二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 かなり難産になりました……大変遅れてすいません。あと、今回は若干のキャラ崩壊注意……と、言えるかもしれません。
 アンケート結果で言うと一番の話となります。なお、今回の話は特に見なくても今後の話に影響はありません


104話 特別編 過去の記憶

「たぁーっ! やぁっ!」

 

「よし、良い一撃だぞ! 光太郎!!」

 

 慎吾が藍越学園に入学して当初のある日の休日、ケンの家に招かれた信吾はケンの自宅の広々とし、マリの管理が行き届いているお陰で青々とした芝生が広がる広い庭で朝の日差しを受けながら光太郎の実戦的トレーニングに付き合っていた

 

「行きますよ慎吾さんっ! うぅんっ!!」

 

「おおっ!? こ、これは………」

 

 しかし、実戦的トレーニングとは言っても慎吾と光太郎では実技経験の差が大きい。そこで今、行っているのは光太郎はひたすら慎吾に攻撃を仕掛け、信吾はそれを全てガード、もしくは受けさばくと言うある程度のハンディキャップが付いていた。が、人並み以上に飲み込みが速く、小学生にしては非常に高い背丈から発せれる踊るような、しかし強烈な空中技の連続に驚かされた慎吾は徐々に光太郎へと押され始めていた

 

「ふっ………更に腕を上げたな光太郎」

 

 が、そんな状況でも慎吾の表情に浮かんでいるのは笑顔。もちろん光太郎の一撃でしっかりと固めていたガードを崩された事への衝撃もあったが、それよりも慎吾にとってはケンの頼みもあって以前から自身が面倒を見てきた光太郎の成長をこの目と体で感じる事が出来た喜びの方が遥かに上回っていたのだ

 

「ほんの数年前は辛い目に会うと泣いてばかりの子供だったお前がよくぞここまで強く……」

 

「えっ、えええっっ!? し、慎吾さん、その話は……」

 

 思わず感慨深くなったのか思わずトレーニング中なのも忘れて、目頭を押さえながら静に呟く慎吾。一方で慎吾が語ろうとした言葉が余程恥ずかしかったのか一瞬にして頬を真っ赤に染める

 

「あっ………!」

 

 と、そうやって意図せずして集中を切らしていたせいだろうか、偶然にも飛び蹴りを放とうとしていた光太郎が空中に飛び上がろうと右足で大地を蹴ろうとした際に足の力の加減を間違えたのか、光太郎は空中で大きくバランスを崩してしまった。しかも崩れた体制で飛び上がった際に足首も軽くひねってしまったのか、受け身も間に合いそうに無い

 

 このままでは地面に激突する際に体のどこかしらを強打する。もしかしたら骨を折ってしまうかもしれない

 

 そうして光太郎が自身にこれから起こるであろう事を理解した瞬間、思わず口から短い、悲鳴のような声が溢れてしまった

 

「と……大丈夫か? 光太郎」

 

 が、しかしその杞憂は、構えの状態から素早く動いた慎吾が地面に落ちるより速く光太郎の服の首元と、脚を支えて受け止める事で終わった

 

「す、すいません慎吾さん、すぐに降りま……痛っ……!」

 

 と、助けてもらった礼を言いながら光太郎が自らの足で立とうと慎吾の腕から離れると左足を大地に付け、次に右足をも置く。と、さの瞬間、光太郎は足の痛みに小さく悲鳴をあげ、身を縮こまらせた

 

「足首を捻ったのか……よし、私が家まで背負って行こう」

 

 すぐにその様子に気が付いた信吾は軽く屈むとその背中を光太郎に向け、そこに乗るように促す

 

「そ、そんな慎吾さん、悪いですよ。ここは家の庭ですし……僕、まだ歩けるますし……ほら」

 

 負傷した右足を庇うような若干おぼつかない体制ではあるものの、自分の力で立てている光太郎は申し訳なさそうにそう言って遠慮すると自身の言葉が真実であると証明するように、その場で足踏みをしてみせた

 

「ふむ……確かに、自力で歩く事は出来るようだな」

 

 肩ごしに振り返り、そんな光太郎の様子を見ていた慎吾は、どこか納得したかのようにそう呟く。が

 

「だが、それでも私の素人目では分からない事も多々ある。しつこいようだが、ここは念をいれてマリさんに看てもらうまでは背負わせてくれ。……光太郎が足を痛めたのは私の監督責任もある。こんな形ですまないが、どうか挽回させてくれないか?」

 

 背中を光太郎に見せたまま首を正面に戻して慎吾はそう言うと、最後に苦笑しながらも頼み込むようにそう光太郎に言った

 

「……分かりました。お願いします慎吾さん」

 

 そんな慎吾の言葉を聞いて、流石に光太郎もこれ以上は粘らず、素直に好意に甘える事にしたのか慎吾の背中に体重を預けた

 

 

「……大丈夫。確かに光太郎は足首を捻っていますが、この程度ならば湿布を張る程度で何の問題もありませんよ」

 

 ケン家の自宅の和室。そこに敷かれた布団に寝かされた光太郎の足首の様子のチェックを終えたマリは笑顔でここまで光太郎を連れてきた慎吾にそう返事をした

 

「そうですか……それは良かった……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、慎吾は今まで堪えていた息を一気にはきだし、安堵のため息をついた

 

「今回は本当に悪かった光太郎。私が下手に感傷にふけらなければ……」

 

「い、いえ、慎吾さんのせいではありませんよ。あれは僕がトレーニング中に下手に集中力を欠かしたせいですから……」

 

 そう言って改めて光太郎に謝罪する慎吾に、光太郎はマリに痛めた足首に湿布を貼って貰っている状態であわててそう言って慎吾の謝罪を止めさせた

 

「しかし光太郎……」

 

 その言葉を理解こそすれど、しっかりと納得は出来ない様子の慎吾はためらいながら言葉を続けようとする。その時だった

 

「慎吾、君のそんな真摯な気持ちは非常に嬉しいが……ここは私に免じて、『今回の事は偶然が生んでしまった不幸な事故』と思ってはくれないか?」

 

「ケンさん……」

 

 見計らったようなタイミングで和室の襖が開き、ケンが姿を現した。休日故にその服装はMー78社で働いている時のようなスーツ姿では無く、落ち着いた色の私服姿であり、そう言いながらケンは廊下から部屋の中へと入り、光太郎の近くに座るとケンは更に言葉を続ける

 

「……最も、私はつい先程、偶然一部始終を見ただけに過ぎないから君達に強制は出来ないが……。二人はそれで大丈夫か?」

 

「……ケンさんがそう言うのならば、私からは何も意見はありません。今回の一件に関しては光太郎が認めてくれるのならば私は事故と思うつもりです」

 

 怪我をした当人である光太郎、ならびに恩師であるケンの二人の言葉を前にして慎吾はそれ以上反論の言葉を言うことは無く、二人の想いを素直に受け止めて慎吾はそう答えた

 

「うむ、君の気持ちは分かった慎吾。光太郎もそれで問題は無いか?」

 

「はい、父さん!」

 

 続いて慎吾が許容したのならば当然自分も。と、言うように光太郎は寝かされていた布団から起き上がるとそう元気良くケンに言う

 

「よし! では二人ともに納得した所で……そろそろ彼女も来るはずだ、皆で一緒に昼食の準備をするとしよう」 

 

 するとケンは二人の顔を交互に見ながら、さわやかに笑い、そう言うのであった

 

 

「まずいな……事前に連絡はしておいたが予想以上に遅れてしまった……」

 

 太陽が頂点へと上った昼どき、急ぎ足で光はケンの自宅へと続く道を進んでいた

 

 光も慎吾と同様にかねてから世話になっているケンから招待を受けていたのだが、Mー78社で行ってた新型ISの研究で予定外のトラブルが発生してしまい、その収拾を付けるのに大きく時間を取られ、当初は慎吾の少し後くらいの時間には到着する予定だったのにも関わらず、現在、光はこうして招待されたのにも数時間以上の遅刻をするはめになっていた

 

「このペースならば、どうにか昼食までには間に合うはずだが……」

 

 逸る気持ちを押さえながら、無駄に急いでこれ以上何らかのタイムロスを起こし、礼儀としてマリが自分の分も用意してくれていると言う昼食の場に遅れてはならないと理解している光は滲む汗をハンカチで拭いつつ、決して走らずしかし決して無駄の無い動きでケンの家へと向かっていたのだ

 

「よし、門が見えてきた……うん?」

 

 そんな努力もあって、やがて光は自身の視界の先にケン宅の門を捕らえ始めた。が、そこで光は不思議そうに首を傾げる

 

「マリさん……?」

 

 そう、ケンの家の門の前にはわざわざ出迎えに出てくれたのか一人佇むマリの姿があった。が、光が驚いたのはそこでは無い。そのマリの表情が困っているような顔をしており、苦笑いにも似た顔でどこか虚空を見つめていると言う、明らかにマリの身に何かが起きた事を感じさせる表情が光に疑問を感じさせていたのだ

 

「遅れてすみません……と、いきなり失礼ですが、マリさん。何かありました?」

 

 そんな自身が初めて見るような顔をマリがしているのが、どうにも気にかかった光は失礼だと言う事は良く理解しながらも、挨拶するなりマリにそう堂々と尋ねた

 

「あぁ光、来てくれたのですね。それが……少々、困った事がありまして……どうしたら良いのかと、悩んでしまって」

 

 そんな光にマリはどうにか顔に微笑みを浮かべて挨拶をすると、ため息を吐くようにそう光に打ち明けた

 

「困った事……ですか……?」

 

 それを聞いた光はますます混乱し、反射的にまるでオウム返しのようにそう問い返した

 

 今日はケン、マリの夫婦が共に日を同じくて休日であり、二人は揃って家にいる。だからこそ自分と慎吾が招待されたのたがらそれは間違いない

 

 それでは、身内贔屓を差し引いて、更に控え目に言っても『超』が付くほど優秀な二人が揃っても解決出来ないような事態とは一体なんなのだろうか?

 

「少々、口では説明しがたいので……何が起きたかは光、あなたの目で直接確かめて見てください」

 

 そんな風に疑問が山の如く脳内に浮かんでは消えていく光は無意識のうちに表情にその疑問を表情に表していたらしく、マリはそれだけを告げると光を先導して自宅、その庭へと案内していく

 

「…………」

 

 一体どんな光景が自分を待ち受けているのだろうか、マリの後を付いて一歩歩くごとにそんな不安が次第に広がり、光は気付けば自然と無言になっていた。

 

 

 そうして、先を予測出来ない事態への不安により緊張したまま庭にたどり着いた瞬間、想像も出来なかった。いや、こちらの考えの斜め上を行く光景に思わず光は息を飲んだ

 

 

 そう、そこにあったのは

 

 

「す、すまない……まさか君がそこまで深く気にしていたとは……配慮が足りなかったようだ……」

 

「ご、ごめんなさい慎吾さん! 僕も父さんの提案に賛成したんです……」

 

 珍しく僅かではあるが動揺した様子で申し訳なさそうにそう言うケン。その後に続いて慌てて光太郎も頭を下げた

 

 

「……いや、良いんですよ。これは私自身の問題ですからケンさんには何も責任はありません。……光太郎も良かれと思ってやったのだろう? なら、私はお前を責める事なんてとても出来ないよ」

 

 二人が謝罪している相手は、庭に置かれたレジャー用の持ち運び可能なテーブルセットの椅子に腰掛け、頭を抱えながら力無くテーブルに項垂れる慎吾であり、その少し前にあったのは

 

 

 炭が力強く燃え、ちょっとやそっとの風では消えない程に安定した炎が揺らめく屋外用コンロに、その上に乗せられ、開始の準備を今か今かと待つピカピカの鉄網。そして、瑞々しさが残る野菜の盛り合わせと立派肉の数々

 

 

 

 何をどうみてもそれはバーベキューの準備がされたセットであった

 

 

「あぁ…………あいつの……慎吾のトラウマもどきを刺激してしまったのですね……」

 

 それを見た光は全てを悟り、しかし理由が分かったと言って何も解決法が浮かばず、諦めるように大きくため息をついた

 

 思い返せば光にとっては一年前のある日、妙に慎吾の顔色が悪く覇気も感じられない事に気が付いた光が、慎吾の身を案じて問いただした事で知った事実

 

 端的に言えば慎吾と光太郎そして特に親しい仲間達の計6人で金を出しあって始めたのにも関わらず、遅刻を理由に自身が到着してないのに勝手に始められた焼肉会の事であり(一応、慎吾はその場で謝罪はされたらしいが)、珍しく慎吾が弱気に『考えたくは無いが私は皆から嫌われているのではないか』泣き付いて来たことをハッキリと覚えている

 

「(まぁ……皆で集まってそんな事をしていたなんて、俺は慎吾が語るまで殆んど知らなかったんだがな……最も俺は慎吾と光太郎以外のメンバーの顔はあまり知らないし、あの頃は『老師』が姿を見せるまでは研究が特に忙しくて慎吾相手にもつい素っ気ない態度を取ってしまう事もあったが……それでも一応は、慎吾でも光太郎でも誘ってくれたら是非、向かったのだがなぁ……)」

 

「光!? どうしたのですか!?」

 

 そして過去を思い返した事で光もまた、慎吾とは別次元の理由で硬直し目元から僅かに滲んだ涙を隠すように深く項垂れてしまい、それを見たマリが心配そうに声をかける

 

 結局、二人の為に何をすれば良いのか分からず年相応に狼狽える光太郎を落ち着かせつつ、ケンとマリの言葉により慎吾と光の二人が立ち直らせるのには丸々一時間を要し、その間に最初に投入した炭は殆んど燃え尽きてしまったのであった




 慎吾の過去、IS学園入学の少し前の時期の話ですが、今回は思い切りを付けて自分の好きに書いてみたので批評は覚悟しています。なお、次回からは103話からの続きになります

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