鉄と誓いの果てに   作:南極大陸産のアデリーペンギン

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動悸の国

帝国の鼓動は動悸へと変化し、徐々にその身体を蝕んでゆく。血流は次第に速くなり、血管を破ろうとする。腐りかけの四肢は、いつもげるか分からない。

血液は栄養を運ばず、身体のあちこちから奪って心の臓へと受け渡す。

 

決戦まで後6日

 

鳥のさえずりが北部の乾いた空気の中に木霊する。太陽が顔を覗かせ、人々を再び暗闇から蘇らせる。

「ふあぁ…朝か…さて、用意をするか…」

徴募用の最初の金貨、地図、護身の剣…

幾らかを装備し、残りをバッグに詰めてと…

さて、会合場に向かうか。

 

城内の大広間に設けられた会合場は軒並み鉄士団の騎士達で溢れ、朝の世間話をしている模様だった。

「…あぁ聞いたよ。戦争稼業とはいえ、終わってくれるならこれ程嬉しいものはないさ。ま、口だけな気もするけどな。」

「前回ですらギリギリだったんだ。今回で決めてもらわねばなるまい。終わりよけりゃ全て良しさ。」

「…十年以上戦ってるんですから、勝っても負けても、また次が来るだけだと思いますけどね。」

ベールを羽織る歴戦の騎士に、酔っ払いの中年兵。まだ鎖帷子程度しか持てていない若者もいた。

老兵から新兵まで。そんな言葉がよく合う風景だった。

戦争への愚痴やら、碌でも無い会話が混じる。戦争中なのに、どこか平穏な場所だった。

 

「僭越ながら、皆様に耳にしてもらいたい事がございます。」

そんな場所に響く青年の透き通った声。

「なんだ?聞いた事のない声だな。」

「新米か?そんな話は殆ど聞いてないが…」

「私は帝都から参りました。コルタナ・カルヴァンスクという者です。皆様には協力を頼みたい事がございます。」

「コルタナって…あぁ、中央部隊の…気の毒に…」

「帝都からだってよ…こんな辺境に何の用があるんだ…?」

「事情は理解なさっていると思われる為、

説明は省かせて頂きます。

結論言ってしまえば兵員が足りないのです。

よって平民達を雇う事になりました。

しかし、一人では到底すぐには集められない。ですから協力者を募りたいのです。」

「協力者ねぇ…だけれど…タダでかい?」

「無論タダでとは言いません。協力者の方には小隊を率いて頂きます。小隊を率いる以上、皆様の命の一部を預かることになります。生半可な気持ちでお願いするつもりはありません。勝利した暁には私の報酬を協力者達と共に山分けしましょう。」

「…分かった。俺はそれに乗ろう。

テオドール・ヘルムシュタットだ。よろしく頼むぞ。」

「では、私も。イザベル・ゼルバッハだ。」

「僕も行かせてもらいます!ハインリヒ・ユルゲノフです!」

 

こうして実に50人程が協力者に集まった。

一人約5人を率いる計算だ。十分過ぎる程であった。

コルタナは各々に村々へ向かい、平民を雇うよう頼み、資金を渡した。

 

資金はこれで十分な筈だ。地元の人間なら顔も通じる。少なくとも顔も知らない都の人間が雇いに来るよりかは人が集まるだろう。

さて…どうせならば酒でも買っておいた方が良いだろうな。帝都への輸送は馬借にでも頼んでおこう。

酒を買うとなると…町の方へ向かうか。

 

****

カータル中心部、貧民の少女の視点

****

 

何だ…?何で騎士達がこうも沢山居るんだ…?

いつもはこんな所には来ないのに…

 

「最近はひどいですよ。貧民の連中が増えて、まともに商売してる俺達が馬鹿を見てる。」

「そうなのか…しかしまぁ…戦争中はどうしようもできまい。貧困はどうしても増えてしまう。まぁ、支援と言っては何だが、少し高く買わせて頂こう。」

「へぇ、有難い。こんな時世、皆金を使いたがりませんからな。でしたらいくら程…」

「全部だ。あるったけくれ。」

「有難いですな。でしたらこちらへ」

 

取引…?だけど何で騎士が…

 

「貧民が集まってる路地はこっちだっけか?」

「多分そうだろう。市場のおっさんが言ってたしな。」

「俺が行ってくるよ。」

「あぁ、頼む。」

 

!まずい…見つかったら…ただじゃすまない…!

早く…逃げなきゃ…!

 

「畜生、やっぱ狭えな。」

 

一体何がしたいの…?騎士は…?

あっ、皆…

 

「…騎士様がこんな所に何の用だ…?」

「ん?あぁ、兵隊を募集してる。」

「兵隊…?何で俺達が?」

「近いうちに戦争を終わらせる為の決戦があんだよ。

それで大量の人を必要としてる。

という事で君たち始め平民の皆様を募集してんだ。勿論タダでとは言わねぇ。

ほれ、受け取れ。」

男が袋を貧民に投げ、それを貧民が取る。

そして中身は…

「…すげぇ…こんだけの金貨は初めて見たぞ…」

「何だ?俺にも見せてくれよ。」

「とんでもねぇ量だ…これをくれるってか…?」

「……」

 

一瞬、沈黙が流れる。

 

「あぁその通り。だがそれは雇い金だ。勝てばもっと手に入るぞ。入るかはお前ら次第だg「参加させてもらう。」「俺もだ」「私も。」「ワシも参加させてもらおうかの」」

騎士はニッと笑うと

「交渉成立だ。ついてこい。」

と言い、路地を後にする。

 

皆…?皆戦争に行っちゃうの…?死んじゃうの…?

やだよ…そんなの…もう一人になりたく無いよ…

「待ってよ!皆待ってよ!何で死ななくちゃならないの!」

貧民達の列が止まる。

「戦争に行ったら死んじゃうんでしょ!?皆そう言ってたじゃん!なのに何で…!」

 

列の最後尾の老人は少女に近づき、顔を覗き込むと

「エミリア。これは生活を少しでも楽にする為なんだよ。

皆、死にたい訳じゃない。けれど、このまま餓死する訳にもいかない。だから行くんだ。

ごめんな。暫く一人にさせるかもしれない。

その間は、これをお使い。」

老人は金貨が入った袋を手渡し、少女の頭を撫で、そのまま行ってしまった。

「なんでぇ…グスン…なんでぇ…」

 

少女の涙が光に照らされて紅く染まり、泣き声は石畳に反響し、やがて町の空に溶けていった。

 

*****

鉄士団駐屯地、カータル。コルタナ視点

*****

 

「一体どれ程集まりました?」

「貧民がざっと100。農民もざっと100。後は市民、退役も合わせりゃ300行くか行かないかくらいだ。ちょっと多いか?」

「いいえ、いれば居るだけ良いですから。」

 

退役兵か…考えても無かったな。まぁ彼らは良いとして…貧民等だな…訓練が間に合うとは思ってない。剣の振り方、槍の突き方、防御の仕方くらい学べば十分だろう。……いや、十分とは言えないかもしれないが、今はそれが限界だ。

 

「あぁ、そうだコルタナ。他人行儀もなんだからタメ口でいいぞ。戦友になるだろうからな。」

「すみませんね。ではお言葉に甘えて。

イザベル、君は人に訓練を受けさせた事はあるか?」

「んーまぁ、無いな。テオドールなら確か出来る筈だ。実際私の部下のハインリヒはあいつに訓練されてるしな。」

「そうか…なら話は早いだろう。」

「あっそうだ。テオドールが他人行儀はやめてくれと言ってたな。丁寧にされると弱いからだと。」

「…面白い所もあるようだな。」

 

夜も更けて来た…今更訓練などと抜かせば、間違いなく反発されるだろう。

そもそも、こんな時間、教える気にもならない。後はテオドールに話をつけて、今日は寝るとするか。

 

コンコン

「ヘルムシュタット。今大丈夫か?」

「…コルタナか、入ってくれ。」

「失礼する」

「大抵の事はイザベルから聞いた。しかし、詳しい事はあんたから聞きたい、話してくれ。」

「結論言ってしまえば、300人の平民を戦える兵隊に数日でして欲しい。」

「…馬鹿か?数日でなんて…はっきり言って無理だ。出来るとは思えない。」

「いや、君が思ってる百倍少なくて良い。剣の振り方と槍の突き方。後は防御の仕方さえあれば。まぁ十分とは言えないが…」

「最前線中央でそれは厳しいだろうな。しかも平民となれば。確かにやってみる価値はあるだろうが…」

「一応、30人程度は退役兵だ。それらと協力して行ってくれれば…」

「あー、まあ…不可能では無いが…最前線で耐えられるか?数日の訓練如きで。

一応聞くが、何日間だ?」

「3日間だ。今日含めて後6日後に帝都に向かわなければならない。その移動も含めてだ。」

「3日間か…うーむ…確証が持てないな。」

「傲慢ではあろうが、俺は君を信頼してる。最前線に立っても、崩れない程度には仕上げてほしい。無理は承知で言ってる。」

「…そこまで言われたらなぁ…分かった。あんたの期待に応えうる兵隊を、例え鬼と言われようとも訓練して作る。

できるという保証は無いがな…」

「ありがとう。テオドール。頼むぞ。」

「こちらこそ。また明日会おう。」

 

階段を登る音が城中に木霊する程、城内は静かであった。まるで、何か不穏な物でも感じたように…

 

さぁ…今日はもうする事は無いな。

明日は物資の調達と…訓練の視察でも行こうか…

決戦に向けて、戦いの用意もしておかねばな…

昨日よりも布団に強く包まり、静かに瞼を閉じた。

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