【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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生存ラインの死闘

時刻は18時。

机の上には日本史の教科書とノート、そして——決意。

 

「っしゃぁぁ……戦じゃあああああ!!!!」

 

叫びを心の中で炸裂させ、

紬は”地獄の一夜漬け”に突入した。

 

紬がまず取り掛かったのは、金曜日に復習した内容の確認。

すでに覚えているはずの知識を、ひとつずつ、慎重に思い出す。

 

(最澄が天台宗、空海が真言宗!!

それから……平将門の乱、藤原純友の乱、前九年の役、後三年の役! よし、ここまでは大丈夫!)

 

頭に残っている内容を確認できたことで、一瞬、安心しかけた——が。

 

(……あれ?この時代の朝鮮半島って、高句麗?いや、高麗??

紀貫之が古今和歌集を書いたんだっけ……って、いやいや、“集”ってことは一人じゃないよね!?

ああもう、わかんない! 紀貫之って確か“土佐日記”だし……)

 

情報が錯綜する。焦りで頭の中が混線していく。

 

(で、源頼朝が平清盛を破って……征夷大将軍に……って、それ、頼朝が初じゃなかったよね!?

……だれ!?征夷大将軍の初代って!!)

 

教科書を荒々しくめくる。

 

(……あった!坂上田村麻呂!!)

 

思い出せた瞬間、胸を撫で下ろすも——

 

(…………非常にまずい……!!)

 

追い詰められた紬の顔に、緊張と焦燥が浮かぶ。

 

(やばい……けど、やるしかない! オールしてでも詰め込む!!)

 

覚悟を決め、勉強再開。

18時から20時まで、ひたすら教科書とノートに齧りつく。

 

20時、母の「ごはんよ〜」の声に、いったんリビングへ。

夕食は文字通り“かき込む”ように食べ、食器を流しに置くなり、即・部屋へUターン。

 

22時。疲労と集中切れの気配。

ここで一度入浴を挟み、リフレッシュして態勢を整える。

 

だが——

 

23時半。

 

(…………っく、……眠……)

 

真人との“連携作戦”で消耗していた呪力。

その反動で起こる倦怠感が、着実に身体を蝕んでいた。

 

(ダメだ……ここで寝たら、終わる……!!)

 

立ち上がり、階下の冷蔵庫へ突進。

コーヒーとエナジードリンクを、各2本ずつ調達。

 

一気にカフェインを叩き込み、意識を引き戻す。

 

(保元の乱……平治の乱……平清盛 vs 源義朝……よし、いける!!)

 

(“征夷大将軍”は、“蝦夷”討伐のための軍の長……

ああ、だから“征夷”なんだ……これも覚えた!!)

 

そうして、紬の”戦場”は、静かに、しかし確実に続いていた。

 

すべては——

 

真人に会えなくなる“放課後補修”を回避するため。

“まおくん”のせいで勉強がおろそかになったと、父から責められないため。

 

それ以上に何より——

真人と過ごす、あの居場所を守るために。

 

それはある意味、

今までで一番、人間らしい一夜だったかもしれない。

————

 

——翌日・月曜日。

 

「紬!! 起きなさい、遅刻するわよ!!」

 

母親の怒声が、意識の底へ鋭く突き刺さる。

それが、紬の目覚ましだった。

 

ガバッと顔を上げると、そこは自室の勉強机。

頬には紙の感触。見下ろすと、開きっぱなしのノートには見事なよだれの跡が広がっていた。

 

時計に目をやる。

 

——7時22分。

 

紬(やっっっっっば!!!! 寝落ちした!!!!!!)

 

思考よりも先に、体が動く。

今日の授業の教科書をスクールバッグに突っ込み、

パジャマを脱ぎ捨て、制服に着替え、

寝癖まみれの髪を手早くとかす。

 

紬(……もういい! しばっちゃえばOK!!)

 

ヘアゴムで雑にポニーテールを結び、鏡で最低限の見た目をチェック。

 

——この時、時刻は7時27分。

 

学校に遅刻せずに到着するには、7時30分発の電車に乗る必要がある。

それを逃せば次は7時58分。

1時間目のテストには——間に合わない。

 

遅刻=補修確定。

補修=真人に会えない。父親の説教確定。

 

補修なんて、死んでも避けなきゃいけない。

 

そして——駅までの道のりは、

徒歩で20分、全力ダッシュでも10分。

 

つまり,“詰み”だ。………"本来なら"

 

——だが。

 

紬には、この状況をひっくり返す“切り札”がある。

 

玄関からローファーを掴み、

紬が駆け出した先は——2階のベランダ。

 

紬の母「えっ、紬!?」

 

ローファー片手に階段を駆け上がる紬の姿に,

母の驚きの声があがる。

けれど、気にしている場合ではない。

説明する暇もない。

 

ローファーを履き、スクールバッグを掴み。

ベランダの手すりに片手を添え。

 

紬(見える……ここからなら……駅!)

 

バシュッッ!!!

 

次の瞬間。

紬の姿は、最寄り駅の構内へと“出現”した。

 

通勤・通学ラッシュで賑わう人混みのなか。

唐突な出現に、すれ違う人がビクリと肩を跳ねさせる。

だが、紬はすぐに雑踏に紛れ、走り出した。

 

——その刹那。

 

紬の背筋に、微かな違和感が走る。

 

(……今の、呪力……!?)

 

明らかに、一般人とは異なる“何か”を、ほんの一瞬だけ。

通りすがりの中に、紬の感覚が“捉えた”。

 

だが——

 

今は気にしている場合ではない。

 

気配もろとも振り切って、紬は7時30分発の電車に飛び乗る。

 

紬(ッッ……セーフ!!!

でも、さっきの呪力……誰かいた……?

いや、今はそれどころじゃない……!)

 

車内で肩を落ち着けながら。

 

紬は,スクールバッグから日本史のノートを取り出し,

最終確認へと取り掛かった。

 

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