【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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最後の味方

紬の、精神療養生活が始まった。

地下に近い、ひっそりとした寮の一室。

伏黒や釘崎たちの耳に、虎杖の生存情報が漏れぬよう——

紬の部屋は、同級生たちとは完全に隔離された場所に移された。

 

任務はなし。

あるのは、虎杖悠仁とふたりきりの生活。

映画を見たり、教科書を広げて高校の勉強をしたり。

それだけの、淡々とした日々。

 

授業は存在しない。だが——

家入硝子の計らいで、"映画見すぎ防止策”として、

毎日ちいさなテストが課された。

映画の知識を得ながらも、学業をサボらせないためのささやかな締め付け。

 

虎杖に比べて、紬の処遇は厳しかった。

——理由は、ひとつ。

彼女が「呪霊と会っていた過去を持つ、“元・敵側”」だったから。

 

事実上の軟禁だった。

外出許可は出ない。

接触する人間も限られていた。

虎杖悠仁、そしてたまに顔を出す家入硝子。

あとは、定期的に稽古をつけにくる、五条悟——

 

……五条。

紬のトラウマスイッチにして,

最も深く刻まれた“敵”の顔。

 

尋問、転校強制、家庭崩壊、実戦投入。

すべての地獄の入り口に立っていたのは、あの男だった。

 

(——会いたくなんか、ない)

(でも、“担任”で“最強”なら、逆らえば即終了)

従順を演じるしかなかった。

 

そして、虎杖。

彼は敵ではない。

……はずだった。

だが、五条と親しげに話す姿を見たその瞬間から、

紬の中で「敵」のレッテルはバッチリ貼られた。

 

紬は、必要最小限の言葉でしか虎杖と会話を交わさなかった。

無視はしない。でも、距離を詰めることもない。

虎杖も、次第に察したのだろう。

やがて彼のほうからも、何も話しかけてこなくなった。

 

——こうしてふたりは、同じ空間にいながら、ほぼ言葉を交わさない生活を送ることになった。

 

家入は、敵ではなかった。

けれど忙しく、彼女と関わる機会はほとんどない。

 

呪術高専における紬の現在地は、はっきりしていた。

“居場所”も、“未来”も、存在しない。

 

そして、このまま時間が経ち、精神が「回復した」と判断されたなら——

また、呪霊との実戦に出される。

 

(……また、“あの感触”を……)

呪霊を,刃物で斬りつけた時の。

“グジャッ”と潰れる、肉の手応え。

温度と湿度と……何より、「生の重み」を含んだ、あの、吐き気を呼ぶ手応え。

 

(無理だ、もう一度なんて…あんなの,二度と)

 

 

だが、紬には希望があった。

ひとつだけ——いや、“ひとり”だけ。

 

——真人。

 

最後の味方。

師匠にして悪友にして彼氏のような,

紬に,夢のような"居場所"をくれた存在。

 

社会的立場も,何もかも捨てて,

真人のところに行く。

それが、今の紬に残された,唯一の「生き延びる道」

 

可能か?——答えは、イエス。

 

紬の術式《瞬間移動》は、

最大1.4km。

そして、万全の状態でなら、単独で2回使用できる。

 

合計、2.8km。

呪術高専から“外”へ出るには、十分な距離だった。

 

——ただし。

 

(逃げたら、即、指名手配)

 

紬は,呪霊と関わっていた過去をもつ,"罪人"

本来なら秘匿死刑のところを,

呪術高専に転校し,呪術師として働くことで,

それを免除されている立場だ。

だから。“高専から逃亡”の文字がついた瞬間に,

正式に"敵"とみなされ,

逃亡生活のゴングが強制的に鳴る。

それで捕まったら,今度こそ死刑だ。

 

そして,真人のところに行く以上———

どうしても、面倒を見てもらうことになる。

真人に対して,"家無くしたから置いてくれ"が通るか,

匿ってくれるかどうかは賭けだが,

ここはもう,信じるしかない。

 

ただし,できるだけ迷惑はかけたくない。

まして、自分のせいで真人まで見つかって殺されるのは,

絶対に避けなければならない。

 

(……だから、今じゃない)

 

逃げる準備を整える時間は、まだある。

実力を蓄え、資金を調達し、逃走ルートを確保する——

それからだ。

 

(どうせ逃げたら、何をしても“罪人……死刑囚”。

 なら、高専の金を持ち出そうが、どうせ同じだ。)

 

紬は、規則の網をすり抜けるように、

許される範囲ギリギリで、敷地内をうろつき始めた。

——金庫の位置、備品の保管室、脱出口になりそうな構造。

必要なものを、少しずつ、脳内地図に刻んでいく。

 

そして——

 

稽古に来る五条の言葉を、

睨むような目で受け止めながらも、技術は学ぶ。

 

癪だ。

……でも、逃亡生活の成功率を1%でも上げるためなら、

この時間も、無駄にはできない。

 

(ここは、仮面だ。

 私は従順なふりをしているだけ。)

 

紬は、心の中に固く刻む。

 

——これは、脱獄準備。

——これは、真人のもとへ還るための戦い。

 

紬の目に映る呪術高専は、

もう、ただの“監獄”でしかなかった。

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