【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

25 / 51
死刑宣告は突然に

真人と別れたあと、

紬は近くのショッピングモールに立ち寄り、

トイレへ滑り込んだ。

 

やることは,全身鏡の前での入念な確認。

ブラウス,スカート、袖、襟元——

どこかに血が飛んでいないか、くまなく目を走らせる。

 

幸い、血痕はなかった。

 

紬(よし、問題なし……。木曜日は“まおくんが転んだ”で誤魔化せたけど、さすがに今回も、だったらやばいからね〜)

 

それから電車に揺られ、夕方のうちに帰宅。

 

紬の母「おかえり!今日は早かったわね!」

 

玄関先では、母親がにこやかに迎えてくれた。

 

紬「まあね。……今日はカラオケ行ってきたんだ。ほら、成寺駅の近くのとこ」

 

どうせ聞かれるとわかっていた質問を、先んじてかわす。

 

——あの廃ビルの殺人現場が発見されるのは時間の問題。

そのためにも、動線として正反対のカラオケに行っていたという設定だ。

 

母親は頷きながら、にやにやと笑みを浮かべた。

 

紬の母「ふふ、二人きりでカラオケなんて……もう、完全にデートじゃない。好きなんじゃないの、“まおくん”のこと」

 

——ああ、これはもう“ただのオタク友達”設定、限界かも。

 

そう思った紬は——

 

紬「どう……なんだろ。そうなのかも……しれない。

でも正直、自分でもよくわかってないんだよね」

 

曖昧に答える。肯定でも否定でもなく、煙に巻くように。

 

紬の母「まあ!!……ふふ、応援してるわよ」

 

そんなやりとりをしていると、リビングの方から父の低い声が飛んできた。

 

紬の父「……紬。もしその“まおくん”と付き合うなら、一度、家に呼んでからにしなさい」

 

紬「——え?」

 

不意の言葉に、思わず声が詰まる。

 

紬の父「別に、正式に挨拶させろって言ってるわけじゃない。ただ、その“まおくん”の顔を、一目見ればそれでいいんだ。……それは、わかるだろ?」

 

——まずい。

 

真人には会わせられない。

それ以前に、両親にとって真人は“視えない存在”なのだ。

 

どう誤魔化すか、頭を巡らせた紬は、

少し強い口調で言い返す。

 

紬「別に、付き合うとかそういうんじゃないから!

さすがに話が早すぎだよ。“好きかもしれない”ってだけで!

……まだ全然、友達だし!」

 

早口で捲し立てると、母親がやんわりと助け舟を出す。

 

紬の母「まあまあ、お父さん。そこは紬のペースでやっていけばいいじゃないの」

 

場の空気が和らぎ、会話もそこで途切れた。

 

そして紬は、そのまま自室へと引っ込み。

ドアを閉め,部屋の明かりをつけた。

 

紬は、そのまま椅子に腰を下ろし,

——-"まおくん”設定の限界を感じ始めていた。

 

("真人に会わせる"なんて,そもそも無理だし……

どうしよ。今後も友達設定で通していくしかないかな……

でもそれは無理がある.....かといって,

"付き合ってる"なんて言ったら,"じゃあ一回家に呼べ"だし……)

 

悩みが堂々巡りを始めた、そのとき。

 

ふと、視界の隅に映ったのは、

机の上に立てかけてあった日本史の教科書。

 

……あ。

 

電撃のように、金曜日の授業風景が頭をよぎる。

 

(——今日の授業で平安時代は終わりだ。

というわけで、桓武天皇による平安京遷都から鎌倉幕府設立まで、まとめテストをやるぞ。

テストは来週の月曜日、1時間目だな。週末によく復習しておくように)

 

…………

 

(やっっっば!!!!!)

 

教科書のページをめくる指が震えた。

 

そうだ。金曜日の放課後までは確かに復習していた。

だがその後、土曜の真人とのデート、呪力切れによる爆睡、

そして今日の事件——

すべてが重なり、日本史のテストの存在は見事に頭から吹き飛んでいた。

 

しかも。

 

(このテスト……60点いかないと、放課後補修じゃん……!!)

 

放課後補修に呼び出されたら、真人に会いに行けなくなる。

それは死活問題。心のライフラインを断ち切られるも同然。

 

さらに、追い打ちはもう一つ。

 

(お父さん、絶対言ってくる……「まおくんと遊びすぎて、成績下がってるんじゃないのか」って……!)

 

思い出すのは、飛鳥時代のテストで45点を取って放課後補修になったときのこと。

そのときも、父から「アニメの見過ぎじゃないのか」と皮肉を飛ばされた。

今回は“アニメ”じゃなく、“まおくん”。

疑いの目は、もはや間違いなく“真人”に向けられるだろう。

 

(ダメだ……!補修なんて絶対行けない……!真人に会えない……お父さんに責められる……無理!!死ぬ!!精神的に殺される!!!)

 

もはや、冷静な思考などなかった。

とにかく補修だけは避けなければならない。

真人との明日も、明後日も——会うためには。

 

(現在時刻……18時ジャスト!!

ここから一夜漬けで詰め込むしかないっ!!)

 

紬は日本史の教科書を手に取り、

ノートと筆記用具を机に並べる。

呪力も、瞬間移動もいらない。

今、必要なのは“人間としての努力”だけ。

 

「っしゃぁぁ……戦じゃあああああ!!!!」

 

心の中で気合いを入れ、紬は地獄の詰め込み勉強を開始した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。