【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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証拠隠滅マニュアル

 

そうして、真人はしばらくの間、紬を抱きしめていた。

紬も、いつの間にかその腕を真人の背中に回し、

もふもふの羽と体温の温もりに身を預けていた。

 

やがて、真人の羽がするりとほどかれる。

 

真人「……紬。明日なんだけど、俺は夏油……仲間たちと、

呪術師と戦うための作戦会議があってさ。だから、明日は会えないんだ」

 

紬「えっ………そっ、か……」

 

隠そうともしない寂しげな声。

真人は肩をすくめ、軽く笑って見せた。

 

真人「まあ……夕方なら、ギリ会えなくもないんだけどね。

でも、それだと怪しまれそうでさ。

——夏油たちには紬のこと、内緒にしておきたいんだ」

 

そう言いながら、真人は紬の長い黒髪をさらりと撫でる。

 

真人「——だって、紬は“俺の”じゃん?」

 

紬「あ…………」

 

その一言に、心臓がどくんと跳ねる。

胸の奥が熱を帯び、言葉が弾かれるように口から飛び出す。

 

紬「じゃあ……じゃあさ、明後日は? 明後日なら土曜日で学校ないから! 私、一日空いてるよ!」

 

真人「あ、そっか。人間って曜日で生活ルーティン決まるんだもんね」

 

悪戯っぽく笑い、唇の端を上げる。

 

真人「じゃあさ、明後日は昼前に会おうよ。

あ、人間は時間で指定した方がいいんだっけ?

……じゃ、朝の10時で」

 

紬「OK! いつもの場所だよね?」

真人「もちろん」

 

微笑みとともに、真人は軽く手を振った。

 

真人「またね、紬」

紬「うん、また! 明後日に!」

 

次の瞬間、真人はふっと視界から掻き消える。

残された紬は、浮き立つ胸のまま駅の方向へ歩き出した。

 

——ビルの影。監視カメラの届かないその一角には,

ふたりが立ち去った後,

頭部が弾け飛んだ遺体だけが、静かに転がっていた。

 

真人と別れ、電車の座席で揺られていた紬は、

何気なく視線を落とした。

左足首——焦茶色のローファーに、黒い靴下。

ぱっと見はいつも通りだが、光の加減で妙に濃く見える箇所がある。

 

(んん……?? ……あ!!)

 

瞬間、頭の奥で鮮明に蘇る。

長距離ワープの失敗——空中転移からの落下で,左足首をグキッたこと。

その後の出来事が強烈すぎて忘れかけていたが、

これは間違いなく血だ。

 

(危なっ!! このまま帰って親に見られたら終わってた!)

 

家の最寄駅で降りるや否や、紬はコンビニに飛び込み、

新しい靴下を購入して履き替え。

その足で近くの公園へ行き、水道でローファーの血を洗い、

ティッシュで丁寧に拭き取る。

 

これで,「証拠隠滅」は完了。

 

——そして、帰宅は20時半。

 

紬の母「おかえり、紬! 今日も“まおくん”と遊んで来たのね!」

 

母親は、紬が真人と会うようになってから妙に上機嫌だ。

紬が“男友達のまおくん”と言っているせいだが。

 

紬の母「今日もアニメイトで遊んできたの?」

紬「いや、今日はゲーセン」

 

もう,嘘もお手のもの。

 

紬の母「そう、楽しかったなら良かった………って、紬!?」

 

突然、母親の声が鋭く跳ねる。

紬が怪訝に視線を向けると、母親が紬の半袖白シャツの左袖を掴んでいた。

その指先は、赤黒い点々——血を示している。

 

紬の母「どうしたの…この血!!」

 

紬の父「何!? 血だと??」

居間でテレビを見ていた父も飛んできた。

 

(やばっ、気づかなかった……)

 

心当たりは二つ。

——住民を金槌で殴った時か、

殺人をはたらいた直後の真人に抱き寄せられた時か。

どちらも、言えるはずがない。

 

紬「えと、ね。まおくんが転んじゃって、その時に肩を貸したんだけど……それでついちゃったんだと思う」

 

即興の嘘を、淀みなく口にする。

 

紬の母「そうなの……まおくん、ひどい怪我してなかった?」

紬「大丈夫。転んだだけ。手をちょっと擦りむいてただけだから」

紬の父「それならいいが。変なことに巻き込まれるなよ」

紬「分かってるって。…シミになるから,これ洗うね」

 

そのまま洗面所へ駆け込み、

洗剤を泡立て、布をこする。

 

(……ッッ、セーフ。今のは焦った……)

 

水に溶けた赤が、排水口へと流れ落ちていった。

 

その後は特に追求されることなく,

母親の質問攻めも、嘘でのらりくらりとかわし,

晩御飯と入浴を済ませ。

 

紬は,明後日の,真人との再会への期待を膨らませながら,

部屋のベッドで眠りについていた。

 

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