【呪術廻戦】血と笑みと瞬間移動   作:祈月4777

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非日常だけが本物

その日、紬が家の玄関を開けたのは、20時前だった。

 

紬の母「おかえり、紬!!」

 

母親が弾けるような笑顔で出迎える。

声のトーンが一段高い。

 

紬の母「今日も友達と遊んで来たのね?」

紬「……そうだよ」

 

笑顔を崩さず、母親は立て続けに質問を投げる。

 

紬の母「よかったわね…!どこで遊んでたの?」

紬「……アニメイト。学校のそばの」

紬の母「アニメイト…そっか!趣味が合うって言ってたものね……あ!そういえば聞いてなかった…なんて名前の子?」

紬「ま……まお、くん」

紬の母「へえ!同じクラスなの?」

紬「……うん」

紬の母「その“まおくん”さ、写真とかないの?」

紬「……ないよ。そういうの好きじゃなさそうだし」

 

もはや事実を言う気にもならない。

脳をほとんど回さず、ほぼ反射で,全てテキトーに答えていた。

母親の笑顔に合わせて口角だけを動かしながら。

 

紬の母「そう、残念…。あ、紬! 今日はちゃんと晩御飯食べるわよね?」

紬「……うん、食べるよ」

 

湯気の立つ食卓に座り、箸を動かす。

味わうこともなく、喉へ流し込むように。

母親との会話は背景のように遠く。

紬には,ただ「早く終わらせたい」という思いだけだった。

 

父親は対面で黙って食事を取りながら、

ちらちらと紬を見ていた。

何か言いかける気配があったが、

昨日の事前申告と、今日はそこまで遅くなかったこともあり、言葉を飲み込んだようだった。

 

ただ、紬が食器を片付け、階段へ向かうとき——

 

紬の父「…紬。もし何かあったら、すぐに言うんだぞ。

危ないことだけは、しちゃダメだからな」

 

その声に足を止め、振り返らずに答える。

 

紬「わかってるよ。……おやすみ」

 

部屋に戻り、制服を脱ぐ。

 

湯船に身を沈め,温かい水面の下で、まぶたを閉じれば——

耳に蘇るのは、風車の回る音と、あの声。

 

「もちろん」

「待ってるよ」

 

胸の奥を撫でるようなあの声音と、非日常の空気。

それが,湯気の中でも色褪せず、紬の心を掴んで離さなかった。

 

———

次の日。木曜日。学校にて。

朝から、紬はもう友達と話す気になれなかった。

 

もともと紬は、自分を含めた四人グループにいたが——

実のところ、紬以外の三人が仲良くて、

紬は“友達ではあるけれど、少し外様”という立ち位置だった。

 

だから、今回、紬がいよいよ話さなくなったことで——

最初は心配していた三人も、すぐに別の空気に変わっていった。

 

友達A「ねぇ紬…昨日から変じゃない?」

友達B「だよね…上の空だし、心ここにあらずって感じ」

友達C「授業中も、寝てないのに全然ノートとってないしね〜」

 

Bが小さくため息をつく。

 

友達B「ねぇ…なんかもう、良くない?三人でも……」

友達A「確かに…紬、前からズレてる感じはあったもんね…」

友達C「さっきだって、話しかけたのに無視されたしさー」

友達B「うわー、それはナシでしょ。…じゃあ、もういっか」

 

軽く肩をすくめ合い、三人はそのまま、紬を置いて談笑を続けた。

 

こうして、紬は“ぼっち”になったわけだが——

当の本人は全く気にしていなかった。

いや、正確には、気にも留めていなかった。

 

上の空? 違う。

紬は、学校にいる間ずっと——

真人から教わった呪力操作の復習をしていた。

 

今の紬は、もう強い恐怖や嫌悪感といった“きっかけ”がなくても呪力を練れるようになっていた。

それを昨日、呪力操作の特訓で,

真人がガイドしてくれた通り,

右腕、左腕、右脚、腹、指先、首、背中へと順番に流していく。

 

最初は、全身を一周させるのに三分ほどかかっていた。

だが二分五十秒、二分四十五秒……と、

繰り返すうちに呪力の流れが滑らかになり、タイムはじわじわと縮まっていく。

 

ペンを持つ手は、ただノートに走り書きをしているように見える。

実際には、その手先に呪力を送り込み、次は腹、次は背中——と意識を集中し,巡らせているのだ。

 

そして、これはあくまで,

ただ自分の中で呪力を循環させているだけ。

つまり,呪力消費はない。

 

そのため,いざ放課後,真人と会った時に,

特訓で呪力使っちゃって瞬間移動できない!

なんていう事態にはならない。

その意味でも,これは合理的な訓練法だ。

 

学校という拘束時間において。

もはや、耳に入ってこない授業を聞くよりも——

友達とどうでもいい話をするよりも——

 

この方が、紬にとっては、

よほど有意義な時間の使い方だった。

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