【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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それで良かったって言ってるじゃん

真人の隣を求めた紬に対し、

真人は,腹の底から湧き上がる歓喜に任せて笑っていた。

その笑いがようやく収まると、ふっと目を細め——

 

真人「ほら、こっちきなよ」

紬「わっ……」

 

ベッドの上で真人が素早く身体をずらす。

肩の傷を撫でていた紬は、その勢いに体勢を崩し、

思わずベッドへとつんのめった。

次の瞬間、すかさず,真人の腕が回り込む。

 

——ぎゅっ。

 

真人が紬をそのまま抱きしめる。

 

紬「ま、真人……」

 

急なゼロ距離に,紬の心拍数が跳ね上がる。

 

真人「俺も、あったかい方が傷に効くしさ」

 

何でもないように、穏やかな声で告げる真人。

その瞬間、紬の胸に広がったのは——安堵だった。

 

思い出す。

あの日、五条悟に捕まってからのことを。

拘束され、問い詰められ、家庭は崩壊し、

強制的に高専へ連行された。

伏黒や釘崎との衝突、呪霊を斬る時の嫌な感触、大怪我。

そして逃走計画を胸に耐え抜いた、長く重たい一カ月。

 

気の休まる瞬間など一度もなかった。

“人間”は全員敵だった。

その中で、ずっと恋しかったのは真人だけ。

真人こそが“最後の味方”だと信じて、ただ耐えてきた。

 

紬「…………っっっ」

 

紬の方からも、ぎゅうっと真人に抱きつく。

抑え込んでいたものが一気に溢れ出すように、頬を伝う涙が止まらない。

 

真人「ん…泣いてるの? 寂しかった?」

軽くからかうような声色。

それでも真人は、抱きしめる腕にさらに力を込めた。

 

——あの時、“裏切られた”と思い込んだ。

“捨てられた”と決めつけて、哀しみが湧き上がった。

けれど紬は、自分を殺さなかった。

それどころか、人を殺してまで助けてくれた。

 

——今、真人の胸にあるのは。

紬が、ただひたすらに——愛おしいという感情だった。

 

 

紬と真人は——

しばらく、互いの温もりを確かめるように抱きしめ合っていた。

真人はふと腕を緩め、軽い調子で口を開く。

 

真人「そういえばさ、紬。一カ月間、高専に捕まってたって言ってたけど──瞬間移動で逃げられなかったの? 術式封じられてたとか?」

 

紬「……あー、まあ軟禁はされてたけど……逃げようと思えば逃げられたよ」

 

紬は少し視線を伏せ、言葉を継ぐ。

 

紬「でもさ、逃げたらその後は呪術師からの逃亡生活じゃん? だから必要な資金とか物資とか、ちゃんと準備してからのほうがいいと思って……。

家からも追い出されちゃったし……結局、トラブって何も持ち出せなかったんだけど……」

 

口にして、改めて気づく。

今の自分は、本当に身一つしかない。これからどうやって生き延びるのか──。

 

真人「……資金? 物資?」

 

真人はきょとんと目を瞬かせた。

 

真人「そんなもん、人ん家から取ればいいじゃん。

 現にこの家だって、住人の女殺して、今こうして好きに使ってるわけだし」

 

紬「……いや、それは……。でも、この人いないってバレたら警察来るし、数日で足つくよ」

 

真人「違う違う。ここに住むって意味じゃないよ。

 住む場所なら、夏油が放棄したアパートがいくつかあるから、そこ使えばいいじゃん」

 

紬「……え?」

 

真人「なんかさ、拠点として使えるかもって確保したけど、結局使わなかった部屋がまあまああるって言ってた。一室くらい、バレないから大丈夫」

 

紬は言葉を失った。

──住む場所。逃亡生活の最大の難題だと思っていたそれが、あっさり解決してしまう。

資金や物資の調達も、真人にとっては「盗めばいい」の一言。

 

紬(……まあ、人まで殺しちゃったし……今さらだよね)

 

しかも自分の術式《瞬間移動》は、窃盗にうってつけだ。

外から中へ瞬間移動して盗み、再び瞬間移動で逃走。監視カメラにも残らない。

万が一警察に声をかけられても、その瞬間に飛べばいい。

 

真人「紬さぁ、そんなことで悩んでたなら、さっさと俺のとこ来ればよかったのに」

 

紬「……いや、でも! これから呪術師に追われるわけだし、実力はギリギリまでつけきってからのほうがいいかなって……」

 

真人「呪術なら俺が教えられるけど? ……てか紬、呪術師って人手不足なんだから、現実問題、君の捜索に全力割ける余裕なんてないよ?」

 

紬「………………」

 

──1カ月耐えた意味、なかったかもしれない。

それどころか、あの吐き気を伴う“肉を斬る感触”を味わい,結果大怪我した初任務も、行く必要はなかったのでは……?

 

紬「……え、じゃあ……最初から真人のとこ逃げてれば……」

 

真人「だから、それで良かったって言ってるじゃん」

 

紬「……泣いていい?」

 

真人「もっかい泣くの?」

 

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