ……私、荷が重いんですけれど」

 

「ライラはよぉ、もっと自信もった方が良いんじゃねぇの?爺さんの孫なんだから大丈夫だって」

 

 

バチャ

 

 

「!」

 

 唐突に何かが弾けた様な、水っぽい音が響く。その瞬間、仮面の青年は携帯していた拳銃を抜いて周囲を警戒しつつ、巫女へと駆ける。

 

 運命力の低さが災いし、プレイヤーとしての強さはそこそこ。しかしあらゆる武術に精通し、拳銃の扱いに秀でた達人。リアルファイトにおいては無類の強さを誇るが故に、彼には護衛の役割が与えられている。

 

 左目を抑えて呆然とする巫女を庇うように立ち、声をかける。

 

 

「巫女!……おい、どうした!?」

 

「……分からない、覗いた瞬間に弾けたわ」

 

「何が!」

 

「眼よ。こっちにフィードバックされて片目……左目が弾けたわ」

 

「なにィ!?」

 

 

 ボタボタと硝子体と血の混合液を垂らしながら、巫女は言う。青年はとりあえず拳銃を仕舞い、ハンカチを患部へ当ててやる。巫女は短く礼を言い、朧気ながら目撃した光景を説明し始めた。

 

 

「対戦相手は、赤い目をした黒髪の男の子。調整の瞬間に一瞬目が合ったわ。とんでもない運命力だった」

 

「割とありふれてる見た目してんな……」

 

「巫女、今後は眼を介した監視をお控えください」

 

「分かっているわ、右も潰されたくないもの」

 

 

 …………数日前に撃破した世界ランカーよりずっとも強そうだったし、37番は廃棄ね……。等と考えながら、巫女は運命線を切断した。

 

 ……恐ろしい運命力だった。全てを呑み込み塗り潰して、支配せんとする……そんなイメージを抱く程の、黒い運命力。

 

 

「はぁ……」

 

 

 自分を道具として使い潰す事にもはや異論は無い。が、やるからには失敗しないで欲しいと考えている巫女は、やいのやいのと専門用語を交えて議論を始めた連中を冷めた目で一瞥した後、深く溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ターンスタート。ドローシーン、リカバーシーン。メインへ移行」

 

 

 フィールドには機神。妨害の権化。フィールドの動力カウンターを消費し、発動効果を妨害する。だが、それだけだ。

 他の「機鋼(メカニカル)」モンスターが居て初めて脅威になるものだが、フィールドには召喚条件を満たす為の間に合わせのトークンと、機神とシナジーのないモンスター。

 

 妨害モンスターだけ居たって、しょうがないんだけどな。

 

 しかも「神」モンスターというのがな。なんとも運がない。

 

 大狼からすれば格好の的だ。

 

 

「手札から「無名の詠唱者(ネームレス・トーカー)」を召喚。続いてスペル、「獣の呼び声」を使う。デッキ中にあるカード名、種別に「獣」が含まれるモンスターカード1枚を、デッキの1番上へ移動させる」

 

「無駄だ、反撃(カウンター)で「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」の効果を使う!動力カウンターを2つ支払い、「獣の呼び声」を無効にする!」

 

反撃(カウンター)、ソニックスペル「背負わされる十字架」を使う。相手モンスター1体を指定。そのモンスターはこのメインシーンの間、相手へ反撃(カウンター)を使えない」

 

「チィ……ッ!」

 

 

 こうやって、簡単な妨害1枚で機能不全に陥る。

 

 反撃(カウンター)の撃ち合いをラリーという。引いた手札やデッキテーマの特性によっては長引くものだが、ラリーには明確な規制がひとつある。

 それは既に発動を宣言したモンスターの効果を、その後に続くラリーの中でもう一度宣言する事はできないということ。

 この盤面で言うなら、「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」は既に「獣の呼び声」に対して反撃(カウンター)で効果を発動し、無効を宣言している。それに反撃(カウンター)した「背負わされる十字架」に、もう「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」は効果無効を撃てない。

 

 万能じゃないからこそ、他の「機鋼(メカニカル)」でサポートしてやるのが最適なんだけどな。最低でもフィールドカードの「演算機神域」を配置するとかさ。

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」を立てるのに必死になって手札も殆ど無いし、内容は俺に把握されてる。

 

 奴の手札は1枚。「希望的観測」で引いたスペル、「代替動力源」。「機鋼(メカニカル)」モンスターがカウンターを消費する際に手札から破棄する事で、カウンターを減らさずに効果を発動できるカード。悪くはないが、「スペルブレイク」や「エフェクトブレイク」の方が余程怖い。俺から運命力を奪って云々というなら、あの時オープンしてても不思議じゃないが……まさか入れていないのか?

 

 まあいい。どちらにせよ、こっちはいつも通りの動きをすればいいんだ。

 

 

「……ねぇよ」

 

「こちらもないので、効果を処理する。「背負わされる十字架」により「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」はこのメインシーンの間、効果が発動できなくなる。これによって、こちらの「獣の呼び声」が通る。デッキの「神喰い フェンリガルム」をデッキトップに移動」

 

「「無名の詠唱者(ネームレストーカー)」の常時発動効果。スペルカードが自分の墓地へ移動した時、フィールドに魔力カウンターを1つ置く。墓地へ移動したのは「獣の呼び声」と「背負わされる十字架」。魔力カウンターを2つ置かせてもらう」

 

「続いて、「希望的観測」を使う。デッキから2枚オープンし、そのうち1枚を手札に加える。……オープンされたのは「神喰い フェンリガルム」、「インスタントークン・スタンドアップ!」だ」

 

 

 いつもの。面白みもない。

 

 

「手札に加えるのは「神喰い フェンリガルム」。デッキの下に戻るのは「インスタントークン・スタンドアップ!」だが、コイツはスペルの効果でオープンされた時、手札に加えるか直ちに効果を使用出来る。割込み(カットイン)で「インスタントークン・スタンドアップ!」の効果を使い、フィールドに「インスタントークン」を1体召喚。「希望的観測」の効果を再開し、「神喰い フェンリガルム」を手札へ」

 

「好き放題しやがって……!」

 

 

 それは、プレイヤーなら皆が一度は思うことだ。そういうこともあると流せるようになれ。気が楽になる。

 

 

「「無名の詠唱者(ネームレス・トーカー)」の効果。「希望的観測」と「インスタントークン・スタンドアップ!」の分、魔力カウンターを2つフィールドに置く」

 

 

 これでフィールドに魔力カウンターは4つ。必要数は集まった。

 

 

「手札からスペル、「大魔術・還元の儀」。ターンに一度、自分のフィールドに「無名の詠唱者(ネームレス・トーカー)」が居る場合にのみ使用できる。フィールドにある魔力カウンターを好きなだけ支払う。支払ったカウンター2つにつき、以下の効果を1つ選んで発動できる。

 ①、デッキから1枚ドロー。

 ②、召喚権を回復する。ただし、これを消費し召喚できるのはパワー1000以下のモンスターに限られる。

 ③、墓地のカード全てを好きな順番でデッキの下へ戻す」

 

「選択するのは①と②。1枚ドローし、召喚権を回復」

 

 

 引いたのは「刹那の恩寵」。これで整った。

 

 

「召喚条件は自分フィールドにモンスターが2体以上、クリア。

 

 それは悪評高い狼(フローズヴィルトニル)ヴァン川の獣(ヴァナルガンド)、主神喰らう大アギト。「神喰い フェンリガルム」、召喚」

 

 

 フィールドに遠吠えが響く。地が揺れる。

 現れたのは口端から火を溢し、眼に揺らめく程の殺意を湛えた灰狼。その眼は真っ直ぐに機神を捉えている。目一杯歯をむき出しにして唸りをあげ、今にも飛びかからんとする勢いだ。

 

 

『Grrrrrrrr……!!」

 

「落ち着けよ、これからだ。フェンリガルムの召喚時効果。自分フィールドのモンスターを全て破壊し、このモンスターへ破壊したモンスターのパワー全てを+する」

 

 

 大狼がフィールドのインスタントークンと「無名の詠唱者(ネームレス・トーカー)」を纏めてかみ砕き、ゴクリと嚥下する。大狼はまるで足らないと言わんばかりに俺を睨みつけてきた。まあトークンが100、ネムレトが300で合計400ぽっちだし。ごめんて。

 

 フェンリガルムのパワーはたった1000。メインはおろかサブアタッカーとしても心許ない数値だが、古いカードにしては強力な効果を持つ。この効果があるからこそ、低めなパワー設定だったんだろうけど……。

 今どきは同じような効果を持ってても素でパワーが1500超えてる奴が大半だ。時代の流れって恐ろしい。

 

 

「「刹那の恩寵」を使う。効果発動時、自分の手札が0枚ならデッキから4枚ドローできる。そしてメインシーン終了時、自分の手札と墓地を全て除外する」

 

 

 引いたカードは……まあいいだろう。機神ごと奴を葬るにはこの程度でいいらしい。

 

 さて、ドーピングタイムだ。

 

 

「スペル、「パワーブースト」。フィールドのモンスター1体にパワーを+200」

 

 

 汎用のパワー増強スペル。

 

 

「スペル、「力の代償」。自分のライフを半分減らし、自分のモンスターへパワー+500」

 

 

 こちらも汎用カード。ライフをコストにしたスペル。

 

 だが、次は少しカテゴリーが違う。

 

 

「次、スペル「残滓の胎動」発動。自分の墓地にあるスペルカードを好きなだけ除外し、除外したスペル3枚につき、フィールドに1体「スペルダストトークン」を召喚する」

 

 

 除外されたのは「獣の呼び声」、「背負わされる十字架」、「希望的観測」、「インスタントークン・スタンドアップ!」、「大魔術・還元の儀」、「刹那の恩寵」。

 

 墓地から溢れ出す黒い塵が集まり、辛うじて本の形となる。それが2体、フィールドに現れた。役目を終えても尚働くとは、社畜の鑑。尊敬する。

 

 

「最後、スペル「最後の馬鹿力(ラスト・パワー)」を使用。効果発動時、自分の手札が0枚なら自分のモンスター1体にパワー+1000。そして、対象となったモンスターは攻撃終了時、墓地へ送られる」

 

 

 これでフェンリガルムのパワーは3100。仕上げは済んだ。

 

 

手札なし(ハンドフリー)。メインシーン終了。「刹那の恩寵」の効果により、墓地のカードを全て除外。アタックシーン開始。フェンリガルムで攻撃する」

 

 

 待ちわびたと言わんばかりのスピードで、大狼が地を駆ける。

 

 

「攻撃時効果①を発揮。相手フィールドに名前か種別(カテゴリー)に「神」と名の付くモンスターがいる時、そのモンスターへ必ず指定攻撃しなければならない。この時、フェンリガルムのパワーはとなる」

 

「散々好き放題やってくれたなあ!!反撃(カウンター)で「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」の効果を使う!動力カウンターを2個支払い、その効果を無効にする!!」

 

 

 大狼へ向けて、機神が照準を合わせる。無駄なことだとも知らずに。

 

 

「なにもない。効果を処理する」

 

 

 無力化の光線を真正面から受けるフェンリガルムだが、何の支障もないように走行を継続する。進路は変わらず機神だ。その光景を見て、チンピラは酷く狼狽し叫ぶ。

 

 

「なんだ!なんでだ?!無効にしたはずだぞ!!んで進路が変わらない!!!」

 

「フェンリガルムの常時発動効果。このモンスターは、このモンスター以外の名前か種別(カテゴリー)に「神」と名の付くモンスターの効果を受けない。よって、「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」の効果は空撃ちとなる」

 

「言えやゴラァ!!」

 

 

 だって聞かれてないし。なんなら、聞けば答えてくれる闇がその辺にあるじゃん。聞かないのはお前の怠慢以外のなんでもない。

 ま、いいか。

 

 

「フェンリガルム、攻撃時効果②。自分のフィールドに存在するモンスターを好きなだけ破壊する。その数だけ、パワー+200。「スペルダストトークン」を2体破壊し、パワー+400」

 

 

 ダメ押し。

 これで6600

 

 

「これで最後だ。フェンリガルム、攻撃時効果③。相手のモンスターと戦闘を行い、相手のモンスターだけを破壊した時。上回った分だけのダメージを相手に与える」

 

 

 黄昏呼び込む大狼の前に、雑兵の壁なぞ何の意味も持たない。もっとも、神が相手ならより酷くなるけども。

 

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」のパワーはたった1500。そもそもとして妨害メインなのだから、パワーは低くていいモンスター。「機鋼(メカニカル)」は層が厚いから、コイツの弱点を補えるカードは幾らでもあるはずなのに……

 端的に言うなら、悪いのは「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」ではなくチンピラ(コイツ)の頭。バカに使われるカードは可哀想だよほんと。強カードであるなら尚更。

 

 

 さて、終幕だ。

 

 大狼が、天にも届くとすら言われた巨大なアギトを開いて機神に狙いを付ける。

 

 

神砕(かみくだ)け」

 

「あ」

 

 

 哀れにも廃材(スクラップ)と化す機神。

 チンピラは、自らへ迫る灰の大狼を呆然と見つめていた。

 

 獣は解き放たれた。

 主神の子はいない。

 ならばこそ、ここに結末は定まった。

 

 

The twilight passed like this(こうして黄昏は過ぎ去りましたとさ)

 

 

 

 

 

 

 さて、後は乱戦だ。盤面は目まぐるしく変わり、絶え間なく状況は変化し続ける。

 

 

「召喚条件は、自分の墓地、フィールドに「序列三十八位(デーモンズサーティーエイト) ハファルス」がないこと。条件クリア、「序列三十九位(デーモンズサーティーナイン) マファルス」を召喚。召喚時効果を発動し、デッキから「序列三十八位(デーモンズサーティーエイト) ハファルス」を1枚手札に加える」

 

「させねぇ、反撃(カウンター)で「エフェクトブレイク」!」

 

「それに反撃(カウンター)、「スペルブレイク」を発動」

 

「妨害が通らねぇ……!いや……そんなら、「AW-61 大戦艦グレートホエール」の効果を使う!自分フィールドの「AW(アニマルウェポン)」モンスターを破壊する事で、相手のモンスター1体を破壊する!着地したマファルスを狩る!」

 

「その効果に反撃(カウンター)し、「悪魔の交渉(デーモンズネゴシエーション)」。

 使用したプレイヤーのライフを半分減らして、以下の効果を一つ選んで発動できる。

 ①このターンの間、相手は手札から効果を発動できない。

 ②このターンの間、自分の受けるダメージは相手プレイヤーが肩代わりする。

 ③相手のモンスター1体の効果を無効にする。この効果は永続する。

 

 俺は③を選択。対象はもちろん「AW-61大戦艦グレートホエール」だ」

 

「え、永続の効果無効……」

 

「もうないな?では効果を処理する」

 

 

 ふーっ、握っててよかった。

 

 これで、荒波を往く偉大な旗艦はパワーの高いバニラカードと化した。

 

 

「ターンスタート。このタイミングで「覇者」の固有能力(キーワードアビリティ)、「覇応(コーリング)」を発動。ドローシーン、リカバーシーン、メインシーン、アタックシーンの内いずれか一つを任意のシーンの後に追加する。この効果はターンに1度しか使えない」

 

「また……」

 

 

 別の盤面。

 テーマ名にもなっている固有能力(キーワードアビリティ)、「覇応(コーリング)」を発動させる。どんな相手でも消して腐る事のない効果。まぁ、殆ど追加でドローシーンを選択する訳だが。

 

 しかし。今回使うのは、より強烈かつイカれている方。「覇者」だけが持つ、特別な「覇応(コーリング)」だ。

 

 

「フィールドに覇王カウンターが10個以上ある時、以下の効果が解禁される。覇王カウンターを全て取り除く事で、今の自分のターンを終了した後にもう一度自分のターンを開始する

 

「は?」

 

 

 最もイカれている効果、追加(エクストラ)ターン。もちろんゲーム中に1度しか使えないという厳しい制限が付いているが。

 

「覇応」テーマは、殆ど世に認知されていない。強烈な効果と裏腹に、無名と言ってもいい程に知られていない。

 それは何故か?答えは単純明快。

 

 ──────誰も「覇応」を使えないからだ。

 

 使われない無名(マイナー)テーマは、誰からの関心も得られない。

 どれだけ強力であろうとも、カードが自分達に振り向いてくれない以上は使う理由がない。

 適性がないのだから、別の適性アリのテーマを選んだ方が良い。そんなところだ。

 

 全く勿体ない。その点においては、哀れなテーマだと思う。…………高望みが過ぎる「覇応」(コイツら)もアレだけど。

 

 

「ターンスタート、ドローシーン、リカバーシーン、メイン。手札から「始祖改獣 キメラード」を召喚。フィールドの「改獣 グリフィオン」の効果を発動。「改獣」と名の付くモンスターが召喚された時、自分の墓地の「改獣」と名の付くカードを1枚手札に戻す。対象は「(シー)改獣 カプリコス」」

 

「チッ……フィールドカード「阿鼻地獄山」の効果で相手の手札が増えた時、デッキから1枚ドロー!この効果でドローした時、手札から種別(カテゴリー)「悪鬼」を持つモンスターを1体召喚できる!召喚条件はフィールドに酒乱カウンターが10個以上、クリアだ!「大悪鬼 酒呑丸」を召喚!」

 

 

 また別の盤面。

 哄笑と共に山から降り来たるは赤肌の大鬼。既にフィールドに居た「悪路王 阿弖流為鬼(アテルイキ)」と合流し、鉄の棍棒をこちらへ向けた。

 コイツは効果で相手の武装(アームズ)を無理やり強奪する、いわゆる武装殺し(アームズキラー)武装(アームズ)を使用しない「改獣」には刺さらないが、コイツは素でパワーが2000ある。これを超えるパワーを持つモンスターは、「改獣」にいない。

 

 相手は、ドローに反応して展開する「悪鬼」。既に負かせた奴らに比べて、デッキのクオリティも動きもいい。おそらく、このチンピラ共の中でも上位の実力者だろう。カードの外枠も銀枠だ。こんな馬鹿な真似しなくても、そこそこ良いとこまで行くだろうに……謎だ。

 

 だからこそ勿体ない、忍びない。

 

 今から下敷きにしてしまうのが。

 

 

「スペル、「禁断・超・合成(フォービドゥン・シンセサイズ)」発動」

 

 

 空間が捻れる。

 

 

「自分フィールドの種別(カテゴリー)「改獣」を持つモンスターと、相手フィールドのモンスターの合計3体までを合成素材とし、手札から「超改獣」と名の付くモンスターを1体追加召喚する。素材となるのは「始祖改獣 キメラード」、「改獣 グリフィオン」……そして、「大悪鬼 酒呑丸」だ」

 

「俺のモンスターを素材に、だと!?」

 

「召喚するのは「超・改獣 グリフィリオン・キマイラス」。天地を駆けろ!」

 

 

 捻れた空間に3体のモンスターが吸い込まれ、一瞬の間を置いてから新たな改獣が誕生する。

 

 倒せないなら、合成素材にしてしまえばいい。これができるから「改獣」は強いんだが……大体のプレイヤーから蛇蝎のごとく嫌われている。まぁ、苦労して出した相棒が意味わからん合成獣になるのは嫌だろうさ。気持ちは分かる。

 

 しかし。人の嫌がる事をやり尽くし、極めた者が勝つというのが対戦ゲームの常。

 

 

「素材となったモンスター3体は、キマイラスの下へ置かれる。召喚時効果を発揮。このモンスターを召喚する際に素材としたモンスターの効果を、ひとつ引き継ぐ」

 

 

 どーれーにーしーよーおーかーなっ。無難にグリフィオンの常時発動効果を選択。

 

 

「先程手札に加えた「(シー)改獣 カプリコス」の手札発動効果。「改獣」と名の付くモンスターが召喚された時、このモンスターを召喚できる」

 

「続いて、カプリコスが召喚されたことにより「超・改獣 グリフィリオン・キマイラス」のグリフィオンから引き継いだ効果を発動。墓地の「改獣」と名の付くカードを1枚手札に戻す。対象は「改獣 コカトラス」だ」

 

「次にコカトラスの手札発動効果を使う。ターンに1度、このカードを破棄する事で相手モンスター1体に「石化状態」を付与する。「石化状態」は次の自分のターンまで続く。対象は「悪路王 阿弖流為鬼(アルテイキ)」」

 

 

 小さな蛇の王が悪路王に視線を向ける。一瞬の間すら置かず、夷狄の将は石と化して沈黙した。

 

「石化状態」は、相手を行動不能にする状態異常。攻撃、防御(ブロック)の宣言ができなくなることに加えて、効果の発動も縛られる。コカトラスの場合は次の自分のターンまでだが、蛇髪の女怪は確か永続だったはず。

 

 

「く……」

 

「ではアタックシーンへ。「超・改獣 グリフィリオン・キマイラス」で攻撃。攻撃時効果を発揮、このモンスターの素材となっているカードを1枚墓地へ送る事で、墓地へ送ったモンスターのパワー分のダメージをプレイヤーに与える。その後、キマイラスのパワーは墓地へ送ったモンスターのパワーの半分の値だけ減少する」

 

 

 墓地へ送るのは「大悪鬼 酒呑丸」。相手に2000のダメージを与えるが、キマイラスのパワーは1000下がって800に。

 

 

「ッ、手札から「救急救命救護」の効果発動!相手モンスターの効果によってダメージを負う時にこのカードを破棄する事で、受けるダメージの半分だけライフを回復する!アタックはライフで受ける!」

 

 

 お、知らないカード来た。ライフバーン限定の実質的な軽減カード?随分ピンポイントな対策……いや、昨今のライフバーン効果を持つテーマの台頭を考えると妥当か。

 

 やっぱり銀枠持ってるだけあるな、コイツ。デッキの構成にガバが感じられない。リーサルがズレる。

 

 ……探るだけ探ってみるか。

 

 

「お前、何の為にこんな事してる?協会に目を付けられる事の意味、知らない訳じゃないだろ」

 

「……とっくに付けられてんだよ。だからこそだ!」

 

「要領を得ない回答は回答とは言えないな」

 

 

 公式のレギュレーションでは、1ターンの間に2分間の時間制限があるが、この空間での対戦(バトル)に時間制限はない。無駄話程度はできる。

 

 

「テメェ、余裕こいてんじゃねぇぞ!!」

 

「おっと、待たせてたか。申し訳ない。「覇者」で攻撃する。装備された武装(アームズ)カード、「称号・覇軍の主」の効果。ターンに1度だけ、パワー700の「勇士トークン」を2体生成し、そしてこのターンの間だけ「勇士トークン」に「攻撃時効果 自分のフィールドの「覇者」の攻撃権を回復させる」を与える」

 

「うっ……!?」

 

 

 手札と盤面を交互に見比べ、睨めっこを始めた「妖魁」使いを尻目に。「悪鬼」使いに視線を向ける。

 

 

「一回だ」

 

 

 男から絞り出したかの様な……いや、実際絞り出したんだろうな。掠れている中で、万感の思いが込められた声がした。これはきっと、あらゆる負の感情でぐしゃぐしゃに混ざり合って溢れ出た心根そのもの。

 

 

「たった一回、魔が差して不正に加担した事がある」

 

「あー……」

 

 

 古くから伝わることわざに、こんなのがある。

 

「札遊び*1に欺罔」。

 

 意味は、決してやってはならないこと。

 江戸時代、バトモンでの不正行為は斬首に処される大罪であったとされる。亡骸は墓に葬られる事も許されず、野ざらしにされて鳥獣の餌になったとも、海に投げられて魚の餌となったともされる。

 明治時代でも、不正行為に手を染めた名家が丸ごと死罪となった事例がある。とにかく、凄まじい大罪だったということだ。

 

 今日においてはその限りではないが、それでも公式の試合や大会で不正を行ったプレイヤーは協会から永年出禁を言い渡される。悪質な場合は豚箱にぶち込まれると聞く。

 そして、そういった黒い経歴はこの情報社会で圧倒的な速度で拡散される。解雇、退学、絶縁。あらゆる縁から切り離され、この社会から孤立していく。

 

 それを見て、人々はこう言うのだ。

 

「カードを裏切った罰だ」と。

 

 ひゅー、イカれてる。

 

 

「たった一回、道を踏み外しただけだ。それだけでオレは社会から爪弾きにされ、戻る機会も与えられなかった」

 

 

 可哀想に。そんな風になるから、先達が教訓をことわざとして後世に遺してくれたんだろうけどな。

 

 

「もう戻れねぇんだから、進むしかねぇだろうが!!」

 

「そうだな」

 

 

 その道が間違いだと分かっていても、進むしかない。プレイヤー狩りという、忌むべき悪行を為す下手人に落ちぶれても。それしか進む道がないんだ。

 

 自分では、道を変えることも終わらせる事も出来やしない。もはやヤケクソに近い感情だろう。

 

 ………………。

 

 ……………………………………………………。

 

 ……全く、しょうがない。

 

 

「なら。ちゃんと、終わらせてやらないとな。

 手札からソニックスペル、「超獣反故砲(ちょうじゅうほごほう)」を発動。種別(カテゴリー)「改獣」を持つモンスターを破壊し、相手へ500ダメージを与える。墓地へ送った「改獣」モンスターが素材を有している時、素材としたカード1枚につき、ダメージを+500」

 

 

 対象はもちろん「超・改獣 グリフィリオン・キマイラス」。素材として2枚のカードを抱えているから、合計1500ダメージを相手へ与える。

 

 キマイラスが突如圧縮され、肉弾として相手プレイヤーへ射出される。

 

 

「ッ、ねぇよ!だが……届かなかったな!」

 

 

 そう。ヤツのライフはまだ500残っている。「救急救命救護」がここで活きた。

 

 だが、所詮はズレただけ。

 

 

「破壊された「超・改獣 グリフィリオン・キマイラス」の効果。素材となっているモンスター全てを、元の持ち主のフィールドに追加召喚する。この時、召喚時効果は発揮できない」

 

「なっ……!」

 

 

 俺のフィールドに、キメラードとグリフィオンが舞い戻る。キメラードとグリフィオンのパワーは共に600。打点は十二分に足りている。……カプリコスは200だけだがまぁ、後詰めくらいにはなる。

 

 相手の手札は残り1枚。恐らく、この場面で打てる手はもうないだろう。

 

 

「キメラードで攻撃!」

 

「ッ……!クソ、ライフだ!」

 

 

 獅子のアギトが、ライフを削りきる。

 ……あ、「覇応」も終わった。相手降参(サレンダー)してる。

 

 闇の腕に取り押さえられ、二人のプレイヤーが地に伏せた。これで七人目。

 

 

「あとはお前だけだな」

 

「マジで何なんだよお前……!そんだけイカれた適性を、運命力を持ってる癖に、なんで悪魔族なんて使ってやがる!?」

 

「色々あるんだよ」

 

 

 案の定、最後まで残ったのは「悪魔族」だった。

 向こうにはバニラカードと化したグレートホエールと、その他「AW(アニマルウェポン)」モンスター数体。こっちにはマファルスとグレイモール。グレートホエールはグレイモールで止められるが、「ギョライルカ」や「AW-T1 エイブライノス」はちょっと荷が重い。パワーが倍以上じゃないからな。

 

 まぁのらりくらり交わしつつ、「七大罪科(デビルズシン)」を待つか。

 

 

「何もせず、このままターンエンド」

 

 

 そう宣言した瞬間。

 

 

バリンッ

 

 

 ──────闇が、割れた。

 

 

 

*1
バトモンのこと





モリモリワンパンフェンリガルム……欧州における三災、その一角である「神喰い フェンリガルム」を主軸としたデッキ。神に強い。

改獣……お前のモンスター、お前のモンスター、俺のモンスター!合ッ体!これは一体、どうなっちゃうんだ〜〜!!?的なデッキ。忌み嫌われている。

覇応……シーン追加でアドを取り、追加ターンで相手を詰めるデッキ。テーマ側の望みが高すぎて使い手が居ない。婚活市場で売れ残るタイプ。

ネムレトスペバ……出番カット。スペルをひたすら使うタイプのデッキ。



次話も間が空くと思いますが、じっくりやっていきます。
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