インフレおぜう様   作:エゴイヒト

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Q.妖怪達って物理で殺されても死なないんじゃ?
A.拙作では簡単に死にます。一応設定としては、再生はするけど再生に必要な妖力が足りないと死ぬ、みたいな。心臓など複雑な臓器は再生効率が悪く、特に頭部をやられると紫クラスの大妖怪でも事前に生と死の境界を弄ってないと死ぬ。蓬莱人とか特殊能力で不死・不滅の場合は例外で無限再生できる。
 神は天津神とか土着神とかモノによるので一概には言えないけど、信仰という高効率かつ安定した供給源がある+一撃で与えられるダメージは肉体再生分だけという事実上の最大ダメージ上限があるので物理で殺すのはほぼ不可能。信仰減ってたり大技使ってエネルギー消耗してるならワンチャン?
 そもそも霊体なら攻撃当たらない可能性も。神社や御神体を壊して供給源断つくらいなら物理も役に立つか。
 まあ設定よりノリ重視ということで。


58946kmや

「ゆ、紫様ー!!」

「何よ、朝から騒々しいわね」

 

 藍が顔面蒼白にして紫の寝室へと侵入してきた。

 

「最近、外部から結界に干渉して構造を覗きに来る輩がいまして。逆探知したところ、吸血鬼の一党と確認が取れました!」

「ふうん」

 

 紫の反応は小さかった。吸血鬼という強力な種族が徒党を組んで侵略してくるのは警戒に値するが、しかし脅威の種別が単純な武力だというなら、そう慌てるものでもない。

 最悪自分が出張れば、どうとでもなるからだ。幻想郷はその程度で揺らがない。

 博麗大結界を構築して以来、妖怪達の気力が落ちて来ている。紫の頭の中では、寧ろこの一件を上手く利用すれば現状を改善できるかもしれない、と策謀が巡り始めていた。

 

「ただ、その首領の名が……」

「名前がどうかしたの?」

「レ、レミリア・スカーレット、と」

「ひいっ……!」

 

 その名を聞いた紫が、反射のように小さな悲鳴を上げてびくりと震えた。

 

「ゆ、紫様?」

「……な、なんでもないわ」

 

 恥ずかしそうに裾で口元を隠す。

 

「寝起きで聞き間違えたわ。それで、どなたと言ったかしら?」

「レミリア・スカーレットという吸血鬼です」

 

 瞬間、八雲紫の脳裏に、400年以上前の惨劇がフラッシュバックした。

 紅い光が空を染め上げ、月は欠け、地上は無辺の荒野と化した、終末の光景。

 

「嫌っ、嫌ぁっ……! 助けて、助けて……っ!」

「ゆ、紫様っ!?」

 

 幻想郷の賢者と呼ばれる大妖怪が、布団に包まって年端もいかぬ童女のように泣きはらしながら怯えている。

 八雲紫は幻想郷を脅かす存在には傍観か苛烈な粛清を下す。全てを裏から操る幻想郷の中でも最強格の存在だと、藍は認識している。

 だから、主人のこんな姿は見た事が無かった。どんなに強大な妖怪や神格を相手にしても脅威として警戒するだけで、恐れて怯える姿など想像もできなかった。

 

「お気を確かに!」

「あ、兆星様ぁっ。それにみんなも! もう、どこに行っていたのよ」

「……紫様?」

 

 心配するように介抱する藍を真正面に捕らえながら、しかし紫の瞳は焦点が合っておらずどこか遠くを見つめている。

 

「私が分かりますか?」

「うふふ、帰ってきてくれたのね! ……あれ、なんで今まで居なかったのかしら?」

「……駄目だな、正気を失っている」

「あ、ああああああああ!!!!! 私が、私が! 私が殺したのよ! 私が私が私が私が!」

「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さい!」

 

 暴れる紫を羽交い絞めにする。今の彼女には、放っておけば自傷行為に走りかねない危うさがあった。

 緊急事態と判断して主人に即効性の睡眠薬を飲ませ、何とか鎮めた。

 藍は、一息をつく。

 

「暫く紫様は安静にさせる必要があるな。しかし困った、これでは件の吸血鬼への対処ができない」

 

 レミリア・スカーレット。

 悪名高きその名と彼女が為した所業を、藍も知っている。

 紫と違って直接被害が齎される様を目の当たりにすることはなかった藍は、レミリア・スカーレットに対する恐怖はあれど、然程取り乱したりはしない。それでも神々による事件の隠蔽と復興が終わるまでの、嵐が去った後の暗鬱とした世界の空気感は、あの時代を生きた妖怪であれば皆覚えている。

 

 かつて、彼女の力を恐れた月の民と地上の神々が、一部の妖怪達までも巻き込んで、徒党を組んで彼女を襲撃した。結果、戦闘の余波で無関係の妖怪や人間達も巻き込まれて死に、100年間の暗黒時代を齎した。

 だが、その真実を知るのはごく一部の力を持つ神々や妖怪達のみ。神々や大妖怪達の隠蔽工作のお陰もあって、当時の出来事は人間達の歴史には『天変地異による大量死』として残っている。詳細を知る者ほど語りたがらないので、妖怪達も同じ認識の者は多い。

 

「今は様子を見る他ないか……念のため、幻想郷の要人達と連絡をとっておこう」

 

 

 


 

 

 

 星降る夜。

 ところ変わって妖怪の山では、天狗達が蜂の巣を突いたような騒ぎを起こしていた。

 

「阿呆が! 今立ち上がらずしてどうする!」

「勝ち目などあるわけなかろう! 100年の冬を忘れたか!」

「忘れるだと!? 忘れるわけなかろう! お前こそ兆星様のご恩を忘れたか!」

 

 言い合いになる大天狗達。そこで、一人の天狗が声を上げた。

 

「兆星様が、私達の身に危険が及んで喜ぶ筈がない」

 

 その天狗の名は、飯綱丸(いいづなまる)(めぐむ)

 途端、天狗達はしん、と鎮まり返った。

 

「勝てぬ戦いはしない方が良い、と?」

「その通り。私達が努めるべきは天狗社会の発展と維持。個人の恨みつらみではなく、天狗社会の安全を保障することを第一に考えなければならない」

 

 不思議なことに、否定的な意見は出なかった。出せば、面倒なことになるのを知っているからだ。

 この中で一番冷静を保っているような顔をしているが、兆星の事となれば人一倍煩い。

 

「では、具体的にどうすればよい? まさか、ただ傍観するとは言うまいな?」

「傍観していたところで奴は来る。直接戦いに関わらずに済んだとて、妖怪の山程度、余波で簡単に消し飛ぶぞ」

「そもそも、確かな情報なのか? 奴が再び現れたというのは」

「奴は吸血鬼だ。くたばる筈もないと思っていたが……隠居でもしていたのか?」

「そもそも何故今になって再び現れるのだ! 性質の悪い冗談ではないのか!?」

 

 情報が錯綜していることもあって、会議は再び喧噪に包まれる。

 

「来ますよ、レミリア・スカーレットは」

 

 言及を避けていたその名を(めぐむ)がはっきりと口にしたことで、空気が凍った。

 

「確かな情報筋なのだろうな?」

「先程、八雲の式神から書簡を頂きました」

 

 そう言って、龍は一通の手紙を取り出す。

 

「八雲だと!?」

「よりにもよって今、よくものうのうと手紙なんぞ寄越しおったな!」

 

 八雲の名を聞いて怒り心頭に発する天狗達。

 その中で、険しい顔のまま比較的冷静を保っている天狗が、彼女の差し出した手紙を検めた。

 

「……どうやら、間違いないようだ。こちらは、後ほど天魔様にお目通し頂こう」

「して、飯綱丸よ。そろそろ答えてもらおうか。今回の件、其方はどう対処する?」

「私達に取れる手段は早期の無条件降伏以外にない。レミリア・スカーレットの目的が殺戮ではなく侵略であれば、の話ではあるが」

 

 余りにも弱気な発言に、流石に天狗達から怒りと疑いの目が向けられる。

 

「馬鹿な! それは天狗という種族丸ごとの隷属を意味すると分かって言っているのか!」

「そもそも、先程と言っていることが違うではないか! 天狗社会の発展と維持はどうした!」

「到底受け入れられんぞ! 鬼達ならともかく、奴の下に就くなど死んでも御免だ!」

「妖怪の山の天狗達が、一人でも納得すると思っているのか!?」

 

 非難轟々。

 余裕の無い天狗達は、レミリア・スカーレットへの恐れと嫌悪による悪感情を、龍へ向けていた。

 

「私が一番ッ! 納得しているわけなかろうがッ!!!」

 

 声を荒げて、龍は激怒する。血涙を流して歯を食いしばりながら、彼女は吐き捨てる。

 その迫力に気圧されて、天狗達は言葉を失う。

 

「それでも、これしか無いのだッ! 貴方達が言う通り、幻想郷に、いやこの世界に逃げ場など無い。戦っても勝ち目など万に一つもあるわけが無い。我々が生き残るにはこれしか無いのだ! 例えどんな屈辱を受けることになろうとも、せめて我々の命を明日に繋ぐことがッ! 世界の破滅を回避しようと尽力された兆星様への、最大の恩返しなのだ!」

 

 沈黙。

 

「……すまぬ。お前に限って、愚問だったな」

 

 龍は、その能力故に、天狗達の中でも特に兆星に強い憧れを抱いていた。

 それはもはや、単なる尊敬や恩義の域を超えて、崇拝の域に達する程に。

 

 仇を討てるものなら、とうの昔に討っている。

 

「では、奴への使者を送らねばならないな」

「それは、私が向かおう。言いだした以上、責任は負う」

「……いけるのか?」

 

 レミリア・スカーレットを前にして、心を乱さずにいられるのか。良からぬことを起こさないか。

 その結果に、天狗達全員の命が懸かっているのだ。心配せずにはいられない。

 

 

 突如、幻想郷中に異音が鳴り響いた。

 

「!? 今のは……!?」

「間違いない。奴じゃ! 結界を越えてきおった!」

 

 それは、紅魔館が幻想郷に転移した合図だった。

 そして、次の瞬間。

 

 

 

「必殺―――『ハートブレイク』!」

 

 

 

 どこからか聞こえたその声と共に。

 紅い光が、幻想郷に堕ちた。

 山一つをすっぽり覆うほどの光の柱が、大地を貫くように迸る。

 世界樹のように聳え立つそれは、幻想郷の闇夜を照らした。

 

「ぬおおおおお!?」

「何だ、何が起きている!?」

 

 光の柱は、妖怪の山からそう遠くない。余波で木々は吹き飛び、嵐の如き突風が吹き荒れる。

 彼らが天狗ということもあって風はすぐに鎮静化されたが、地震は止められなかった。

 

「あ、悪夢だ……奴が戻って来たのだ……」

 

 禍々しい赫光に、妖怪達はあの日を思い出した。

 

 

 光が消え去った後には、底の見えない大穴が空いていた。

 

 




兆星
種族:天狗(原典)
能力:凶事を知らせる程度の能力
危険度:極高
人間友好度:中
主な活動場所:不明
 拙作のオリキャラ。現時点で故人。男。
 太古の時代より生きる、凶事を知らせる流星。大陸出身の神獣としての天狗。人間が吉兆や凶兆の表れと感じる全ての事象を司る。また、ある程度未来を予知することができる。自身の体を流星と化すことができ、10分足らずで地球を一周できる。
 幻想郷の天狗にとってはまさに神のような存在。しかし普段は大陸の神々に仕えており、天狗を直接従えることは殆どない。一方で面倒見は良いため、若い頃に彼に世話になった妖怪は多かった。

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