【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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第三の選択

全身の血が冷たく引いていく感覚。

ここまで、はっきりと「死」が目の前に迫ったことはなかった。

 

だが、五条への反骨心と腹立たしさで。

紬の思考は止まっていなかった。

いや、むしろ研ぎ澄まされていた。

 

まず,真人のことを素直に喋るのはナシだ。

 

目の前の男——五条悟は、たぶん今まで出会った中で、もっとも“どうにかならない存在”だ。

 

だって,五条悟は,"紬の瞬間移動での逃亡を,その発動前に封じる"なんて芸当をやってのけた。

 

もし真人がそれをできるなら,

あそこまで紬の瞬間移動を高く評価して育てよう,なんてはしていなかっただろう。

 

つまり。

 

(……この人、たぶん真人よりずっと強い)

 

であれば。

五条の提示した「協力するか、死ぬか」の二択に、真正面から向き合えば、

待っているのは“処刑”という名の結末だけだ。

 

だが、そんな思考の中で、紬は気づいていた。

 

(私の"瞬間移動"って,誰から見ても,相当な価値があるモノなんだな)

 

五条ははっきり言っていた。

———駅で“瞬間移動”できる逸材を見たって報告を聞いて、正直ワクワクしてたんだよね。

———“瞬間移動”持ちの逸材をさ,『呪霊と関わってたからはい死刑』なんて……あまりにも、勿体ないじゃん?

 

真人もまた、初対面の紬にこう言った。

———……だって、君は他の人間とは違う……“特別”だから。

人間で術式持ってるやつなんてほんの一握り……

でも、君にはある。

それも——とびきり強力なやつがね。“瞬間移動”だよ。

 

生まれてこのかた、取り柄なんてないと思っていた自分が、

“人間”にも“呪霊”にも、それぞれ「利用したい」と思われていたという事実。

 

(……私、殺すには惜しい人材なんだ)

 

思い返せば、五条に二度、舐めきったような態度を取っても、今のところ命は取られていない。

ということは、彼にとって紬は“死刑確定”ではなく——“交渉の余地あり”なのだ。

 

(……賭け、だ。でも、やるしかない)

 

唇を湿らせ、喉の奥にひっかかる言葉を、慎重に紡いだ。

 

紬「……分かった……話すよ。仲間のこと」

 

伏し目がちに、声を落とす。

 

紬「……私も、正直……死ぬのは怖いし」

 

手を縛られ、呪力も練れない、逃げ場のない状況で。

それでも紬は、まっすぐに五条を見据え、言った。

 

紬「私の、仲間の呪霊の名前は……“あぐり”」

「“他人に術式を与える術式”を持つ呪霊だった」

 

五条「ふぅん。“あぐり”……ね」

 

感情の読み取れない声。

その目は目隠しの奥から、じっと紬を見据えている。

 

信じているのか、それとも見抜かれているのか——

その判断はつかない。

だがここで目を逸らすのは、完全に“敗北”だ。

 

紬は,怖さをこらえながらも、正面から見返す。

 

五条「じゃあ君のその“瞬間移動”も、その“あぐり”に渡された術式ってわけ?」

 

紬「……そう。“あぐり”が言うには、元から私にあった術式だったって。……脳の構造を弄ったらしい」

 

それは、事実の一部。

ただし、真人の術式にとって重要ワードっぽい"魂"は避ける。

 

五条「……脳の構造を非術師から術師に変えたのか。なるほど、それなら残穢の付き方にも説明はつくな」

 

五条は軽く頷く。

 

五条「……会ってたのは最近? 付き合い長いの?」

 

紬「……最近。先週の火曜と水曜、……それから、おとといの土曜」

 

意図的に、“木曜”と“日曜”は省く。

金槌の一件と、真人と共に“やってしまった”あの日は。

 

五条「……会ったのは三日だけ? でも君、さっきまでの態度を見る限り、けっこう入れ込んでる風だったけど?」

 

紬「……そりゃあ、急に瞬間移動なんてくれる人が現れたら、入れ込みもするでしょ。ずっとただの凡人だったのに、“君には特別な力がある”ってイベントなんだから」

 

それは、紛れもない本音。

自分の平凡な世界が、一瞬で塗り替えられたあの衝撃は、まだ胸に残っている。

 

五条「君、アニメオタク?」

 

小さく鼻を鳴らし、五条が茶化すように言った。

声色からは、氷のような殺気が消えかけている。

場がわずかに和らいできたのを、紬も感じた。

 

五条「で? その“あぐり”の拠点的なのは?」

 

紬「……知らない。会うときは、いつも向こうが勝手に現れる感じだったから。どこから来てるのかは……わからない」

 

五条「ふーん……脳を弄った人間に呪力マーキングでもして、感知で来てたのかね」

 

何気ない調子で推理を並べる五条。

 

五条「じゃあ君、その“あぐり”を捕まえるための囮捜査とかに協力する気はある?」

 

紬「……それは、やってもいい……けど。たぶん、無駄だよ」

 

五条が少し眉を上げる。

 

紬「“あぐり”、他にも“目をかけてる人間はいる”って言ってたから。……たぶん、今日、私がこうして姿を消した時点で……もう見限られてると思う」

 

五条「へぇ、切ないね。……ま、呪霊だし、そんなもんか」

 

皮肉とも、諦めともつかないトーン。

 

五条「じゃあ正解だったね、君も。そんなやつのこと喋っちゃって」

 

紬は顔を俯かせながら、心の中で思った。

 

(……よし、うまく信じてる……! いい感じ……!)

 

だが——

 

そのとき、五条の声色が、再び落ちる。

 

低く、鋭く、問うように。

 

五条「……じゃあさ。その“あぐり”が人を殺してるところ、見た?」

 

一拍置いて。

 

五条「……それか、君が人を殺したことは?」

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