【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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「特級案件だね、間違いなく」

 

そして,五条は。

パン、と軽快な音を立てて両手を叩くと、再び紬のほうを向く。

 

五条「じゃあ、呪霊の証言も取れたわけだし……約束通り、君には呪術高専に入ってもらうよ。

名前、なんていうの?」

 

紬(……え、ほんとに……? いまのやり取りで……通った?)

 

慎重に、慎重に言葉を選んだ末の”虚構”が、どうやら五条の中で信憑性を得たらしい。

 

——嘘が、通った。

 

紬「……桐生(きりゅう)紬」

 

“転校”するなら戸籍が必要になる。

さすがに偽名は通じないだろう。

素直に本名を口にする。

 

五条は満足げに頷き、どこか軽く笑った。

 

五条「そう。よろしくね、紬」

 

その瞬間、紬の中にわずかな安堵が広がる。

 

紬(……なんとかなった。今のところは、だけど……)

 

だが——その安堵も束の間。

 

紬(……あ、でも……“転校”って、親にはどう説明するの?)

 

当たり前の疑問が頭をよぎる。

“呪術高専に強制転校"——そんな話、親にどう納得させればいい?

 

すると、それを見透かしたように、五条が続けた。

 

五条「紬ってさ、家族はいるの?親は?」

 

紬「………まあ、普通に。両親と暮らしてるし」

 

五条「で、その“あぐり”とは? 両親には内緒で会ってたわけ? 親って、非術師?」

 

紬「……まあ……そう、だけど……」

 

五条は、そこでふうっと深く、重たく息を吐いた。

 

五条「……まずいね、それ」

 

紬「……え?」

 

眉が動く。嫌な予感が、背筋を這う。

 

五条「呪術高専って、全寮制なんだよね。それ以前に——君さ、もとは“呪霊と繋がってた”わけじゃん?」

 

五条の目に、かすかに鋭さが宿る。

 

五条「そんな子を“また呪霊の元に戻しました〜”って、なるわけないでしょ」

 

紬「……っ」

 

五条「つまり君、もう帰れないの。今日で終わり。」

 

ガン、と音がした気がした。

それは鼓膜が反応した音ではなく、脳が“現実”にぶつかった音だった。

 

五条「だからさ——今から君の家、行くよ。」

 

紬「……は?」

 

五条「補助監督の伊地知にも同行してもらって、君の親に“事情”は彼から説明させる。……君が何やってたかも,ちゃんと伝えてもらうからね」

 

紬は何かを言おうとしたが、声が出なかった。

 

五条「で、君は荷物をまとめて……そのまま高専に直行。」

 

紬「……っ、え……え、ちょ、ちょっと待って」

 

五条「分かったね?」

 

五条の目は笑っていなかった。

——まるで、既に“決定事項”だとでも言いたげに。

 

そして、五条は腰を上げると、紬の背後に回り、後ろ手に縛られていた縄を外した。

それは、紬の呪力を封じていたもの。

 

解放された瞬間、紬の体内に流れる“呪力”の感覚が蘇る。

今なら、瞬間移動も可能だ。

最大飛距離1.4キロ。ここから消えることも——

 

だが。

 

五条「……間違っても、瞬間移動で逃げようなんて考えないようにね」

 

縄がほどかれると同時に,五条の声が飛んできた。

 

五条「それやったら、問答無用で即・指名手配。

いくら僕でも,二度目はさすがに庇い切れないしねー。

ま、そもそも僕が発動前に眠らせるけど。前みたいにさ」

 

紬「……っっ」

 

釘を刺された。

きつく、逃げ場のない言葉で。

 

(……そうだ。前回、それをやって捕まったんだ。次はない)

 

思い出す——校門前で、呪力を練った“その瞬間”に、首筋に手刀を撃たれ、何もできずに昏倒したあの記憶。

 

瞬間移動には,呪力を練り、方向を決め、

飛ぶイメージを作る"タメ"がいる。

そして,その"タメ"を見せた瞬間。五条に潰される。

 

紬はギュッと唇を噛み、ただ無言で頷いた。

 

五条はそんな紬の反応を確認すると、軽く手をひらひらと振って立ち上がった。

 

五条「じゃ、紬。ついてきて。伊地知に車出させるから」

 

そしてふたりは、地下室を出て、夜風の中を並んで歩く。

 

やがて、止められていた黒い車の後部座席に乗り込むと、運転席には黒スーツの男がいた。

 

伊地知「はじめまして。私は高専補助監督の、伊地知潔高です」

 

律儀な口調とともに、眼鏡をかけた男が振り返って軽く頭を下げる。

 

紬(……あ。この人は、怖くないかも)

 

五条による心臓バクバクの尋問を経て、今から“親バレ”という修羅場に突入する紬にとって、

この落ち着いた態度の男は、ほんの一瞬だけ心を緩ませる存在だった。

 

紬「……あ、はじめまして。桐生紬です」

 

小さく答えると、伊地知は真面目な調子で言った。

 

紬「では桐生さん。今から、君のご自宅へ向かいます。ご住所を教えてください」

 

———ああ、もう本当に逃げられないんだな。

 

呪力は戻った。けれど、それが何になる。

 

紬は観念したように、静かに住所を告げた。

 

前を向いた伊地知が、ナビにその住所を入力する。

エンジンの駆動音が響き、車がゆっくりと走り出す。

 

……もう、戻れない。

今の生活も、両親との日常も、真人との時間も。

すべてこの日を境に、終わろうとしていた。

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