【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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睡魔との格闘劇

真人とのデートの帰り道。

紬は電車に揺られながら、絶賛・睡魔と格闘中だった。

 

無理もない。ゴミ捨て場から映画館への移動に加え、

映画鑑賞で約二時間半の休息を挟んだとはいえ——

今日は、真人と二人での瞬間移動と、

紬ひとりでの瞬間移動を一日のうちにやってのけたのだ。

 

呪力切れ。

全身にまとわりつくような重い倦怠感。

瞼は何度も落ちかけていた。

 

(……ダメだ。今ここで寝たら、確実に数時間は起きられない)

 

自分にそう言い聞かせ、ただひたすら睡魔を押し返す。

やっとの思いで最寄駅までこらえ、

足を引きずるようにして家まで歩く。

 

ガチャリと玄関の鍵を開けると——出迎える声はない。

両親は外出中だった。

母は買い物、父はジムだろうとすぐに見当がつく。

 

余計な会話を交わさずに済むのは好都合。

紬はそのまま自室へ直行し、

ショルダーバッグを床に放り投げる。

 

そして——ベッドに倒れ込むと同時に、

意識は急速に暗闇へと沈み込む。

その刹那、まぶたの裏にふっと浮かんだのは、映画館を出たときに感じた真人の手の温もりと——

 

「うん。バイバイ」

 

あの柔らかく響いた声。

それを最後に、紬の意識は静かに途切れた。

 

そして——紬が眠り始めてから、およそ三時間後。

19時前。

 

勢いよくドアが開く音に、

紬はゆっくりとまぶたを持ち上げた。

視界に入ったのは、息を荒げ、そして心底ほっとした表情の母親。

 

紬の母「紬……! あぁ、よかった……もう帰ってたのね……!」

 

紬「……? お母さん?」

 

ことの経緯はこうだった。

買い物から戻ってしばらく待っても紬が帰ってこないため、母親は紬のスマホに連絡した。

しかし、映画館でマナーモードにしたまま,帰宅して眠りについていた紬はまったく気づかず。

不安が募ったころ、父親がジムから帰宅。

事情を聞いた父が「もしかしたらもう帰ってたりしないか? 部屋は見たのか?」と促し、その望みをかけてドアを開けたのだ。

 

ベッドから上体を起こした紬を見て、母親はさらに安堵したように息を吐く。

 

紬の母「ごめんね。なんでもないの。帰ってたならそれでいいの。……今から晩ご飯作るから、できたら呼ぶわね」

 

それだけ告げて、母親はドアを閉め、階段を下りていった。

 

紬は、眠気の残る頭で首を傾げた。

(……なんだったんだろ?)

 

しかし,その疑問は睡魔に秒殺され。

枕を背もたれ代わりに壁にもたれ、クッションを胸に抱いて。

そして再び——静かに二度寝の世界へ沈んでいった。

 

そして、紬が二度寝に入ってからおよそ40分後。

リビングから「紬! ご飯できたわよ!」という母の声が響く。

睡魔がようやく落ち着いた紬は、のそりとベッドから起き上がり、階段を下りて食卓へ向かった。

 

湯気の立つ食卓に着くと、母が興味津々といった様子で口を開く。

紬の母「紬、今日は“まおくん”とどこに行ってたの?」

 

今日の行き先は別に隠す必要もない、と紬は素直に答える。

 

紬「ファミレス行って、そのあと映画館だよ」

 

紬の父「……ファミレス?」

 

父の声が低く響いた瞬間、紬の頭に今朝の会話がよみがえる。

(紬、遊ぶのはいいが気をつけろよ。今朝、若梅市のファミレス“ゴスト”が全焼したってニュースやってた。……11人死亡だって。紬の学校の近くだろ? 最近、物騒だからな)

 

——しまった。

 

紬は慌てて手を振った。

紬「あ、今日行ったのはゴゴスだよ! 燃えたのってゴストでしょ? 反対方向だし、何も関係ないよ!」

 

紬の父「それならいいが……」

 

父は眉間に皺を寄せながらも、言葉を続ける。

 

紬の父「なあ、紬。さっき,夕方のニュースでやってたんだが……あの事件な、不審火らしい。原因も分からないまま11人も死んだんだ。放火か事故かもはっきりしない……そういうの、巻き込まれたらどうしようもないんだぞ」

 

紬「うん,わかってるよ。ちゃんと気をつけるから」

——犯人は真人の仲間なんだよ、なんて口が裂けても言えない。ここは適当に流すに限る。

 

母「まあまあ、無事に帰ってきたんだし、それが一番でしょ。」

母が柔らかな声で場を和ませるように言い、笑みを向けた。

 

紬の母「紬、楽しかった?」

紬「うん、すごく! ……あ、あとね、明日も遊ぶ約束したんだ。14時から」

 

その言葉に、父の眉がぴくりと吊り上がる。

紬の父「……なあ、紬。友達ができたのはいいことだが、さすがに会うのが頻繁すぎないか? 火曜、水曜、木曜の放課後と来て、今日、それに明日もだろ? その“まおくん”っての——」

 

紬の母「ちょっと、お父さん!」

母が鋭く遮った。

 

紬の母「心配なのはわかるけど、そんな言い方しなくてもいいでしょ。内緒で会ってるわけでもないんだし、夜遊びしてるわけでもないんだから。ね、紬」

紬「あ、うん……」

 

それ以上、父からの追及はなく、食事は平穏に進んだ。

晩御飯と入浴を済ませた紬は、再び自室に戻り。

そして,静かな夜を迎えた。

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