インフルエンザってかなりつらいんですな。
~エドルート視点~
俺が本拠地についた時には戦いは激化していた。
飛び交う魔術
響き渡る悲鳴
崩れ落ちている建物
燃えている植物
その中で戦闘態勢で向き合っている男が二人いた。
片方は俺が良く見知っている男。
高い身長に背中についている翼。
その手に持っている槍からはこの町一番の戦士だということがわかる。
ヴァリアスだ。
それに対面する男。
身長はヴァリアスよりも高く、肩幅もヴァリアスよりも大きい。
翼の大きさは小さいほうだが、長年使い続けていたのだとわかる。
その戦闘態勢からはここにいるすべてのものより強いというオーラが出ている。
その特徴は俺でも聞いたことがある。
おそらく、隣町の長の「タンジー」だろう。
これで外れていたら恥ずかしいのだが、まぁ合っているだろう。
そんなことは今はどうでもいい。
風貌を見ればわかる。
おそらくヴァリアスはあいつには勝てない。
ヴァリアスが勝てないということはこの町の誰でも勝つことができないだろう。
おそらくそれは彼自身が一番---
そう思った瞬間、戦いが始まった。
最初に動いたのはヴァリアスだ。
----先手必勝。
おそらく彼の脳裏にはその単語が浮かんだのだろう。
心臓を狙った一突き------------------
しかし、その槍は胸部には届かなかった。
敵はしゃがみ、軽く足払いをした。
ヴァリアスの態勢が崩れた。
そして敵はしゃがんだ態勢のまま、ヴァリアスの腹部に向かって一突き。
(助けないと...)
俺はそう思ったが、足も手も動かない。
勝てないとわかっている敵へ突っ込むこと。
それが示す答えは「死」だ。
砦の時は仲間に背を押されたから行くことができた。
動かないといけないという強い責任感があったからこそ突っ込むことができた。
けど今はどうだ?
近くに背中を押してくれる仲間もいない。
それでは自分のケツイを固めることができない。
俺はそれで実感した。
俺は弱い。
確かに力的にはこの世界では申し分ないほうだろう。
けど、精神面では弱い。
幼少期の頃もそうだった。
あれは2歳くらいのときだったか。
ルーデウスがまだ外にでてないからって外に出るのを遠慮していた。
しかし、それは兄に嫌な目で見られるのを避けたかったんじゃないのか?
俺は前世では一人っ子だったからどうしても兄のほうが立場が上と偏見を抱いてしまっていた。
それのせいもあるだろう。
しかし、一番なのは「度胸の無さ」。
ある程度年齢が上がったら、頼れる人も増えて、それがあまり露呈しなくなっていたし、転移後もラグナやヴァリアスなどの頼れる人々もできていた。
この戦争でも砦で人を殺そうとするときにフィレロムが背中を押してくれた。
前世ではゲームに熱中しすぎてあまりそういうことを考えていなかった。
けど、前世ではゲームを言い訳に全く勉強をしていなかった。
それは勉強しても点数が低かったときが怖くて、それを避けていたのではないのか?
本当ならば勉強すればもっと良い点数がとれたかもしれないのに。
昨日、俺は変わろうと思った。
しかし、まったく変われていないのではないのか?
甘ったれた思考はまだ続いているのではないのか?
戦場のほうを見ると、その後何回も刺されたが、まだ立とうとするヴァリアスの姿があった。
俺がさっき助けに行っていればこんなことにはなっていなかったのかもしれないのに。
今からでも遅くない。
行こう。
助けよう。
そう思った時にはすでに手遅れであった。
敵の槍は一直線にヴァリアスの心臓に向かっていた。
あぁ、助けられなかった。
俺がそう思った時ヴァリアスの体が後ろへと引いた。
ヴァリアスの足は動いていない。どちらかというと背中のほうから後ろに下がっている。
まるで何かに引っ張られているような...
俺はヴァリアスの背後を見た。
背の低い何かがヴァリアスを引っ張っている。
羽には焼けた跡、擦り傷あとだらけの服、手に持つのはボロボロの槍。
しかしその顔はヴァリアスと似ている。
その少年は険しい顔をしながらもヴァリアスを敵の射程圏外に引っ張る。
ヴァリアスはその少年の正体に驚いた顔をしつつもかすかに笑った。
少年はヴァリアスを連れたまま10mくらい後ろまでさがった。
敵の男は追ってはいない。
俺もやっと追いついた。
「大丈夫ですか!?」
俺は咄嗟に声が出た。
「な、なんとかねぇ。ラグナが助けてくれなかったら危なかった...はぁ、はぁ......」
俺はラグナのほうをみた。
彼はところどころけがをしていて、よく見ると頭から血を流していた。
俺は急いで治癒魔術をかける。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
そんな会話をしつつも敵のほうを見る。
高い身長に大きな翼、たくましいガタイ。
あぁ、見ているだけで足がぐらつく。
一人でこれに突っ込んだら絶対に負けるという確信がある。
死の恐怖。
俺が今感じているのはそれだと思う。
そのせいで行動できなかったし、そのせいで今も足が動かない。
その分ラグナはすごいな。
こんなやつに向かっていける度胸。
父親を助けるというケツイ。
俺にもそんなものがあればなぁ。
いや、ないなら作ればいい。
一人ならだめなら二人ならば?
勝算はあるかもしれない。
そう考えたらさっきまで感じていた感情がすこし薄まった気がした。
これはあくまでも勘だが相手はおそらく鞭術は初見だろう。
鞭術はこの世界では珍しいほうだし、おれもこれまでそんな情報は聞いたことはない。
もしかしたらもっと昔には流行っていたのかもしれない。
それこそラプラス戦役とか。
けどそれは昔の話だ。
今の時代には少ないだろう。
それなら、勝てるかもしれない。
戦いに行くならラグナと一緒にいこう。
俺はそう思いラグナに話しかける
「ラグナ、行こう。」
それだけ言って俺は走りだす...ってあれ?
ラグナがついてきていない。
するとラグナが俺をひっぱって元の位置に戻した。
(時間稼ぎをさせてほしい)
ラグナは小声でそういった。
「一つ問いたい!」
そしてラグナが大声を上げた。
うわ、こいつこんなに大きい声出せるのかよ。
「なぜ、あなたはそんなにも戦争をするんですか!」
あー確かにそれは気になる。
いや、ヴァリアスの話では食料不足が何とか...
いや、わかってる。そういうことではないことは。
どうせただの時間稼ぎの口実だろう。
「町民の意思だ」
敵はずっしりとした、しかし響き渡る声で言った。
「もっと詳しく教えてください!」
「それを言って、こちら側に徳はあるのか?」
うっ。痛いところを突かれた。
ラグナが困った顔をしている。
ここは助け舟をだすか。
「な、内容によっては、僕たちはあなたたちを助けることができます!」
敵の眉がピクリと上がった。
「具体的には?」
「食料や財産の支援です!」
ここは適当にぶっこむ。
ラグナがありがとうというジェスチャーをしてきた。
どうってことないよ。
ふいに後ろから声が聞こえた。
「ありがとう二人とも。ここからは私が話をしよう。」
ヴァリアスだ。
ヴァリアスは立ち上がり、敵のほうを見る。
まだ体力が全快したわけでも無かろうに。
「タンジー!もし君がここで戦うのをやめたら、私たちが支援しようじゃあないか!」
「もっと具体的にたのむ」
そこから会話は白熱していった。
内容はよくわからなかったが、最初のほうは温厚な方向で会議が進んだ。
しかし、突然、空気が変わった。
おれはその時休憩していて、内容を全く聞いていなかったからよくわからないが、おそらく地雷でも踏んだのだろう。
空気がピリピリとしだした。
その後、ヴァリアスが何度訂正したとしても、敵改めタンジーは全く聞く身を持たなかった。
そして
「もう何を話しても変わらん!直接勝負で決めようではないか!
お前たちが勝ったらこの戦いをやめよう!ただし、俺が勝ったらこのまま攻めさせてもらう!」
あぁ、まずい。
ヴァリアスの体力は回復していない。
ラグナは万全の状態になったし、俺も万全の状態だが、相手も時間を置いた分回復している。
時間稼ぎは失敗...か。
失敗もなにも俺はこれが何のための時間稼ぎかを知らないが。
ん?
後ろから何かが走ってくる音がする。
俺は振り返った。
男が一つの剣を持ちながら走ってくるのを見た。
その男は戦闘態勢というわけではない。
何かを運んでいる様子だ。
しかも俺はこの男を見たことがある。
確か鍛冶屋の....そうそうカエルスだ。
「もってきたぞ!」
彼はそう言い、ヴァリアスに剣を渡した。
ヴァリアスがその剣をもった瞬間、その姿は槍へと変わる。
これは...?
「我が師がつくった魔剣、万能剣”アークモーフ”です!」