【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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修羅場のはじまり

そして、紬の自宅前にたどり着いた三人。

 

無言で玄関の鍵を開ける紬。中からは,柔らかな笑みを浮かべた母親。

 

母「おかえり、紬……って、え?」

 

母の顔から笑みが消える。

紬の後ろには、見知らぬ男がふたり。

 

伊地知がすかさず身分証を取り出し、丁寧に頭を下げた。

 

伊地知「はじめまして。私は東京都立呪術高等専門学校、補助監督の伊地知潔高と申します。こちらは教師の五条悟です」

 

父「どうした……??」

 

続いて現れた父が、戸惑いの色を浮かべる。

 

父「紬。この人たちは……?」

 

紬「……………」

 

紬は何も答えない。

代わって、五条がひょうひょうとした口調で言う。

 

五条「いや、お宅の娘さんが、なかなかやらかしてくれちゃってね。早速だけど、伊地知が事情を説明するから。テーブル囲んでもらっていい?」

 

その言葉により、家族はリビングへ移動し,テーブルを囲む。

 

五条は、脚を組んで椅子に座り。

伊地知は、神妙な面持ち。

紬の母は、戸惑いを隠さない表情で。

紬の父は、何かを察したような険しい顔。

そして、紬は。この後の修羅場を覚悟し、俯いている。

 

口火を切ったのは伊地知だった。

 

伊地知「まず、お宅の娘さん——紬さんですが、彼女は“呪霊”と接触していました」

 

母「じゅ……れい……?」

 

伊地知「“呪霊”とは、人間から漏出する負の感情が積もり形になった存在。人に害をなす“化け物”のようなものです」

 

父と母が、驚きと戸惑いに顔を見合わせる。

 

伊地知「若梅市のファミリーレストラン“ゴスト”が全焼し、11人が死亡した事件をご存知でしょうか?」

 

母「ええ……紬の学校の近くですし……ニュースで不審火って」

 

伊地知はカバンから現場写真と調査報告書を取り出し,指し示す。

 

伊地知「表向きは不審火。しかし、現実は異なります。これは呪霊による犯行でした」

 

母「じゃあ……紬は……放火犯と関係を……!?」

 

母が声を震わせたその瞬間、五条が割って入る。

 

五条「いや、お母さん。この事件の呪霊と、紬が接触していた呪霊は別のもの。現場に残された残穢と,紬が纏っていた残穢が違うから、それは保証する」

 

母「…………」

 

五条「ただ……呪霊ってのはね、そういう非道なことも平然とする存在なんですよ」

 

そして——

 

重たい沈黙の中、父が静かに言葉を発する。

 

父「なあ、紬……。お前が言っていた、“まおくん”っていう男の子……」

 

顔をあげる紬。父と視線が合う。

 

父「……まさか、そいつが——呪霊だったのか?」

 

紬「……そうだよ」

 

紬は小さな声ながらも,まっすぐに父を見つめて言った。

 

紬「“まおくん”っていうのは嘘。本当は……“あぐり”って名前の呪霊と会ってた」

 

もう,親からどう思われようが,どうだっていい。

——でも,真人の名前だけは、絶対に出さない。

 

それが今、紬に残された最後の抵抗だった。

自分自身の心を、なんとか繋ぎ止めておくための——。

 

父「………っっ、紬!!」

 

父がテーブルをバンと叩いて、勢いよく立ち上がる。

 

だが、紬の瞳は微動だにしなかった。

 

——人間改造。殺人現場。尋問。縄の拘束。

あまりにも濃密な異常にさらされたこの1週間で、紬の“恐怖”は、麻痺してしまっていた。

 

五条「いや〜、“まおくん”か。なかなかにエグい嘘ついてたんだね、紬」

 

呆れとも軽蔑とも、そしてどこか愉快そうな色を滲ませた五条の声。

それが引き金だったのか——

 

父「じゃあ、お前は……“まおくんと遊ぶ”って言って、ずっとその呪霊と会ってたのか!? 火曜も、水曜も、木曜も、土曜も、日曜も!!」

 

父の怒声が、部屋に響き渡る。

 

紬はその瞬間、ぞっとする。

それは,父の声量や怒りにではない。

 

紬(しまった———)

 

紬の気づいた"食い違い"に,五条もまた気づく。

 

五条「……あれ〜? 紬?

君が“あぐり”って呪霊と会ってたのって、火曜と水曜と土曜だけじゃなかったの?」

 

紬「…………っっ!」

 

(まずい——バレる!!訂正しないと……!!!)

 

一度、証言が食い違えば、その信頼はすべて崩れる。

———“あぐり”が"存在しない"なんてバレたら,

すべて終わりだ。

 

紬は、反射的に口を開く。

 

紬「違う、木曜と日曜は……“あぐり”とは会ってない。あの日は、瞬間移動の自主練をしてたの。……“あぐり”に、早く術式を使いこなせって言われてたから」

 

必死に言葉を継ぎ足しながら、さらに続ける。

 

紬「……この辺で飛ぶと騒ぎになるでしょ? だから、花武山のほうまで行って、そこで練習してた」

 

——花武山。

それは、真人の実験場所とはまったく逆方向にある、小さな山。

 

五条「へぇ……術式の自主練、ね」

 

五条の声は、相変わらず感情が読めない。

柔らかく聞こえるのに、鋭く腹に刺さってくる。

 

その向かいで、父の怒りは頂点に達していた。

 

父「紬!! なんの話をしてるんだ!! ずっと、俺たちを騙していたのか!?」

 

父の怒鳴り声。

嗚咽しそうな母の沈黙。

 

——修羅場は、いよいよ本番を迎えようとしていた。

 

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