【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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日常はセピア色に

 

紬は,夢見心地の感覚が抜けきらないまま。

倦怠感の残る身体を引きずるようにして駅まで歩き、

電車に揺られ、家の前に辿り着いたのは21時過ぎ。

 

紬「ただいま」

 

リュックのサイドポケットから鍵を取り出し、

カチャリと玄関を開ける。

その瞬間、廊下の奥から足音が飛んできた。

 

紬の母「紬!!」

 

母親が目を見開いて駆け寄ってくる。

 

紬の母「どうしたの、こんなに遅く…いつもは18時には帰ってくるのに!」

 

肩をがしっと掴まれ、揺らされる。

 

紬「友達と遊んでた」

 

さらりと答えると、母親の表情が一変した。

 

紬の母「まあ、友達ができたの…! そう、そう…良かった! 紬のそういう話、全く聞かなかったから…」

 

目を輝かせ、さらに畳みかけてくる。

 

紬の母「どんな子なの? 女の子? 男の子??」

 

——ああ、始まった。

面倒くさいな、と思いながらも、紬は肩をすくめた。

 

紬「……男の子だよ。ちょっと趣味が合って、話してただけ」

 

紬の母「男の子!? え、紬の好きな人なの??」

 

紬「そういうんじゃない」

 

割って入るように、居間から父親の低い声が飛ぶ。

 

紬の父「紬、男の子と遊ぶのは結構だが、連絡はしなさい。何のためにスマホを持たせてると思ってるんだ」

 

——うるさいな。

心の中でそう呟き、紬は表情を崩さずに答える。

 

紬「ごめんなさい。ちょっと夢中になっちゃって」

 

紬の母「お父さん、いいじゃないの。せっかく紬に友達ができたっていうんだから」

 

母親が庇うように言えば、

父親は眉をひそめたまま、さらに問いかけてくる。

 

紬の父「いいや、だとしても弁えるべきことはあるだろう。

…紬。どこで遊んでいたんだ?

夜遅くまで連れ回すような男はろくな男じゃないぞ。駅までは送ってもらったのか?」

 

紬「大丈夫だよ、私も子供じゃないんだから。

ちゃんとわかってるって。

……あと、明日も会う約束したから、そういうことで」

 

言い捨てるように背を向け、そのまま階段へ。

 

紬の母「ちょっと紬?? 晩ご飯は?」

 

紬「コンビニで買ってきたから大丈夫」

 

部屋のドアを閉めると、家のざわめきが遠のいていく。

 

ドアの向こうで、両親が何か話している声が聞こえる。

 

「…友達いなくて、ようやくできたっていうんだから…」

「…明日も会うなんて、心配だろ…大丈夫な男なのか…?」

 

けれどその言葉は、意味を持たない雑音に変わっていた。

耳の奥では、まだ,真人の声が鮮明に響いていた。

 

———

次の日。水曜日。

桐生(きりゅう)紬は,学校にて———

 

授業中。

教師「じゃあこの問題を…桐生!」

紬「……………」

教師「………桐生?おい桐生!寝てるのか!?」

紬「えっ!?あ,いや,寝てません!で,えっと…どの問題ですか?」

教師「問6だ!ちゃんと授業に集中しなさい!」

 

ノートの罫線が、視界の端でぼやけていく。

理由は……もう言うまでもない。

 

休み時間。

男子A「なあ桐生さん…今日は輪をかけて上の空じゃないか?」

男子B「だな…。顔は可愛いのに,なんかいつも冷めてる感じで,変なやつだと思ってたけどさ…」

男子A「なんかもう……ついに魂まで抜け落ちたような……」

男子B「残念美人の典型だよなぁ……」

 

教室の隅でひそひそ交わされる男子の会話も、

紬の耳には届かない。

 

昼休み。

紬の友達A「でさー!うちの妹,林先輩のこと好きみたいなんだよ〜やばくない!??」

紬の友達B「やば!!!林先輩,好きな人いるって言ってなかった??」

紬の友達C「でもAちゃんの妹ってさ,顔可愛いじゃん!?

ワンチャンあるんじゃね??」

紬の友達A「いや無理だろ〜アイツ,すぐぶりっ子するし〜」

紬の友達C「あーそっか,林先輩,ぶりっ子無理なタイプだもんねー」

 

紬の友達B「……ちょっと紬??…聞いてる??」

 

紬「え,……ああごめん,……なんだっけ?」

 

“ぼっち”にならないために続けてきた、他愛ない会話。

その言葉の全てが、右耳から左耳へすり抜けていく。

 

そして、放課後。

 

下駄箱を過ぎ、校門を出た瞬間——空気の色が変わった。

昼間のざわめきが遠ざかるほどに、足取りは軽くなる。

 

目指す先は一つ。

 

あのじめっとした湿気のこもる地下通路。

吊るされた裸電球が作る、ぼんやりとした光の下。

昨日、世界が音を立てて変わった場所——

 

紬の足は、真っ直ぐそこへ向かっていた。

 

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