そして紬は、真人に案内された,“夏油”の放棄したアパートのひとつで暮らすことになった。
紬「でも真人、私のこと仲間には内緒にするって言ってたよね? これ、バレない?」
真人「へーき。夏油、使わなかった拠点候補なんてとっくに忘れてるし」
物資や資金の調達手段は、ほぼ窃盗オンリー。
だが、瞬間移動できる紬と、そもそも人間には不可視の真人のコンビなら、驚くほど容易だった。
最初こそ少しだけためらいを見せていた紬も、数日もすればすっかり手慣れた動きに。
一度、呪術師に遭遇するハプニングもあったが、真人があっさり“ストック”にして終了だった。
普段は紬がこの部屋で過ごし、真人がほぼ毎日のように遊びに来る。
やることはさまざまだ。
瞬間移動の特訓をしたり、真人の人間改造に付き合ったり、
回転寿司や動物園に行く“人間っぽい”デートをしたり、
時にはスマ◯ラやマリオ◯ートで夜更かししたり——。
そんなある日、真人がふと紬に“ある姿”を見せた。
真人(身長120cmほど)「どう?」
紬「………………!!!! かっ、かわい……っ!!」
両手で口を押さえ、目を輝かせる紬。
真人は得意げに口角を上げる。
真人「やっぱりそうなんだね。夏油が、人間の女は可愛いの好きって——」
そこまで言いかけた瞬間。
紬が突然、小型化真人をガバッと抱き上げた。
紬「♡」
真人「ん、わっ! あれ?」
そのまま、ぎゅうっと抱きしめられる。
紬「やばっ……この子、守りたい………♡」
真人「……えーと、変なスイッチ入った感じか、コレ?」
そして紬はそのまま、しばらく真人の頭を撫で続けていた。
紬「はぁ…………っ、ずっと触ってられる……」
真人「……夏油たちに見せた時は、“戦闘には不向きだろう”で終わりだったんだけどな」
紬「何それ! 全然わかってないじゃん!!」
真人「……君の方こそ、何を“わかってる”の?」
紬「えと………“心”? “愛”…とか?」
真人「へぇ〜、それってつまり、“愛してます”って告白?」
紬「あ…………やっ! それは………その………」
目を逸らしてしどろもどろになる紬。
けれど——撫でる手は止めない。
——そして、一時間後。真人が元の姿に戻る。
紬「………ねぇ真人、またあの姿見せてね」
真人「んー、いいよ。まぁ、悪くはなかったし」
◼︎
真人が紬に“小型化”を披露した翌日。
ふたりは高級焼肉店の暖簾をくぐっていた。
紬は高専から逃亡中の身ではあったが、呪術師の指名手配は警察とは違い、一般に顔写真や情報が出回ることはない。
よって、人目を引くような騒ぎさえ起こさなければ、外出時に特別な変装をする必要もなかった。
席に通されるや、
紬と真人は気になる肉を片っ端から注文する。
紬「……でも,こんなに食べれるかな?」
真人「へーきへーき。紬が無理そうなら俺たべるし」
紬「いやそれ,側から見たら私が全部食べてるように見えるからね?」
真人「いーんじゃないの?人間って大食いキャラ好きじゃん。人間が大量に食べてるだけの動画とか,やたら再生回数多いし」
紬「あーそれ、昨日私が見てたやつか…」
周囲から、肉の焼ける美味しそうな匂いが流れてくる。
店員の声や周囲の談笑が、アンティーク調の木壁に吸い込まれていく。
紬「ところでさ、人の金でたべる焼き肉は美味しいって言うけど…盗んだ金で高級焼肉って,背徳感やばいねコレ」
真人「そう言って君,めっちゃ笑顔だけど?それ,ゾクゾク来るタイプの背徳感だろ?」
紬「……バレた?」
会話が盛り上がっていると,焼き師の店員がテーブルにやってきて,注文した肉の第一弾が到着する。
焼き師「お待たせいたしました。こちらからカイノミ,上カルビ,サーロイン,トモサンカクになります。
焼き方のご説明として,一枚ずつ焼かせて頂きますね」
そして焼き師は,カイノミを目の前で"2枚"焼き,
"紬と真人"の皿にそれぞれ置いて、何事もなかったかのように奥へ下がっていった。
紬「ん………待って!?」
真人「……今の人,俺のこと見えてたね。完全に」
紬「こんなことあるんだ………」
真人「まあ一般人で見えるやつもいるしね。紬も最初はそうだったし」
紬が,ふと周りを見渡すと。
……人間のお客さんがほとんどだが,それに混じって,
二、三体の呪霊が普通にテーブルについていた。
紬「待って,この店……モンスターハウスか何か!?」
真人「うわ,さっきの焼き師が対応してるし…呪霊のお客さんOKってこと?穴場じゃん,ここ」
紬「ちょっと待って,でも呪霊ってお金持ってない…よね?お客さんとして成立するの??」
その時、一体の呪霊が立ち上がり、会計へ。
その呪霊の会計も,例の焼き師が対応し——普通に現金を出していた。
紬「呪霊専用店員じゃん! あの人!!」
真人「会計の概念わかるんだな。なかなか等級高めの呪霊だね、アレ」
紬「でも呪霊って稼げないだろうし…あのお金、絶対盗んだやつだよね?」
真人「そりゃそうだろうねー。紬と同じ」
紬「背徳感やばすぎない!? この焼肉店!!!」
——そして、ふたりは思う存分焼肉を堪能した。
煙と香ばしい匂いに包まれた数時間は、
背徳感さえもスパイスのように心地よかった。
会計のため立ち上がると、
例の焼き師がスッとレジに現れる。
淡々と会計を済ませ――その後、ふと顔をほころばせた。
焼き師「この仕事を始めて長いですが……人間のかたと呪霊のかたのカップルは初めてです。
とても新鮮で……つい見惚れてしまいました。ぜひ、またご来店ください」
深く一礼すると、彼はそそくさと別の呪霊客の元へ向かっていった。
店を出て、夜の街を並んで歩く。
真人「ねぇ、またあそこ行こっか」
紬「……だね。常連確定で」
紬のアパートへと向かう二人の足取りは、やけに軽かった。