真人が紬を連れてきたのは、
地下通路から少し離れた廃ビルの近く。
ガードレールの隙間から、ふたりはひょこっと顔を出し、覗き見る。
そこでは、黒ずくめの服を着た二人の人間が、
周囲を警戒するように歩き回っている。
真人「ほら、あれ」
紬「……あ」
目を凝らした紬は、わずかに——
ふたりから放たれる呪力を感じ取った。
紬の感知能力はまだまだ未熟だが、
明らかに一般人とは異なるそれ。
つまり、彼らは。
紬「——呪術師」
真人「正解♪」
真人が小さく笑う。
真人「たぶん,呪霊調査か何かの最中ってとこだろうね。俺らとは別件ぽいけど」
いつも通りの軽薄な口調で,小声で語りかける真人。
対する紬の心には、緊張が一気に張り詰める。
——彼らが呪術師ということは,真人の明確な"敵"だ。
ふたりは素早く屈み,堤防の影に身を隠す。
真人は声を潜め、紬に耳打ちする。
真人「連携で仕留めてみようよ。君が俺ごと背後に瞬間移動して、俺が仕留める。奇襲作戦さ」
指に挟んだ“ストック”を、無造作に振りながら付け足す。
真人「ちょうどこれ、飛び道具として試してみたいし」
紬「———っっ」
紬は,真人の言葉に息が詰まる。
真人の言う“連携”は,つまり,
———真人の殺人に明確に加担することだ。
だが——
紬(……今さら、か)
三日前——木曜日、すでに紬は罪もない人間を背後から金槌で殴って昏倒させている。
トドメこそ刺せなかったが、直後に真人がその人を“ストック”に変えたのも見ていた。
真人の人間改造も、一度だって止めてない。
真人の隣だけが、今の紬の居場所だ。
正義ぶったところで、得るものなど何もない。
紬「……わかった。やってみる」
数秒の葛藤の末、そう答えると、真人の口角がゆるく上がった。
だが。
紬の頭に浮かんだ,
この作戦における,戦術上の疑問点。
紬「でも……一緒に飛ぶには、手を繋がないとだよね?それだと体勢的に奇襲には不向きなんじゃ——」
真人「ああ、それなら問題ないよ」
真人はそう言い、屈んだまま背中を差し出す。
両手を後ろへ回し、短く促す。
真人「ほら、乗って」
紬「え、こう……?」
言われるまま、紬は真人におんぶされるような形で,その背にしがみつく。
次の瞬間、真人の手が、紬の手を包み込んだ。
紬「あっ——」
その瞬間、紬は真人の狙いを理解する。
真人は振り返らず、背中越しに告げる。
真人「俺からは支えないから、ちゃんとしがみついててね、紬」
「——じゃ、飛んで」
真人はわずかに上体を起こし、紬の目線がガードレールの隙間に重なるように調整する。
紬は息を整え、呪力を練りながら、眼前の光景に集中した。
それぞれ警戒しながら別方向を巡回していたふたりの呪術師が、
足早に中央へ戻り、一時的に合流する。
互いに顔を寄せ、何か情報を交わした——その刹那。
バシュッッ!!
視界が反転。
一瞬の浮遊感のあと、紬と真人の姿は——
ふたりの呪術師の背後、地上1メートルの空間に突如出現。
「なっ——!」
反応する暇すら与えない。
真人「ははっ!!」
真人が左右の手に握っていた“ストック”——
指ほどのサイズだった改造人間が、瞬時に槍状へと変形。
極太の杭のような飛び道具が、
次の瞬間には——
ビシュンッッッッッ!
凄まじい勢いで、両手から同時に発射。
ドスッ!! ズシャァァァァ!!!
片方は呪術師の腹部を真正面から貫通。
大量の肉片を巻き込みながら、そのまま背後の壁に磔にする。
グラ……ズルリ……
力を失ったその身体は、壁を滑り落ち、血のしぶきを散らしながら地面に崩れた。
一声も上げることなく、絶命。
だが、もう一方は——
もうひとりの呪術師の脇腹をかすめただけに終わった。
ブシャッ!!
鮮血が噴き出す。
真人「ありゃ、片方外しちゃったか」
軽く着地しながら、まるでゲームのミスでもしたかのような口ぶり。
一方の紬は。
紬「わあぁぁっ!!」
瞬間移動による視界反転のショックに翻弄されながら,
必死に真人の背にしがみついていた。
真人の手は、改造人間を射出した瞬間にはすでに紬からは離され。
振り落とされかけた紬は、手脚を真人の身体に全力で密着させ,どうにか耐えていた。
「くっ……そ!! 呪霊め!!」
残された呪術師が、脇腹を押さえつつも呪具の剣を抜き、怒声と共に真人へ突進。
だが——
ギィイイイイン!! ズバァァァァッ!!!
呪術師が踏み込んだその瞬間。
真人の右腕が、一瞬で鋭利な長刃へと変形し、一直線に振り抜かれ。
次の瞬間、呪術師の身体は——
剣ごと、斜めに真っ二つ。
ドシャッ……と、濁った音を立てて、血の海の中へ崩れ落ちた。
———わずか,10秒足らずの決着だった。