【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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届かぬ叫び,届かない優しさ

呪霊を斬った“感触”に、紬は耐えきれなかった。

 

手首から肩にまで残る、ぐちゃりとした肉を裂いた感覚。

それも,一回じゃない。

呪霊が飛んでくるたびに連続で味わわされる。

その余韻が腕の中で脈打ち、

体の奥から吐き気がこみ上げる。

 

紬「っ……ぅ……!」

 

息が荒くなり、

片手で壁をつかんでどうにか立っている。

 

視界はにじみ、全身から脂汗が噴き出す。

そんな紬の様子に、釘崎が振り返って声をあげた。

 

釘崎「ちょっと桐生!? どうしたの、アンタ汗びっしょりよ!? もしかして深手!?」

 

紬「……あ、えと……っ」

 

なんとか言葉を返そうとするも、

喉が締め付けられて声にならない。

目の前がじわりと霞んでいく。

 

そのときだった。

 

伏黒「来るぞ!!」

 

伏黒の鋭い叫びが響く。

 

次の瞬間——

廊下の奥の壁をぶち破って現れたのは,

全身にいくつもの目玉を持つ巨大な呪霊、

ぬめるような肌。

肥大化した身体には短い手足が生え、

その巨体で迫ってくる様は、まるで異形のナメクジ。

 

伏黒(……親玉……っ!)

 

伏黒が即座に印を切る。

 

伏黒「——鵺!!」

 

バチィッ!!

 

電撃が炸裂し、呪霊の動きが一瞬止まる。

 

——しかし、それでも止まりきらない。

鵺の衝撃を受けながらも、

親玉呪霊は苦悶の声をあげたまま、

なおも三人めがけて突進してくる!

 

伏黒・釘崎「!!!」

 

伏黒と釘崎はとっさに左右へ飛び退き、

間一髪でその巨体をかわす。

 

——だが、紬だけが。

吐き気でもう,それどころではなかった。

 

釘崎「桐生!!」

伏黒「避けろ、桐生!!!」

 

ふたりの叫びが、悲鳴のように飛ぶ。

 

けれど紬の耳には、もうぼんやりとしか届かない。

 

頭がぐらりと揺れる。

足が動かない。

体が言うことを聞かない——

 

そして、次の瞬間。

 

ドン……ッッッ!!

 

重たい音が響く。

巨体の呪霊が、紬の身体を真正面から弾き飛ばした。

 

細い身体はまるで人形のように宙を舞い、

そのまま——

 

ガッシャアァァァン!!!

 

廃校の二階の窓ガラスを突き破り、外へと投げ出される。

 

釘崎「桐生ッッ!!」

 

釘崎の絶叫が、虚空に響く。

遠く、地面に叩きつけられる鈍い音。

 

ドサッ。

 

粉塵と割れたガラスが舞う中で、

自分自身から流れ出た血に塗れたまま,

桐生紬は動かなくなった。

 

その胸が、わずかに上下しているのが、

かろうじて「まだ生きている」証だが。

 

意識は,すでに———闇の中に沈んでいた。

 

◼︎

 

紬が意識を取り戻したのは、

ある一室のベッドの上だった。

 

紬「……………」

 

しばらく、ただぼんやりと天井を見つめる。

自分の体が、どこか浮いているような感覚。

 

——思い出す。

 

呪霊を斬ったときの、“ぐちゃり”とした手応え。

骨と肉が、生々しい音と共に潰れるあの感触。

その直後、吐き気に襲われて、体が言うことをきかなくなったこと。

 

そして。

 

あの呪霊の突進。

逃げられず、直撃を受けて。

廃校の二階から外へ、宙を舞い———

 

??「——あ、起きた?」

 

低く、だるそうな声が部屋に響いた。

 

紬がゆっくり顔を横に向けると、

そこにいたのは、白衣姿の女性だった。

茶髪のロングヘアに、タバコのような煙の残り香。

 

呪術高専の専属医師——家入硝子。

 

家入「まだ動かない方がいいよ。治してはあるけど、結構ひどかったからね」

 

ベッドの側に腰かけると、淡々と告げる。

 

家入「出血多量。肋骨は数本折れてたし、右脚は——粉砕骨折だったよ」

 

紬「……あ、え……と……」

 

頭が回らない。

とにかく,気分が悪かった。

 

手首から肩へ。

斬った瞬間の“ぐちゃり”とした感覚が、

脈のように何度もよみがえる。

 

そんな紬を、家入がちらりと見下ろして言う。

 

家入「……恵と野薔薇が、血相変えて運び込んできたよ」

「親玉の呪霊は、恵の“玉犬・渾”で祓えたみたいだけどね。

まあ……アンタが直撃受けた後の話だけど」

 

淡々と話す口調の中には,

わずかな怒気が混じっていらようにも聞こえた。

 

家入「……君、まだ実戦は早かったか」

 

そのひと言に、紬の肩がぴくりと震える。

 

家入「五条の悪いクセなんだよね。アイツ、最強だからさ。普通の術師が“死ぬ気”で祓ってるような呪霊でも、“雑魚じゃん”で済ませちゃう」

「それで生徒が潰れることも、分かってるのかどうか……。

あのバカ、加減って言葉を知らないんだよ」

 

家入は,紬を責めなかった。

初めて,紬に寄り添い,

"仕方ない"と言ってくれる大人がそこにいた。

 

しかし—— 紬は、胎児のような体勢で、

怯えるようにぎゅっと縮まった。

もう、関わる人間全てが怖い。

一言も発せなかった。

 

家入の優しさも——

紬の側の,それを受け取る器が,もう,壊れていた。

 

黙り込む紬を見て、家入がもう一度ため息をつく。

 

家入「……トラウマ、だね。呪霊との実戦が」

「これじゃ、当分は任務も無理そうだし……」

 

白衣の裾を直しながら、ぽつりと続けた。

 

家入「……“アイツ”のとこ、一緒に入れとくか」

 

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