【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

46 / 51
永遠の共犯

真人「……死ねよ、裏切り者」

 

低く呟いた声と同時に、右腕がうねり,

ワイヤー状に変形した刃が紬へと振り下ろされる。

 

振り抜かれた一撃——。

本来の真人であれば、その刃は紬の身体を容易く切り裂いていただろう。

 

だが——。

 

刃は鈍り、軌道もブレた。

七海,虎杖、そして宿儺から受けた深い傷。

さらに、心の奥底に残る,「紬を信じたい」という迷い。

 

その二つが、攻撃のキレを大きく落としていた。

 

紬「……っっ!」

 

紬は地面に倒れ込むようにして、間一髪で回避。

その視界に飛び込んできたのは——

真人の左肩口から噴き出す鮮血。 

 

深手の身体を押しての無理な攻撃で,

宿儺の一撃による傷が開き、

鉄の匂いを帯びた滴が空気を重く染めた。

 

さらに、振るわれたワイヤーの先端が、

残りわずかな呪力での変形に耐えきれず、ボロッと崩れて床に落ちた。

 

真人「……っ!」

歯を食いしばり、立ち続ける真人。

だがその足取りは、確実に限界へと近づいていた。

 

その瞬間,紬の胸に、ある決意が芽生えた。

(もう……話し合いじゃ駄目だ。止めなきゃ……!)

 

震える手で呪具のナイフを抜き放つ。

だが構えたのは“刃”ではなく——“柄”。

 

二撃目のワイヤーがうねりを上げて迫る——。

だがそれが到達する寸前、

紬の身体は真人の背後へと瞬間移動していた。

 

真人「っっ!?」

 

咄嗟に振り向く真人。だが、間に合わない。

 

ドゴッ——ッ!!

 

渾身の呪力を込めたナイフの柄が、

真人の額へと叩き込まれる。

その衝撃に、既に限界だった真人の意識は暗闇へと沈み込んだ。

 

その刹那——ふたりの視線が交錯する。

紬は、今にも泣き出しそうな表情で。

真人は、遠のく意識の中,三つの感情をその瞳に刻みつけていた。

 

「負けた」「殺される」「逃げられたのに」——悔しさ。

「これで紬は、俺を忘れられなくなる」——わずかな喜び。

「結局、俺は捨てられたんだな」——哀しみ。

 

……ドサッ。

真人の身体が背中から倒れ込む。

 

そして———。

 

紬は,昏倒した真人の前に立ち尽くしていた。

トドメを刺すなんて選択肢は最初から存在しない。

 

しかし、思考はもうまとまらず——ただひとつ、

 

(真人に……嫌われた……どうしよう……)

 

その考えだけが、何度も脳内で反響する。

瞳からは,音もなく涙が零れ落ち。

指先から腕にかけて、まるで感覚が消えてしまったかのように冷えきっていた。

 

◼︎

 

紬が立ち尽くしてから,数十秒後。

 

紬「!?」

 

紬が感知したのは,接近してくる七海の呪力。

時間はない。見つかったら終わりだ。

 

ハッとした紬は,咄嗟に,地面に倒れた真人の手を握りしめる。

その時。

———ぎゅっ。

真人の指が,無意識に握り返してきた。

 

紬「……真人……?」

 

意識を失っているはずなのに、確かに返ってきたその感触。

その一瞬で、紬の胸が跳ねる。

 

(真人……まだ、私のこと……嫌いじゃないの……?)

 

もう迷っている暇はない。

七海がふたりを視界に捉えるまで,あとわずか。

狙うは,完全な”ロスト”。

行き先はどこでもいい,最大飛距離で——

 

紬「瞬間移動!!」

 

バシュッッ!!!

視界が反転。紬と真人の姿が掻き消えた。

 

目を開けた瞬間、そこは普通の住宅の居間だった。

白い壁、木の床、まだ夕飯の匂いが残る空気。

 

だが——

 

「きゃああああっ!?」

 

そこにいた一人の女性が、

突如現れた紬に驚愕の悲鳴を上げた。

真人は一般人には見えない。

だが紬の姿ははっきり見えている。

 

紬「……まずい……!」

 

女性が叫べば、通報されれば,この場所がすぐに呪術師に割れる。

そうなれば,もう終わりだ。

 

そして——瞬間移動は,既に3回使用済み。

七海を振り払って真人のもとへ飛ぶために一回,

真人を止めるべく,背後を取るために一回,

そして,七海から逃げ切るために,真人とふたりで一回。

 

紬の身体には,

大量の呪力消費による倦怠感がのしかかっていた。

もう,次に飛ぶのは不可能。

つまり,ここがバレたら終わる。

 

———ならば,目の前の女性を黙らせる。

気絶させる?……いや、もっと確実性が要る。

 

紬「……………」

 

紬は,呪具のナイフの”刃”を女性に向けた。

 

 

———10分後。

 

真人「…ん…………」

 

重たいまぶたを開けた真人の視界に飛び込んできたのは、

天井の模様。

そして、背中に当たる,柔らかい布団の感触。

 

真人「……俺……生きてる……?」

 

思わず漏れた言葉。

てっきり、あの場で終わったはずだと思っていた。

 

顔を横に向ける。

そこには、真人の左肩の傷をタオルで押さえ、

優しく撫でている紬の姿があった。

 

紬は高専の制服ではなく、

白地の子花柄ワンピースを着ている。

おそらく、この家のクローゼットから拝借したのだろう。

 

机の上には、血にまみれたナイフ。

床には女性の刺殺死体。

その首元には大きく切り裂かれた跡があり,

床には大きな血だまりができていた。

 

真人「……」

 

目を細め、その光景を認識した真人。

心臓が強く脈打つ。

 

思い出す。あの時の——

(———そっちについたんだね、紬。俺を殺しに来たってとこか。

———違うの……真人! これは……!!

五条悟に捕まって、強制連行されて……“従わなきゃ死刑”だって! 拒否権なんてなかったの……!)

 

あの時の,紬の,必死な懇願めいた声色。

真人の中の,「紬を信じたい」という思い。

———そして,今の眼前の光景。

それらが,一本の糸として,真人の中に繋がる。

 

紬は真人を見下ろし、かすかに笑った。

瞳は赤く、泣き腫らしたように潤んでいる。

 

紬「ねぇ真人……これなら……私、君のそばにいられる?」

 

真人は数秒、何も言わなかった。

けれど次第に、その口元がゆっくりと吊り上がっていく。

 

真人「……はは」

 

笑い声が漏れ出した。

 

真人「はははっ……あははははっ!!」

 

声は喜びに震えていた。

それは,嘲笑でも、冷笑でもない。

心の底からの、歓喜だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。