【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

1 / 51
日常の終わり

2018年7月。ある火曜日。

17歳の女子高生・桐生紬(きりゅう つむぎ)は教室の窓際でぼんやり空を眺めていた。

 

紬(……今日もつまんないなぁ)

 

授業も、友達とのおしゃべりも、全部,

人間生活の退屈なルーティン。

 

親も,友達も……

紬にとっては、"血の繋がりのある相手"と、

"クラスメイト"にすぎなかった。

つまるところ、どちらも、"はい,仲良くしてね"って、

世界から勝手に与えられた存在。

 

わざわざ拒絶しようとは思わないが,

特に大切でもない。ほどほどで充分だった。

 

唯一の"非日常"といえば——

「何か」が、紬には見えてしまうこと。

 

他の人には見えてないから,

多分それは「ユーレイ」なんだろう。

 

それももう慣れきって、驚きも恐怖もない。

ただ、「自分だけ異物を見てる」って感覚が、

少しだけ紬を日常から遠ざけていた。

 

その日の下校途中。

少し風が強く,紬の長い黒髪が揺れていた。

夕暮れの人気のない路地で,

ふと視界に入ったのは——

 

背が高く,全身黒ずくめの服装で,

毛量の多い灰青の髪を,3つのおさげに束ねた青年。

その全身にはツギハギ模様。

一目見ただけで,"人間でない"とわかった。

 

真人「……へぇ。見えてるんだ、俺のこと」

 

紬は,長いこと,真人の異質さに惹かれ、

棒立ちになっていたようだ。

 

真人が紬の視線に気づき,ひょいっと振り向く。

笑ってるんだか嘲ってるんだかわからない表情。

 

紬「うん,見えてるよ。…君,"ユーレイ"だよね?

人間っぽいけど,人間じゃない」

 

紬の胸がどくん、と大きく鳴る。

それは恐怖ではなく、高揚感。

退屈な日常が,終わる予感。

 

真人は少し首をかしげ、口元をゆるく吊り上げた。

 

真人「ユーレイ?…まあ,知らない奴からしたらそうか。

——ユーレイじゃなくて,呪霊。

君ら人間が勝手に作った“恐怖”の形だよ」

 

紬「じゅれい……」

 

真人「君さ,特に術師でもないみたいだし…俺に何か用?」

 

そう言って,真人は悪戯っぽく微笑む。

 

真人「それとも…単に,俺に興味あった??」

 

その通り。紬は,隠す様子もなく同意する。

 

紬「そう,私,ユーレイ…いや,"呪霊"さん?のこと,

もっと知りたいなって!

話せる呪霊さんって,初めて会ったし…」

 

その言葉に,真人はニヤリと笑う。

 

真人「へぇ,呪霊ナンパとか変わった趣味してるね」

 

そして,紬の肩に——魂に,ポンと触れる。

向こうから飛び込んで来た,馬鹿なおもちゃ。

適当に遊んでやって,飽きたら捨てればいい。

 

——そのはずだった。

しかし。

真人の掌が,紬の魂に触れた瞬間。

 

真人(……これは……)

 

小さく目を見開く。

そこに確かに刻まれていたのは、明確な「術式の型」。

 

真人(……瞬間移動。はは、マジか。運がいいのは俺か、それともこいつか)

 

魂の構造を見ればすぐに分かる。

こいつは今,呪霊が見えるだけの,ただの人間。

非術師の脳では術式を扱えず、自覚すらしていない。

だが、《無為転変》で脳を術師仕様に組み替えてやれば

……覚醒させられる。

 

紬の呪力量から考えれば,流石に無制限ではないだろう。

飛距離も回数も対象も制限はあるはず——

だが,一瞬で距離を飛べる力。

戦いでも逃亡でも役立つ。

 

真人(……駄目だ。これは捨てるには惜しすぎる。

便利すぎる)

 

瞬間移動。

この少女を殺すことは、あり得ない選択肢になった。

 

真人は、肩に置いた手をそのままに、しばし沈黙する。

考え込む気配に、紬は不安げに首を傾げた。

 

紬「えと……呪霊、さん?」

 

真人が肩に触れたまま、しばし黙り込んでいたので、

不安げに声をかける。

真人は我に返ったように、口元を吊り上げた。

 

真人「……ああ、ごめんごめん。なんでもないよ」

「君、俺のこと知りたいって言ったよね?

——いいよ、教えてあげる」

 

そう言うや否や、真人は紬の手首を軽く掴み、

路地裏の奥へと導く。

 

紬「ほんと!? ……呪霊さん——」

 

真人「“まひと”。真なる人って書いて、真人」

 

紬「"真人"………」

 

小さく復唱する声は、

どこか愛おしさを込めた囁きに聞こえる。

紬の目が好奇心に輝いて、口元には自然と笑みが浮かぶ。

 

紬「ふふ……呪霊の名前、聞いちゃった♪」

 

真人は呆れ半分、愉快半分で肩をすくめた。

 

真人「やっぱ君、変わってるね。

“好奇心は猫をも殺す”って言うけどさ、まさにその典型」

 

紬は怯むどころか、その言葉に楽しそうに目を細める。

 

真人「……で? そんな君は、なんて名前なの?」

 

紬「私は紬。苗字は桐生。——よろしくね、真人」

 

真人はふっと目を細め、

紬の差し伸べた“関係”を測るように見つめた。

 

自分から飛び込んで来た,激レア術式の逸材。

おまけに好奇心旺盛で,命知らず。

思わぬ収穫。

 

悪くない。

——このおもちゃは、長く遊べそうだ。

 

真人「うん,よろしく——紬」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。