【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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擬似分身でバイバイ

焼き師を救出してから、さらに数週間後——。

 

2018年10月30日。

薄暗いアパートの一室。

紬は机に肘をつき、神妙な表情で真人を見つめていた。

 

紬「……真人。明日なんでしょ、呪術師との全面戦争」

 

一方、真人はいつもの調子であっさり答える。

 

真人「ん、そうだよ。もう計画もバッチリって感じ」

 

その軽い調子が、逆に紬の胸をざわつかせる。

 

真人から「五条悟を封印する」と聞いたのは、ずっと前だ。

作戦の全容は「言えない」とされたが、夏油、漏瑚、花御——真人と同格の仲間たちと挑む、高い成功率の計画だという。

 

しかし——相手は、紬にとって忘れられない恐怖の象徴、

“あの”五条悟。

真人の強さを知っていても、その名を前にすると、どうしても胸が締め付けられる。

 

紬「……ねぇ、真人。明日の戦い……私も一緒に行く」

 

危険なことは承知の上。

しかし,この生活が始まって二ヶ月弱、

瞬間移動の特訓はほぼ毎日続けてきた。

無為転変による二度の術式トリガー拡張で最大飛距離は2.5kmに伸び、呪力量も以前より増えている。

「今の私なら——」そんな自信が、わずかに芽生えていた。

 

だが——

 

真人「同行はダメ」

 

ぴしゃりと切り捨てられた。

 

真人「君の反応速度じゃ、五条悟には太刀打ちできない。

それに、封印が成功した後は渋谷駅での遭遇戦になる。

あの焼き師を助けたときみたいに、予め見えてる相手に奇襲できる状況じゃない。

……君は瞬間移動は強いけど、戦闘力はそこまでじゃないし、顔と術式もすでに呪術師に割れてる。正面戦闘は無理だよ」

 

紬は唇を噛んだ。

真人が戦場に向かうのに、自分は何もできないのか——。

そんな思いが胸をよぎった、そのとき。

 

真人「……でも、紬。君に頼みたいことがあるんだ」

 

紬「……え?」

 

真人がそっと紬の肩に手を置いた。

——次の瞬間。

 

ドクン、と胸の奥で脈打つ感覚。

“何か”が自分の中に入り込んだ——そう直感した。

 

真人(……紬。聞こえる?)

 

真人の声。

だが、口は動いていない。

 

紬「……これ、テレパシー?」

 

真人(正解)

 

紬は心の中で返すだけで、言葉が伝わった。

 

真人(よし。じゃあ次は試験。俺、ちょっと離れるから、合図したら俺のところまでワープしてきて)

 

そう言い残し、真人は窓枠を軽く蹴って外へ。

屋根をひょいひょい飛び移って、すぐに視界から消える。

本来、紬が正確に瞬間移動できるのは視界内だけだ。

視界外では、方向とおおよその距離は決められても、座標は大きくブレてしまう。

 

だが——今は違った。

真人が「どこにいるのか」

説明できない感覚で、確かに理解できる。

 

真人(OK、飛んできて)

 

合図と同時に——

 

バシュッ!!

 

紬は一瞬で真人のすぐ隣に現れた。

 

紬「……え、これ……!」

 

驚く紬に、真人は満足げにうなずく。

 

真人「完璧。オールクリア」

 

真人が肩に再び触れると、中にあった“何か”がすっと抜け出し、真人の中へ戻っていく。

 

真人「今のは、俺の魂の欠片。一部切り取って預けたんだ。それでテレパシーと位置情報の共有ができる。

要は、君を俺の“擬似分身”にしたってこと。

魂を切り分けた"分身"とできたから,できると思ってさ」

 

紬「擬似……分身……」

 

真人「ただし、ずっと入れておくと人格が混ざるリスクがあるから、有事だけ。数時間くらいなら、多分大丈夫だろ」

 

真人は少しだけ顔を近づける。

 

真人「明日、君に頼みたいのは俺の“保険”。

負けるつもりはないけど、何があるかわからないからさ。

作戦開始前に魂の欠片を預ける。君は渋谷駅周辺の安全圏で待機。

そして、俺が合図したら瞬間移動で来て、即最大飛距離で逃げる。有事の緊急脱出要員ってわけだ」

 

渋谷駅周辺——それは、紬の瞬間移動可能距離2.5kmの範囲を外れないためだ。

 

紬「……!!!」

 

その言葉に、紬の顔がぱっと明るくなる。

役割を与えられた。

自分も、真人のために戦える——。

 

紬「うん! 任せて!!」

 

迷いのない声が、静かな部屋に響いた。

 

◼︎

 

そして——2018年10月31日。

渋谷事変当日、時刻は23時30分過ぎ。

 

真人は仲間と共に五条悟の封印に成功したのち、

虎杖悠仁と交戦。

釘崎野薔薇の顔面を半壊させ、虎杖の心を折り——

勝利目前まで追い詰める。

 

しかしそこへ現れたのは、東堂葵。

再び立ち上がった虎杖と、二人の連携。

激戦の末、東堂の左腕を破壊し戦闘不能に追い込み、

その直後に新たな形態——偏殺即霊体を習得。

そして最終局面、虎杖との一騎打ちに臨んだ。

 

だが——東堂の巧妙なブラフが一瞬の隙を生み、

その刹那、虎杖の黒閃が真人の身体を貫く。

 

真人「……っ——!」

 

次の瞬間、真人は地面に叩きつけられ、動きが止まった。

呪力はほぼゼロ。改造人間のストックも尽きている。

 

——その瞬間。

 

別の場所にいた紬も、既に大きなダメージを受けていた。

原因は、釘崎の「共鳴り」

真人の分身に打ち込まれたそれは、

魂の繋がりを辿って本体の真人へ、

さらにその魂の欠片を預かっていた紬にまで襲いかかったのだ。

 

紬「————っっ!!」

 

胸を内側から鋭く貫かれるような感覚。

視界が白く弾け、意識が遠のきかける。

 

だが、

分身→真人→紬というワンクッション挟んだ連動であること、

そして,紬はあくまで真人の魂の欠片を預かっているだけの

"擬似"分身で,紬の魂と混ざっているわけではないこと、

これらの要因が威力を薄めていた。

 

致命傷にはならなかったが、

それでも身体は悲鳴を上げていた。

 

そして今——。

 

地に伏す真人へ、虎杖がゆっくりと歩み寄る。

その眼差しは、迷いなく命を刈り取る者のもの。

 

——だが、その時。

真人は,不敵に笑った。

 

バシュッッ!!!

 

虚空を裂く音と共に、真人のすぐ隣に空間が歪む。

現れたのは、テレパシーの合図を受けた紬。

胸を押さえ、荒い息を吐きながらも、真人の手をしっかりと掴む。

 

真人「……紬?」

 

その姿に、真人の顔から一瞬にして笑みが消え失せる。

紬の,ただならぬ異変。

——そして理解する。

あの共鳴りが、紬にも届いていたことを。

 

だが、考えている時間はない。

 

虎杖「!? 桐生……!? 待て!!」

 

怒声が響くが、間に合わない。

 

バシュッッ!!

 

最大飛距離、2.5km。

一瞬で、二人の姿は戦場から掻き消えた。

虎杖の殺意からも,

密かに真人吸収を狙っていた"夏油"からも,完全に離脱。

 

——現れたのは、渋谷の外れにあるオフィスビル裏の資材置き場。

夜の冷たい空気と、錆びた鉄の匂いが二人を包み込む。

 

そして——

 

グラリ……ドサッ。

 

“共鳴り”による連動ダメージに加え、

瞬間移動を二度連続で使用した反動。

紬の身体は限界を超え、音もなく倒れ込んだ。

 

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