【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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"クロ"の宣告

父の怒声が響き渡る中、ついに伊地知が本題に踏み込んだ。

 

伊地知「……自分の意思で呪霊と接触していたこと。それは、呪術規定にもとづけば——本来ならば“秘匿死刑”にあたります」

 

母「——えっ……死刑!?」

 

母の声が裏返る。目を見開き、口元を手で覆っていた。

 

伊地知「……“本来ならば”です。

ただ、紬さんは接触していた呪霊に関する情報を提供し、

なおかつ“瞬間移動”という非常に有用な術式を保持しているため……

私どもとしては、紬さんに呪術高専へと転校していただき、呪術師として働いていただくことで——死刑を免除し、その行動を“罪滅ぼし”としてもらう方針です」

 

母「ちょ、ちょっと待ってください……!」

 

椅子を引き寄せるようにして身を乗り出す。

 

母「そもそも紬は……本当に“自分の意思”で呪霊と会ってたんですか? 脅されたり、巻き込まれたり——」

 

五条「——いや、それはない」

 

割って入ったのは五条だった。

ひょうひょうとした語調は変わらない。

けれど、その声には確信が滲んでいる。

 

五条「僕もね、最初はそれを疑った。けど、紬は僕の顔を見た瞬間、明確に怯えて逃げようとした。呪術師に出会って喜ぶどころか、明らかに“やましいことがある”反応だったんだよ」

 

五条は軽く首をすくめた。

 

五条「——紬は完全に“クロ”。自分の意思で呪霊とつるんでた。それは間違いない」

 

母「…………っっ」

 

母の瞳に涙が溢れ、そのまま頬を伝い落ちる。

 

父「紬!! いつからだ!! いつから呪霊と関係を持ってたんだ!!」

 

怒鳴り声がリビングに響き渡る。

 

紬は、椅子の上で静かに息を吸い、そして吐いた。

 

紬「……火曜日からだよ。先週の、火曜日」

 

父「なんでそんなことを——!」

 

紬「“あぐり”が言ったの。私には“瞬間移動”の力があるって。……で、実際に、その力を使えるようにしてくれた」

 

父「……瞬間、移動……?」

 

父の語尾が揺らぐ。

突拍子のない言葉に、理解が追いついていない。

 

だが、その隣で、五条があっさりと補足する。

 

五条「“瞬間移動”ってのは本当ですよ、お父さん。実際、今朝——僕の同僚が、駅で“突然現れた紬”を目撃しています」

 

父「え……」

 

今度は母が、小さく声を漏らした。

 

母「今朝……そういえば、紬が……ローファーだけ持って、2階に上がってって……そのあと、いなくなってた……」

 

五条「うん、完全にその時ですね。“飛んだ”の」

 

その言葉に,母は再び一滴,涙を流した。

 

そして——

震える声が、テーブル越しに紬へと投げかけられる。

 

父「……つまり、紬。お前は……その“瞬間移動”をくれたからって、人殺しの“化け物”と……仲良くしてたのか……?」

 

それは怒りというよりも、もはや“失望”に近い声だった。

 

けれど——紬もまた。

胸の奥に、静かに失望を湛えていた。

 

紬(……やっぱりダメだ。結局、誰も私をわかってくれない)

 

みんな、平凡な“日常”を守るために必死になってる。

だけど——紬にとって、それは“つまらないもの”だった。

 

真人がくれたような、アニメみたいな“非日常”。

ああいうのが、楽しいのに。

 

思い返せば、ずっとそうだった。

ジャングルジムのてっぺんに登れば「危ないからやめなさい」と言われ。

下り坂で立ち漕ぎすれば「下に人がいたらどうするんだ」と叱られた。

 

——私は、ただ“刺激”がほしかっただけなのに。

 

そうやって、何度も“非日常”に手を伸ばすたびに。

決まって“日常”という縄に引き戻された。

 

だから、アニメにはまった。

誰にも怒られずに“非日常”に飛び込める、唯一の場所だった。

 

そして、真人と過ごした時間は——

あの世界が、現実に飛び出してきたような色彩だった。

 

それを、今——

全部、取り上げられたうえに、責められている。

 

心の底から、冷たく硬くなっていく自分を感じながら——

紬は、父親を睨みつけるようにして答えた。

 

紬「そうだよ。それだけ、魅力的な力だった」

 

父「お前は……その“あぐり”って呪霊が人を殺すって、知ってて……まさか、そいつが人を殺すところは……見てないよな?」

 

紬「……いや。見たよ」

 

それ以外、答えようがなかった。

ここで「見てない」などと言えば、先ほどの五条への証言と矛盾してしまう。

 

母「何で……っ、何で、紬……!!」

 

その言葉をきっかけに、母親が——ついに決壊する。

泣きじゃくる声が、静かな部屋に重く響く。

 

父「………っっ!!」

 

母の涙を見たその瞬間、父の中でも、何かが完全に壊れた。

 

父「紬……っ、お前はもう……うちの子じゃない!!」

 

怒鳴り声。

いや、もはやそれは悲鳴だった。

 

けれど——紬の心は、まるで氷のように静かだった。

 

紬(……上等だ。そっちが私をいらないって言うなら、私も——あんたなんて、いらない)

 

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