どうだ、ホンモノそっくりだろ?一度動かせばオジャンだがな。
闇の空間が崩れていく。外から街灯の光が差し込み、チンピラを取り押さえていた闇の腕が煙を上げて溶け消えていく。
なんだ、どういう事だ?バグか?
『
そんな電線切られた家電みたいな……そういう仕組みで動いてんのかあのカード。切られた事でシステムが機能不全に落ちたってことか?……そもそもなんで切れたんだ?
いや、ハルゲンティス*1は「切られた」と言った。「切れた」じゃない。運命線に耐久力があるのかどうかは知らないが、運命線が勝手に切れたんなら「切られた」なんて言い方はしないハズだ。
そこんとこどうなんだ、ハルゲンティス?
『契約するか?』
しねぇよバーカ。ぺッ!
全く。なんか聞けばすーぐ馬鹿の一つ覚えみたいに「契約」「契約」「契約」…………いや、そう言うって事は合ってるのか?「
……少なくとも「
「どうなってやがる……!?」
「知るかよ、寧ろ好都合だ!……サツが来る前にズラかるぞ!」
フィールドに立つモンスターが消えて、カード達が集まって手元に戻ってくる。闇の呪縛から脱したチンピラ共は、近くで鳴るサイレンを聞いて逃げの準備を始めた。
俺もさっさと逃げよう。サツのお世話になると色々面倒だ。お説教もされそうだし……。デッキケースに各デッキを仕舞い、駆け出す。
おっと、ついでに……
「あっ、テメェ……!」
「コレは貰う!」
路上に刺さった
……また別の悪事に手を染めるだけだろうけどな。人ってのはそう簡単に変われません。
『お』
『これは面白くなりそうだ』
『上手くやれよ』
何だお前ら、急に揃って話し始めやがって。……やっぱ特大の厄ネタなんだな
……持ってたらマズいよなぁこれ。職質されたら終わるぜマジで。下水に流す?埋めるか?
パリッ
不意に、何かが剥がれるような音。
嫌な予感がする。手元からしたぞ。……なんか
「おっ!?」
不意に、
……
……
…………
…………
…………
目を擦る。視界は以前真っ暗だ。
…………
辺りを見渡す。何も見えない。
……
「……!」
声を出した。出したはずの声は聞こえなかった。
……
何も感じない。
ただ、なにか聞こえる。身体の裡から響くような声が聞こえる
その声は誘い。
その声は手引き。
奈落への。
終わりへの。
這い上がれない、大穴への。
浮遊感。落ちているのか、それとも昇っているのかも分からないが……
それでもただひとつ、分かっていることがある。
「そこか」
手を伸ばして何かを掴む。感触からして、カード。何も見えなくなってもずーっと、そこに何かがある気がしていた。
……お、浮遊感が消えた。音も聞こえる。
「変な真似しやがって」
暗闇なんて、それ自体が
前後不覚、感覚が機能しない暗闇を作り、対象を閉じ込める。悪魔の所業だなマジで。ムカついてきた。
「何のつもりだよ、ドブに捨てるぞ」
「捨てられたいってことだな、ヨシ」
ガ、ガン無視。この強烈な自己、どことなく「
……霧のような闇が晴れていく。うーん?結界じゃなかったのか。
ちょっと分かる。
……いや、俺はもう間に合ってるんだけどなマジで。いやホントに。
消えかけながらも、闇の口は言葉を止めない。
力の責任ねぇ。「
そりゃご立派な事だが、力ある奴ってのは頼られやすい。最初のうちは、それはそれは謙虚に申し訳なさそうにするもんだけど……回数を重ねるにつれて遠慮が無くなる。もう嫌なんだよなぁ、顔も名前も知らない奴から頼られたり、断ると微妙な顔されるの。
ブツッ
「……」
闇が完全に晴れる。周囲を見渡せば、元いた薄暗い裏路地。
何だったんだよマジで……言いたい放題言ってから消えやがった。
……走りながら、チラリと右手に握るカードに目を向け、舌打ちをひとつ。それは、もう
「読めねぇし……」
名前や効果らしき文章はあるが、パワー数値や
直感的にわかる。これは
何者にも成れるが、今は未だ何者でもない。
……読めてきたぞ、
うーん、持ってきて正解だったか。こんなもんチンピラが持ってて良いもんじゃない。絶対ロクな事にならん。
「やっぱり下水に流すか……」
『まぁ持っておけよ。何かしらの役には立つだろうさ』
『困ったら協会にでも引き取って貰えばいい。報奨金で豪華な旅ができるぜ』
『正直、そのカードがどうなるか見てみたいのよねぇ』
野次馬共が、他人事だと思いやがって。お前らとこうして念話できる事を知られたら、お前らだって協会に没収される可能性があんだぞ。なるべく関わり合いにならない方が絶対良い。黒い噂も多いしな、協会は。
『そうなっても我等には問題ない』
『貴方がパックを剥いて私達を引けば、それに移るだけだもの』
お前らのその不思議生態どうなってんだよ。移るって何?
『我々を引いても、ほぼ全ての人々は捨てるだろう?』
『だがお前は俺達を捨てない』
『ならば、お前の手元にある私達のカードに運命力を集中させればいい』
運命力を集中ってなんだよ……そこら辺よく分かんねぇから話されても困る。お前らがそれできて、他の奴らができない理由が分からん。
『まぁ。これが知られれば、お前も拘束されて二度と日の目を見る事はなくなるだろうけどな!ガハハ!』
『アーッハッハッハッハ!』
『ダハハ!』
『イヒヒヒヒヒ!』
『ギャハハハ!』
『フフフフフフフフフ』
脳に響く大爆笑。
……ハッハッハッ
何が可笑しい!!
怒りの着拒。フン、あんまり俺をイラつかせない方がいいぞ……。
急に静かになった脳内が、まだあの笑い声を反響させていた。
全く……。人間の間違いを見てゲラゲラ嗤うタイプではない……ハズなんだが、それはそれとして笑いのツボが人とは離れすぎてる。
はぁ。……そういえば俺コンビニ行きたかったんだわ。それどころじゃなさすぎて忘れてた。
チンピラ共との
「…………」
カードの卵とも言える、
切られた運命線、チンピラ共の言っていた「あの方」、
一度順番に振り返ってみるか。
まず、何かが吸われた感覚の後に血涙を流して眼が消えた。十中八九、あの眼は「あの方」とやらのモノだろう。
──────「この領域内のことは、あの方も見てる。余計な口は叩かない事だ」
あの眼が監視の役割だったんだろうな。問題は、何故消えたかだ。
その前にまずひとつ。
──────「いやそっちも大概マズいだろ!雑魚相手にはむしろオレらの運命力が……!」
闇の領域内の
とすると、吸われる感覚の正体も見えてくる。あれは対戦者から運命力を徴収している時の感覚だ。薄ら分かってたけどな。
そして、
吸われた感覚の後にあんな消え方をしたということは、何かしら変なもんも一緒に吸っちまったのか?……運命力に不純物とかあるんだろうか。
というか、
あの闇の口は……
血涙を流した理由、運命線が切られた理由。「あの方」とは?
そして、これが最大の謎。
闇の領域内における
だが、
俺が握った途端、
俺の知らない要素があるのは確か……後者の
あらゆる可能性の卵である
俺が握ってすぐ満たせる条件として考えると、運命力関係か?
…………あー、分からん。頭回んねぇ。こんな状況でも、氷室ぐらい頭良かったら全部分かったんだろうか。……無い物ねだりしてもしょうがない。
ポッケからスマホを取り出して、電話をかける。考える脳みそはひとつでも多い方がいい。そして話す内容から、相手は信用に足る相手に限られる。
「……聖か?急ぎ共有したい話があるんだ」
闇さん……その正体は遍在する暗闇という概念そのものであり、悪魔がそこから一部を掬い上げてプログラムした仮想人格(悪魔)。