———月曜日、1時間目。
8時40分。
ついに運命の時がやってきた。
「テスト、始め!」
チャイムと同時に、日本史のテストが配られる。
60点未満は放課後補修。
真人との時間の確保、そして父親の説教回避を賭けた,
運命の,日本史のテスト。
(よし…落ち着け。いける……いけるって信じるしかない!!)
精神を統一し,紬は問題に臨む。
(土佐日記は紀貫之,初代の征夷大将軍は坂上田村麻呂!!
……あれ??平安京つくった…"かんむ"天皇って漢字どう書くんだっけ!?……平安京の前の都!?なんだっけ???)
(…あ,でも次の問題は分かる!!平清盛vs源義朝が始まったのは保元の乱,決着ついたのは平治の乱!!)
そして,テストは終了し。
(……手応えあった,たぶん大丈夫!!7割くらいはできた気がする!60点は超えただろ!!補修は回避したはず!!)
2時間目。紬は,緊張の糸が完全に切れたことで,
昨夜の猛勉強の反動と,朝の瞬間移動の倦怠感とで爆睡。
3時間目も眠気が抜け切らず,寝て起きてを繰り返し。
4時間目は,眠気こそ落ち着いてきたものの,
昨夜のコーヒー2本,エナドリ2本のオーバードーズの反動で頭がぼーっとし。
昼休みは完全に上の空。
5時間目,6時間目はだんだん回復してきたものの,教師の話は左耳から右耳にほとんど流れ。
結局,紬が,まともな思考ができるまでに戻ったのは,7時間目であった。
だが,紬はそれでよかった。
(なんとか放課後までに体調戻せた…これで今日も真人と会える!!)
下校チャイムが鳴り終わると、紬はすぐさま校内の女子トイレへ。
乱れた髪をほどき、水で軽く整えてから、改めてポニーテールに結い直す。
(うう,やっぱ寝癖は水だけじゃ直せない…けど,こればかりは仕方ないか…)
カバンを肩にかけ、真人の実験場へと向かう道を歩き出す。
だが——
校門を出て、まだ数歩進んだところで。
背後から、落ち着いた,しかしどこか軽薄さを孕んだ声がかけられた。
??「やぁ、君。……ちょっといいかな」
紬が振り返ると、そこに立っていたのは、
白髪に黒い目隠しを巻いた長身の男。
風になびくような佇まい。けれど、ただの通行人ではないと、紬の本能が警鐘を鳴らす。
??「君、今朝、“瞬間移動”使ったんだってね? 駅にいた術師が教えてくれたんだけどさ」
———その言葉で、すべてが繋がった。
(今朝……! あのとき感じた呪力…!!やっぱり、視られてたんだ……!)
動悸が高鳴る。
しかも、目の前の男からは、ただならぬ“呪力”の気配。
(この人……呪術師、それも……相当な……)
そう、気づいた瞬間。
(.....まさか、真人の実験場とか,昨日の現場.....バレた?)
紬は、内心パニックに陥った。
どうしよう,と身体が強張り、言葉が出てこない。
だが五条は、そんな紬にお構いなく、ひょうひょうとした調子で続けた。
「僕、五条悟。呪術高専って学校で教師やってる。君、すごく有用な術式持ってるよね? もし興味あるなら、うちに来ない?」
(……呪術高専!?……真人の敵,だよね!?断らないと)
そう思い、紬が言葉を返そうと口を開きかけた,
その瞬間。
「——って、言いたいところなんだけど」
五条の声が、急に低く落ちる。
軽薄さを脱ぎ捨てた,空気を凍らせるような冷たい声。
「君、呪霊の“残穢”、纏ってるね?」
「……っっ!!!(バレた!?!?)」
やばい。これはまずい。紬の中で危険信号がともる。
咄嗟に呪力を練り上げる。
狙うは、長距離ワープ。
——最大飛距離、1.4km。
(行き先はどこでもいい,とにかくこの男から逃げないと——)
瞬間移動で飛ぼうとした、
その刹那。
「はい、それは駄目」
その言葉が耳に届いたときには、
すでに五条は、紬の目の前にいた。
———瞬きよりも速く。
次の瞬間。
トン。
軽く、けれど的確に、
五条の手刀が紬の首筋を叩く。
瞬間,視界がぐらりと揺れ。
何か声を発する間も,思考する間もなく。
紬の身体は,その場に音もなく昏倒した。