翌日,朝8時前。
真人は、紬と最初に出会った路地裏の近くで、じっと通行人を眺めていた。
目を凝らして探していたのは、見慣れた制服——緑チェックのプリーツスカートに、同色のリボン。
そして、その制服を身に着けた女子高生の姿をついに見つける。
真人「……いた」
少女の顔を確認するまでもない。
真人はその女子高生のあとを、ふらふらと尾行し始める。
もちろん、自分が“見えない存在”であることは、
よく理解している。
尾行がバレるリスクなど、まったくない。
そうしてたどり着いたのは——紬が”おとといまで”通っていた高校だった。
真人「ここだな。間違いない」
目的の場所を特定した真人は、そのまま校舎の中へと侵入する。
紬の学年もクラスも知らないが、構わない。
紬がいる建物が分かれば、呪力探知で探し出すのは簡単なはずだった。
真人「……さて、と。紬は……っと」
指先を鳴らし、呪力探知に集中する。
……が。
真人「……あれ? 紬の反応、なくない?」
何度やっても、紬の呪力はどこからも拾えない。
真人「んー……家? 体調崩したとか?」
一瞬そう考えるも、真人はすぐに顔をしかめた。
真人「いや、でもさ……ここまで探しに来て、“待つだけ”って、おもしろくないよな」
納得いかない。
自分の時間を潰してまで探しているのに、会えない。
文句のひとつやふたつ、本人にぶつけなければ気が済まなかった。
だが——肝心の紬の家を、真人は知らない。
真人「…………」
しばし考え込み——ふと思い出す。
真人「あ。映画でさ、小学校の先生が名簿の住所見て家庭訪問してたな。
……ってことは、生徒の住所一覧って、学校にあるってこと?」
ぐるりと目を巡らせる。
真人「……じゃあ、職員室、だよねぇ〜?」
思考がまとまった瞬間、真人はそのまま職員室へと向かった。
教員たちが普段使っているその空間に、ぬるりと侵入し——
手当たり次第、机の中を漁り始める。
ガタン、バサッ、ドサッ——
音を立て、書類が宙を舞い、引き出しが開け放たれる。
教師たちの目には“勝手に動き出す机と資料”が映るが、もちろん犯人は見えない。
真人「……あった」
一時間以上かけた格闘の末、ようやく見つけ出したのは——
《桐生 紬》の個人調査票。
住所欄には、学校から家までの簡易な地図も添えられていた。
真人「ふふーん♪ やればできるじゃん、俺」
その紙を掴み,真人はその足で紬の家へと向かう。
◼︎
着いた家は、普通の住宅街の一角にあった。
表札に《桐生》の文字。間違いない。
インターホンもノックもせず、真人はそのまま、するりと中へ入る。
——だが。
中に、紬の姿はなかった。
リビングには、母親がうつむいて座っていた。
髪は乱れ、目元は腫れ、何度も泣き崩れた痕跡が残っている。
父親は新聞を持っているが、目はどこにも焦点が合っていない。
口を開くことも、体を動かすこともせず、まるで抜け殻のようだった。
真人は、その様子をしばし見つめていた。
学校にもいない。家にもいない。
両親は——まるで“死者を出した家族”のように崩れている。
真人「……もしかして」
ぽつりと声が漏れる。
真人「……紬、死んだ?」
その言葉を口にした瞬間。
真人の心に、不思議な感覚が芽生えた。
「死んだのか」——その考えは、なぜか妙に腑に落ちた。
だからこそ、誰から説明されるまでもなく、真人は“納得”していた。
……ああ。もう、いないのか。
そう思った瞬間。
胸の奥に、ずんと重たい何かが沈んだ。
理由も、正体もわからない。けれど、確かに“喪失”という言葉が脳裏をよぎった。
真人「…………つまんないな」
呟きは、いつもの調子だった。
けれどそこには、かすかな空虚さが滲んでいた。