紬と真人がゴゴスの自動ドアをくぐると、
冷房のひんやりした空気と、軽やかなBGMが迎えてくれる。
土曜日とはいえ、まだ昼前。
客の入りはまばらで、家族連れや学生が数組、談笑しながら食事を楽しんでいた。
店員「一名様ですか?」
紬「はい、“ひとり”です」
店員「ご自由なお席にどうぞ〜」
紬が選んだのは,壁際の隅の対面席。
紬(ここなら見えにくいし…真人と喋ってても怪しまれなくいはず)
真人が他人から見えない以上、人前で迂闊に真人と喋ると、ひとりでブツブツ喋る変な女になってしまう。それは避けなければ。
席に着くなり、紬は真人にメニューを手渡した。
紬「はい、これメニュー。なに食べたいの?」
真人「ん〜、肉とか?てか、ファミレスっていろいろ売ってるんだね〜」
真人の言葉に、紬は引っ掛かりを覚える。
そもそもここに来たのは,真人が,仲間が行ってたファミレスに自分も行きたいと言ったからで——
紬「……仲間から聞いてないの?どれが美味しかった〜とか」
真人「あー、夏油たちね、作戦会議始めてすぐ燃やしちゃったらしいんだよ。漏瑚が興奮しちゃったんだって」
紬「……は?」
真人「だから水しか飲まなかったってさ」
紬「えええぇぇ!?」
思わず大きな声をあげてしまい、店員が飛んでくる。
店員「どうしましたか、お客様?」
紬「あっ、いやっ!!すみません、なんでもないです!」
慌てて手を振り、店員を追い返す紬。
その対面で、真人は腹を抱えて笑っていた。
真人「いや、焦りすぎでしょ、紬ww」
紬「誰のせいだよぉ!!……てか、それ本当に作戦会議だったの?ファミレス燃やすためだけに行ったんじゃないの!?」
真人「さぁ〜、どうなんだろうね?でも漏瑚は帰ってきてからすごく機嫌良かったよ」
紬「知らないよ!!」
そこでようやく、店員がまだこちらを見ていることに気づき、紬は小声に切り替える。
紬「てか、そろそろ注文決めよ……結局どうするの?」
真人「ん〜、じゃあこの鉄板に乗ってるやつと……あとコレにしようかな。映画によく出てくるし」
紬「OK、ハンバーグステーキとピザね。じゃあピザ2枚頼んでシェアしよっか。私はチキンステーキで」
真人「あとさ、あれなに?」
真人が背後を指差す。
紬「あー、ドリンクバーね。じゃあそれも追加で」
注文内容が決まり、紬は席の呼び出しボタンを押す。
小さな電子音が、静かな店内にピンと響いた。
数秒後、
店員が紬の席にやってくる。
店員「ご注文お伺いします」
紬「えっと……ハンバーグステーキとチキンステーキ、マルゲリータとジェノベーゼ。あと、ドリンクバーふたつで」
店員「……えと……"ふたつ"?」
紬「あっ、いえ!ひとつで!!」
店員「……畏まりました。少々お待ちくださいませ」
店員が軽く会釈して奥へ消えていくと、
対面で真人がニヤリと口角を上げる。
真人「“ふたつ”は怪しすぎるでしょ、紬〜」
紬「それを言うなら、注文量の時点で既に怪しいからね? 大食いキャラじゃないんだよ、私」
口では軽口を返しながら、ふと紬は思い出す。
紬「……てか真人、君がドリンクバー使ったら、コップだけ浮いてる怪奇現象にならない??」
真人「あー、それなら平気。呪霊は身体だけじゃなくて、持ってるものまである程度、一般人からは不可視になるんだよ。現に今の俺、服だけ浮いてる透明人間!なんて騒がれてないでしょ?」
紬「ああ……言われてみれば確かに。じゃあ大丈夫か」
やがて、香ばしい匂いをまとった料理が運ばれてきた。
鉄板から立ち上る湯気、パチパチと弾ける音が空腹を刺激する。
真人は待ちきれない様子で、ハンバーグステーキにナイフを入れた。
紬「真人、ナイフとフォーク使うの上手いね……意外」
自分もチキンステーキを切り分けながら、素直な感想を口にする。
真人「あぁ、映画でよく出てくるからさー。こうやって食べるシーン」
紬「真人の飲食知識、ほぼ映画じゃん……」
ふと、紬の目が鉄板の上に釘付けになる。
紬「ちょっと待って!ペレット使ってなくない!? 中ナマだよ、それ!?」
真人「え? ナマだと何かまずいの?」
紬「いや……人間だとお腹壊すから……」
真人「じゃあ大丈夫じゃん、俺呪霊だし」
紬「そっか……確かに。そうなるか」
続いて運ばれたピザを、
真人は器用にピザカッターで切り分ける。
真人「ん〜……これ、美味しいね〜」
豪快にかぶりつきながら,
子供のように素直な感想を漏らす真人。
紬はその様子を見つめながら、ふと心の中でつぶやく。
(映画でピザをシェアして食べるシーンって、まあまああるもんな……)
(最初はどうなることかと思ったけど……真人って結構、テーブルマナーちゃんとしてるんだ)
そんな紬の視線に気づいたのか,真人が首を傾げる。
真人「ん? どうかした?」
紬「……なんでもない」
紬は慌ててジェノベーゼピザを食べながら,
小さく誤魔化した。